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本編

-121- 神器様と地球

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「……コナー、あまりこういうことを言いたくはないのですが、間を空けすぎるとマナト君が負担になるのでは?」
「え?」

オリバーが言いづらそうに、それでも真剣な顔をして口を開く。
空けすぎると負担?
やりすぎると負担じゃなくて?
けど、疑問に思うのは俺だけで、愛斗とコナーは、二人して『あー……』と曖昧な表情だ。

「……まさかとは思いますが、毎回枯渇させることを楽しんでるわけじゃ」
「っ違うわよ!はあ……言いふらすようなことじゃないのだけれど、ヒューゴは、魔力無しなのよ」
「え?全くですか?」
「そーよ?全くのゼロ。これっぽっちもないわ」
「それなのに商会の副会長を務めている、と……それも、キャンベル商会のような大商会の」
「スキル持ちなのよ。───これもあまり言いふらしたくはないのだけれど、先見のスキルを持っているわ」
「先見、ですか……それは、隠したほうが良いですね」
「そっとやそっとじゃ見られないように隠蔽してるわよ。兎も角、そういうわけだから、マナトが負担にならないようには気を付けてるわ」
「あー悪い、ちょっと意味が分からないんだけどさ、間を空けたほうが負担っていうのは何でだ?逆じゃね?」

俺が疑問に思っている答えが分からないまま話が終わりそうだから、割り込んじまう。
すると、コナーも愛斗もオリバーすら、俺を信じられないような顔で見てくる。
なんだ、俺はそんな変なことを言ってるか?

「オリバー?あなた、神器様の生態について伝えていないの?」
「……伝えていませんでしたね」
「ちょっとお、人に文句言えないじゃない」
「ええ、本当にそうですね」

なんだ?またオリバーの“うっかり大事なことを言い忘れた病“か?
てか、神器様の生態ってなんだ?
尻の中が濡れて妊娠できるようになっただけじゃねえの?

「神器様は、最初に魔力譲渡を行った相手の魔力を欲しがるように出来てるのよ」
「は?」
「相手の魔力が少なくなると、最悪ヒートを起こすわ」
「ヒート……ってなんだ?」
「ヒートっていうのはね、高熱が出て、体も心も無性に相手のことを欲しがることよ。強烈な媚薬を飲んだ時と同じような感じになるらしいわ」
「は?……それじゃ、俺がオリバーと数日離れたらそんなヤバい状態になるのか?ずっと?」
「妊娠するまでは、ね」
「マジか……」
「でも、神器様の魔力量にもよるのよ?兆候が出るとしたら、大体4、5日。
ヒートまでになるには、一週間から10日ってところじゃないかしら?
その間に魔力譲渡がうまく行われなかった場合、情緒不安定になったりするの。
それを知って楽しむ馬鹿もいるって話。
あなたが全くその状態にならないってことは、頻繁に魔力譲渡されてるってことね」
「まあ、そうだな」

一日おきにやって、それでなくたっていちゃこらしてるし、毎日あれだけディープなキスをしてたら魔力は満たされてるだろう。
情緒不安定とか全くねえ……あ、三日目の夜くらいか?
なんでやらないのか迫っちまったアレだ。
あれまさかその前兆だったとかねえよな?……まあ、いいか。
結果としてあれはあれで、オリバーの本心と向き合えたわけだしさ。

「あれ?」
「どうしました?」

魔力無しだから、ヒューゴとやらなくたって愛斗がヒートを起こすようなことにならないってのはわかった。
けど、魔力無しの男が愛斗を愛せるのか?

「俺ら魔力高いんだろ?魔力無しな男とできるのか?」
「やりようはあるわ」
「ま、そりゃそうだけどさ……愛斗はそれでいいのか?」

「魔力酔いしてますよ、良く」
「え……」
「言っても聞かないんです」
「嬉しそうだな?」
「言ったでしょ、旭さん。俺、自信過剰で偉そうにしてる男の情けない様を見るのが好きって」
「あー……なるほど」

でも、そっか。
情けない様を見るのが好きって感覚はわからないが、そうまでして自分を欲する男に愛情を持つのはわかる気がする。
それも、普段自信過剰で偉そうにしてる男が、だ。

「アサヒ、あなた少しだけ神器様の生態について知っていたほうが良いわ」
「まだなんかあんのか?」
「神の器よ?人と違うことが色々あるのよ、あなたが気がついていないだけで」
「マジか」

尻が濡れて妊娠できるだけじゃねーのか。
なんか、思ってる以上に面倒なことになってたら嫌だな。

「あとで私が教えます」
「言い忘れないようにしなさいよ?」
「……はい」

自信のねえ声で返事をしたオリバーが可笑しくて笑っちまう。
まあ、後でタイラーにも確認すりゃいいだろ。

あの性格だ、神器様の生態についても詳しく知ってるだろう。
つーっか、俺を家で受け入れた時点で色々調べているはずだ。
タイラーは、神器様な俺が万が一どうにかなっちまったら、きちんと対処できるようにはしてるはず。
抜けてるオリバーをサポートっつーか、お目付け役してるんだもんな。



「君の言う通りだった。はじめて美味く淹れられたよ、ありがとう」

満面の笑みでフレイさんがやってきた。
目の前に、コトリ、とお茶と一緒に小さな丸い宝石みたいな色した砂糖菓子が出される。
どうやら、玉露を上手く淹れられた様だ。

「そりゃよかった。うん、美味いよ。……綺麗だな、ボンボンか?」
「お酒は使ってないんだけれどね、香りのついた砂糖菓子なんだ。作り立てじゃないと出せないから、今日は特別」
「へえ……すげー綺麗だ」

3つの綺麗な砂糖菓子は、ビー玉くらいの大きさで、黄色からオレンジがかったものと、緑に茶色の螺旋が入ってるものと、青と白が絶妙に混ざり合ってるものと、3種だ。
とくに、青と白のは、地球色してて、ずっと眺めていたくなる。

ここは、この世界はきっと地球でもないんだろうな。
ざっくりとタイラーから教えて貰った星の巡り、それと他国には天上地なる空中に浮いた島や、地下深くに広がる地下街っつーのもあるらしい。
空中に島が浮いてるなんて、やっぱファンタジーだよなあ。

こっちの世界は天動説だけで成り立つっぽいし、地動説といった考えはないようだった。
考えがないってのがそもそも間違いかもしれない……や、良くわからないっつーのが正しいか。
疑問に思っちゃいけない、みてえな感じだ。
そのまま、そういうもんなのか、と納得せざるを得ないっつーか。

「惑星みたいですね」
「な?これ、地球みたいだ」
「ですね……」

感慨深くなるのは、こっちの世界に来て日が浅くとも、懐かしく感じるからか。
や、向こうにいたときだって、地球を見ると綺麗だと思うと同時なんとなく懐かしいって思う気持ちがあった。
地球というのは、特別な存在なのかもしれない。

口に放るとほろりと解ける地球は、どこか懐かしいような、甘い花の香りがした。
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