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本編

-49- 食堂にて アレックス視点

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「アレックス様、お食事の用意ができたようですが、いかがなさいますか?」
「貰おう」

セバスに声をかけられて、確かに腹は減っている、と食べる意志を伝える。
だが、レンとは離れがたい。
離れがたいが…レンのいない場所で、セバスに確認しなければならないことがいくつかあるし、相談しなければならないこともある。
今後の予定も、俺の決断も伝えておきたい。

「レン様はいかがなさいますか?」
「うん、僕はさっきいただいたばかりだからお腹は減っていないんだけれど…アレックスと一緒にいたい」

ちらっとレンは俺を見上げてから、そんなことを言ってくる。
あー可愛すぎるだろ。
俺も一緒にいたい。出来るなら、膝の上にでものせて食事をしたいくらいだ。
俺の意志がガラガラと崩れそうになる。

「レン、仕事のことでセバスに確認したいことがあるんだ。
なるべく急いですませるから、食後のお茶に付き合ってくれないか?」
「わかった」
「じゃあ、先に、談話室に行って休んでいてくれ」
「うん」
嬉しそうに笑うその唇に合わせるだけの口づけを落とすと、一瞬だけ恥ずかしそうに目を伏せる。
仕草の一つ一つが、いちいち可愛い。
慣れてないんだろう、それだけで、俺を喜ばせる。

「セオ、頼むな」
「はい、お任せください」

正直、セオに頼むのは、余計なことを吹き込まれそうで不安がある、主に、下の話で。

だが、セオならばうまく間を持たせてくれるはずだし、詳しく説明せずとも意図を察してくれるはずだ。
軽そうにみえるが…というか、見せている、といったほうが正しいかもしれないが、エリソン侯爵領の男児らしい熱く、芯の通っている男なのだ。
じゃなきゃ、手元に置いていない。

「セバス、今日は給仕はいいから、全部並べてくれ」
「…畏まりました」

あー、セバス、と口にするだけで、俺の機嫌が悪いことが伝わってしまう。
まあそうだろうな、何年一緒にいるんだって話だし、人一倍聡い家令だ。
それに俺は普段機嫌の良し悪しを隠そうともしていないし、今もしていない。
理由もわかってんだろうな。
それはそれで、話が早くすむ。


「なんでレンを止めなかった?あんなデタラメな魔法、下手したらレンが死んでたぞ?」
「アレックス様こそ無茶をし過ぎです。あんな腕になるまでやらずとも他に方法があったでしょう」

そこを言われると痛いが、だが、譲れないこともある。

「俺が言いたいのは、レンの命を軽く見るなってことだ!
俺の右手とレンの命で天秤にかけて、俺の右手を取ったのか?
なんであいつに危険性を伝えなかった?やった本人が治癒魔法だと思い込んでるなんてありえないだろ!魔法に関しての知識なんてゼロに近い。…お前は、俺の気持ちなんてとっくに察してるだろ?それを知っていて止めなかった理由はなんだ?」

せっかく丹精込めて作ってくれたんだろうが、口に飯を運んでもまったく美味く感じない。
悪いとは思うが、ただ、腹に押し込むような作業でしかない。
明日からは、ちゃんと味わうことにするから今日は許してほしい。

「…申し訳ありません。言い訳をしますと、私が部屋に訪れた時には、すでにアレックス様の右手は虹色に光輝いておりました」
「………」
「あまりの美しさに驚いてしまい、言葉もなく見入ってしまったのです。
それから、レン様が使った魔力は、レン様の半分ほどです」
「は?あれだけやらかして半分?」

「…レン様の魔力は、アレックス様の3倍以上、126あります」
「っ!?」
ガツン、と驚きでナイフが滑り、皿が大きな音を立てた。
は?126!?聞いたことねえぞそんな数字!

俺の魔力は41だ。自慢じゃないが、魔道士団長と肩を並べるくらいにある。
現在の皇帝が52、宰相が49と聞いている。
それにつぐほどの魔力量を持っている。
まあ…師匠はデタラメな数字だが、あの人はあの人で規格外だから比べてもしょうがない。
貴族なら20もあれば食うに困らず優秀の部類だ。
平民なら大体5以下、まれに10以上の者が生まれることもある。

神器はこの世界の者より大きい魔力をもつと言われており、おおよそ60~80と言われている。
100越えは、先代皇帝の神器様が102と言われていたはずだ。
それを軽く超える量じゃねぇか。

