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本編
-38- 養子先
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「アサヒ!」
玄関ホールに入ると、すぐにオリバーが抱きついてきた。
そして、触れるだけの口づけを一つ落としてくる。
密着度が高いが、それもすでに4日目、もう慣れた。
理由なく一緒にいるときは、だいたいどっかしら接触してる。
手を繋いできたり、肩を抱いてきたり、背中だったり腰だったりすることもある。
そういう時は、オリバーはいつもご機嫌だ。
綺麗な顔に、満足げな笑みを浮かべている。
他人から見たら、いちゃいちゃし過ぎて砂を吐くようなバカップルぶりだと思うけれど、
ソフィアもタイラーも、そんな俺たちを見てにこにこしてる。
ある意味、二人ともすげーなって思う。
「探しました」
「あー、悪い、庭でおはぎと遊んでた」
「…そう、ですか」
なんだ?急に機嫌が悪くなった。
自分は仕事してたのに、俺が遊んでたのが良くないのか?
「なんだよ?おはぎと遊ぶの、駄目だったか?」
まあ、こういう小さいことを黙っておくと、後々この男は引きずりそうなので口にする。
自慢じゃないが、俺は些細なことは…、あー、俺が思う、些細なことは忘れていく質だ。
顔は繊細なのに、と言われることが多かった。
けど、こういう性格だから、しょうがない。
「いいえ…ただ、アサヒを独り占めしていたおはぎに嫉妬しただけです」
「……じゃ、今からお前がひとり占めすればいいだろうが」
「っ!はい、そうします!」
少々鬱陶しいほどに抱き着かれながらリビングを目指していると、あきれ顔で笑みを作るタイラーに出くわす。
…まあ、この状態を見たら、誰だって呆れるだろう。
「オリバー様、シャーロット様からお手紙です」
「え?母上から?」
「ええ、正確には、ご実家からの封書付きです。
こんなに早く送られてくるとは思いませんでしたよ」
オリバーが手紙を受け取り、手紙を読んでからもう一方の封を切る。
「アサヒ、あなたの養子先が決まりました」
「え、もう?」
「あなたが任せるっておっしゃったので、勝手に決めてしまいましたが…」
「あー、うん、それはいいよ。オリバーと暮らすのは変わりないんだし、お前だって親父さんだって悪いようにはしないってのは分かってるから」
「もちろんです。予想通りと言いますか…母上の実家になりました。クリフォード子爵家です。
伯父上が後を継ぎまして、来年陞爵になり伯爵を名乗ることになっています。
場所は、エリソン侯爵領の一部ですので、私の実家ともそう離れておりません。
主に、果実農園と養蜂場を取りまとめています。
昨年はかなり豊作でしたし、皇帝陛下に献上した蜂蜜がとても評価が良かったようですね。
独立して領地を広げることには辞退したと聞きましたが、褒美にはかなりの額をいただくそうです。
伯父上はとても領民思いの良い方ですから、それらで、最新の設備と魔法具を取り入れると聞いています」
「その蜂蜜は、お前が開発した花で作った蜂蜜じゃないのか?」
「ええ、そうですよ。成果に結びついてよかったです」
「………そうか。や、ありがとう」
損な奴だと思ったが、本人が誇らしげにしているからわざわざ指摘したりしない。
まあ、でも、出来れば独立して欲しい…っていう親父さんの思いが良くわかってしまった。
「一度挨拶に行きたいが…難しいか?」
「年始には、王都に来られるのでその時に時間を作ってもらいましょう」
「わかった。あー…あと、少しずつマナー的なのも学びたいんだけど…俺こんなだし」
「必要ないと思いますが?」
あなたはそのままで十分魅力的ですから…と言いながら口づけてくる。
うっかりそうかな、なんて思いそうになるが、待て待て、仮にも伯爵家の養子になるなら最低限のマナーを知っていないとまずいだろ。
「や、すぐにオリバーと籍を入れるにしても、その間は伯爵家の養子なんだろ?最低限知ってないとまずいだろ。
その叔父さんにしたって、折角後ろ盾になってくれたのに…俺がなにかやらかしたら迷惑かけるだろうが」
「父上相手にしてた時と同じようで大丈夫だと思いますよ?
アサヒは食べ方もとても綺麗ですし、貴族出身だったと言われた方が納得できるくらいに」
駄目だ、オリバーの俺に対する目は独自の分厚いフィルターがかかってる。
俺はタイラーに助けを求めるように目を向ける。
「そうですね…、確かに、特に必要には思いませんよ?」
マジか……本当か?
