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本編

-80- 三人揃って オリバー視点

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「折角来たんだし、興味があるなら見学でもしてく?うちの商会ほど大きいところは中々ないから、役に立つんじゃないかしら?」

ハンドクリームとリップクリームに関しての書類とサインのやり取りが終わり、少しだけ雑談が落ち着いたころでした。
コナーが余計なことを口にしてきました。
余計なことと思っているのは私だけで、アサヒにとっては興味のある嬉しいことなのでしょう。
目を丸くして驚いていますが、嬉しそうに口元が緩みました。

先ほどの書類のやり取りでは、私の友人であろうとも一歩も引かずに交渉をしてくれました。
書類にも全てしっかり目を通し、不足分についても指摘し、私が不利になるような条件は一切ないようにと気を配ってくれて。
交渉でコナーがたじろぐのを初めて目にしましたよ。
流石アサヒです。
アサヒがいなければ、私は、妥協していた部分が少なからずあったと思います。

「願ってもないけど…いいのか?」
「良いわよ?あなたに見られてまずいものなんかないもの。そのかわり、あなたの目で見て、何か改善した方が良いことがあったら遠慮なく教えて頂戴。それが対価ね」
「わかった」

私をよそに、話が二人だけでどんどん進んでいきます。
コナーがベルを鳴らすと、すぐに一人の商会員がやってきました。
女性なのは私とアサヒに考慮して、でしょうか。
そういった気配りは出来る癖に、なぜ私の執着に気を配ってはくれないのでしょうね。
この後は、この商会を見学するよりも街へデートに行きたいのですが。

「お呼びでしょうか」
「この子を見学させてあげてちょうだい。契約書も取引先の一覧も好きに見学させてあげて構わないわ」

この子って随分失礼な言い方かもしれないですが、アサヒのことは気に入ったのでしょう。
コナーは可愛いと思った人に対しては皆この子、という言い方をしますからね。
可愛くないわ、などと言いながらも、可愛いと思ったに違いありません。
それよりも、今の言い方だとアサヒが一人で見学に行くような言い方です。

「畏まりました」
「え、アサヒ一人で行くんですか?」
「そうだけど……え、お前も来んの?」

当然でしょう?
そう言いたかったのですが、アサヒもコナーもびっくりしています。

「あなたが一緒じゃ仕事にならないわよ、うちの商会員の邪魔する気?冗談でもやめてちょうだい!」
「酷い言い草ですね…アサヒ、危ないことはしないでくださいね」
「しないって」
「あなたも大概よ、物騒なこと言わないでちょうだい、失礼ねえ。
大丈夫よ、エマは私の秘書だけれど、物理的にも強いから安心して頂戴」

アサヒは線が細いですし、おいそれと戦闘態勢に入るなんてこと、コナーも想像できないのでしょう。
アサヒが私を守れるほどに戦える人間だとしても、それはそれ、これはこれ、です。
危ないことは極力避けて欲しい、それも、私の目の届かないところでは。
アサヒは私以上に巻き込まれ体質だと思うんですよ。
本人、全く気が付いていないようですが、なぜか向こうから寄ってきている気がするのです。
おはぎのこともそうですしね。
あんなのが、次から次へとほいほい出てきても困りますが。

「エマです。よろしくお願いいたします」
「アサヒ=ワグナーです。わがままを聞いてくださりありがとうございます。よろしくお願いします」
「そう畏まらずに、くだけた言葉で大丈夫ですわ。では、ご案内いたします」

ワグナーをさらりと口にしたアサヒは、照れてもおらず、しっかりと余所行きの顔で挨拶を告げています。
女性の方も、変な感情は抱いてなさそうですが、なぜアサヒを私から遠ざけるのでしょう。
アサヒも全く疑問に思っていないようですね、悔しいです。

