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本編

-57- 兎の白ワイン煮込み

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ソフィアの凄いところは、何も聞いていなくてもこうやってご馳走が作れるところだ。
普段だって美味しいけれども、ちょっと特別感を出すところが素晴らしいの一言だ。
今夜は、ほうれん草のキッシュ、かぼちゃのグラタン、メインは兎の白ワイン煮込みだ。
すげー美味い!

「ソフィア、今日もすげー美味い!」
『ん。美味しい』
「んー!とっても美味しい」

「まあまあ、嬉しいこと。たくさん召し上がってくださいね」

今日はアレックス様がいるので、ソフィアとタイラーは流石に一緒に食べるわけにいかないらしい。
別に大丈夫だと思うが、気にして落ち着いて食べられない方が問題だもんな、美味しく食べられる方が良いに決まってる。

白ワイン煮も、オリバーのためを思ってか、ワインの香りは弱めだ。
味付けはベースのトマトの甘みと酸味が絶妙で、肉もほろっと柔らかく、この短時間なのにしっかりと味がしみ込んでる。こっちの世界では、兎肉は鳥と同じくらい庶民的なんだそうだ。
鳥もデカいらしいが、兎もめちゃくちゃデカいんだぜ?
両腕抱えるくらいあるらしい。
そんなにデカいと可愛くはないな。

「なんか、ここにきてすげー食べてるから太りそうだ」

以前の食生活はけして良いものじゃなかった。
むしろ、かなり偏っていたのでバランス的には今の方が良いだろうが、食べ過ぎな気もする。

「アサヒはもう少し太っても全然大丈夫ですよ、むしろ今が軽すぎます」
『大丈夫。おはぎ、訓練がんばる』
「あー、だな!それがいーわ、そうする」
「…あまり無理しないでくださいね」
「大丈夫だって」

食べても動いて消費すればいっか。
朝も夜も激しく運動すりゃいい。
夜は、いかがわしい運動だが。

「僕もダンスもだけれど、殺陣とカンフーもどうにか続けたいなあ」
「え、蓮君、殺陣だけじゃなくてカンフーもすんの?」

蓮君が俺とおはぎの言葉に、羨ましそうに呟く。
殺陣は、役者だっつーんだからまだわかる。
が、カンフー。
アチョーってやつだろ?マジか。
カンフーっていうと、結構本格的じゃねえか。

「うん。映画が恰好良くて、憧れて始めてそれなりに形になったんだけど。どうにかこっちで実践的にならないかなあ」
「実践的じゃなくてもいいんじゃないか?あんまり危ないことはしないで欲しいんだが」

アレックス様がそっと釘をさす。
わかる。
こんな細い身体で、実践的なことなんてしなくていいんじゃないかと俺すらも思う。
だが、俺と同じ立場だからこそ、実践的に使えるようになりたいっていう、蓮君の思いもわかる。

「でも、いざという時に僕がアレックスの弱点になったら困るでしょう?
レナードだったら体術も剣も得意そうだしちゃんと実践的なこと教えてくれそうだけれど、頼んでみてもいい?」
「セオにしろ、俺からも頼んでやる」

レナードとセオ、そういう使用人がいるんだろう。
セオにしろっておっしゃったアレックス様に、蓮君はちょっと納得がいかない顔だ。
蓮君的には、レナードってやつの方がいいらしいが、アレックス様的にはセオってやつの方がいい、と。
レナードってやつが蓮君に惚れてるとか?

「でも、セオだと優しすぎるから、実践的なこと教えてくれるかな?
必要ありませんーレン様には俺らがいるでしょーって言われそう」

蓮君の良い方に思わず笑ってしまう。
面白い使用人のようだ。
アレックス様も現に、軽く吹き出し笑っている。

「ははっ言うだろうな。だが、剣技はレナードの方が上だが、体術にしたらセオの方が上だぞ?
向こうの剣がどんなものか分からないが、レンの細腕じゃこっちの剣は重すぎて振れないと思うし腕を痛める。
それに、うちの領内では長さのある剣は決まった人間しか持ち歩けない、警備隊と貴族の護衛のみだ。
普段持てないのだから、実践的に使えるようになりたいなら、短剣のほうが良いと思う。
短剣の使い方が上手いのはセオの方だ」
「そっか、じゃあ、セオにお願いしてみようかな」

『レン、転移魔法、合わせて使う、強くなれる』
「ん?」
『転移で敵の背後とる。距離とる、詰める。転移魔法、うまく使う。レン、とっても強くなる』

おはぎの言葉に、蓮君とアレックス様がびっくりしておはぎを見る。
どうでもいいが、食べながら話すのはどうなんだ。
よくもまあ、器用にもぐもぐかぼちゃのグラタンを目いっぱい口に詰め込みながら喋れるなあ。
かぼちゃ気に入ったんだな、クッキーもかぼちゃを気に入っていたもんな。

「そっか…そういう使い方も出来るんだ。ありがとう、おはぎ」
『ん』
「俺もしたことなかった手だ。次からは使えるな」
「それにしても、おはぎは口にたくさん入ってても喋れるんだねえ」
「俺も思った。かぼちゃでめちゃくちゃほっぺが膨らんでるじゃねえか、あんま詰め込むとのど詰まるぞ」

俺と同じ疑問を蓮君が口にする。
答えはオリバーから返ってきた。

「それは念話だからですよ」
「は?念話?」
「ええ、声帯じゃなくて、念を飛ばしているんですよ」
「えー?けど、ちゃんとおはぎのほうから聞こえるぞ?」
「おはぎが念を飛ばしてるから、そう聞こえるんですよ」
「ふーん」

って言われてもなあ。
普通にしゃべってるように聞こえる。

「あ、アサヒ、信じてないでしょう?本当ですよ」
「わかったわかった」

オリバーは、しゅんとしながら、キッシュを口に運ぶ。
兎のワイン煮は少ししか食べてないが、キッシュは二切れ目だ。
ワイン煮、この味でもまだ好まないのか?
まあ、たまごだしな、単にキッシュの方が好きだってだけかもしれない。
俺はこの兎の白ワイン煮込みが一番気に入った。

「おはぎはかぼちゃばかり食べ過ぎです」

オリバーが納得いかないままおはぎに注意すると、おはぎがオリバーを凄い目で見た。
や、おはぎのことは言えないくらいには、おまえも偏ってるぞ。
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