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本編
-42- 僕に出来ること
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「…セオ、何度言ったらわかるのです!エリソン侯爵家使用人としての矜持をもち、日々善良な」
「行いを為すとともに、志高く己の努力を怠るべからず、でしょ?もう毎日毎日聞き飽きてお腹いっぱいだよ、爺さま。…じゃなくて!」
涙は止めずに、その様子を見やる。
どうみてもお爺さんとお孫さんの漫才みたいだ。
テンポが良いなー、マイクが2本立っていたら立派な漫才コンビになれるかも。
「何泣かせてんのさ?この子…じゃなかった、このお方、アレックス様の神器様でしょ?何?爺さままでそんな悪道な趣味してるなんて知らなかったよ!」
最初はやけに軽い人だなーと思ったけれど、後半セバスに食ってかかる様は、かなり迫力がある。
この世界に連れてこられてから嫌なことが多かったけれど、エリソン侯爵家の使用人たちは、良い人たちだ。
アレックスの暮らしている環境が少しずつ分かってくる気がして嬉しい。
けれど、このままにしているとセバスが悪者になっちゃう。
「あの、これは、僕が望んでやってることなので」
「は?」
「涙をためて、アレックスに飲ますの」
「え?でも、なんもなくて泣けないでしょ?」
「僕は役者だったから、何もなくても涙は出せるよ?……このくらいあればいいかな?」
「………」
驚いた顔で固まってるセオをそのまま、僕はセバスに確認を取る。
セバスの冷たい視線がずーっとセオに向けられていたけれど、僕の言葉で瞬時に優しい表情を向けてくれた。
「ええ、十分だと思われます。では、さっそくアレックス様に」
「待った、ちょっと待って!え?なんでそんなまどろっこしいことしてるの?普通に口づけすればいいんじゃ?」
「レン様、申し訳ありません。この者は私の兄の孫、又甥で使用人なのですが、いかんせん教育がなっておりませんで配慮が足らず…」
「ううん」
効率的には悪いのは確かだし、これは僕がやりたくてやってることだ。
それに、セバスがさっき、誰しもが行える行為っていってたから、この世界の人にとっては魔力譲渡の口づけは特別なことじゃなくて、気軽にできるものなのかもしれない。
「僕はまだアレックスと口づけすらしてないのに、こんな状態でよだれを流し込むなんて抵抗あるよ」
「よだれ……」
「よだれでしょ?」
「よだれっていうか唾液」
「一緒だよ」
「あー……や、まあ、一緒っちゃあ一緒だ、……すけど」
「僕相手に、無理に敬語じゃなくていいよ。それより集中したい」
「あ、はい、ごめんなさい」
ソファからすぐそばのベッド、アレックスのところまで移動する。
じっと上から見つめても、セバスが言うように穏やかに寝てるだけみたいに見える。
少しウェーブがかった綺麗なペールピンクの髪が綺麗な額を片方だけ隠してる。
当たり前だけど、まつ毛も綺麗なペールピンクだ。
綺麗に通った鼻筋に、今は閉じてる形のいい唇。
アレックスの唇は、外側から内側にかけて、綺麗なグラデーションを作ってて、中央の方が濃い色をしている。
これは……思った以上に勇気がいることだった。
僕にとって、自分の意志で初めてするキスだ。
キスをしたことがないわけじゃない。
初キスは、映画の撮影で年上の女優相手だった。
あら、役得だわーなんて笑い飛ばされたけれど、好きになった人にするのはこんなにドキドキするものなんだ。
キスって思うからドキドキしちゃうのかな、これは必要な魔力譲渡だって思えばいいのかもしれない。
しれないけれど、うー……、駄目だ、眠ってるアレックスに初キス、としか思えない。
でも、やるって決めたんだし、涙も貯めた。
男は度胸だ。
意を決して、涙を口に含む。
少し、塩辛い。
ペリエの実を食べても涙の成分までは変わらないみたいだ。
そっと、自分の唇をアレックスの唇に重ねる。
