異世界に召喚された二世俳優、うっかり本性晒しましたが精悍な侯爵様に溺愛されています(旧:神器な僕らの異世界恋愛事情)

日夏

文字の大きさ
上 下
29 / 445
本編

-29- 胴慾を隠す アレックス視点

しおりを挟む
「っ?!どうした?大丈夫か?…何やってんだ、爺」

抜いた後にしっかり浄化もしたし、爺にはばれたとしても、あの美しく可愛い少年にはばれないはずだ、そう思って急いで空間を移動し部屋に戻ったが、
その肝心の彼は、ボロボロと涙をこぼして泣いていた。
は?いやいや、あれからまだ5分も経ってないだろ?なんでこんなに泣いてるんだ。

甘い蜂蜜のような香りが、涙で濃く香ってくるのがわかる。
けど、こんな姿を見せられたら匂いに気を取られている場合じゃない。
可愛そうなくらい痛々しいほどの泣き方に、こっちまで心が痛んでくる。
薄い背中を手で支え、できるかぎり優しく涙をふき取ってやる。
黒くてデカい瞳が俺を捉えて、その長いまつ毛が震える。
まつ毛にも涙の粒が乗っていて、口付けて慰めてやりたいが、そんなことは相手が望んでいないだろう。
今許されるのは、その粒もそっと指で拭うだけだ。

「申し訳ありません、言葉と配慮が足たらず。アレックス様、少しこの場をお任せても?」
「あぁ、わかった」
「レン様、申し訳ありませんでした」

扉が静かに閉まった。
爺が…セバスがあんな顔をしてるの、久しぶりに見たな。
ってことは、本当にあいつ自身、自分が悪かったって思ってるってことだ。

てか、レン様、か。
…や、俺が名前を呼ぶ前に何呼んでるんだとか嫉妬してる場合じゃない、そうじゃないだろ。
そうじゃないだろって思うが、あー、なんだこれ、すげー納得いかなくてもやもやする。
や、俺も名前を呼べばいいだけだろうけど、でも、、、
なんだ、こんな感覚……28年間生きててなかったことだ。

俺にまっすぐに目を向けながらも、未だに静かに涙を流す可愛い生き物。
俺に出来ることがあるなら、なんでもしてやりたい。

「どうした?もう泣くな……や、こんなんされたらそれもしょうがないよな」

泣くなといったが、そうだ、こんなクソな魔道具までつけられて知らない場所にひとり。
泣きたくもなるよな。

だから、悟られちゃならない、とぐっと自身を戒めて欲を隠す。
性欲だけじゃなくて、この焦がれるような強い慕情をも、俺自身の欲の全てを隠せ。

「八つ当たりしちゃった……」
「ん?」
小さくて可愛い唇が震えて、言葉を紡いだが、よく聞き取れなかった。
聞き返すと、少しだけ目を伏せて、素直に白状してくる。
「セバスさんが悪いわけじゃないのに、八つ当たりしちゃったんだ。元の世界に帰りたいって帰してって、そんなのできないこと知ってるのに」

本音をさらせば、口づけて慰めてやりたい。
その可愛い目元に、きめ細やかな頬に、すっと伸びる綺麗な鼻筋と鼻先に、薄くて可愛い艶やかな唇に。
帰してやれない、帰せない、帰したくない、俺のものだ。
醜く、もどかしく、やるせない気持ちをも、全て抑える。
この美しく可愛い生き物、レンのためじゃない。
自分のためだ。
俺自身が、レンに嫌われたくないがためだ。

帰りたいっていう気持ちを、ここにいたいって思わせるだけの力が俺にはまだない。
けれど、傍にいてやりたいし、いてほしい。
…今そんなん言ったら、逆効果だってことくらいはわかる。

普段、俺は、気持ちを抑えない。
通常運転で発散型だ、それをやめる気もない。
他人にどう思われても良かったし、わかってくれない人間に取り繕う時間を費やすだけ無駄だ。
顔にすぐに苛立ちが乗るから、貴族には向いていないってのは十分にわかっているが、
俺の周りがそれを許してくれたし、必要性を感じたことなどなかった。

欲を感じさせないように細心の注意を払いながら、頭を撫でてやる。
俺はずるくて汚い大人だと、心底思う。
聞いたらきっと、呆れるだろうな。

「セバスは、あいつがあんな顔してるときは自分に非があるって認めてるからだ。気にしなくていいぞ?」
「…でも」
「どうしても気になんなら、あとで謝ればいい。でも、そうか…帰りたいのか。なんか、帰りたい理由があるのか?」

もう、帰せる手段があったとしても、帰してやれねえけど。
帰りたいっていう理由を聞いて、俺ができることがあるならそこから埋めていくしかないだろ?

「僕は、向こうの世界で俳優をやってて。あ、俳優ってこっちにもあるのかな?役者のことだよ、舞台上で演技をしたり、テレビや映画…はないよね、うん。
その、子供のころから役者をやっていてね?母さんが女優で、その影響からなんだけど。長いこと休んじゃったけど、やっとこれからだって時だったんだ」

俳優だったのか。母親が女優っていうんなら、レンはきっと母親似なんだろう。
てれびとか、えいがってのはよくわからないが、舞台にかわる別のもんがあったんだろうな。
子供の頃から目指している何かがあって、それを横からかっさわれたわけか、酷えな、それは。
「そうか」

「それにね?ピアノも、歌も、ダンスも習っていてね?あと、殺陣も。殺陣っていうのはね、舞台上の剣技って言えばいいのかな、そういうのも習っていてね?
筋がいいねって褒められてたんだ。あとは、カンフーも習っていたよ。すごくかっこいい俳優さんがいてね、その人がカンフーをしていて。僕もあんなふうに出来たらいいなって思って始めたんだ。最近は先生に褒められることが増えたんだ」

ピアノに歌にダンス?すげーな、俺には全部苦手なものじゃねえか。
たてってのは盾じゃないのか、剣技ならわかる。
けど、こんな細腕で筋がいいってのもすごいことだ。
カンフーってのがどんなものか知らないが、話の流れから体術らしいのは分かった。
こんな細い身体で?
けど、今までにないくらいキラキラして可愛い顔して自然に笑顔まで浮かべてる。
ってことは、レンは、自分のやりたいことに一生懸命で、やりがいを感じていたんだろう。

「そうか…頑張ってたんだな」
「うん…向こうには大切な人がいたから、だから」

衝撃に、手が止まった。
大切な人、大切な人か、まぁ、、、そりゃそうか、そうだよなあ。
こんだけ可愛いんだ、恋人がいないほうがおかしいだろ。
わかるが、わかりたくない、わかってやれない。
あんなにエロくて可愛い姿を俺より先に見たやつがいるのか。

なんだか頭を撫でている行為が、とたんに心の内を見透かせてしまいそうで手を放す。

「付き合ってるやつがいたのか」
「え?」
「大切な人、恋人がいたんだろ?」
いてもおかしくない、だがいてほしくない。
もしいても、いたとしても、、、なんだ、俺はそれ以上になってやりたい、や、なるから。
覚悟を決めたようにレンの瞳を見つめると、その大きな瞳が応えるように揺らいで見えた。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

処理中です...