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本編

-65- 厨房問題

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「私らも今丁度話しておりましてね、これから忙しくなるというのと、それと……」

なんだか、マーティンが凄く言いづらそうに口を噤む。
どうしたんだろう?

「私には倅が2人おりまして、2人とも帝都へ働きに出ているんです。
1人は帝都別邸アンダーソン公爵邸、もう1人は、宮廷料理人です」

公爵邸の料理人に宮廷料理人、どちらもすごいことだと思う。
なかなかなることは出来ないんじゃないかな。

「それは、凄いね」
「ええ、まだ見習いとはいえ、私としても鼻が高い、そう思っていたんです。
私が料理しかできないもんですから、けど、それを2人とも目指してくれて。
立派に働いていると思っていたんです」

マーティンが涙目だ。
両手をぎゅっと握りしめて、やるせない気持ちがこちらまで伝わってくる。
じっと見つめて何度か頷いて、先を促すと、続きを話してくれた。

「しかし、2人から同時に手紙が届きましてね、環境が劣悪で、もう、だめだと。
辞めたいとか、帰りたいとかじゃないんですよ、もうだめだ、許してほしい、そう書いてあるんですよ。
その手紙に書いてあったことは、本当に、本当に酷い有り様で…、料理人を何だとっ。
すみません……それで、妻が帝都まで迎えに行ってるところでして、明日エリソン侯爵領に帰ってくることになってるんです」

「それは、心配だね。マーティンやイアンは今まで休みは?一度もないの?」
「今まではアレックス様が外へ、ご友人宅でとられることが月に4度ほどありまして、そこで私らは休みをもらっていました」
「じゃあ、それは半日とか、お昼からとかで、丸一日じゃないんだね?」
「ええ、そうです。ただ、使用人とは、休みがないのが当たり前なのはわかってますし、月に4度もあるものですから、私らは恵まれてます。
それに、仕込みが終わった後なら、外に出るのは自由ですから」

うん、明日は休みをあげたいな。
朝から出かけるんだし、夜はどこかで旭さんたちの都合がよければ一緒に食べてもいいと思う。

「じゃあ、アレックスが帰ってきたら、セバスとアニーにも一緒に話そう。
まず、明日は休みにしてもらうように僕から言うね。明日は朝から孤児院に行って、午後から帝都に行くって言ってたから1日外になる。
だから、それほど難しくないはずだよ。
それと、息子さんの体調にもよるけれど、もし2人がマーティンと一緒に働きたいっていうんなら、ここで働けるよう提案する。
どうかな?」
「っありがとうございます、レン様……ありがとうございますっ!」

泣きながら礼を言うマーティンに、何度頷く。
使用人だけじゃなくて、その家族も大事だよ。
イアンはどうかな?
ああ、イアンがもらい泣きしてる。

「イアンはどう?さっきジャガイモむいてたでしょ?本来なら違う仕事だと思うんだ。
仕事を教えたいとか、そういう人はいる?」
「やあ…俺には、いなくて。
けど、マーティンの話を聞いて思いまして。
なんも誰にも引き継げないっていうのはちょっと寂しいもんです、と」
「そうだよね…。製菓は1人だけ心当たりがあるから、もうちょっとだけ待ってもらってもいい?」
「ええ、勿論です」
「休みが必要な時は、遠慮なく言ってね?無理しちゃ嫌だし、元気に楽しく働いてほしいし」
「ありがとうございます!レン様!」
「うん。15時のクレープ楽しみにしてるね」
「はい、お任せください!」

長居しちゃったけれど、2人の話を聞けて良かった。
アレックスが今まで月に4回外で食べていたなら、みんなが休むためにも少し考えたい。

よし、それじゃ次の部屋を案内してもらおう。
セオに目を向けると、ぽかんとした顔を一瞬で笑顔に変えてきた。
ジュードは茫然とマーティンとイアンを見ている。

「セオ、次の場所へ」
「はい、それじゃーお邪魔しました。ジュード、行くぞー」
「ああ……」

「驚くよねー。レン様、凄くいい子でしょ?」
「いい子とか失礼だろ」
「いいよ、セオからみたら、僕はまだいい子、だろうし。
早く良い男?じゃないか…いい夫人?そんな感じに言われるように大人になりたいな」

セオが自慢げに、僕のことをいい子だってジュードに言うから、なんだか嬉しくなった。
思ったことを言ったんだけれど、そんな風に言ってるうちはまだまだ難しいかな?
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