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本編

-115- オリバーの魅力

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「……さんきゅ」
「私の方こそ」

……馬車の乗り降りに、慣れた手つきでエスコートするオリバーが憎い。
や、憎くはないが、普段が普段なだけに、こうやっていかにも貴公子然とした態度を取られるとすげーこっぱずかしい。
しかも今日は、眼鏡なしで髪を編み上げて、より男っぷりが上がっている上に洒落た服装だ。
今日行く場所は貴族街ではなく、平民街。
平民街でも裕福な場所で、貴族の出入りも珍しくない場所。
前の“いかにも貴族です”というような上等すぎるスーツとは違い、カジュアルなスーツらしい。
らしいっつーのは、俺の区別があんまりつかないからだ。
全体的に生地に光沢がないにしろ、ツイードのスーツはどうみても良いもんだって一目でわかるし、襟や袖の切り替え部分がビロード地で、艶があって高級感がある。
どう見たって貴族だろって思うが、タイラーやオリバーに言わせると、これがカジュアルスーツだと言う。
タイラーがそう言うんだから、正しいんだろうけどさ。

まあ、そんな上等なスーツに身を包んだ上等な男にエスコートされて馬車を下りれば、あれは誰だと、注目も浴びる。
流石に馬車止めから店までエスコートで歩く、なんてこっぱずかしいことはしたくない。
猫を被りまくっていても、だ。

なぜって、ここが平民街だからだ。
カップルや夫婦……夫夫も含むが、それと思わしき人々が手を繋いだり腕組みしたりして歩いてはいるが、エスコートされてる奴などいない。

そのままエスコートする気のオリバーの手元を引き寄せてから放し、その二の腕をトンと叩くと、一瞬びっくりした顔で俺を見てきたオリバーはとても悲しそうな顔をしてきた。
何っつー顔をしてくるんだ、勘弁してくれよ。

「場所考えろ」
「───すみません」

その腕を取り自ら絡めると、オリバーはすぐに笑顔になってくすりと笑い声で謝ってきた。
……っわかっちゃいたが、マジでかっこいい。

オリバーの笑みに、周囲から小さな黄色い声が上がった。
控えめだが、確実に“黄色い声”だ。
芸能人並だ、まあ、覚悟はしていた。
してはいたが、見慣れた俺も心臓に悪い笑顔だ、惚れ直す。

あ゛ーあ゛ーあ゛ー……内心マジでドギマギしてるが、上等な男に相応しい相手に見えるよう、外面をよろしく整えて歩く。
猫かぶって大人しくしてりゃ、儚げでどこか色気があると言われたこの顔は、こちらの世界でも通用する。
それに、言っちゃなんだがこっちの世界は比較的大柄で、骨格からしてゴツい奴らが多い。
だが、男性夫人は勿論華奢な体が好まれる。
蓮君ほどじゃないにしろ、俺だって十分華奢だ。

袖がビラビラしたシャツが人気なようだが、俺の場合は細いから逆にぴったりした方が良いと、少し伸縮する生地だが元の世界のワイシャツと変わりない袖だ。
ベストもジャケットもかなり細身でジャストフィット……これ以上太れねえ。

向こうの世界では、人は見た目が9割だとかいう本が有名だったが、第一印象に関しちゃ、そう思う。
俺に対して悔しそうな顔を向ける者と、惚けたような顔を向ける者、中には胸糞悪くなりそうな程厭らしい視線を向けてくる者もいるが、釣り合わないと嘲笑されるよりよっぽどマシだ。
見せつけるくらいが丁度いい。
仕事だと思えば、評価が高い分、気分も良い。厭らしい目で見られていても、だ。
なんせ、隣には上等な男がいる。

ちょっとルックスに自信があるくらいの野郎じゃ、たちまち霞む。

ねっとりとした視線を向けてくる男……十中八九貴族だろうな、ありゃ。
そいつに、オリバーが牽制の如く鋭い視線を投げかける。
辟易ろぐ相手は、顔を引き攣らせて二歩ほど後ろに下がった。

迫力満点だ、きっとオリバーも俺と同じで結構頑張って歩いてるんだろうな……そうは見えねえけど。
俺を見たオリバーは、柔らかな視線に変える。

後でめちゃくちゃ褒めてやりたい、そんな風に思いながらも、お目当ての店の扉を目指す。

早く店に入って隠しちまいたいようにも、態とゆっくり歩いて見せつけてやりたいようにも、思う。
どっちの感覚もが、交互に押し寄せてくる───ははっすげー贅沢だな。
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