65 / 441
本編
-65- 厨房問題
しおりを挟む
「私らも今丁度話しておりましてね、これから忙しくなるというのと、それと……」
なんだか、マーティンが凄く言いづらそうに口を噤む。
どうしたんだろう?
「私には倅が2人おりまして、2人とも帝都へ働きに出ているんです。
1人は帝都別邸アンダーソン公爵邸、もう1人は、宮廷料理人です」
公爵邸の料理人に宮廷料理人、どちらもすごいことだと思う。
なかなかなることは出来ないんじゃないかな。
「それは、凄いね」
「ええ、まだ見習いとはいえ、私としても鼻が高い、そう思っていたんです。
私が料理しかできないもんですから、けど、それを2人とも目指してくれて。
立派に働いていると思っていたんです」
マーティンが涙目だ。
両手をぎゅっと握りしめて、やるせない気持ちがこちらまで伝わってくる。
じっと見つめて何度か頷いて、先を促すと、続きを話してくれた。
「しかし、2人から同時に手紙が届きましてね、環境が劣悪で、もう、だめだと。
辞めたいとか、帰りたいとかじゃないんですよ、もうだめだ、許してほしい、そう書いてあるんですよ。
その手紙に書いてあったことは、本当に、本当に酷い有り様で…、料理人を何だとっ。
すみません……それで、妻が帝都まで迎えに行ってるところでして、明日エリソン侯爵領に帰ってくることになってるんです」
「それは、心配だね。マーティンやイアンは今まで休みは?一度もないの?」
「今まではアレックス様が外へ、ご友人宅でとられることが月に4度ほどありまして、そこで私らは休みをもらっていました」
「じゃあ、それは半日とか、お昼からとかで、丸一日じゃないんだね?」
「ええ、そうです。ただ、使用人とは、休みがないのが当たり前なのはわかってますし、月に4度もあるものですから、私らは恵まれてます。
それに、仕込みが終わった後なら、外に出るのは自由ですから」
うん、明日は休みをあげたいな。
朝から出かけるんだし、夜はどこかで旭さんたちの都合がよければ一緒に食べてもいいと思う。
「じゃあ、アレックスが帰ってきたら、セバスとアニーにも一緒に話そう。
まず、明日は休みにしてもらうように僕から言うね。明日は朝から孤児院に行って、午後から帝都に行くって言ってたから1日外になる。
だから、それほど難しくないはずだよ。
それと、息子さんの体調にもよるけれど、もし2人がマーティンと一緒に働きたいっていうんなら、ここで働けるよう提案する。
どうかな?」
「っありがとうございます、レン様……ありがとうございますっ!」
泣きながら礼を言うマーティンに、何度頷く。
使用人だけじゃなくて、その家族も大事だよ。
イアンはどうかな?
ああ、イアンがもらい泣きしてる。
「イアンはどう?さっきジャガイモむいてたでしょ?本来なら違う仕事だと思うんだ。
仕事を教えたいとか、そういう人はいる?」
「やあ…俺には、いなくて。
けど、マーティンの話を聞いて思いまして。
なんも誰にも引き継げないっていうのはちょっと寂しいもんです、と」
「そうだよね…。製菓は1人だけ心当たりがあるから、もうちょっとだけ待ってもらってもいい?」
「ええ、勿論です」
「休みが必要な時は、遠慮なく言ってね?無理しちゃ嫌だし、元気に楽しく働いてほしいし」
「ありがとうございます!レン様!」
「うん。15時のクレープ楽しみにしてるね」
「はい、お任せください!」
長居しちゃったけれど、2人の話を聞けて良かった。
アレックスが今まで月に4回外で食べていたなら、みんなが休むためにも少し考えたい。
よし、それじゃ次の部屋を案内してもらおう。
セオに目を向けると、ぽかんとした顔を一瞬で笑顔に変えてきた。
ジュードは茫然とマーティンとイアンを見ている。
「セオ、次の場所へ」
「はい、それじゃーお邪魔しました。ジュード、行くぞー」
「ああ……」
「驚くよねー。レン様、凄くいい子でしょ?」
「いい子とか失礼だろ」
「いいよ、セオからみたら、僕はまだいい子、だろうし。
早く良い男?じゃないか…いい夫人?そんな感じに言われるように大人になりたいな」
セオが自慢げに、僕のことをいい子だってジュードに言うから、なんだか嬉しくなった。
思ったことを言ったんだけれど、そんな風に言ってるうちはまだまだ難しいかな?
