異世界に召喚された猫かぶりなMR、ブチ切れて本性晒しましたがイケメン薬師に溺愛されています。

日夏

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本編

-70- ピアスとブローチ オリバー視点

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ダイニングか寝室か…と悩みましたが、なるべく自然光の明るいところで見たい、とアサヒが言うので、タイラーの勧めでコンサバトリーに向かうことにしました。
スーツを合わせるときには、その隣にある談話室へと移動することで話がまとまりました。
タイラーは、なんというか…うまく誘導された気がしますが、その選択は間違っていない、とも思いました。
寝室はちょっと…とアサヒが濁しながら言ってきた時には、自分の失言に少しだけ後悔しました。
後のことを考えると感極まって籠ってしまいそうですし、毎晩一緒に寝ている部屋は特別感がなかったですね。

コンサバトリーに到着し、並んでソファに腰を下ろし、それぞれの箱を目の前に置きました。
ここは気を利かせてくれたようで、私とアサヒと二人きりの空間です。

ただ開けるよりは、お互いに渡し合ってから開けたい、そう思いました。
先ほどは場所の選択を間違えてしまったので、今度こそは、と。
どうやら、私の選択は今度は正しかったようです。

「こちらがアサヒの色、クリフォード子爵が用意したピアスとブローチです。
そして、こちらが、私の色、ワグナー家が用意したピアスとブローチになります。
一緒に届きましたが、互いに渡し合ってから開けてみませんか?」
「もちろん。…てか、ほんと、何も返せてないから申し訳ないんだけど」
「養子のことは私の都合でもありますし、ピアスとブローチは母上が用意したようなものですのであまり気にしないで」
「あー…でもさ」
「なら、クリフォード子爵が望んでいるような商品でも一緒に研究してみましょうか」
「どんな?」
「毛生え薬です」
「毛生え薬…わかった。考えてみる」

半分程冗談だったのですが、アサヒは神妙に頷いてきました。年々寂しくなっていく髪に悩んでいるのは、母上を通して知っていましたが、病気ではなく年と遺伝的なものなのです。
女性の皺や染みと同じこと。
現在の毛生え薬は、かなり効果の怪しいものしか出回っていません。
でもそうですね、もし、毛生え薬がもし出来たら、一定層の客が見込めるはずですね。
アサヒと一緒に研究するならば、私は楽しいと思えるのですが。
話がそれてしまいました。
それより、ええ、今はピアスとブローチです。

「では、アサヒ、これは私からあなたへ」
「ありがとう」

ピアスとブローチの箱を受け取るアサヒは、本当に嬉しそうな顔を私に見せてくれました。
一度箱をじっと見つめて、そっとテーブルに置き、それから前にある箱を手に私へと差し出してきました。

「俺から、オリバーに」
「ありがとうございます」

アサヒの声は、少し震えていました。言葉は普段より少ないように感じます。
ですが、その声、その表情、その視線、それだけで、強く思いが伝わってきます。本当に、私は幸せものですね。

「交互に見てみましょうか。アサヒから先に箱を開けてください。私も加工されたのを見るのは初めてです」
「わかった。じゃあ、開けるぞ」
「はい」

アサヒの細く綺麗な指で、そっとリボンと包みが取られて、私の髪色と同じ水色のケースが顔を出しました。
その指でゆっくりと蓋をあけ、中のブローチとピアスが現れた途端、アサヒはびっくりしたように目を大きく見開いて、それから、本当に、本当に嬉しそうな笑顔を見せてくれました。
ああ、良かった、気に入ってくれたようです。

「すげー綺麗だ。お前の目の色そっくりだ。これって」
「琥珀ですね。気に入って貰えて良かった」

正直、ダイヤでないのはどうか、とも思いましたが、私の目の色ならば、カラーダイヤより琥珀だ、と母上が即決してしまった様なのです。
でも、これだけ喜んで貰えたなら、母上に感謝せねばなりませんね。

「あ、琥珀なら、あんまり太陽光に当てない方が良いのか?」
「通常はそうですが、この琥珀は大丈夫ですよ。痛まないよう魔法が効いてますから。太陽光にも水にも温度にも強いので、気にせず外でも家でも、毎日つけてください」
「わかった。…てか、ピアスの穴、開けてない」

心配そうに言うアサヒにすぐさま伝えると、あからさまにほっと溜息をつくのがなんとも可愛らしい。
それから眉を少し下げて、申し訳なさそうに言うのですが、当然です。

「ピアスの穴が開いていたら私がびっくりしてしまいます」
「は?」
「ピアスの穴だけ開いていてピアスがない人がいたら、結婚したことがある、ということですから」
「え?互いの瞳の色のをつけるとは聞いたけど、ファッションでは付けないのか?」
「ファッションでつけるのはイヤリングやイヤーフックですね」
「?ピアスの穴をあけるのにイヤリングになるのか?
…俺のいた元の世界では、ピアスはファッション感覚でつけてたぞ」

どうやら、ピアスそのものがこちらとは違うようですね。

「アサヒのいた場所では魔法はなかったのでしょう?こちらの世界のピアスは、最初にピアスを耳にあてて、魔力を流し込むことで術が発動して穴が開くんです。外す時は魔力を流しながら抜き取ります。最初はコツが要るようですが慣れたらさほど難しくは…というか、はずさずずっとしていてくれていいですからね?そういう方も多いのですから」
「これは、最初に自分でやるのか?」
「自分でやるのが一般的です。なぜなら最初に魔力を通して開けたものしかとることが出来ないからです。…私が互いに開けたいといったら、アサヒにとっては重いですか?」
「いや、そんなことねーよ。いいよ、俺のはオリバーが開けてくれ」

私の説明が悪かったのでしょうか?
アサヒが、まるで扉や窓を開けてほしいとでもいうような、軽い口調で言ってきます。
ちゃんと伝わっていないかもしれないですね、あとで言われて思っていたのと違う、と言われてしまうとどうにもならない代物です。

学生時代、うっかり婚約の状態で互いに開け合って、片方の家が没落し、その後すぐに婚約解消となり、とんでもないことになった方々がいましたね。
あれ程見せつけるようにべったりと寄り添っていたのにも関わらず、とたん暴言の罵り合い。あれは、酷い出来事でした。後々かなり問題になりましたね。

「アサヒ、簡単に言ってますが、本当にいいんですか?そうすると私しか外せないんですよ?」
「だって、ずっとつけてても大丈夫なんだろ?ならいいじゃん、問題ねーよ」
「例えばですが、アサヒがピアスをしたまま、出先で私が事故に合い亡くなったりしたら、一生取れませんよ?」
「それは構わないけど、お前ひとりでどっか外に行くとかあるのか?」
「…ないですね」
「なら怖い例えやめてくれよ。あー…もし仮に万が一にでもそんなことがあったとしても、取れなくても俺はなんも困らないから大丈夫だ。それより、お前は良いのか、それで」
「ええ。本望です」
「わかった。じゃあ、先に俺のを開けてくれ。
それから、一緒にオリバーのピアスとブローチを見よう」

アサヒは、耳を差し出すようにして私に綺麗な首筋を晒してきました。
時折無防備な仕草は、なんなんでしょうね…もう、誘ってるのかと思ってしまいますが、それをやってしまったら流石に私も嫌われてしまうでしょう。
理性を総動員して、手元に集中することにしましょう。

ほんの少しでも手元が狂ってしまったら修正なんてききません。
付け方は知っていますが、付けたことなんて勿論初めてなのですから。
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