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本編
-3- 異世界召喚
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「はわわわ、今日から一生洗えない……っ!」
「ぶえっくしょいっ!」
パジャマ姿の少年から差し出された右手につい両手で答えると、斜め後ろから盛大なくしゃみが聞こえた。
「だいじょ」
「大丈夫かい?」
僕の声とサラリーマンの男性の声が重なって、思わず一瞬互いに目を向ける。
物腰やわらかな、目元が涼しげで妙に色気のある人だ。
声も、男性にしては少し高めで、なんだか艶がある。
「うー、さすがに寒いっす」
確かに、上半身裸じゃ寒いだろう。
長袖のカットソーの僕で、暑くも寒くもない状態だ。
しかも、どこからか隙間風が入ってきている。
閉鎖されているような空間なのに、建築の問題なのかな。
「あーだよねぇ…」
困ったように笑いながら立ち上がったサラリーマンの男性は、一番そばに倒れている異世界人のローブを雑に剥いだ。
なんの躊躇もないから僕の方が驚いてしまう。
人のことを言えた口じゃないけれど、この人、結構見た目と性格が違うかもしれないな…。
「はい、とりあえずこれを着てるといいよ」
そう言って、鍛えているだろう上半身をさらしている少年の肩にふんわりとローブをかけた。
そのかけ方は、さっきと違い丁寧だ。
「え、…いいんすか?コレ…」
「いいんだよ。勝手にわけのわからないところに人を拉致しておいて、自分たちはのんきに寝てるんだから。
それに、丁度いいでしょ?」
「あー…はい、ですね、ありがとうございます」
サラリーマンの男性の、笑顔が恐い。
や、スーツを着ているからサラリーマンって思っただけだから、本当はサラリーマンじゃないかもしれないけど。
絶対怒らせちゃいけない人を、怒らせてる感がする。
なんていうか、凄く不思議な人だ。
とても柔らかそうなのに内面に激情を隠し持っていそうな、でもそれを絶対に人に見せないような。
ミステリアスっていうのがしっくりくる。
再度、僕と目が合う。
「えーと、とりあえず、うん、自己紹介しておこうか。
私は藤堂旭、製薬会社のMR…ってわかるかな、薬の営業だよ。
ようやくこぎつけ……ああ、うん、人と会う予定だったんだけど。参ったな…」
座り込んで天上を見上げる彼、旭さんは、一瞬悔しそうな表情を浮かべた。
大口の取引があったのかもしれない。
数秒の沈黙。
口を開いた僕より先に声を発したのは、ローブに包まった少年だった。
「俺は、高坂愛斗、高校生2年生です。叔父の探偵事務所で経理のアルバイトをしてて、さっきまで事務所の風呂を借りたとこでした。アルバイトっていうか、叔父に代わって資金繰り任されてたから、戻らないと、シンプルにヤバイっすね」
本当にヤバイみたいで、寒さじゃなく顔が青ざめている。
愛斗君は、見た目もしゃべり方も今どきなんだけど、どうやら随分頭がいいみたいだ。
や、見た目に関していったらイケメン、すこぶるイケメン。
アーモンド型の綺麗な形をした目と、すっきりと通った鼻筋に、少し厚めの唇。
頬骨がやや高くて、健康的な肌色、すでに男性的な華がある。
それに、ほどよく引き締まった筋肉。
まだ成長途中だろうに、僕が欲しかったものをもってる。役者としては本当に羨ましいな。
「改めて、水原蓮です。今、19で、俳優をしています。
ラジオ番組の収録中でした。スタジオ内にいたのは僕一人だったし、公開録画じゃなかったけど、吸い込まれた瞬間を目にしてた人は複数いたはずだから、きっと大騒ぎになってると思う」
そう、ラジオのパーソナリティはゲストもなくて一人だったけれど、ガラス越しに監督とミキサーさんとマネージャーがいたのだ。今更だけど、洒落にならない。大事件だ。
「で、君は?」
ようやく落ち着いてきたであろうパジャマ姿の少年に話しかける。
あ、しまった、また彼の興奮度が増してしまった。
僕が話しかけない方が良かったかもしれない。
「ぼ、僕、中村渚っていいます!中学2年生です。商店街にあるイタリア料理店が実家で、よく手伝いもしてて。
お菓子作りが趣味なんです。将来は製菓の学校に行って、実家の料理店でドルチェを担当するんだって、思って、たん、ですけど……、あ、あれ、なんか、急に怖くなってきちゃいました……ど、どうしよう、どうしたら……」
くるくると良く変わる表情、赤らんで元気よく名前を告げたけれど、だんだんと笑顔がなくなり、表情が抜けていき、オロオロと戸惑い、あぁ、今度はまた別の意味で泣き出しそうだ。
宥めるようにそっと肩に触れる。
「ひゃわっ!」
変な声が上がった。
けど、少しはましになったみたいだ。ここは、もうひと押しだ。
「ひとりじゃないよ、旭さんも愛斗君もいるし、僕もいるからね」
落ち着かせるようにいうと、こくこくとうなずいてくる。
うん、僕も彼が取り乱している姿に、逆に落ち着いたみたいだ。
人間、自分よりも年下の子が混乱してるのを目の当たりにすると、逆に冷静になれたりするらしい。
旭さんも愛斗君も同じように感じたんだと思う。
「ここにいてもしょうがないから、出ませんか?誰かいるかも」
「そうだね、こうしてても埒が明かない」
愛斗君と旭さんが立ち上がり、僕も渚君を支えながら立ち上がる。
刹那。
ギィっという音とともに観音扉が開かれ、複数の人がわらわらと踏み込んできた。
騒がしいその様子に、咄嗟に身がまえてしまう。
だってさ、凄く仰々しいんだよ?
人が来て助かったとは、到底思えないよ。
「ぶえっくしょいっ!」
パジャマ姿の少年から差し出された右手につい両手で答えると、斜め後ろから盛大なくしゃみが聞こえた。
「だいじょ」
「大丈夫かい?」
僕の声とサラリーマンの男性の声が重なって、思わず一瞬互いに目を向ける。
物腰やわらかな、目元が涼しげで妙に色気のある人だ。
声も、男性にしては少し高めで、なんだか艶がある。
「うー、さすがに寒いっす」
確かに、上半身裸じゃ寒いだろう。
長袖のカットソーの僕で、暑くも寒くもない状態だ。
しかも、どこからか隙間風が入ってきている。
閉鎖されているような空間なのに、建築の問題なのかな。
「あーだよねぇ…」
困ったように笑いながら立ち上がったサラリーマンの男性は、一番そばに倒れている異世界人のローブを雑に剥いだ。
なんの躊躇もないから僕の方が驚いてしまう。
人のことを言えた口じゃないけれど、この人、結構見た目と性格が違うかもしれないな…。
「はい、とりあえずこれを着てるといいよ」
そう言って、鍛えているだろう上半身をさらしている少年の肩にふんわりとローブをかけた。
そのかけ方は、さっきと違い丁寧だ。
「え、…いいんすか?コレ…」
「いいんだよ。勝手にわけのわからないところに人を拉致しておいて、自分たちはのんきに寝てるんだから。
それに、丁度いいでしょ?」
「あー…はい、ですね、ありがとうございます」
サラリーマンの男性の、笑顔が恐い。
や、スーツを着ているからサラリーマンって思っただけだから、本当はサラリーマンじゃないかもしれないけど。
絶対怒らせちゃいけない人を、怒らせてる感がする。
なんていうか、凄く不思議な人だ。
とても柔らかそうなのに内面に激情を隠し持っていそうな、でもそれを絶対に人に見せないような。
ミステリアスっていうのがしっくりくる。
再度、僕と目が合う。
「えーと、とりあえず、うん、自己紹介しておこうか。
私は藤堂旭、製薬会社のMR…ってわかるかな、薬の営業だよ。
ようやくこぎつけ……ああ、うん、人と会う予定だったんだけど。参ったな…」
座り込んで天上を見上げる彼、旭さんは、一瞬悔しそうな表情を浮かべた。
大口の取引があったのかもしれない。
数秒の沈黙。
口を開いた僕より先に声を発したのは、ローブに包まった少年だった。
「俺は、高坂愛斗、高校生2年生です。叔父の探偵事務所で経理のアルバイトをしてて、さっきまで事務所の風呂を借りたとこでした。アルバイトっていうか、叔父に代わって資金繰り任されてたから、戻らないと、シンプルにヤバイっすね」
本当にヤバイみたいで、寒さじゃなく顔が青ざめている。
愛斗君は、見た目もしゃべり方も今どきなんだけど、どうやら随分頭がいいみたいだ。
や、見た目に関していったらイケメン、すこぶるイケメン。
アーモンド型の綺麗な形をした目と、すっきりと通った鼻筋に、少し厚めの唇。
頬骨がやや高くて、健康的な肌色、すでに男性的な華がある。
それに、ほどよく引き締まった筋肉。
まだ成長途中だろうに、僕が欲しかったものをもってる。役者としては本当に羨ましいな。
「改めて、水原蓮です。今、19で、俳優をしています。
ラジオ番組の収録中でした。スタジオ内にいたのは僕一人だったし、公開録画じゃなかったけど、吸い込まれた瞬間を目にしてた人は複数いたはずだから、きっと大騒ぎになってると思う」
そう、ラジオのパーソナリティはゲストもなくて一人だったけれど、ガラス越しに監督とミキサーさんとマネージャーがいたのだ。今更だけど、洒落にならない。大事件だ。
「で、君は?」
ようやく落ち着いてきたであろうパジャマ姿の少年に話しかける。
あ、しまった、また彼の興奮度が増してしまった。
僕が話しかけない方が良かったかもしれない。
「ぼ、僕、中村渚っていいます!中学2年生です。商店街にあるイタリア料理店が実家で、よく手伝いもしてて。
お菓子作りが趣味なんです。将来は製菓の学校に行って、実家の料理店でドルチェを担当するんだって、思って、たん、ですけど……、あ、あれ、なんか、急に怖くなってきちゃいました……ど、どうしよう、どうしたら……」
くるくると良く変わる表情、赤らんで元気よく名前を告げたけれど、だんだんと笑顔がなくなり、表情が抜けていき、オロオロと戸惑い、あぁ、今度はまた別の意味で泣き出しそうだ。
宥めるようにそっと肩に触れる。
「ひゃわっ!」
変な声が上がった。
けど、少しはましになったみたいだ。ここは、もうひと押しだ。
「ひとりじゃないよ、旭さんも愛斗君もいるし、僕もいるからね」
落ち着かせるようにいうと、こくこくとうなずいてくる。
うん、僕も彼が取り乱している姿に、逆に落ち着いたみたいだ。
人間、自分よりも年下の子が混乱してるのを目の当たりにすると、逆に冷静になれたりするらしい。
旭さんも愛斗君も同じように感じたんだと思う。
「ここにいてもしょうがないから、出ませんか?誰かいるかも」
「そうだね、こうしてても埒が明かない」
愛斗君と旭さんが立ち上がり、僕も渚君を支えながら立ち上がる。
刹那。
ギィっという音とともに観音扉が開かれ、複数の人がわらわらと踏み込んできた。
騒がしいその様子に、咄嗟に身がまえてしまう。
だってさ、凄く仰々しいんだよ?
人が来て助かったとは、到底思えないよ。
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