37 / 440
本編
-37- 破壊の代償と遡行
しおりを挟む
「…アレックス、もう、いいよ」
どのくらい経ったのかな?
わからないけれど、アレックスが無理しているのが分かったから、思わず声をかけた。
そしたら、アレックスはちらりと僕を見やって小さく首を振ってきた。
その間も魔法を口ずさむのはやめない。
でも、アレックスのこめかみから頬に、そして、顎へと汗が伝ってる。
きっと僕には想像がつかないくらいの力を使ってるんだと思う。
アレックスには、僕のために無理してほしくない。
「無理しないで、アレックス」
身体を起こそうとしたけれど、アレックスの左手に力が入って、阻まれてしまった。
強い視線で制されて、その間も魔法を綴るのをやめないから、本当に視線を向けられただけだよ。
でも、その透明度の高く澄んだエメラルド色が、黙ってろって言われた気がして、僕はそれ以上なにも言えなくて口を閉ざしてしまう。
ピシッ
しばらくすると、小さい亀裂音が耳に入った。
ピシッ、ピシピシッ
まただ。
腰に巻き付いている魔道具からじゃなくて、空間から鳴り響いているような。
不安になる嫌な音だった。
よく、心霊現象とかである家鳴りの、あの映像から聞こえる音みたい。
ずっと鈍く発光していた魔道具は、発光が弱まるように不規則な鈍い点滅を繰り返して、発光がやむのが長くなっている。
お化け電球が切れる寸前みたいな、そんな感じだ。
きっと、アレックスの魔法が効いているんだと思う。
それでも、アレックスは表情を緩めることなく、とめることなく滑らかに魔法を口ずさんでいく。
アレックスの額に汗が浮かぶ。
その汗を拭うことも、今の僕には出来なくてもどかしい。
ピシッ、ピシピシッ、パシンッ
空間に亀裂が入るような嫌な音は、どんどん大きくなるし、途切れない。
もう無理しなくていいし、やめていい。
そう思うのに、アレックスの邪魔をしたくなくて、拒むことも出来ない。
じっと見つめていると、ツーと、アレックスの左の鼻穴から血が垂れるのがわかった。
「っ!?」
それでも、魔法をやめようとしないアレックスに、もう、僕の方が限界だ。
阻まれても無理やり身体を起こす。
魔法をやめないアレックスが、驚いたような目を僕に向けてくる。
なんで、そんなに頑張っちゃうんだろう?
頑張るって言ったけど、でも、そんなになるまでやるなんて聞いてないよ。
今やめたら、きっとまた前も後ろも中に入ってくと思う。
でも、もう、いい。
また別の方法を探すから、僕は大丈夫。
アレックスの頭を包み込むように腕を伸ばす。
次の瞬間、ガシャーンともダーンとも、バーンともつかない大きな音が響き渡り、僕の腕は空ぶって空を切った。
ベッドにいたはずのアレックスが、向かいの壁際まで吹っ飛んで強く背中を打ち付けて、そのまま壁を背に崩れる。
急いで、ベッドを降りて、アレックスの方に向かう。
窓ガラスがすべて割られて、扉も壊れて、カーテンも壁もズタズタに切り裂かれてる。
「…っ」
途中、ガラスを踏んだのか足の裏に痛みが走るけれど、関係ない。
「アレックス!」
汗と鼻血を拭って、胸に抱えるように頭を抱き寄せると、すぐ、反応はあった。
「取れたぞ、良かった……」
アレックスの右手に、干からびて茶色い色をした蔓のようなものが握られていて巻き付き、その指先から手首のあたりまでが同系色に染まっている。
満足そうに一度笑ってから、アレックスはゆっくりと意識を手放した。
「手が……っ」
巻き付いている蔓をはがすと、脆くボロボロと崩れて床に落ちる。
でも、アレックスの手の色は変わらず、指から手首までが枯れ木でできた棒切れみたいになっていた。
その手をそっととる。
アレックスの、大きくて、あたたかくて優しい手が、指先が、こんなふうになるなんて。
嫌だ。
魔法なんてどうやって使うのかわからない。
でも、僕は魔力が強いはずだ。
ここは、異世界。
僕のいたところとは違う。
魔力が強いなら魔法が使えるはずだって言ってたじゃないか。
神器とは、魔力が多いから、おじいさんになっても重宝されるって言ってた。
僕は、アレックスの神器なんだ。
治れ、、、ううん、治るんじゃだめだ、言葉が弱い。
行動を起こす言葉の一つ一つで、意味が違えば思いも伝わり方も変わってくる。
元の状態にだよ。
元に、そう、元に戻れ。
アレックスの指は、少し節の目立つ、それでも綺麗で長い指だ。
アレックスの掌は、大きくて優しい、ぼくより厚みのある掌だ。
戻れ、戻れ、元に戻れ。
元通りになって、また僕の頭を、髪を、頬を優しく撫でてほしい。
その手で優しく抱き寄せてほしい。
アレックスの右手を握りしめる。
「いかがされましたか!?……これは、、、一体、、、」
慌ててセバスさんが壊れた扉から部屋に入ってくるなり、息を飲んだ。
僕の手の中にあるアレックスの枯れ木のような右手。
その右手が、僕の思いの大きさと強さと同じくらい、眩しいほどまでに虹色に光った。
どのくらい経ったのかな?