そりゃあ、日本にいるときも富裕層にはいたし、外出時の食事のマナーはそれなりに厳しかったけども。
「えー?けどさー」
「ですが、国の制度や諸々と、エリソン侯爵領の現状は少しずつお知りなったほうがいいかもしれませんね。
その方が、今後のためになるかと思います」
「わかった。色々教えてくれ」
「承知しました」
「アサヒ、アサヒが来てからまだ4日目です。そんなに色々詰め込まなくてもいいんですよ?少しずつで」
「ん…わかってる。無理はしない」
「私との時間も大切にしてくださいね」
「わかった」
本当に、色んな意味で、甘い生活だ。
玄関ホールに入ると、すぐにオリバーが抱きついてきた。
そして、触れるだけの口づけを一つ落としてくる。
密着度が高いが、それもすでに4日目、もう慣れた。
理由なく一緒にいるときは、だいたいどっかしら接触してる。
手を繋いできたり、肩を抱いてきたり、背中だったり腰だったりすることもある。
そういう時は、オリバーはいつもご機嫌だ。
綺麗な顔に、満足げな笑みを浮かべている。
他人から見たら、いちゃいちゃし過ぎて砂を吐くようなバカップルぶりだと思うけれど、
ソフィアもタイラーも、そんな俺たちを見てにこにこしてる。
ある意味、二人ともすげーなって思う。
「探しました」
「あー、悪い、庭でおはぎと遊んでた」
「…そう、ですか」
なんだ?急に機嫌が悪くなった。
自分は仕事してたのに、俺が遊んでたのが良くないのか?
「なんだよ?おはぎと遊ぶの、駄目だったか?」
まあ、こういう小さいことを黙っておくと、後々この男は引きずりそうなので口にする。
自慢じゃないが、俺は些細なことは…、あー、俺が思う、些細なことは忘れていく質だ。
顔は繊細なのに、と言われることが多かった。
けど、こういう性格だから、しょうがない。
「いいえ…ただ、アサヒを独り占めしていたおはぎに嫉妬しただけです」
「……じゃ、今からお前がひとり占めすればいいだろうが」
「っ!はい、そうします!」
少々鬱陶しいほどに抱き着かれながらリビングを目指していると、あきれ顔で笑みを作るタイラーに出くわす。
…まあ、この状態を見たら、誰だって呆れるだろう。
「オリバー様、シャーロット様からお手紙です」
「え?母上から?」
「ええ、正確には、ご実家からの封書付きです。
こんなに早く送られてくるとは思いませんでしたよ」
オリバーが手紙を受け取り、手紙を読んでからもう一方の封を切る。
「アサヒ、あなたの養子先が決まりました」
「え、もう?」
「あなたが任せるっておっしゃったので、勝手に決めてしまいましたが…」
「あー、うん、それはいいよ。オリバーと暮らすのは変わりないんだし、お前だって親父さんだって悪いようにはしないってのは分かってるから」
「もちろんです。予想通りと言いますか…母上の実家になりました。クリフォード子爵家です。
伯父上が後を継ぎまして、来年陞爵になり伯爵を名乗ることになっています。
場所は、エリソン侯爵領の一部ですので、私の実家ともそう離れておりません。
主に、果実農園と養蜂場を取りまとめています。
昨年はかなり豊作でしたし、皇帝陛下に献上した蜂蜜がとても評価が良かったようですね。
独立して領地を広げることには辞退したと聞きましたが、褒美にはかなりの額をいただくそうです。
伯父上はとても領民思いの良い方ですから、それらで、最新の設備と魔法具を取り入れると聞いています」
「その蜂蜜は、お前が開発した花で作った蜂蜜じゃないのか?」
「ええ、そうですよ。成果に結びついてよかったです」
「………そうか。や、ありがとう」
損な奴だと思ったが、本人が誇らしげにしているからわざわざ指摘したりしない。
まあ、でも、出来れば独立して欲しい…っていう親父さんの思いが良くわかってしまった。
「一度挨拶に行きたいが…難しいか?」
「年始には、王都に来られるのでその時に時間を作ってもらいましょう」
「わかった。あー…あと、少しずつマナー的なのも学びたいんだけど…俺こんなだし」
「必要ないと思いますが?」
あなたはそのままで十分魅力的ですから…と言いながら口づけてくる。
うっかりそうかな、なんて思いそうになるが、待て待て、仮にも伯爵家の養子になるなら最低限のマナーを知っていないとまずいだろ。
「や、すぐにオリバーと籍を入れるにしても、その間は伯爵家の養子なんだろ?最低限知ってないとまずいだろ。
その叔父さんにしたって、折角後ろ盾になってくれたのに…俺がなにかやらかしたら迷惑かけるだろうが」
「父上相手にしてた時と同じようで大丈夫だと思いますよ?
アサヒは食べ方もとても綺麗ですし、貴族出身だったと言われた方が納得できるくらいに」
駄目だ、オリバーの俺に対する目は独自の分厚いフィルターがかかってる。
俺はタイラーに助けを求めるように目を向ける。
「そうですね…、確かに、特に必要には思いませんよ?」
マジか……本当か?
そりゃあ、日本にいるときも富裕層にはいたし、外出時の食事のマナーはそれなりに厳しかったけども。
「えー?けどさー」
「ですが、国の制度や諸々と、エリソン侯爵領の現状は少しずつお知りなったほうがいいかもしれませんね。
その方が、今後のためになるかと思います」
「わかった。色々教えてくれ」
「承知しました」
「アサヒ、アサヒが来てからまだ4日目です。そんなに色々詰め込まなくてもいいんですよ?少しずつで」
「ん…わかってる。無理はしない」
「私との時間も大切にしてくださいね」
「わかった」
本当に、色んな意味で、甘い生活だ。
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