48 / 196
本編
-48- おめでとうの言葉
しおりを挟む
「…お茶、入れてきます」
身の置きどころがなくなって、俺は早々と退散を選んだ。
アレックス様にすげーな、といわれても、俺の何が凄いんだかわからない。
その直後に、『ん。アサヒは凄い!』というおはぎとはぜってー意味が違うだろうし、それに続いて、オリバーの言う『ええ、アサヒは凄いんですよ!』っていうのも、それもどう考えたって意味が違う気がする。
『おはぎも手伝う』
「ありがとなーおはぎー」
おはぎは可愛い上に頼りになるな。
「私も手伝いますよ」
にこやかにオリバーのやつがとんでもないことを言い出した。
俺はオリバーがお茶を入れるところは見たことがない。
茶どころかタイラーやソフィアの何かを手伝うってところも見たことがない。
そういうふうに育ったんだろうし、それについてはなんのとやかくも言わないが。
「お前はいいよ、アレックス様といてくれよ」
「おはぎはよくて私は駄目なんですか?」
駄目だろうが!
絶対、後ろからハグだとかして俺の邪魔するに決まってんだ。
さっきは出来ませんでしたから…とかいわれて唇にキスされてみろ。
そんなんされたら、俺はなんだかんだでぜってー流される。
普段べたべたちゅっちゅすんのは全然いいけど、今は駄目だろ。
「お前ぜってー邪魔すんじゃん。おとなしく待っててくれよ、頼むから」
「…わかりました」
「はははっ」
がっくりとうなだれるオリバーと、真っ赤んなってるだろう俺を見てアレックス様が再度面白そうに笑い声をあげる。
きつそうに見えて、意外と笑い上戸なんだな。
「僕も手伝うよ」
蓮君がにこやかにいう。
うん、彼は間違っても邪魔はしない。
が……俺は、ちらりとアレックス様を伺う。
こんなに大切にしてるんなら、蓮君は、侯爵夫人になるかもしれない。
そんな子を手伝いにやっていいものか……と思っていると、アレックス様が頷かれる。どうやらいいらしい。
「じゃあお願いしようかな」
「うん。アレックス、行ってくるね?」
「ああ、行っておいで」
まあ俺も正直蓮君とゆっくり話す時間が欲しかったから嬉しい。
おはぎが先導してくれるようだ。
歩くたびに、ゆらゆらとしっぽが揺れて、お尻が右に左にと、ふりふりと揺れる。
後ろ姿も可愛いな。
「おはぎは後ろ姿も可愛いんだね」
「俺も今同じこと思った」
「旭さん…ありがとう」
「ん?」
コンサバトリーの扉を離れ少ししたところで、隣を歩いていた蓮君から声がかかる。
蓮君は、少し目を伏せて困ったような、なんとも言えない表情で、微笑んでいる。
泣きたいのをこらえて笑っているような表情だ。
え、どうした?泣かないでくれよ?泣かしたら絶対アレックス様に怒られる!
それに、なにがありがとうなんだ?
「すごく心配してくれたって言ってたから」
「あー。けど、それは、俺が勝手に心配しただけだから」
「うん。でもありがとう」
「うん、蓮君が幸せそうで良かったよ。大切にしてもらえてるんだな」
「うん。旭さんも。…旭さん、貞操具、取れてるよね?」
「あー、あれな。具体的にどうやったかはちゃんと聞いてねーんだけど、寝てる間にオリバーが外してくれたらしい。
そのようすじゃ蓮君も外れてるんだろ?」
「うん。アレックスが外してくれたんだ」
あんなものずっとしてていいわけがないし、俺はともかく、こんな美人がしてたって思うと、今更ながらかなり不憫な気がしてきた。
「旭さんって、もとから男性が好きな人だった?」
「そー、恋人と別れて云たら言ったけど、男だった。…蓮君は?」
蓮君に言われてから気が付いた。
俺は元から恋愛対象は男だったが、蓮君はどうだったんだ?
