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本編
-45- 吐露 アレックス視点*
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ふんわりと甘い蜂蜜の味が口に広がり、瑞々しいさわやかな花の香りが鼻から抜けた。
ああ、これは、レンの香りだ。
唇にやわらかな感触が伝わる。
目を開けば、レンが俺に口づけていた。
都合のいい夢が見られるもんだな。
薄くもやわらかな唇の感触を確かめる。
こんなふうに唇を味わうような口づけをしたことはなかったが、気持ちがいいものだ。
レンだから、なのか?や、夢だからだろうな、俺の望むように出来てるらしい。
「……っん……」
口づけの行為そのものが甘いものだが、香りも甘ければ、その味も極上の蜂蜜のように甘い。
レンの鼻からも、可愛く甘い鼻息が漏れた。
薄くやわらかな下唇の裏側を舌で愛撫すると、ぎこちない様子で、それでも明け渡してくれた。
やわらかなレンの舌を探り当てる。
本音を言えば、もっと深く味わいたい。
だが、今から己の欲望をぶつけてしまったら、引かれること間違いなしだ。
優しく、出来る限り優しく、そんでもって、気持ちよさだけ与えてやりたい。
舌を味わうのは、互いに慣れてからでいい。
触れるだけで満足して再度上唇を味わうと、下唇を軽く食まれた。
あー、すげー可愛い。
慣れないながらも懸命に応えようとしてくれるのがわかる。
俺だってこんな口づけは初めてだが、レンにとっても初めてなのだろうか?
だったら、この上なく嬉しい。
唇を放し、レンを見あげる。
あー、口づけで唇が、目が、潤んでる。
マジで可愛すぎる。
「あー、ははっ、すげー可愛い」
「あ、アレックス、起きて」
控えめにゆすられて、そんなかわいいことされたらより放せられない。
胸にしっかりと抱え込み、すぐ目の前にある可愛い旋毛に口づける。
額に、頬に、鼻先に、そして唇に。
順に口づけるととろんとした瞳で見上げてくる。
夢の中ではこんな簡単に手に入るもんらしい。
あー、可愛い。
もう少し、この素晴らしい時間に浸っていたい。
「アレックス様!いい加減になさってください!レン様が困っております!」
セバスの叱責が勢いよく飛んできて、現実に引き戻される。
あまりに驚いて、強か後頭部を打ち、痛みが走る。
「っ!?ーーーってぇ……」
目の前に真っ赤になっているレンがいる。
…まずい、夢かと思って好き勝手口づけていたが、どうやら現実だったらしい。
「ぶっはははっ」
この場にそぐわない、馬鹿にしたようなセオの笑い声が部屋中に響いた。
「あー、悪い……その、完全に寝ぼけてた」
「ううん、えっと、大丈夫?気分が悪かったり、右手が痛かったりとか」
嫌がられてはいないようだ、と安堵したが、右手、と言われて思い出す。
そうだ、俺は右手が使い物にならなくなったはずだった。
なのに、今は何もなかったように元通りになっている。
魔法返し、呪術返し、呪文返し、色々言い方はあるが、魔道具には稀に返しが発生することがある。
魔道具には、ときたま施されている術式で、解体したり分解して、制作技術や術式を盗み得ようとすると、発動する仕組みだ。
あんな返しが付与されているとは思わなかったが、自業自得だとも思って、どこか諦めがあった。
それに、この手を犠牲にして得られるならば、それはそれでいい、とまでも思っていた。
けど、どうだ?さっぱり元通りだ。
俺にだって無理だ。
たとえば、俺の全魔力を持って直そうとしても、精々指一本程度だ。
ただ時間を戻すだけじゃない、光魔法の返しを受けた後だ。
焼けどや怪我とはわけが違う。
「何した、レン」
「?わかんないけど、元に戻ってって思ったら、戻ったよ。治癒魔法になるのかな?魔法ってすごいね、アレックスの手が戻って良かっーーー」
「そうじゃないだろ?お前こそ何してんだ、ポーションは?ちゃんと飲んだのか?」
「え?うん、セバスに言われて飲んだよ?でもね、そんな大したことなんて」
「大したことだ!短時間とはいえ魔法返しくらった人の手をまるまるもとに戻したんだぞ!?それも光魔法のだ。自分が何したかわかってんのか?」
「………」
下手したら、今度はレンが命を落とす行為だ。
こうして普通にしているが、いかに危険だったかをわかってほしい。
セバスもなんで止めない?…や、セバスは時には非情な奴だ。
じゃなけりゃ、侯爵家の家令なんて務まらない。
俺の右手とレンを天秤にかけたら、俺の右手をとってもおかしくない。
「レン、なんとか言え」
「…僕こそ、アレックスがあんな風になるなんて知らなかった。
貞操具を壊してくれってお願いしたのは僕だけど、でも、アレックスがいっそのこと壊すかって軽く言うから、僕はもっと簡単に出来ると思ってたんだ」
「………」
俺も正直ここまで力を使うとは思っていなかった。
だが、一度始めたら止めることなんてできなかったし、絶対壊してやるって思ったのは、ただの俺のエゴだ。
何も反論できない。
「そしたら、アレックスの手が……あんな風に、枯れ木みたいになちゃって、どうしたらいいかわかんなくて、だって、あんな……っ
なんで?ねぇ……僕は、僕はね?確かに取ってほしかったけれど、でも、あんなふうに無理してまで欲しくなかったよ?
