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本編

-39- 猫の手は借りられる

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「今朝はいかがでしたか?」

執務室に入ると、さっそくタイラーが声をかけてきた。
オリバーは、研究結果をまとめる以外、四六時中引っ付いてるわけでもない。
植物の世話をしたり、配合の研究をしたりもする。
俺も植物の世話を手伝ったり、配合には色々と手伝ったりもするが、午前中のこの時間は、タイラーにこの家の経営に関することなんかを学ぶことになっている。

帳簿の付け方はともかく、領収書や諸々の申請書なんかは、書式のテンプレート的なものを俺が提案したこともある。
とにかく、バラバラですげー見づらかった。
とくに領収書は、店なんかによって本当に様々で、かなり適当だ。
オリバーが走り書きで済ませてるものもある。

タイラーに学んで分かったことだが、税を納めることに関して、この国は節税対策っていうのが出来ない。
だが、何にどれだけ使ったか、の把握はもちろん必要だ。
仕事に関する経費は、取引の金額や研究結果の報酬に大きく関わってくる。
オリバーは経営方面はさっぱり向いていないらしい……まあ、そうだろうな。
今までぼったくりに合わなかったのは、エリソン侯爵通して、領にしか貢献してこなかったからだろう。

「うーん…どうだろ?まだまだ実践には遠い感じ」
「そうですか…」

「…おはぎー」
『なーに、アサヒ』
「タイラーが朝の特訓の様子を聞きたいんだって」

おはぎを呼ぶと、またしても、どこからかたしっと太腿あたりにすり寄ってきた。
タイラーががっかりするような顔をするから、なんか申し訳ない気がしてさ。
俺よりおはぎの方が現状知ってるだろうからな。

『ん。アサヒは凄い!はじめてなのに、もうつぶてを正確に当てるし、凄く速い!』
「っ!そうですか、それはすごいですね!」
『キックもパンチも威力ある。ふつうの人間ならそれだけで倒せる』
「そうですか。これからが楽しみです」
『ん。魔法と併用するの、まだちょっとなれてないだけ。アサヒ、明日も頑張る!』

タイラーが驚いて俺を見た後、嬉しそうにおはぎと語っている。
そうか…、すごいことだったのか。
俺には、やっぱり基準が分からないが。

「ああ、明日もよろしくな、おはぎ」
『ん。……アサヒー、おやつまだ?』

可愛く顔をかしげる様子に、つい、おやつをあげたくなるが、朝のお茶の時間にはあと1時間ある。

「あの時計で、10時になったらな」
『あの時計で10時になったらおやつ!』

おはぎが目をキラキラとさせて、どこから小枝の棒切れを取り出した。
時計に向けて、小枝をちろちろとふっている。
しっぽもふりふりと楽しそうだが……。
時計の針がくるくると回り始めた。
おいおい、それはずるだろ。

「おはぎー、いたずらしたらだめだろ?」
『…あの時計、10時になった』
「あの時計が10時になっても、時間は動いてねーの。
ちゃんと元にもどせ、じゃないとおはぎはおやつ抜きだぞ」
『にゃーっ!?』

…にゃーっつった、初めての猫っぽい声聞いたわ。
慌てて枝をふりふりして時計を戻している。…可愛いな。

「おはぎさんが手伝ってくれたら、10時よりお茶の時間も早くなるかもしれませんね」
『ん。おはぎ手伝う』

扱いがうまいな、タイラー。
早くなるとは言っていない、なるかもしれない、だ。
…ならねえな、きっと。
まあでも、おはぎが手伝ってくれるなら、もしかしたら捗るかもしれない、もしかしたら、だが。

猫の手も借り…られるな、おはぎだもんな。
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