なんだか、マーティンが凄く言いづらそうに口を噤む。
どうしたんだろう?
「私には倅が2人おりまして、2人とも帝都へ働きに出ているんです。
1人は帝都別邸アンダーソン公爵邸、もう1人は、宮廷料理人です」
公爵邸の料理人に宮廷料理人、どちらもすごいことだと思う。
なかなかなることは出来ないんじゃないかな。
「それは、凄いね」
「ええ、まだ見習いとはいえ、私としても鼻が高い、そう思っていたんです。
私が料理しかできないもんですから、けど、それを2人とも目指してくれて。
立派に働いていると思っていたんです」
マーティンが涙目だ。
両手をぎゅっと握りしめて、やるせない気持ちがこちらまで伝わってくる。
じっと見つめて何度か頷いて、先を促すと、続きを話してくれた。
「しかし、2人から同時に手紙が届きましてね、環境が劣悪で、もう、だめだと。
辞めたいとか、帰りたいとかじゃないんですよ、もうだめだ、許してほしい、そう書いてあるんですよ。
その手紙に書いてあったことは、本当に、本当に酷い有り様で…、料理人を何だとっ。
すみません……それで、妻が帝都まで迎えに行ってるところでして、明日エリソン侯爵領に帰ってくることになってるんです」
「それは、心配だね。マーティンやイアンは今まで休みは?一度もないの?」
「今まではアレックス様が外へ、ご友人宅でとられることが月に4度ほどありまして、そこで私らは休みをもらっていました」
「じゃあ、それは半日とか、お昼からとかで、丸一日じゃないんだね?」
「ええ、そうです。ただ、使用人とは、休みがないのが当たり前なのはわかってますし、月に4度もあるものですから、私らは恵まれてます。
それに、仕込みが終わった後なら、外に出るのは自由ですから」
うん、明日は休みをあげたいな。
朝から出かけるんだし、夜はどこかで旭さんたちの都合がよければ一緒に食べてもいいと思う。
「じゃあ、アレックスが帰ってきたら、セバスとアニーにも一緒に話そう。
まず、明日は休みにしてもらうように僕から言うね。明日は朝から孤児院に行って、午後から帝都に行くって言ってたから1日外になる。
だから、それほど難しくないはずだよ。
それと、息子さんの体調にもよるけれど、もし2人がマーティンと一緒に働きたいっていうんなら、ここで働けるよう提案する。
どうかな?」
「っありがとうございます、レン様……ありがとうございますっ!」
泣きながら礼を言うマーティンに、何度頷く。
使用人だけじゃなくて、その家族も大事だよ。
イアンはどうかな?
