異世界に召喚された猫かぶりなMR、ブチ切れて本性晒しましたがイケメン薬師に溺愛されています。

日夏

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本編

-49- 安心の保険

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おはぎに続いてキッチンに入る。
厨房じゃなくて、キッチンだ。
ソフィアは、キッチンキッチン言ってるから、俺もここをキッチンと呼んでいる。
いつも使う小さめのダイニング続きになってるここは、厨房とは別にある。使用人が使ってたにしちゃセンスが良くて綺麗なんだよなあ、ここ。
ステンレス製じゃなくて、木製のものが目立つし、棚も引き出しも木製で、木目が美しい。
装飾はややシンプルであるものの、足や取っ手の曲線が美しい。

魔法具製品なんかは金属製が多いんだが、ほっこりした感じがある。
殺伐としていないところがいいところだな。

手を浄化し、右端から二番目の上戸棚から、正方形のクッキー缶を取り出す。
花柄の綺麗な模様が描かれていている缶だ。
アイランド型の作業台に缶を置いて、皿を取り出しながら、蓮君との会話も続ける。

「今、大皿出すから、蓮君はその皿に五人分のクッキーを並べてくれ」
「うん……わあ、可愛い!それにすごく美味しそう」

蓮君が、両手を素早く浄化して、クッキー缶の蓋をあける。
この中のクッキーに関しては、ソフィアの手作りだ。
絞り出しや、輪切りと種類によって形もそれぞれだ。
絞り出しのものは、中央にちょこんとジャムがのっているものもあれば、茶葉が練り込んであるものもある。
色合いがきれいな、人参や、かぼちゃ、ほうれん草の野菜のクッキーもある。
輪切りの物は、砕かれたナッツが入っているものや、乾燥フルーツが練り込んである。
大きさはどれも、一口でいけるほどの小さいクッキーだ。

本来は、夕食後のお茶の時に、みんなで二~三枚ずつくらい摘んでるものだ。
デザートまで食べたのに、夕食後のお茶で菓子を食うのか?って思ったんだが、そう珍しいことじゃなく一般的なことらしい。
貴族に限り、なんだろうが、オリバーの実家でもこのスタイルだったようだ。

『このクッキー缶に入れたら、日持ちするんですよ。だから切らさずそれなりに常備してますから、もし、何かあったらここから出して下さいね』
そんなことをソフィアは言っていた。
何かあったら、なんて随分物騒だななんて思ったが、物騒な話じゃなくて、こういうときのことをソフィアは言ったんだろう。

『ソフィアの手作り、どれも美味しい!』
「あ、おはぎー、盗み食いすんなよ」

カップを取り出そうとして…五客合わせるべきか悩んだが、おはぎはいつも自分が使っている木製マグカップをトレイにのせてきた。
そうか、まあいいか。その肉球の手じゃそのマグカップが使いやすいだろうしな。

あ、なんか、口がもごもごしてる。
盗み食いしやがったな。
疑いの視線を向けると、もごもごしていた口が急に動かなくなり、ごきゅんと飲み込む姿が目に入った。
『アサヒ、アレックスくるとき、タイラーいつもこれ使う』
まんまるな目が少し泳いでる。気をそらす作戦か…まあ、一枚くらい許してのってやろう。

「ありがとな、おはぎ。…うわーなんか高そうだな」
ピンク色の薔薇と金色の曲線が描かれているティーカップだ。
そろいのソーサーとともに、飲み口への曲線が美しく、繊細な作りをしている。

『オリバーは、コレ。アサヒとレンのも、おはぎが選ぶ』
こちらはグリーンが描かれているティーカップもとても上品だ。
これもかなりいいものなんだろう。

一客ごとに全て違うティーカップでもいいのか…なるほどなあ。
なんかつい同じティーカップでそろえるべきだと思っちまったが、一客一客素晴らしいティーカップが眠っているようだ。

『アサヒのコレ、レンのコレ』
「さんきゅ……」

蓮君のは、クローバーの花かな、や、うっすらピンク色の花をしているからこっちの世界では違うものなのかもしれない。
可愛い絵柄でありながら、上品な形で飲み口が緩やかなスカラップだ。
俺のは、いちご柄でかなり可愛い。
元の世界でも有名なブランドの苺と花柄のティーカップがあったが、これはそれより甘く可愛らしい。
広い飲み口とソーサーの外側に、真っ赤な苺と白い花とが細やかに描かれているものだ。
や、いいんだけど、なんでもさ。
けど、なんで俺がこんな可愛いいちご柄なんだ?
おはぎのチョイスはよくわかんねえなあ。

『アサヒ、水出す。
「おー。蓮君は、帝都じゃなくて、侯爵領にいんの?」

ケトルに手から水を出しながら蓮君に声をかける。
蓮君は、真剣に一枚一枚クッキーを並べていた。

「うん、そう。起きたら一日経っててびっくりした」
「けど、ぱっとこっちに来たよな?あれは?」

そういや、蓮君はコートも羽織っていないな、と思う。
本当に、ちょっとそこまで、な感じだ。

「うん、アレックスも、勿論僕もなんだけれど、属性が闇属性でね?
闇属性は、空間と時間を操作できる魔法なんだって。
だから、転移魔法で来たんだ。
僕はまだ、アレックスのいるところ限定でしか転移できないんだけれど、アレックスは、毎日領と仕事場、宮廷魔法士で魔法省に勤めてるんだ、行き来してるよ」
「へー、すげー便利な魔法じゃん。時間を操作って、過去に戻ったりできんの?」

元の世界でいったら、有名なアニメの、あの猫型ロボットの扉もマシーンもいらねえじゃん。
すげー便利だなあ。

「ううん、時間の干渉は広範囲には出来ないみたい。
対象物が必要なんだって。
例えばカップを割っちゃったら割る前にもどすとか、お茶をこぼしちゃったらこぼす前にもどすとか、そういうのは簡単に出来るよ」
「お、いいね!じゃあ、もしもの時も安心だ」

俺は高そうなカップを眺めながら言葉をかけた。
万が一手元が狂ったとしても、今日は100パーセント補償が効く強力な保険がついているようだ。

「うん、任せて。…でも、闇属性で魔力が高い人ってものすごく珍しいみたいでね?それこそ、帝国には殆ど居ないくらいに。それに、属性の相性が同属性しかないんだって。
加えて、帝国唯一のアリアナ教では、光は善、闇は悪なんだ。
だから、アレックスは今までずっと一人だったんだって」
「え、マジか。属性の相性の良し悪しは聞いたが、光は光、闇は闇ってだけで、教会云々は聞いてなかったわ。
悪い、不謹慎なこと言っちまったな」
「ううん、いいんだ。闇だって言っても、旭さん、便利でいいねって言ってくれたでしょ?
領民の人たちもね、殆ど偏見のない人が多いんだ。だから、アレックスは領では暮らしやすいみたい。
僕もみんな親切だし、豊かで暮らしやすいところだと思ってる。
でも、アリアナ教の教えが強い場所、帝都、や、一部の地域では、とても生きづらい。
初めて両思いになった人から、『お前は闇属性だから』って真っ青な顔でキスを拒まれたら…辛いよね」
「それは…辛いな」

「キスくらいじゃどうとなることじゃないんだけど、そのくらい闇属性ってだけで拒まれてきたみたい。
だから、アレックスは侯爵様だけど、結婚してなかったし、婚約者どころか恋人もいなかったんだって。
僕にとっては幸運だったけどね」

アレックスはとてもかっこいいから…と、頬を染めて言う。
かっこいい…は、確かにかっこいいのかもしれないが、軽薄そうというかキツそうというか、見た目が鋭くて冷たそうな印象がある。
実際話したら違ったが、なんつーか……ああ、好みじゃない、ってことだ、それだ。
俺は、どっちかというと男らしくても、もう少し見た目は甘めな方が……そういう意味では、オリバーはど真ん中なんだよなあ。
まあ、見た目だけじゃないんだけれど。

「アレックス様にとっても、蓮君は幸運だって思うよ」
「うん。そうなれるよう頑張りたい」

や、もうなってるはずだ。謙遜じゃなさそうだが、蓮君は、ちょっとだけ自己評価が低いな。
綺麗に並べたクッキーに、満足気に笑みを浮かべている。お、良いんじゃねえか?侯爵様にお出ししても大丈夫なくらいには洒落て良い感じだ。

ティーポットにおはぎが選んだ茶葉を入れる。たぶん、これくらい…のはずだ。
いつもと人数は変わってないから助かった。
ケトルにたっぷりと入れた水に、おはぎが小枝を振った。
おー、すげー、一瞬で湯が沸いた!
おはぎは、というと、ソフィア手製のいちごジャムを自分のマグカップに入れている。…おい、心無しか多くねえ?

お茶する度、おはぎは、いちごジャムを入れて、そこに、お湯半分、ミルク半分をまぜまぜして出来上がりってのを美味しそうに飲んでる。
紅茶はタイラーだが、おはぎの飲み物はソフィアがいつも作ってる。今日は俺とおはぎとの合作だ。

湯をティーポットに注ぐと、ティーポット目がけて、おはぎが小枝を振る。
今のはなんだ?とおはぎに目を向ける。

『ん。美味しくなる魔法』

美味しくなる魔法か。

ティーパックなんて楽なもんはないから、不安だったが、美味しくなる魔法がかかったんなら、安心だな。
味の保険も手に入れて、俺は足取り軽くコンサバトリーを目指した。



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