「なら、お言葉に甘えて。ありがとう、エマさん。じゃ、行ってくるな?…なんだよ、この手。すぐ戻ってくるって」

なんとかわかってもらいたくてアサヒの腰をとると、私の手をアサヒが叩いてきました。
痛くもありませんので怒ってはいないようですが、呆れているかもしれません。


「学友なんだろ?俺がいたらしにくい話もあるだろ?」
「………」

そういう、配慮だったのですか?
ああ、だからコナーはアサヒを一度部屋から出したかったのかもしれません。
その意図をアサヒも酌んだのでしょう。

確かに、アサヒの前では話づらい事柄もあります、主に神器様の話や神殿の話等。
私はともかくお二人は忙しい人たちですから、いつまた三人揃うかはわかりません。
少々、いえ、かなりの未練がありますが、アサヒの腰から手を外しました。

アレックスと商会員の女性は私とアサヒのやり取りを微笑ましく見守っていますし、コナーは…思いきり変顔ですが。
アサヒは…怒ってはいなさそうですね、こんなに暑苦しい態度をとっても面倒に思っていないようです。
口では色々言ってきても、アサヒは優しい人です。

「きちんとお守りいたします」
「頼んだよ」

本当に何かあるようならアサヒはこの女性すらも守ろうと動くのでしょうが、言わなくていいことですね。
動けない人間だと見せていた方が良いこともあります。

「過保護ねえ。若いっていたって成人してるんでしょうから、少し自嘲しなさいよ」

扉が閉まると同時、コナーがうんざりしたように声に出してきます。
アサヒがびっくりしたような顔で振り向いてきたのが、締まる扉の奥に見えました。


「若いって、そこまで若くないつもりですが、初めて私から人を好きになったのですから執着しても仕方ないでしょう?」
「何言ってんの、それこそ当たり前じゃない。私たちもういい年よ」
「え?アサヒは私たちの一つ下ですよ?」
「はあ!?嘘でしょ?」
「27歳ですよ。アサヒは綺麗ですが、そこまで幼く見えないと思いますが」
「何言ってんの、あの艶肌で一個下ですって?あり得ないでしょ!年齢詐欺よ!」

私の感覚がおかしいのでしょうか?
確かにアサヒは色白ですがとても肌艶が良いですし、なんて言いますか、そう、キラキラしてるように見えはします。
でもそれは私がアサヒに惚れているから、キラキラ見えるのではないのでしょうか。
涼し気な目元と、長いまつ毛、黙っていると…というか、故意に礼儀正しくしていると美しくも妖艶な雰囲気があります。
色々と交渉事にも情事にも場慣れしているように思えましたし、年相応に見える…のは私だけでしょうか?

「神器様ってのは、多かれ少なかれ皆綺麗な存在と言われているからなあ。
レンがあけすけで幼く見えるから、アサヒが特別若いとは思えなかったが…言われてみれば、一個下にしては若く見える、か?」

アレックスも疑問形なので、年齢詐欺とまでは思えないようですね。

「あなたたちに聞いた私が馬鹿だったわ。で?あの子は、ああ、もうあの子なんて言えない年齢なのね……、まあいいわ、あの子は何を食べて塗ったらあんなふうな肌になるわけ?」
「何をって、私と同じものを食べて、私と同じ保湿剤、椿オイルを使ってますよ?
肌艶は…こちらに来てからの方が良くなった気がしますね、食生活は良くなったと言っていましたから」
「本当に?あなたと同じものを?あなたかなりの偏食じゃない、本当に同じものを食べてるって言える?」
「…そう言われてしまうと、頷けませんが」

「レンも、なんだが……食べ物とかのせいではなく、オリバーといるからじゃないのか?」
「え?」
「自分と破局した相手が恋人が出来て綺麗になった、みたいなことをコナーが前に言っていただろ?
そういうあれじゃないのか?」

恋する人は美しい…というあのジンクスですか?
そんなジンクス、私は信じられませんが。
恋する人は恐ろしい…と感じたことなら何度もありますよ、ええ、それは何度も。
アサヒに限っては、可愛いだけですが。
そう、アサヒは、とても可愛い。

「…それだけじゃないと思うわ」

げんなりとつぶやくコナーは、納得がいかない様子でそっぽを向いてきました。
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