「アレックス様が魔力の使い過ぎで寝込んだ後、レン様が少量の涙を口移されました」
「…涙」
「レン様が、まだ口づけもしていないので、唾液を口移すのは抵抗があると。
勿論、そんな簡単に涙なんて出ないでしょうと申しましたところ、役者だったので出せるとおっしゃいまして」

あんなぼろぼろに泣いていたが、それ以上にまだ涙が流せるのか。
あれはあれでレンの素であって、コントロールしているわけじゃなかったんだろうが、痛々しい泣き顔を思い出してしまう。

「今、アレックス様の魔力量は39です。ほぼほぼ全回復しております。少量の涙だけで、です」
「は?…マジか」
「そうです。ですから、お気を付けください。
口づけや蜜を舐めるくらいであれば問題ないと思われます。
むしろ、循環も良くなり、仕事もはかどられるでしょう。
ですが、一般的な神器様と同じように、そのまま精液や神精水を一度に飲まれるのはおやめください。
魔力酔いを起こされると思います」
「…わかった、気を付ける。疑って悪かった」
「いいえ、結果的に良かっただけですから」

食事の時にする話じゃないが、今聞いておいてよかったかもしれない。

神器様の存在は、特別だ。
宮廷に勤める者は、一緒の出仕が認められているので、連れているものも少なくない。
専用の待機部屋もあるし、その部屋で世話をする者もいる。
役職付きならば、自室にとめおくことが出来る。
そして、昼休憩と、午後休憩に魔力譲渡を行い、その方法は口からの精液接種が一般的だ。
スプラッシュ…射精後も時間をかけると稀に大量の水しぶきを上げるらしいが、神器様のものは魔力も多く、神精水とも呼ばれている。

そんなことはさせないし、レンにはその実態すらも知られないようにしたい。
だから、他の神器様とはあまり接触を図ってほしくないんだが…と思ったが、あの3人なら大丈夫だろう。

「…レンは、いくつなんだ?」
「19です。成人していらっしゃいますよ」
「そうか」

この国での成人は18。
あんなに素直でまっさらなのに成人しているのか。
16、7かと思っていたが、19か。
ならば、少し結婚についても時間をあまり置かずに考えてもいいかもしれないな。

「ほかに夜共にすることで気を付けることはあるか?」
「…あまり貪ることなくご自身の理性をーーー」
「そこは信用してくれ!」

そこは言われなくても一番に気を遣うぞ、俺は。

「失礼いたしました。……アレックス様」
「なんだ」
「おめでとうございます。良き方が来られてよろしゅうございました」
「ああ。俺はレン以外を娶る気はない。
だからこれから、お前も目をかけてやってくれ、よろしく頼む」

「かしこまりました。…アレックス様、少し、といいますか…かなり急いだほうがいいと思われます」
「なにをだ?」
「ご結婚のことです。今年中に籍を入れて、帝都で行われます新年のご挨拶時にご一緒されるのがよろしいかと。
お式はその後で構いませんが、籍を入れるまでは別邸はともかく、このエリソン侯爵領からは出さない方が」
「は?今年中?あと2か月もないぞ、早すぎだろ」

確かに不可能ではないが、早すぎる。
レンが未成年と思っていたから成人するまでは婚約にとどめ、成人後と思っていた。
19と知れた今は、ならば半年に縮めてもいいか、と。
勿論、レンの希望を聞いて、だ。

「アンダーソン公爵家が闇属性の神器様を数年来お望みです。横やりが入っては、非常に面倒なことになります」
「それは…ろくなこと考えてないだろ」
「ですから、すぐにでもスペンサー公にご連絡を。レン様の養子先に願うとお考えでしょう?」
「ああ、それは師匠にお願いするつもりでいた」
「あの方ならば後ろ盾には最強です。
もともと、相手の爵位に不安があったらすぐに知らせろ、どんな者でもすぐに養子にしてやろうっておっしゃっていたのです。
レン様ならば、二つ返事で引き受けてくれるでしょう」
「わかった」

「アンダーソン公爵のことは詳しく話さずとも、急ぎ籍を入れることと、養子のこと、あとご結婚式のご要望なども、今夜アレックス様からお伝えください」
「そんなすぐに立て続けに話して大丈夫か?」
「大丈夫です。すでにレン様は私どもを呼び捨てることに承諾していますよ」

俺が寝こけている間に、色々あったのかもしれない。
レンが、そこまで決意してくれている、嬉しくないわけがない。

「そうか。ならば、そうしよう」
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