わからないけれど、アレックスが無理しているのが分かったから、思わず声をかけた。
そしたら、アレックスはちらりと僕を見やって小さく首を振ってきた。
その間も魔法を口ずさむのはやめない。
でも、アレックスのこめかみから頬に、そして、顎へと汗が伝ってる。
きっと僕には想像がつかないくらいの力を使ってるんだと思う。
アレックスには、僕のために無理してほしくない。
「無理しないで、アレックス」
身体を起こそうとしたけれど、アレックスの左手に力が入って、阻まれてしまった。
強い視線で制されて、その間も魔法を綴るのをやめないから、本当に視線を向けられただけだよ。
でも、その透明度の高く澄んだエメラルド色が、黙ってろって言われた気がして、僕はそれ以上なにも言えなくて口を閉ざしてしまう。
ピシッ
しばらくすると、小さい亀裂音が耳に入った。
ピシッ、ピシピシッ
まただ。
腰に巻き付いている魔道具からじゃなくて、空間から鳴り響いているような。
不安になる嫌な音だった。
よく、心霊現象とかである家鳴りの、あの映像から聞こえる音みたい。
ずっと鈍く発光していた魔道具は、発光が弱まるように不規則な鈍い点滅を繰り返して、発光がやむのが長くなっている。
お化け電球が切れる寸前みたいな、そんな感じだ。
きっと、アレックスの魔法が効いているんだと思う。
それでも、アレックスは表情を緩めることなく、とめることなく滑らかに魔法を口ずさんでいく。
アレックスの額に汗が浮かぶ。
その汗を拭うことも、今の僕には出来なくてもどかしい。
ピシッ、ピシピシッ、パシンッ
空間に亀裂が入るような嫌な音は、どんどん大きくなるし、途切れない。
もう無理しなくていいし、やめていい。
そう思うのに、アレックスの邪魔をしたくなくて、拒むことも出来ない。
じっと見つめていると、ツーと、アレックスの左の鼻穴から血が垂れるのがわかった。
「っ!?」
それでも、魔法をやめようとしないアレックスに、もう、僕の方が限界だ。
阻まれても無理やり身体を起こす。
魔法をやめないアレックスが、驚いたような目を僕に向けてくる。
なんで、そんなに頑張っちゃうんだろう?
頑張るって言ったけど、でも、そんなになるまでやるなんて聞いてないよ。
今やめたら、きっとまた前も後ろも中に入ってくと思う。
でも、もう、いい。
また別の方法を探すから、僕は大丈夫。
アレックスの頭を包み込むように腕を伸ばす。
次の瞬間、ガシャーンともダーンとも、バーンともつかない大きな音が響き渡り、僕の腕は空ぶって空を切った。
ベッドにいたはずのアレックスが、向かいの壁際まで吹っ飛んで強く背中を打ち付けて、そのまま壁を背に崩れる。
急いで、ベッドを降りて、アレックスの方に向かう。
窓ガラスがすべて割られて、扉も壊れて、カーテンも壁もズタズタに切り裂かれてる。
「…っ」
途中、ガラスを踏んだのか足の裏に痛みが走るけれど、関係ない。
「アレックス!」
汗と鼻血を拭って、胸に抱えるように頭を抱き寄せると、すぐ、反応はあった。
「取れたぞ、良かった……」
アレックスの右手に、干からびて茶色い色をした蔓のようなものが握られていて巻き付き、その指先から手首のあたりまでが同系色に染まっている。
満足そうに一度笑ってから、アレックスはゆっくりと意識を手放した。
「手が……っ」
巻き付いている蔓をはがすと、脆くボロボロと崩れて床に落ちる。
でも、アレックスの手の色は変わらず、指から手首までが枯れ木でできた棒切れみたいになっていた。
その手をそっととる。
アレックスの、大きくて、あたたかくて優しい手が、指先が、こんなふうになるなんて。
嫌だ。
魔法なんてどうやって使うのかわからない。
でも、僕は魔力が強いはずだ。
ここは、異世界。
僕のいたところとは違う。
魔力が強いなら魔法が使えるはずだって言ってたじゃないか。
神器とは、魔力が多いから、おじいさんになっても重宝されるって言ってた。
僕は、アレックスの神器なんだ。
治れ、、、ううん、治るんじゃだめだ、言葉が弱い。
行動を起こす言葉の一つ一つで、意味が違えば思いも伝わり方も変わってくる。
元の状態にだよ。
元に、そう、元に戻れ。
アレックスの指は、少し節の目立つ、それでも綺麗で長い指だ。
アレックスの掌は、大きくて優しい、ぼくより厚みのある掌だ。
戻れ、戻れ、元に戻れ。
元通りになって、また僕の頭を、髪を、頬を優しく撫でてほしい。
その手で優しく抱き寄せてほしい。
アレックスの右手を握りしめる。
「いかがされましたか!?……これは、、、一体、、、」
慌ててセバスさんが壊れた扉から部屋に入ってくるなり、息を飲んだ。
僕の手の中にあるアレックスの枯れ木のような右手。
その右手が、僕の思いの大きさと強さと同じくらい、眩しいほどまでに虹色に光った。
24
お気に入りに追加
1,079
あなたにおすすめの小説
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
フリーダム!!!~チャラ男の俺が王道学園の生徒会会計になっちゃった話~
いちき
BL
王道学園で起こるアンチ王道気味のBL作品。 女の子大好きなチャラ男会計受け。 生真面目生徒会長、腐男子幼馴染、クール一匹狼等と絡んでいきます。王道的生徒会役員は、王道転入生に夢中。他サイトからの転載です。
※5章からは偶数日の日付が変わる頃に更新します!
※前アカウントで投稿していた同名作品の焼き直しです。
魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。
柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。
頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。
誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。
さくっと読める短編です。
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜
Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、……
「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」
この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。
流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。
もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。
誤字脱字の指摘ありがとうございます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる