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本編

-44- 僕に出来ること

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「はー…心配かけて悪かった。どこも痛くないし、気分も悪くない。右手もこの通りだ」

じっと見つめていたら、アレックスが耐えられず目をそらして、降参するように謝ってきた。
ため息をついてるし、大人だから折れてくれただけみたい。
気分は悪くないみたいだけれど……絶対、機嫌が悪い。

「ううん、僕の方こそ、まだちゃんとお礼を言ってなかった。ありがとう、アレックス」
「ああ」

なんだかもやもやするのはなぜだろう?
アレックスがなんで怒ってるかがわからないから?
うーん……呆れられたから、かな。
あんなふうにとろけるような笑みを見せてくれたのに、今は視線すら合わせてくれない。
寝ぼけてたって言ってたな、アレックス。
それに、結婚も婚約者もいないっていってたけれど、あんなキスが出来るんだから恋人くらいいたと思う。

「………」

好きになってもらえるように努力するんだって決めたじゃないか。
何か、何か言わなくちゃ。
そう思っても言葉が出てこない。

こんな、相手の態度で一喜一憂するの、初めてかもしれない。

どうしたらいいか、とセバスへ助けるように眼をやると、セバスはがっくりと額に手を当てている。
その隣、セオに目を向けると、セオと目が合う。
セオがいたずらっこのような笑みを浮かべて、アレックスを指さし、そのまま自分の唇に人差し指を2回あてて、唇を前に突き出す。
口パクで、ちゅーしろーと言ってきた。

えー?こんな機嫌が悪いのに、そんなことしたらより機嫌が悪くなっちゃうよ!
小さく首をふって、ムリと口パクで伝えると、いーから、とまた口パクで言ってきて僕を急かしてくる。

もうどうなってもしらない、と、えいやっと半ばやけくそでアレックスの唇を奪う。
すぐにはなすと、びっくりしたようにアレックスがぼくを見てきた。
「っ!」

驚いてるだけで、怒ってなさそうだ。
機嫌が悪かったのも、驚きですっかり消え去ったみたいだ。

「なんで……」

ぽつりとアレックスがつぶやく。
アレックスだって、さっき、してきたじゃないか。
なんでって、そんなの。

「アレックスのことが、好きになっちゃんたんだ。…だから、さっきは嬉しくて。
でも、今、そんな風なのは、寂しい」
「………っなんか、セバスから聞いたのか?」
「ん?なんかって?
アレックスは、僕のことーーー」
「悪いが俺には、神器なんて必要ない」
「………」

舞い上がっていた僕が馬鹿みたいだ。
アレックスは、僕のこと必要じゃないみたい。
でもさ、じゃあなんてあんなふうに無理してまで貞操具外してくれちゃったのかな?
優しくしてくれて、あんなふうに、頼ってくれって言われたら好きになっちゃうよ。

「…アレックス様、レン様には属性のことはまだ一切ーーー」
「だから、こんな俺に無理して応えようとしなくていい」
「アレックス様ーーー」

セバスが再度アレックスになにか言おうとしたのを、セオが止めたのが見えた。
どっちも優しさからの行為だ。

「何、それ。無理してって何?
あんなふうに頼ってくれって言われて、優しくされて、僕のために無理して貞操具まで取ってくれて…そんなの、好きになっちゃうじゃないか」
「っ、レン……」
「じゃあ、なんであんなキスしたの?すげー可愛いって僕のことじゃなかった?勘違いだった?
でも、もう遅いよ、好きになっちゃったんだもん、初めてなんだ。
無理してるのはアレックスの方だよ。僕は無理なんてしてない!
それに、アレックスは、大人だし、優しいし、すごくかっこいいよ。だから、こんな俺なんて言わないで!」

ほんと、僕の気持ちが全然伝わってない。
無理してってなんでそんなこと言うんだろう?
僕が役者だったから、頼まれて演技してるって思われたのかな?
出会ってすぐこんなこというから信じてくれないのかな?

ああ、苦しい、悔しい、悲しい、色々ごちゃ混ぜになる。
アレックスにも好きになってもらえるよう頑張るって決めた。
なのに、僕は、こんなふうに自分の気持ちをぶつけることしかできない。



「悪かった。…俺は、闇属性だから、今まで恋人どころか、魔力譲渡すらもしたことがない。
そんなこと俺と出来るのは、この国にはいないんだ」

アレックスが辛そうに僕のことを見る。
魔法についても魔力についても全然まだなにも聞いていないし、まして属性についてとか、全然。
でも、アレックスが苦しそうな顔をするから、そのまま静かに視線で促した。

「けど、レン、お前が突然来た。
今まで、俺が諦めてたものを全部抱えて俺の下に落ちてきたんだ。
びっくりするくらい綺麗で、甘くていい匂いをさせて。
勝手に連れてこられたのに、警戒心もなくて素直であけすけで、あーすげー可愛いって思ったんだ」

すげー可愛いって、思ってくれてたのはやっぱり僕のことだった。
それだけで、冷えてた胸がぽかぽかしてくる。

「元の世界に帰りたいって言ってただろ?
けど、もう、俺は手放せないから、なんとかしてここにいたいって少しでも思ってもらえるように、
どうにかして、これからここで出来ることに目を向けさせようとしたんだ、最低だろ?
神器なんて必要ないって言ったのは、別に子供とかそういうのは…必要ないんだ。
跡継ぎなんて養子を取ればいいし、俺の魔力自体は大きいから普段の供給も必要ない。
そうじゃなくて…誰でも良かったわけじゃなくて。
ただ、レンが欲しいって、そう思った。
セバスにはすぐにばれたのだってわかってる。
けど…俺は、今まで、受け入れて貰えたためしなんてないから……お前の気持ちまで疑った。
悪い……、本当、情けなくて、自分が嫌になる……っ」

そんなことないよ、僕のことを手放せないって思ってくれてたなんて知らなかったよ。
僕のことが欲しいって思ってくれて、嬉しいよ。
アレックスの初めて見せる涙に、僕はそっと、彼の頭を抱き寄せる。


僕の背に、アレックスのあたたかな腕が回って、オレンジの、爽やかな甘い香りがやさしく僕を包んだ。
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