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本編

-67- 厩の問題

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セオとジュードと一緒に厩に行くと、トムが黒くて大きな馬をブラッシングをしているところだった。
とっても気持ちがよさそうだ。
ここにくるまでに、セオから、大きなこえで呼びかけたら馬がびっくりするから、目に入るところからゆっくり行きましょうって教えてくれたんだ。
トムが笑顔で頭を下げてくれる。

黒くて大きな馬は、毛並みが綺麗で、賢そうな顔をしていた。
きりっとしていてかっこいい顔だ。
額の真ん中に白い筆で書いたような点の印がある。
少し距離があったけれど、トムより先に馬の方が僕を見ていた。

セオがそっと僕の前に手を出して、最初はここまでと伝えてくれた。
これも、ここに来るまでに教えてもらったことだ。
初めて会うから、馬だって警戒するかもしれないんだって。
でも、本当だ。
セオが言っていたようにとても大きい馬だ。

「トム、馬たちに会いに来たよ。凄く大きな馬だね。セオから聞いていたとおりだ」

大きくて強そうででも、きりっとしてるのに、瞳は優しそう。

「触ってみますか?この馬はアレックス様の馬で、テンって言います。
4頭いる中で、一番大きくて、長距離を安定して走れるいい馬なんですよ」
「いいの?」
「はい、さっきからレン様を見ているのでもう大丈夫ですよ。
こちらの横からどうぞ」

言われた通り横に立つ。セオも近くまで一緒に来てくれた。
テンは僕のことを綺麗な目でじっと見てくれて、一度ふっとそらしたのに、ちらっと流し目をしてくる。
触らないの?って言ってるみたい。
かっこいいのに可愛いところもあるみたいだ。
アレックスに似るのかな。

「テン、触ってもいい?」
「レン様、触ってほしいようですよ、首あたりをてのひらで優しく触ってあげてください」
「うん……わあつるすべだ」

温かい。
つやつやしていて、つるつるしてる。
もっと固い感じかと思っていたけれど、想像以上の手触りだ。

「明日、アレックスと一緒に乗せてね」

僕が言うと、わかった、というように少しだけお辞儀をしてくる。

「賢いんだね」
「ええ、家の馬はみんな賢い子たちです。
他の子も見てみますか?今放してるんで、呼び戻しますよ」

「あ、ううん、折角楽しそうに走ってるなら、可愛そうだし、呼び戻さなくても大丈夫。日課でしょう?」
「ええ、そうですね。日課です」
「じゃあ、明日また挨拶させてもらう。ここから眺めるから、名前や特徴だけ教えて」
「ええ、勿論です」

「右から、明るい茶で鼻筋が白い馬が、セオさんの馬で、エラと言います。牝馬で一番小さいんですが早駆けが得意です。
4頭の中で一番早く走ることが出来ます」
「セオみたいだね」
「俺に関しては、一番小さいは、余計です」

むっとしてセオが一言指摘してくる。
そこじゃなくて、一番早いだよ。
身長のことは、気にしてるのかな?

「手前中央にいる白くて美しい馬が、イーガーと言います。敏感で気難しい性格ですが、異変にいち早く気が付く良い馬です」
「レナードの馬?」
「ええ、そうです。奥にいる茶色い鬣が美しい馬がランディ。ジュードさんの馬で、穏やかで力強い馬です。どの馬とも相性が合う良い馬です」
「主人に似るんだね」
「でしょう。私もそう思います」

さて、ここで問題だ。
馬が4頭もいるのに、1人で見てるんだよね。
で、もしかしたら、ゆくゆくは、僕の馬が来るかもしれない。
だって、厩には6頭分のスペースがある。
トムもセバスと変わらなそうな年だし。

「トム、馬の掃除は魔法でできるの?」
「ええ、排泄や、わら掃除は浄化ボタンがあるので簡単にできますよ」
「そうなんだ。トムは、自分の後継者を育てたいなって人がいたりする?
出来れば、エリソン侯爵領の人が良いと思うんだけれど」
「…レン様」
「だって、トムはまだまだ現役だけれど、でも、人を育てる側に回ってもいいと思うんだ。
だから、ちょっと考えてみて欲しいなって思って。
最初は通いになるかもしれないし、僕には決定権がないからアレックスやセバスやアニーに提案するだけになってしまうけれど。
それでも、必要なことだって僕は思うから」

どうだろう?馬が大好きなのが見てもわかるトムだから、馬の世話に集中したいかな?
嬉しいような困ったような笑顔でトムが口を開く。

「では、お言葉に甘えて。孫が運送ギルドで馬車馬の世話係として帝都で勤めております。
女性なのですが、近ごろあまり治安が良くないらしく、働き先を考えていると。女性でもかまいませんか?」
「彼女がいいなら僕は全然構わないよ?それに、トムと一緒なら彼女も安心だろうし。
じゃあ、アレックスが帰ってきたら提案するね。もしかしたら、また一緒に話を聞くことになるかもしれないけれど、いい?」
「勿論です。ありがとうございます、レン様」
「うん。…じゃあ、テン、今日はこれで。また明日来るね」

テンは僕の方を見て、また小さくお辞儀をしてきた。
凄いなあ、なんか意思疎通ができるみたいな、不思議な気分だったよ。
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