ああ、イアンがもらい泣きしてる。
「イアンはどう?さっきジャガイモむいてたでしょ?本来なら違う仕事だと思うんだ。
仕事を教えたいとか、そういう人はいる?」
「やあ…俺には、いなくて。
けど、マーティンの話を聞いて思いまして。
なんも誰にも引き継げないっていうのはちょっと寂しいもんです、と」
「そうだよね…。製菓は1人だけ心当たりがあるから、もうちょっとだけ待ってもらってもいい?」
「ええ、勿論です」
「休みが必要な時は、遠慮なく言ってね?無理しちゃ嫌だし、元気に楽しく働いてほしいし」
「ありがとうございます!レン様!」
「うん。15時のクレープ楽しみにしてるね」
「はい、お任せください!」
長居しちゃったけれど、2人の話を聞けて良かった。
アレックスが今まで月に4回外で食べていたなら、みんなが休むためにも少し考えたい。
よし、それじゃ次の部屋を案内してもらおう。
セオに目を向けると、ぽかんとした顔を一瞬で笑顔に変えてきた。
ジュードは茫然とマーティンとイアンを見ている。
「セオ、次の場所へ」
「はい、それじゃーお邪魔しました。ジュード、行くぞー」
「ああ……」
「驚くよねー。レン様、凄くいい子でしょ?」
「いい子とか失礼だろ」
「いいよ、セオからみたら、僕はまだいい子、だろうし。
早く良い男?じゃないか…いい夫人?そんな感じに言われるように大人になりたいな」
セオが自慢げに、僕のことをいい子だってジュードに言うから、なんだか嬉しくなった。
思ったことを言ったんだけれど、そんな風に言ってるうちはまだまだ難しいかな?
43
お気に入りに追加
1,079
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
僕の兄は◯◯です。
山猫
BL
容姿端麗、才色兼備で周囲に愛される兄と、両親に出来損ない扱いされ、疫病除けだと存在を消された弟。
兄の監視役兼影のお守りとして両親に無理やり決定づけられた有名男子校でも、異性同性関係なく堕としていく兄を遠目から見守って(鼻ほじりながら)いた弟に、急な転機が。
「僕の弟を知らないか?」
「はい?」
これは王道BL街道を爆走中の兄を躱しつつ、時には巻き込まれ、時にはシリアス(?)になる弟の観察ストーリーである。
文章力ゼロの思いつきで更新しまくっているので、誤字脱字多し。広い心で閲覧推奨。
ちゃんとした小説を望まれる方は辞めた方が良いかも。
ちょっとした笑い、息抜きにBLを好む方向けです!
ーーーーーーーー✂︎
この作品は以前、エブリスタで連載していたものです。エブリスタの投稿システムに慣れることが出来ず、此方に移行しました。
今後、こちらで更新再開致しますのでエブリスタで見たことあるよ!って方は、今後ともよろしくお願い致します。
神様ぁ(泣)こんなんやだよ
ヨモギ丸
BL
突然、上から瓦礫が倒れ込んだ。雪羽は友達が自分の名前を呼ぶ声を最期に真っ白な空間へ飛ばされた。
『やぁ。殺してしまってごめんね。僕はアダム、突然だけど......エバの子孫を助けて』
「??あっ!獣人の世界ですか?!」
『あぁ。何でも願いを叶えてあげるよ』
「じゃ!可愛い猫耳」
『うん、それじゃぁ神の御加護があらんことを』
白い光に包まれ雪羽はあるあるの森ではなく滝の中に落とされた
「さ、、((クシュ))っむい」
『誰だ』
俺はふと思った。え、ほもほもワールド系なのか?
ん?エバ(イブ)って女じゃねーの?
その場で自分の体をよーく見ると猫耳と尻尾
え?ん?ぴ、ピエん?
修正
(2020/08/20)11ページ(ミス) 、17ページ(方弁)
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
貧乏Ωの憧れの人
ゆあ
BL
妊娠・出産に特化したΩの男性である大学1年の幸太には耐えられないほどの発情期が周期的に訪れる。そんな彼を救ってくれたのは生物的にも社会的にも恵まれたαである拓也だった。定期的に体の関係をもつようになった2人だが、なんと幸太は妊娠してしまう。中絶するには番の同意書と10万円が必要だが、貧乏学生であり、拓也の番になる気がない彼にはどちらの選択もハードルが高すぎて……。すれ違い拗らせオメガバースBL。
エブリスタにて紹介して頂いた時に書いて貰ったもの
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる