異世界に召喚された猫かぶりなMR、ブチ切れて本性晒しましたがイケメン薬師に溺愛されています。

日夏

文字の大きさ
上 下
172 / 196
本編

-172- 馬車に酔う

しおりを挟む
「おはよう、先生、久しぶり。今日もよろしくお願いします」
「うむ、元気そうじゃな」
「?ああ、俺もオリバーも元気だ」

今日は二度目だからか、院を尋ねてもびっくりされなかった。
だが、扉を開けて出迎えた先生の息子さん……や、俺よりずっと年上の医者だろうが、緊張感万歳で頭を下げられたな。
父親の先生みたく、俺等に対しても普通にタメ語になれるのは爺さんになっても無理かもしれない、などと思ったのもつかの間。
息子さんに急かされて、先生がやってきた。

先生自体は急いじゃいない。
予定していた時間より5分程早い到着だったのも理由の一つかもしれないけど、急ぐってことをあんましないのかもしれないな。
や、緊急の患者がいたらそれは急ぐんだろうけれどさ。
なんつーか、よっぽどのことがあっても動じない、っつーのが正しい言い方かもしれない。

“おはよう”も“久しぶり”もスルーされたが、最初の一言が“元気そうじゃな”なんて満足そうに笑みを浮かべて頷かれるから嫌な気は一切しない。
会う貴族会う貴族全員こうとは思わないが、この畏まらずに接してくれる感じがすげー楽だ。

元の世界で仕事柄いろんな医者に会ってきたが、この先生みたく対等に会話が出来た医者は本当に少なかった。
大病院の上程周りに持ち上げられて偉そうにしてたし……や、実際偉いんだろうけど。
あー個人病院だって、たった数年で態度がデカくなった医者が多かった。
テコ入れして良い縁だと思った病院は、数年でやっかいな病院になりさがって行く度足が重くなったな。

何でだろうなあ、嫌な慣れっつーの?
そういうのって患者の診察にも表れるんだよな。
昔は優しい先生だったのに、なんて複数口コミに正直に書かれちゃ病院の運営に関わるだろうな、なんて他人事のように思ったっけ。


「今日はすんなりじゃな」
「はは、この間はごめん」
「良い良い」

面白そうに笑いながら先生が馬車に乗り込む。
前回と同じ並びなのかと思ったが、今回はオリバーの真正面が先生で進行方向、俺とオリバーが隣同士という位置だ。
オリバーが俺の隣が良いと言い出して、『先生は私の前にしましょう』と笑顔でぬかしやがるから『先生が進行方向なら許す』と伝えた。

「お前さんそっち側で酔わんか?」
「え?……そういや背にすんの初めてだな」
「え゛?!」

先生に言われて初めて気が付いた。
背を向けて座るっていう機会が、元の世界でも殆どなかった。
前回、『アサヒはそちらで』と進行方向の席を言われたし、その前に先生が背にして座っちまったんだよな。
俺の返事にオリバーがぎょっとした声をあげるが、馬車は緩やかに動き出した。



「窓開けていいか?……酔った」
「だから聞いたんじゃ」
「アサヒ、大丈夫ですか?休憩しましょうか」
「や、良い。悪いけど、そっち座る」

発車してすぐ、車酔いならぬ馬車酔いをした。
酔いはまだ軽いが、腹と胸ん中が微妙に気持ち悪い。
今のうちに対策した方が良いと、空席になっていた向かい側に座り直して、ほんの少し窓を開ける。
開けた窓とカーテンの隙間から心地良い風が入ってきた。
ゆっくり息を吸い込み、ゆっくり息を吐く。
これなら、シリルん家に着くころには治っていそうだ。

「少し眠りますか?」
「や、起きてる」
「ですが……あ」
「あ?……何だコレ」

目を閉じて返事をしたが、オリバーの声が不自然に留まるので目をあける。
すると、俺の目の前に、ビー玉ほどの水の玉が浮かんでいるのが見えた。
色はまるでシャボン玉みてえな色だ。

「わしじゃない」
『アサヒ、口開ける』

先生に目を向けると、先生の声と被さるように、おはぎの声がした。

おはぎの言うように口をあけると、ころんと水の玉が入り込む。
飴玉かと思ったが、まん丸い玉は、ぷちんと弾けて水になった。
よく冷やされた水は、こころなしかふんわりミントの香りがして少し甘い。
嫌な甘さじゃなくて、柔らかな花の蜜みたいな自然で優しい甘さだ。
あ……マジか、気持ち悪い酔いが治っちまった。

(ありがとな、おはぎ。気持ち悪いの綺麗さっぱり治ったわ。すげーな、おはぎは)
『ん!』

「治った」
「……そうですか。良かったです。でも、今後は人前でやらないでくださいね」
「先生だから大丈夫だろ?」
「……今後も人を選んでやってくださいね」
「わかったわかった」

『本当ですか?』などと疑いの目を向けて聞いてくるオリバーは、横移動で俺の前に位置取った。
流石に先生まで座り直せと言わないだけ、褒めてやってもいいな。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

処理中です...