渚はまだちょっとわからないが、愛斗は恋愛対象が男だろう。そういう感は何となく働く。
けど、蓮君はちょっとわかりづらい。
どっちもそうだと言われればそんな気もするし、どっちも違うと言われれば、そんな気もする。
「うん、僕もね、恋愛対象は男の人なんだ。でも、僕は今まで恋人はいなかったし、アレックスとが初めてで。出会ってこんなにすぐに好きになっちゃうなんて思わなかった。旭さん、僕ね、皆が居なくなって、凄く心細くて。今まで頑張って来た事もなんだったんだって思って。元の世界に帰してよーって泣きわめいちゃった」
「蓮君…」
似たり寄ったりの状況だったんだろう。あんな状態なら、しっかりしていた蓮君ですら取り乱すことだ。
「でもね、アレックスのことを好きになったから、例え、元の世界には帰ることが出来たとしても帰らない。この人と生きていこうって思ってるよ。向こうの世界では、きっと心配をかけちゃってるから、元気でいるってことだけでも伝えたいのが本音だけどね。
今までやってきた俳優もね、ちゃんと役にたつんだなって。必要な時には全力で演じるよ。
旭さんは、薬の調合も鑑定も出来るし、魔力も三属性あるんでしょう?精神面だけじゃなくて能力面でもオリバーさんの力になってるんだと思うんだけど、僕も、僕のやり方でアレックスの力になろうって、そう思うんだ」
神器だからじゃない。人として、だ。
もちろん、魔力の譲渡は相手の力になってるんだろうし、子供を産むことが出来るって意味でも必要とされてるんだとは思う。
頬を染めて話す彼は、とても綺麗に俺の目に映った。や、元から美人すぎるんだが、そういう綺麗さじゃなくて、内面からの。恋する女性は綺麗だ、とか言われる、アレだ。恋する男も綺麗になれるもんなんだな。
「なんていうか、他の神器様ってのがどうだかわからないけど、俺らは元々恵まれた環境にいたわけでさ。向こうにずっと居たとしても、それなりに仕事してそれなりに暮らしてたと思うんだよな」
「うん、そうだね」
「けどさ、それより、絶対幸せになってやろうって感じるよ。向こうにあのままいたら、結婚は出来なかっただろうし、今思えば、ろくな恋愛してこなかったしな」
「旭さんもオリバーさんと結婚するんだよね?」
「うん。蓮君もアレックス様と結婚すんだろ?」
「うん」
「「おめでとう」」
おめでとうの言葉が二人同時に重なり、俺らは顔を見合わせて、思わず笑顔になる。蓮君は、照れくさそうに笑ってくる。俺も、頬が熱い。
こういうことを、共に言い合って心から祝福できるのって、すでに俺ら幸せ、なんだろうな。
身の置きどころがなくなって、俺は早々と退散を選んだ。
アレックス様にすげーな、といわれても、俺の何が凄いんだかわからない。
その直後に、『ん。アサヒは凄い!』というおはぎとはぜってー意味が違うだろうし、それに続いて、オリバーの言う『ええ、アサヒは凄いんですよ!』っていうのも、それもどう考えたって意味が違う気がする。
『おはぎも手伝う』
「ありがとなーおはぎー」
おはぎは可愛い上に頼りになるな。
「私も手伝いますよ」
にこやかにオリバーのやつがとんでもないことを言い出した。
俺はオリバーがお茶を入れるところは見たことがない。
茶どころかタイラーやソフィアの何かを手伝うってところも見たことがない。
そういうふうに育ったんだろうし、それについてはなんのとやかくも言わないが。
「お前はいいよ、アレックス様といてくれよ」
「おはぎはよくて私は駄目なんですか?」
駄目だろうが!
絶対、後ろからハグだとかして俺の邪魔するに決まってんだ。
さっきは出来ませんでしたから…とかいわれて唇にキスされてみろ。
そんなんされたら、俺はなんだかんだでぜってー流される。
普段べたべたちゅっちゅすんのは全然いいけど、今は駄目だろ。
「お前ぜってー邪魔すんじゃん。おとなしく待っててくれよ、頼むから」
「…わかりました」
「はははっ」
がっくりとうなだれるオリバーと、真っ赤んなってるだろう俺を見てアレックス様が再度面白そうに笑い声をあげる。
きつそうに見えて、意外と笑い上戸なんだな。
「僕も手伝うよ」
蓮君がにこやかにいう。
うん、彼は間違っても邪魔はしない。
が……俺は、ちらりとアレックス様を伺う。
こんなに大切にしてるんなら、蓮君は、侯爵夫人になるかもしれない。
そんな子を手伝いにやっていいものか……と思っていると、アレックス様が頷かれる。どうやらいいらしい。
「じゃあお願いしようかな」
「うん。アレックス、行ってくるね?」
「ああ、行っておいで」
まあ俺も正直蓮君とゆっくり話す時間が欲しかったから嬉しい。
おはぎが先導してくれるようだ。
歩くたびに、ゆらゆらとしっぽが揺れて、お尻が右に左にと、ふりふりと揺れる。
後ろ姿も可愛いな。
「おはぎは後ろ姿も可愛いんだね」
「俺も今同じこと思った」
「旭さん…ありがとう」
「ん?」
コンサバトリーの扉を離れ少ししたところで、隣を歩いていた蓮君から声がかかる。
蓮君は、少し目を伏せて困ったような、なんとも言えない表情で、微笑んでいる。
泣きたいのをこらえて笑っているような表情だ。
え、どうした?泣かないでくれよ?泣かしたら絶対アレックス様に怒られる!
それに、なにがありがとうなんだ?
「すごく心配してくれたって言ってたから」
「あー。けど、それは、俺が勝手に心配しただけだから」
「うん。でもありがとう」
「うん、蓮君が幸せそうで良かったよ。大切にしてもらえてるんだな」
「うん。旭さんも。…旭さん、貞操具、取れてるよね?」
「あー、あれな。具体的にどうやったかはちゃんと聞いてねーんだけど、寝てる間にオリバーが外してくれたらしい。
そのようすじゃ蓮君も外れてるんだろ?」
「うん。アレックスが外してくれたんだ」
あんなものずっとしてていいわけがないし、俺はともかく、こんな美人がしてたって思うと、今更ながらかなり不憫な気がしてきた。
「旭さんって、もとから男性が好きな人だった?」
「そー、恋人と別れて云たら言ったけど、男だった。…蓮君は?」
蓮君に言われてから気が付いた。
俺は元から恋愛対象は男だったが、蓮君はどうだったんだ?
渚はまだちょっとわからないが、愛斗は恋愛対象が男だろう。そういう感は何となく働く。
けど、蓮君はちょっとわかりづらい。
どっちもそうだと言われればそんな気もするし、どっちも違うと言われれば、そんな気もする。
「うん、僕もね、恋愛対象は男の人なんだ。でも、僕は今まで恋人はいなかったし、アレックスとが初めてで。出会ってこんなにすぐに好きになっちゃうなんて思わなかった。旭さん、僕ね、皆が居なくなって、凄く心細くて。今まで頑張って来た事もなんだったんだって思って。元の世界に帰してよーって泣きわめいちゃった」
「蓮君…」
似たり寄ったりの状況だったんだろう。あんな状態なら、しっかりしていた蓮君ですら取り乱すことだ。
「でもね、アレックスのことを好きになったから、例え、元の世界には帰ることが出来たとしても帰らない。この人と生きていこうって思ってるよ。向こうの世界では、きっと心配をかけちゃってるから、元気でいるってことだけでも伝えたいのが本音だけどね。
今までやってきた俳優もね、ちゃんと役にたつんだなって。必要な時には全力で演じるよ。
旭さんは、薬の調合も鑑定も出来るし、魔力も三属性あるんでしょう?精神面だけじゃなくて能力面でもオリバーさんの力になってるんだと思うんだけど、僕も、僕のやり方でアレックスの力になろうって、そう思うんだ」
神器だからじゃない。人として、だ。
もちろん、魔力の譲渡は相手の力になってるんだろうし、子供を産むことが出来るって意味でも必要とされてるんだとは思う。
頬を染めて話す彼は、とても綺麗に俺の目に映った。や、元から美人すぎるんだが、そういう綺麗さじゃなくて、内面からの。恋する女性は綺麗だ、とか言われる、アレだ。恋する男も綺麗になれるもんなんだな。
「なんていうか、他の神器様ってのがどうだかわからないけど、俺らは元々恵まれた環境にいたわけでさ。向こうにずっと居たとしても、それなりに仕事してそれなりに暮らしてたと思うんだよな」
「うん、そうだね」
「けどさ、それより、絶対幸せになってやろうって感じるよ。向こうにあのままいたら、結婚は出来なかっただろうし、今思えば、ろくな恋愛してこなかったしな」
「旭さんもオリバーさんと結婚するんだよね?」
「うん。蓮君もアレックス様と結婚すんだろ?」
「うん」
「「おめでとう」」
おめでとうの言葉が二人同時に重なり、俺らは顔を見合わせて、思わず笑顔になる。蓮君は、照れくさそうに笑ってくる。俺も、頬が熱い。
こういうことを、共に言い合って心から祝福できるのって、すでに俺ら幸せ、なんだろうな。
53
お気に入りに追加
1,017
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?


王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる