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本編

-34- 侵入者

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と、こんなふうに濃厚な夜を過ごしたんだ。
明日、といっていたから、明日はちゃんとやるんだろうな。
やばいな、明日は朝からずーっとそれを考えそうだ……。

「んん……何……」

肩をゆすられて、寝返ったのがさっき。
今度は、頬を何かがもにもにとマッサージしてくる。

『アサヒ、起きて』
「ん……おはぎ?」
『アサヒ、なんか来た』
「……っ!?」

なんかってなんだ?とりあえず、パジャマにガウンを羽織り、靴を履く。
オリバーは?と見ると、となりですやすやと寝ていた。
それでいい。

枕もとにあった巾着の口を開き、ガウンのポケットにそれを突っ込む。
ドアをそっと開けて、廊下の様子を伺うと、静まり返った廊下に、かすかに複数の足音が聞こえてきた。

『アサヒ、気をつけて』
おはぎの声に頷き、自分の口元に人差し指を立てた。
静かに、の合図に、おはぎが前足で口を押える。
こんなときでも可愛いな。

息をひそめて、壁を背に角で待ち構えた。
手に握っているのは、巾着の中身の種だ。
この種、魔力を込めるとしゅるしゅると蔓が伸びて縄のようになるので捕縛するのにもってこいなんだと。

それを教えてこの種を俺にくれたのは、オリバーじゃなく、タイラーだ。
今朝がた、万が一の時に使うように言われて、枕もとに隠していた。
きっと俺がこんな貧弱な身体をしているから渡してくれたんだろうが、思いもよらないところで出番がやってくるとは。
この家のセキュリティーは完璧じゃなかったのか?

3つの影が近づいたところで、手に持っていた種を発芽させ、相手の足首へと投げつける。

「痛!」
「ギャッ!」
「っぶ!!」

綺麗に三人の足首に蔓が絡まり、再度発芽させた新しい蔓で上半身を縛った。
やべっ、しくじった!
何かあったら手と口は最初に塞げ、そう言われていたのに。

男のひとりが口を開いた同時、どこからか大きな葉っぱが飛んできて奴の口をぴったりと塞いだ。
残りの二人も、同じように葉っぱがぴったりと張り付く。
「ンーンー!!」

『アサヒ、口は最初に押さえる。魔法、使われる』
「悪い、おはぎ。助かった」
『ん。タイラー、来る』

姿は見えなかったが、おはぎの声が響いてきた。
どこかに身を潜めているんだろうな…黒いし、こんな状態じゃ、ちょっとわからないが。

さて、ただの泥棒じゃなさそうだ。
三人とも同じ制服らしいものを着ている。
軍服じゃなさそうだし、神官でもなさそうだ。
なんなんだ、こいつら。

「アサヒ、大丈夫ですか!?」
パジャマ姿にガウンを羽織り、足元は靴を履いたタイラーがやってきた。
「タイラー、うん、大丈夫。…けど、誰、こいつら」
「物音がしたので……その制服は、宮廷薬師の制服ですね」
「って…、前にオリバーがいた?」

「ええ。間違いありません。ああ、あなたたちですか…面倒なことになりましたね」
「どうすんの?」
「とりえあず、地下牢に入れておいて、明日侯爵様に相談しましょう。
ここは、エリソン侯爵の別邸ですから」
「「「ンーンーンンー!!」」」

エリソン侯爵の別邸だとタイラーが口にしたら、三人が真っ青な顔になってうなり始めた。

「…やはり、オリバー様は起きませんでしたか。
アサヒ、このままベッドに戻り、何事もなかったように過ごしてください。できますね?」
「けど……」

「この者たちは、宮廷薬師であり、一応貴族です。それもうち一人は伯爵家の人間が混ざっています。
ですから、これ以上私たちだけでは何も出来かねます。
宮廷に送り返したって何事もないことにされるだけ、警備隊にしたって相手が貴族では対応に困ります。
ですので、この場合は、侯爵様の指示を仰ぐのが一番です」
「わかった」

「ですが、アサヒがここまで動けるとは思いませんでした。
この者たちは私が地下牢に連れていきます」
「おはぎが起こしてくれたんだ」
「…そうでしたか。優秀な飼い猫ですね」

どこにそんな力があるのかって思うくらいに、三人をまとめた蔓を掴んですたすたと引きずるようにタイラーは歩いていく。
すげーの一言だ。
タイラーって、かっけーな、60歳こえてるんだろ?

『アサヒ』
もふっと足元におはぎがひっついてきた。
暗がりに、黄色い目が光っている。
「おはぎ、助かった。ありがとうな」
『ん。部屋戻ろう、風邪ひく』
「ああ」

緊張感が解けると急に廊下が寒く感じる。
おはぎで暖をとりつつ、俺は、オリバーの眠る部屋へとそっと足を運んだ。
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