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本編
-182- 先見の力
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あの搾精機なるものは兎も角として、その後は和やかな時間が過ぎていく。
愛斗は今日もいなかったが、あのいけ好かない副商会長の……あ、なんつー名前だっけ?
顔と態度と言動はすげー覚えてるけど、名前を思っちまった。
覚える価値もねえと認識したからだろうが、コナーの旦那、や、奥さんになるのか、一応。
キャンベルを名乗っていたのは覚えている。
兎も角、そいつと一緒にいるんだろうな。
「愛斗は、ヒューゴと一緒に炊飯器を受け取りに行ってるわ」
そうそう、ヒューゴだ、ヒューゴ。
いいタイミングでコナーが話題に出してくれた。
それに、ついに炊飯器が手に入るらしい。
ただ、受け取りに行ってるって言葉に違和感があった。
「受け取り?」
「ええ」
キャンベル商会の取り扱いじゃないのか?
そういうもんって、納品されるのを待つのかと思ってた……と、思ったが、やはり普通なら納品されるのを待つらしい。
「まあ、単なるデートね。人をその気にさせるのが上手いのよ、あの男は」
今回は、南東の取引先である店に伝手を頼んで仕入れて貰ったようだ。
それで、その口実を理由にヒューゴが愛斗を誘い、出かけて行った、と。
つまるところそれは、“デートの理由が欲しかった”のだろう。
「仕事も出来るのよ?それは、本当。でもね、誰よりもさぼるのも上手いの」
「あー……なんか想像つくわ」
コナーが呆れたようなため息と共に言葉を吐きだす。
元の世界じゃ、常に俺の次にいた二つ上の先輩は、サボり方がめちゃくちゃ上手い男だった。
だが、面倒見が良いとはお世辞にも言えないし、平気で横取りかます奴だったから、俺は内心でクソ扱いしてたな。
結構嫌味も言われたし。
仕事に対する男の嫉妬って、なんかすげーダセェと思ってドン引きしてたわ。
内心で、だ。
元の世界じゃ、仕事中はずーっと猫を被りっぱなしだった俺は、基本上には可愛がられてた。
けどまあ、俺の本性知ったら、向こうもドン引きだろうけどな。
オリバーは、俺の本性知っても、愛が深くなっただけだ。
サボるのは下手くそだが、食事と休憩はタイラーとソフィアがちゃんと管理してくれるから、規則正しくストレスも少なく集中して仕事をこなせているんだろう。
休憩に関しちゃ、俺も一役かってるか。
ぼんやりそんなことを考えてた俺は、油断した。
バン!と音を立てて後ろの扉が開き、一瞬対応が遅れちまった。
「っ!?」
オリバーをソファの背に押し込めて立ち上がり構えたが、なんてことはない、話題にしてたヒューゴのご到着だ。
「なんだ、びっくりした。ごめん、オリバー、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です。アサヒが強いことは分かってますが、私の盾になるようなことは」
「分かった分かった」
肩の力が抜けて、ソファに座り直す。
まあ、若干警戒心はもったままだ。
こいつに関しちゃ信用していないからな、俺は、これっぽっちもだ。
何だか、顔色が悪いし、足取りもちょいおかしい。
めちゃくちゃ顔が強ばってんじゃん。
なんだ?
「ちょっと、ノックくらいしなさいよ、びっくりするじゃない!ああ、でも丁度良かったわ、随分早いけど炊飯器───やだ、ちょっと、何?!」
おおう、まさかヒューゴがコナーに抱き着くなんて思ってもみなかった。
てっきり、利害が一致して、仕事が出来るのと特殊なスキル持ちってだけで結婚したとばかり思っていた。
そんな感じの話をコナーが言ってたし。
けど、やっぱ、互いに情はあるんじゃねえか。
その情が、恋愛感情じゃなくとも、だ。
「……が、くる」
「何、どうしたの?」
「黄色い悪魔が来る───どうする?どうしたら」
「っ……とにかく、落ち着きなさいよ」
コナーは縋りつくようなヒューゴをべりっと引きはがした。
『黄色い悪魔が来る』という言葉に一瞬驚いた様子で息を飲むが、すぐに冷静になる。
黄色い悪魔ってなんだ?
「ねえ、マナトは?」
「あ……エマに、任せ、た」
「そう、ならいいわ。それで?来るのはいつごろ?印象に残ってることから判断出来ないの?」
「来年の秋より前だ、夏の終わり。正確な月日は分からない」
「それだけわかれば十分よ」
「っ何でそんなに落ち着いてられるんだ?!黄色い悪魔だぞ?」
「来年来るかもしれないって情報があったのよ、元々。でも、あなたが見たなら来るんでしょうね」
「餓死がでるぞ、食いつくされる」
「そこはこれから対策して変えるところでしょ?今からだってやれることはあるわ。
ねえ、オリバー?植物博士のあなたも、そう思うでしょう?」
なんだ?
わけがわからないが、隣のオリバーを見上げると深刻そうな顔をして頷いた。
「ええ。50年前に被害が大きかったエリソン侯爵領では、その後の復興と共に様々な対策をしてきました。
今、アサヒにも手伝ってもらい、対抗できるであろう植物を育てています。
半年以上先のことです。最悪の状況を防ぐことは、人間でもできます」
黄色い悪魔が何だか知らないが、俺も一緒に育ててる植物がなんらかの効果があるっぽいな。
とりあえず、このまま黄色い悪魔がなんなのか教えて貰わなきゃ、俺が会話に加われない。
人間でも出来るってことは、相手は人間じゃないってことだけは間違っちゃいないだろう。
悪魔って、文字通り悪魔、だったりするのか?