押し当てるように何度か角度を変えて、アレックスの唇を割り開く。
開いたところで、少しずつ、涙を流しいれた。
「行いを為すとともに、志高く己の努力を怠るべからず、でしょ?もう毎日毎日聞き飽きてお腹いっぱいだよ、爺さま。…じゃなくて!」
涙は止めずに、その様子を見やる。
どうみてもお爺さんとお孫さんの漫才みたいだ。
テンポが良いなー、マイクが2本立っていたら立派な漫才コンビになれるかも。
「何泣かせてんのさ?この子…じゃなかった、このお方、アレックス様の神器様でしょ?何?爺さままでそんな悪道な趣味してるなんて知らなかったよ!」
最初はやけに軽い人だなーと思ったけれど、後半セバスに食ってかかる様は、かなり迫力がある。
この世界に連れてこられてから嫌なことが多かったけれど、エリソン侯爵家の使用人たちは、良い人たちだ。
アレックスの暮らしている環境が少しずつ分かってくる気がして嬉しい。
けれど、このままにしているとセバスが悪者になっちゃう。
「あの、これは、僕が望んでやってることなので」
「は?」
「涙をためて、アレックスに飲ますの」
「え?でも、なんもなくて泣けないでしょ?」
「僕は役者だったから、何もなくても涙は出せるよ?……このくらいあればいいかな?」
「………」
驚いた顔で固まってるセオをそのまま、僕はセバスに確認を取る。
セバスの冷たい視線がずーっとセオに向けられていたけれど、僕の言葉で瞬時に優しい表情を向けてくれた。
「ええ、十分だと思われます。では、さっそくアレックス様に」
「待った、ちょっと待って!え?なんでそんなまどろっこしいことしてるの?普通に口づけすればいいんじゃ?」
「レン様、申し訳ありません。この者は私の兄の孫、又甥で使用人なのですが、いかんせん教育がなっておりませんで配慮が足らず…」
「ううん」
効率的には悪いのは確かだし、これは僕がやりたくてやってることだ。
それに、セバスがさっき、誰しもが行える行為っていってたから、この世界の人にとっては魔力譲渡の口づけは特別なことじゃなくて、気軽にできるものなのかもしれない。
「僕はまだアレックスと口づけすらしてないのに、こんな状態でよだれを流し込むなんて抵抗あるよ」
「よだれ……」
「よだれでしょ?」
「よだれっていうか唾液」
「一緒だよ」
「あー……や、まあ、一緒っちゃあ一緒だ、……すけど」
「僕相手に、無理に敬語じゃなくていいよ。それより集中したい」
「あ、はい、ごめんなさい」
ソファからすぐそばのベッド、アレックスのところまで移動する。
じっと上から見つめても、セバスが言うように穏やかに寝てるだけみたいに見える。
少しウェーブがかった綺麗なペールピンクの髪が綺麗な額を片方だけ隠してる。
当たり前だけど、まつ毛も綺麗なペールピンクだ。
綺麗に通った鼻筋に、今は閉じてる形のいい唇。
アレックスの唇は、外側から内側にかけて、綺麗なグラデーションを作ってて、中央の方が濃い色をしている。
これは……思った以上に勇気がいることだった。
僕にとって、自分の意志で初めてするキスだ。
キスをしたことがないわけじゃない。
初キスは、映画の撮影で年上の女優相手だった。
あら、役得だわーなんて笑い飛ばされたけれど、好きになった人にするのはこんなにドキドキするものなんだ。
キスって思うからドキドキしちゃうのかな、これは必要な魔力譲渡だって思えばいいのかもしれない。
しれないけれど、うー……、駄目だ、眠ってるアレックスに初キス、としか思えない。
でも、やるって決めたんだし、涙も貯めた。
男は度胸だ。
意を決して、涙を口に含む。
少し、塩辛い。
ペリエの実を食べても涙の成分までは変わらないみたいだ。
そっと、自分の唇をアレックスの唇に重ねる。
押し当てるように何度か角度を変えて、アレックスの唇を割り開く。
開いたところで、少しずつ、涙を流しいれた。
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