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本編
-178- 名前の由来とプリン
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「すげーじゃん、シリル!」
以前より確実に増えている植物の色彩が目に飛び込んできて、思わず声をあげちまった。
シリルは俺を見上げて、照れたように可愛く笑う。
そこで、ドヤらないのがシリルだ。
本当、賢くいい子に育ってる。
大人の俺ですらドヤるぞ、こんなん作って褒められたら。
まあ、性格的な問題なんだろうけどさ。
こういう謙虚で純粋なところはずっとそのままでいて欲しい。
「兄ちゃん、こっち。これね、まだ蕾だけどこれが言ってた薔薇だよ。一個だけうんと早く作ってるの」
「食用薔薇か!」
シリルが案内してくれたところには、まだ若そうな薔薇の苗があって、可愛らしい蕾を3つほどつけていた。
中心部分が赤く染まっているから、赤い薔薇が咲くらしい。
やっぱ、薔薇っていったら赤ってのはこっちの世界でも一番ポピュラーな色らしい。
それに、折角食用薔薇なら、食の彩を赤で添えたいところだ。
「甘い香りがするんだよ?」
嗅いでみて、と促されて、蕾の中央に鼻を寄せると、確かに精油が大量にとれる薔薇とは違い甘く優しい香りがする。
蜂蜜にも似た香りだが、後に残るのはやっぱり薔薇だと思わせる香りだ。
上手く説明出来ないが、嫌みにならない甘さを含む薔薇だった。
「本当だ、甘くて美味しそうな香りがする」
「この薔薇に、兄ちゃんの名前を付けても良い?」
「え?」
「新しい薔薇の名前は、人から貰うことも多いんだよ」
シリルが期待に満ちた目で俺を見つめてくる。
いやいや、待て。
薔薇に俺の名前?
や、良いけどさ……けど。
「もっと可愛らしい名前の方がいいんじゃないか?」
「兄ちゃんの名前が良い。前に『真っすぐでみんなを笑顔にするあったかい人』って意味だって教えてくれたから」
そういや、『兄ちゃんのアサヒってどういう意味があるの?』と聞かれたっけ。
そんで俺は、確かにそう答えた。
よく覚えてんなあ。
正直、俺には旭って名前は似合わないような気がする。
こんだけひねくれちまったし、容姿からしたら、太陽より月って感じだ。
歴代彼氏にも『似合わねー』って言われていたっけ。
けど、オリバーだけは『ああ、ぴったりですね』なんて抜かしてきやがった。
そういやオリバーって名前は、強く平和的な子に育って欲しいという思いで着けられたそうだ。
オリバーこそ、名は体を表すって思ったが、『私はからっきし弱いですから期待に添えていませんね』などぬかしてきたっけ。
んなことねーのに。
信念の強さはすげーと思う。
腕っぷしはからっきしだったとしても、精神的に強くなかったとしても、自分のやりたいことへの情熱はめちゃくちゃ強いやつだ。
「兄ちゃん?」
「ああ、悪い。自分の名前じゃなくていいのか?」
「うん、兄ちゃんの名前が良い」
「そっか。シリルがそれがいいならいいぞ、俺の名前でも」
「ありがとう!美味しくて可愛くて綺麗なのにするからね!」
「おう……」
なんつーか、まるで俺自体が『美味しくて可愛くて綺麗だ』と言われたみてーでちょっと照れちまった。
「お、出てきた。こんにちはー」
『ああ、あんたか……こんにちは』
律儀に挨拶を返す青白くてちっこいイケメン君は、そっと伺うような視線を向けたが、相手が俺だと知るとほっとしたように笑みをひいた。
こころなしか前より元気そうに見えるのは、俺の手の中にあるもんを期待したように見上げてきたからかもしれない。
「ぷりんあるぞ」
『ぷりん……ってなんだ?』
「あのね、甘くてプルンとしてるんだって。ね?」
『甘くてプルンっ……』
目を大きくして、キラキラとした瞳で見上げてきた。
こないだのカップケーキがお気に召したみてーだから、今回のプリンもきっと気に入るだろう。
「おーそうだぞ。食うか?」
『食う!』
「うん!」
「っと、ちょい待ってくれ。冷やした方が美味いはずだから」
良く冷えた綺麗な水、雪解け小川の水っていうのをイメージして空中に水を出して、そこにプリンを三つぶち込んでみる。
これで良く冷えるだろう。
例え外が涼しかったとしても、やっぱプリンは冷えたほうが美味いはずだ。
『……凄いんだな、あんた』
「は?」
もうちょい前から冷やしておくんだったなー等と思いつつ、冷えるように念じていると、イケメン君が驚いたように呟いた。
水で冷やしてるだけなんだが、何がそんなに凄いんだ?
驚くようなことじゃないだろ、ただの冷たい水だもんよ。
「兄ちゃんの魔法、とっても綺麗だね!」
「そっか?魔法使い始めてからまだ一カ月も経ってねーからあんま制御は上手くねーけどな。
量だけは人より多いみてーだから、日々稽古してる最中だ」
『嘘だろ……』
「嘘じゃねーよ。ああ、俺は神器様ってやつだ」
『それこそ嘘だろ……や、確かにだとしたら辻褄が合う』
「イケメン君は、神器様って存在は知ってんだな」
「兄ちゃん、シンキさまってなあに?」
不思議そうにシリルが尋ねてくる。
ああ、こっちは知らなかったか。
子供に話しても良いもんか……と思うも、これから関わっていくんだからちゃんと話しておいた方が良いよな。
そろそろプリンも冷たくなっただろう。
食いながら、ちょっとだけ話を聞いてもらうかな。
以前より確実に増えている植物の色彩が目に飛び込んできて、思わず声をあげちまった。
シリルは俺を見上げて、照れたように可愛く笑う。
そこで、ドヤらないのがシリルだ。
本当、賢くいい子に育ってる。
大人の俺ですらドヤるぞ、こんなん作って褒められたら。
まあ、性格的な問題なんだろうけどさ。
こういう謙虚で純粋なところはずっとそのままでいて欲しい。
「兄ちゃん、こっち。これね、まだ蕾だけどこれが言ってた薔薇だよ。一個だけうんと早く作ってるの」
「食用薔薇か!」
シリルが案内してくれたところには、まだ若そうな薔薇の苗があって、可愛らしい蕾を3つほどつけていた。
中心部分が赤く染まっているから、赤い薔薇が咲くらしい。
やっぱ、薔薇っていったら赤ってのはこっちの世界でも一番ポピュラーな色らしい。
それに、折角食用薔薇なら、食の彩を赤で添えたいところだ。
「甘い香りがするんだよ?」
嗅いでみて、と促されて、蕾の中央に鼻を寄せると、確かに精油が大量にとれる薔薇とは違い甘く優しい香りがする。
蜂蜜にも似た香りだが、後に残るのはやっぱり薔薇だと思わせる香りだ。
上手く説明出来ないが、嫌みにならない甘さを含む薔薇だった。
「本当だ、甘くて美味しそうな香りがする」
「この薔薇に、兄ちゃんの名前を付けても良い?」
「え?」
「新しい薔薇の名前は、人から貰うことも多いんだよ」
シリルが期待に満ちた目で俺を見つめてくる。
いやいや、待て。
薔薇に俺の名前?
や、良いけどさ……けど。
「もっと可愛らしい名前の方がいいんじゃないか?」
「兄ちゃんの名前が良い。前に『真っすぐでみんなを笑顔にするあったかい人』って意味だって教えてくれたから」
そういや、『兄ちゃんのアサヒってどういう意味があるの?』と聞かれたっけ。
そんで俺は、確かにそう答えた。
よく覚えてんなあ。
正直、俺には旭って名前は似合わないような気がする。
こんだけひねくれちまったし、容姿からしたら、太陽より月って感じだ。
歴代彼氏にも『似合わねー』って言われていたっけ。
けど、オリバーだけは『ああ、ぴったりですね』なんて抜かしてきやがった。
そういやオリバーって名前は、強く平和的な子に育って欲しいという思いで着けられたそうだ。
オリバーこそ、名は体を表すって思ったが、『私はからっきし弱いですから期待に添えていませんね』などぬかしてきたっけ。
んなことねーのに。
信念の強さはすげーと思う。
腕っぷしはからっきしだったとしても、精神的に強くなかったとしても、自分のやりたいことへの情熱はめちゃくちゃ強いやつだ。
「兄ちゃん?」
「ああ、悪い。自分の名前じゃなくていいのか?」
「うん、兄ちゃんの名前が良い」
「そっか。シリルがそれがいいならいいぞ、俺の名前でも」
「ありがとう!美味しくて可愛くて綺麗なのにするからね!」
「おう……」
なんつーか、まるで俺自体が『美味しくて可愛くて綺麗だ』と言われたみてーでちょっと照れちまった。
「お、出てきた。こんにちはー」
『ああ、あんたか……こんにちは』
律儀に挨拶を返す青白くてちっこいイケメン君は、そっと伺うような視線を向けたが、相手が俺だと知るとほっとしたように笑みをひいた。
こころなしか前より元気そうに見えるのは、俺の手の中にあるもんを期待したように見上げてきたからかもしれない。
「ぷりんあるぞ」
『ぷりん……ってなんだ?』
「あのね、甘くてプルンとしてるんだって。ね?」
『甘くてプルンっ……』
目を大きくして、キラキラとした瞳で見上げてきた。
こないだのカップケーキがお気に召したみてーだから、今回のプリンもきっと気に入るだろう。
「おーそうだぞ。食うか?」
『食う!』
「うん!」
「っと、ちょい待ってくれ。冷やした方が美味いはずだから」
良く冷えた綺麗な水、雪解け小川の水っていうのをイメージして空中に水を出して、そこにプリンを三つぶち込んでみる。
これで良く冷えるだろう。
例え外が涼しかったとしても、やっぱプリンは冷えたほうが美味いはずだ。
『……凄いんだな、あんた』
「は?」
もうちょい前から冷やしておくんだったなー等と思いつつ、冷えるように念じていると、イケメン君が驚いたように呟いた。
水で冷やしてるだけなんだが、何がそんなに凄いんだ?
驚くようなことじゃないだろ、ただの冷たい水だもんよ。
「兄ちゃんの魔法、とっても綺麗だね!」
「そっか?魔法使い始めてからまだ一カ月も経ってねーからあんま制御は上手くねーけどな。
量だけは人より多いみてーだから、日々稽古してる最中だ」
『嘘だろ……』
「嘘じゃねーよ。ああ、俺は神器様ってやつだ」
『それこそ嘘だろ……や、確かにだとしたら辻褄が合う』
「イケメン君は、神器様って存在は知ってんだな」
「兄ちゃん、シンキさまってなあに?」
不思議そうにシリルが尋ねてくる。
ああ、こっちは知らなかったか。
子供に話しても良いもんか……と思うも、これから関わっていくんだからちゃんと話しておいた方が良いよな。
そろそろプリンも冷たくなっただろう。
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