愛斗は今日もいなかったが、あのいけ好かない副商会長の……あ、なんつー名前だっけ?
顔と態度と言動はすげー覚えてるけど、名前を思っちまった。
覚える価値もねえと認識したからだろうが、コナーの旦那、や、奥さんになるのか、一応。
キャンベルを名乗っていたのは覚えている。
兎も角、そいつと一緒にいるんだろうな。
「愛斗は、ヒューゴと一緒に炊飯器を受け取りに行ってるわ」
そうそう、ヒューゴだ、ヒューゴ。
いいタイミングでコナーが話題に出してくれた。
それに、ついに炊飯器が手に入るらしい。
ただ、受け取りに行ってるって言葉に違和感があった。
「受け取り?」
「ええ」
キャンベル商会の取り扱いじゃないのか?
そういうもんって、納品されるのを待つのかと思ってた……と、思ったが、やはり普通なら納品されるのを待つらしい。
「まあ、単なるデートね。人をその気にさせるのが上手いのよ、あの男は」
今回は、南東の取引先である店に伝手を頼んで仕入れて貰ったようだ。
それで、その口実を理由にヒューゴが愛斗を誘い、出かけて行った、と。
つまるところそれは、“デートの理由が欲しかった”のだろう。
「仕事も出来るのよ?それは、本当。でもね、誰よりもさぼるのも上手いの」
「あー……なんか想像つくわ」
コナーが呆れたようなため息と共に言葉を吐きだす。
元の世界じゃ、常に俺の次にいた二つ上の先輩は、サボり方がめちゃくちゃ上手い男だった。
だが、面倒見が良いとはお世辞にも言えないし、平気で横取りかます奴だったから、俺は内心でクソ扱いしてたな。
結構嫌味も言われたし。
仕事に対する男の嫉妬って、なんかすげーダセェと思ってドン引きしてたわ。
内心で、だ。
元の世界じゃ、仕事中はずーっと猫を被りっぱなしだった俺は、基本上には可愛がられてた。
けどまあ、俺の本性知ったら、向こうもドン引きだろうけどな。
オリバーは、俺の本性知っても、愛が深くなっただけだ。
サボるのは下手くそだが、食事と休憩はタイラーとソフィアがちゃんと管理してくれるから、規則正しくストレスも少なく集中して仕事をこなせているんだろう。
休憩に関しちゃ、俺も一役かってるか。
ぼんやりそんなことを考えてた俺は、油断した。
バン!と音を立てて後ろの扉が開き、一瞬対応が遅れちまった。
「っ!?」
オリバーをソファの背に押し込めて立ち上がり構えたが、なんてことはない、話題にしてたヒューゴのご到着だ。
「なんだ、びっくりした。ごめん、オリバー、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です。アサヒが強いことは分かってますが、私の盾になるようなことは」
「分かった分かった」
肩の力が抜けて、ソファに座り直す。
まあ、若干警戒心はもったままだ。
こいつに関しちゃ信用していないからな、俺は、これっぽっちもだ。
何だか、顔色が悪いし、足取りもちょいおかしい。
めちゃくちゃ顔が強ばってんじゃん。
なんだ?
「ちょっと、ノックくらいしなさいよ、びっくりするじゃない!ああ、でも丁度良かったわ、随分早いけど炊飯器───やだ、ちょっと、何?!」
おおう、まさかヒューゴがコナーに抱き着くなんて思ってもみなかった。
てっきり、利害が一致して、仕事が出来るのと特殊なスキル持ちってだけで結婚したとばかり思っていた。
そんな感じの話をコナーが言ってたし。
けど、やっぱ、互いに情はあるんじゃねえか。
その情が、恋愛感情じゃなくとも、だ。
「……が、くる」
「何、どうしたの?」
「黄色い悪魔が来る───どうする?どうしたら」
「っ……とにかく、落ち着きなさいよ」
コナーは縋りつくようなヒューゴをべりっと引きはがした。
『黄色い悪魔が来る』という言葉に一瞬驚いた様子で息を飲むが、すぐに冷静になる。
黄色い悪魔ってなんだ?
「ねえ、マナトは?」
「あ……エマに、任せ、た」
「そう、ならいいわ。それで?来るのはいつごろ?印象に残ってることから判断出来ないの?」
「来年の秋より前だ、夏の終わり。正確な月日は分からない」
「それだけわかれば十分よ」
「っ何でそんなに落ち着いてられるんだ?!黄色い悪魔だぞ?」
「来年来るかもしれないって情報があったのよ、元々。でも、あなたが見たなら来るんでしょうね」
「餓死がでるぞ、食いつくされる」
「そこはこれから対策して変えるところでしょ?今からだってやれることはあるわ。
ねえ、オリバー?植物博士のあなたも、そう思うでしょう?」
なんだ?
わけがわからないが、隣のオリバーを見上げると深刻そうな顔をして頷いた。
「ええ。50年前に被害が大きかったエリソン侯爵領では、その後の復興と共に様々な対策をしてきました。
今、アサヒにも手伝ってもらい、対抗できるであろう植物を育てています。
半年以上先のことです。最悪の状況を防ぐことは、人間でもできます」
黄色い悪魔が何だか知らないが、俺も一緒に育ててる植物がなんらかの効果があるっぽいな。
とりあえず、このまま黄色い悪魔がなんなのか教えて貰わなきゃ、俺が会話に加われない。
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