アレックス、死んじゃうかと思った」
ああ、また泣かしそうだ。
可愛い顔がゆがんで、唇と声が震えてる。
自分よがりの、単なる意地でしかなかったんだ。
だから、そんな、後悔と自責が入り混じったみたいな痛ましい目で見ないでくれ。
ああ、これは、レンの香りだ。
唇にやわらかな感触が伝わる。
目を開けば、レンが俺に口づけていた。
都合のいい夢が見られるもんだな。
薄くもやわらかな唇の感触を確かめる。
こんなふうに唇を味わうような口づけをしたことはなかったが、気持ちがいいものだ。
レンだから、なのか?や、夢だからだろうな、俺の望むように出来てるらしい。
「……っん……」
口づけの行為そのものが甘いものだが、香りも甘ければ、その味も極上の蜂蜜のように甘い。
レンの鼻からも、可愛く甘い鼻息が漏れた。
薄くやわらかな下唇の裏側を舌で愛撫すると、ぎこちない様子で、それでも明け渡してくれた。
やわらかなレンの舌を探り当てる。
本音を言えば、もっと深く味わいたい。
だが、今から己の欲望をぶつけてしまったら、引かれること間違いなしだ。
優しく、出来る限り優しく、そんでもって、気持ちよさだけ与えてやりたい。
舌を味わうのは、互いに慣れてからでいい。
触れるだけで満足して再度上唇を味わうと、下唇を軽く食まれた。
あー、すげー可愛い。
慣れないながらも懸命に応えようとしてくれるのがわかる。
俺だってこんな口づけは初めてだが、レンにとっても初めてなのだろうか?
だったら、この上なく嬉しい。
唇を放し、レンを見あげる。
あー、口づけで唇が、目が、潤んでる。
マジで可愛すぎる。
「あー、ははっ、すげー可愛い」
「あ、アレックス、起きて」
控えめにゆすられて、そんなかわいいことされたらより放せられない。
胸にしっかりと抱え込み、すぐ目の前にある可愛い旋毛に口づける。
額に、頬に、鼻先に、そして唇に。
順に口づけるととろんとした瞳で見上げてくる。
夢の中ではこんな簡単に手に入るもんらしい。
あー、可愛い。
もう少し、この素晴らしい時間に浸っていたい。
「アレックス様!いい加減になさってください!レン様が困っております!」
セバスの叱責が勢いよく飛んできて、現実に引き戻される。
あまりに驚いて、強か後頭部を打ち、痛みが走る。
「っ!?ーーーってぇ……」
目の前に真っ赤になっているレンがいる。
…まずい、夢かと思って好き勝手口づけていたが、どうやら現実だったらしい。
「ぶっはははっ」
この場にそぐわない、馬鹿にしたようなセオの笑い声が部屋中に響いた。
「あー、悪い……その、完全に寝ぼけてた」
「ううん、えっと、大丈夫?気分が悪かったり、右手が痛かったりとか」
嫌がられてはいないようだ、と安堵したが、右手、と言われて思い出す。
そうだ、俺は右手が使い物にならなくなったはずだった。
なのに、今は何もなかったように元通りになっている。
魔法返し、呪術返し、呪文返し、色々言い方はあるが、魔道具には稀に返しが発生することがある。
魔道具には、ときたま施されている術式で、解体したり分解して、制作技術や術式を盗み得ようとすると、発動する仕組みだ。
あんな返しが付与されているとは思わなかったが、自業自得だとも思って、どこか諦めがあった。
それに、この手を犠牲にして得られるならば、それはそれでいい、とまでも思っていた。
けど、どうだ?さっぱり元通りだ。
俺にだって無理だ。
たとえば、俺の全魔力を持って直そうとしても、精々指一本程度だ。
ただ時間を戻すだけじゃない、光魔法の返しを受けた後だ。
焼けどや怪我とはわけが違う。
「何した、レン」
「?わかんないけど、元に戻ってって思ったら、戻ったよ。治癒魔法になるのかな?魔法ってすごいね、アレックスの手が戻って良かっーーー」
「そうじゃないだろ?お前こそ何してんだ、ポーションは?ちゃんと飲んだのか?」
「え?うん、セバスに言われて飲んだよ?でもね、そんな大したことなんて」
「大したことだ!短時間とはいえ魔法返しくらった人の手をまるまるもとに戻したんだぞ!?それも光魔法のだ。自分が何したかわかってんのか?」
「………」
下手したら、今度はレンが命を落とす行為だ。
こうして普通にしているが、いかに危険だったかをわかってほしい。
セバスもなんで止めない?…や、セバスは時には非情な奴だ。
じゃなけりゃ、侯爵家の家令なんて務まらない。
俺の右手とレンを天秤にかけたら、俺の右手をとってもおかしくない。
「レン、なんとか言え」
「…僕こそ、アレックスがあんな風になるなんて知らなかった。
貞操具を壊してくれってお願いしたのは僕だけど、でも、アレックスがいっそのこと壊すかって軽く言うから、僕はもっと簡単に出来ると思ってたんだ」
「………」
俺も正直ここまで力を使うとは思っていなかった。
だが、一度始めたら止めることなんてできなかったし、絶対壊してやるって思ったのは、ただの俺のエゴだ。
何も反論できない。
「そしたら、アレックスの手が……あんな風に、枯れ木みたいになちゃって、どうしたらいいかわかんなくて、だって、あんな……っ
なんで?ねぇ……僕は、僕はね?確かに取ってほしかったけれど、でも、あんなふうに無理してまで欲しくなかったよ?
アレックス、死んじゃうかと思った」
ああ、また泣かしそうだ。
可愛い顔がゆがんで、唇と声が震えてる。
自分よがりの、単なる意地でしかなかったんだ。
だから、そんな、後悔と自責が入り混じったみたいな痛ましい目で見ないでくれ。
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