異世界に召喚された猫かぶりなMR、ブチ切れて本性晒しましたがイケメン薬師に溺愛されています。

日夏

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本編

-88- 中層区と妖精

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着いた場所は、本当に帝都なのかと疑うような場所だった。
普段俺が見る機会すらなかった庶民の中層区域だ。
低層じゃないのか?と疑ったが、紛れもなく帝都の中層区域らしい。

一軒で一家族が住んでいるのでマシな方らしいのだ。
道もただの土で、並ぶ家も木造で、元の世界の長屋みたいな簡素な作りなのに、だ。
これで冬を越せるのか?と不安になる作りだった。

俺が思っていたよりもずっと貴族と平民との差は大きかった。
そんな場所に、いきなり箱馬車が2台も止まってみろ、周りの家々はびっくりして何事かと思うだろ?

最初は、貴族に何か不興をかったと思われたらしいので、しっかりと事情を俺が話しておいた。
まあ、本当のことは言えないので、薬師である父親の方に、同じく薬師のオリバーが見舞いを兼ねて訪ねてきた、という、それらしい理由を混ぜて話すことにした。
勿論最大限の猫を被って、だ。
医者が一緒だったのも良かったらしい。

オリバーはというと、特に場所は気にならないようだった。
オリバーが気にしていると言ったら、こんな場所で、あの薔薇や植物がどうやって育っているか、らしい。
お世辞にもぱっと見、土に栄養があるとも思えなかったからだ。

爺さんは医者をつれて家の中に入っていき、俺とオリバーはシリルに庭を案内してもらった。
ああ、このちっちゃな賢い少年は、シリルという名前らしい。

ふっくらとした頬をしているが、こんな家でちゃんと食えてるのだろうか?
薔薇より植物より、そんなことばっかり気になっちまう。

「シリル、ちゃんと食ってるのか?」
「うん、爺ちゃんが作ってくれる」
「そっか」

あの爺さんが作っているらしい。
住むところがあって、ちゃんと食べられてるなら“中層”なのだろう。
一歩踏み出すと同時、薔薇の強い香りと見事な肉厚な薔薇が広がった。

「は?」

びっくりした、マジで。
足元を見ると、土の色も違う。

試しに、一歩引くと、やはり全く香りはしなかった。
それどころか、薔薇なんて全く見えず、ただの雑草が周りの家と同じように広がってるだけだった。
薔薇の香りなんて一切しない。

再度、一歩踏み入れる。

やっぱり、薔薇が広がっているし、すげー濃厚な薔薇の香りだ。
薔薇以外にも色々植わってる。
野菜や果物の食べ物が殆どだが、薬草もある。
へえ、なんかで見た目も香りも色々遮断されてんのか、すげえな、魔法って。

「これは……一体……」

オリバーも驚いているようだ。
ってことは、珍しい魔法なのか?

「すげーな、魔法って。けど、外から丸見えだとこの状態は目立つし、盗まれちまう可能性もあるしな、いい判断だ」
「うん。そうした方が良いって言われてしてくれた」
「へえ、爺さんか?」
「ううん、あの子」

シリルが指さす方を目に向けると、ほうれん草の葉っぱの横からそっとこっちを見ている小さい子供がいた。
や、子供じゃねえな、ありゃ小人だ。
青白い顔してこちらを警戒しているっぽいが、赤毛で…うん、意外とイケメン君だ。
俺等よりは若いだろうが、二十歳はいってそうな見た目だ。
異世界ってほんとすげえなあ、小人までいるのか。

「へえー、そっか、こんにちはー。そんな奥にいないでくれよ。君がここを手伝ったんなら話が聞きたいし、俺たちは危害を加えるつもりもないよ」
「俺が見えるのか?」
「は?見えるのかって、そりゃ見えるだろ?俺等よりずっと小さいけど。なあ?」
「声まで?」

ん?何やら小せえ小人さんはかなり驚いているが、この感覚は覚えがある。
そっと、オリバーに目を向けると、オリバーはびっくりしたような顔で俺を見た後、セシルが指さす方に目を向け細める。
ああ、これは、見えてない上に聞こえてもいないらしい。

「あー……ってことは、君は妖精?」
「………そうだ」
「マジかー、妖精って色々いるもんなんだなあ」
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