上 下
25 / 196
本編

-25- 神器様の本質 オリバー視点

しおりを挟む
申請書を父に渡してから一年と少し経ったところでした。
昨年、帝国では召喚の大祭を終えて、もちろん私の元には神器様などというものは来ることなく、てっきり無事に乗り切れたと思い込んでいました。
ですが、どうしたことでしょう。
まさに、お前が望んだ神器様だ、と父と兄によってつきつけられてしまいました。
慌てて帝都の侯爵邸に訪れた二人は、興奮した様子で私に神器様を押し付け、仕事の途中だと慌ただしく後にしました。

私はあまりの驚きに、何もすることが出来ずにおりました。
水、木、土の三属性に、スキルは、薬草鑑定と調合に交渉まで、本当に持っているらしいのです。

誰にもわからないスキルが一つあり、裏番長、というスキルでした。
ですが、召喚された神器様にはしばしあることで、あちらの世界特有のスキルというものも珍しくないと聞きます。
ですから、そういったものなのでしょう。

それにしても。

白い肌に、艶のある漆黒の髪、目を閉じていても美しい顔立ち。
そして、暴力的なほどに、甘く芳しい熟れた苺のような瑞々しい香りを放っているのです。
一度触れてしまったら…私はどうなってしまうか自分でもわかりません。

温室のカウチソファにそのまま彼を休ませて、とりあえず様子をみることにしました。
宮廷で目にしたような神器様と変わらない態度であるなら、いくら容姿や香りに惹かれても幻滅するのが必至、自我を保てる、そう思ったからです。


「ああ、起きました?」

身体を起こしている彼を目にし、後ろから声をかけると、彼は徐に振り返ってきました。
美しく繊細そうで困惑した表情が驚きに変わり、その瞬間を目にした私は、すぐに次の言葉が出ませんでした。

抱えていた鉢植えを隅に置き、彼の様子を伺うと、下半身を露わに…いいえ、とても趣味の悪い魔道具を身に着けているではありませんか。
私はこのようなものは望んでおりません。
神器様とはいえ、随分なものを受け入れたものです。

「……!?なんですか、これは」
私は普段感情を表には出しませんが、あまりの不快感に、この時ばかりは不愉快を露わに問いました。

「知らねえよ、この趣味の悪い貞操帯がなんなのかなんて。
教会で変な実食わされて、気が付いたらこんな格好でここにいたんだ。俺のほうが聞きたいくらいだ」

男性にしては少し高めの、艶のある美しいテノール、なんとも不思議な声でした。
その声音と反する荒っぽい言葉遣いと、取り繕うことのない素直な物言いに、びっくりして固まってしまいました。

びっくりした私を見て、彼の方が、やらかしたっ!というような、表情を、その綺麗な顔に浮かべたのです。

神器様とは、こんなにも、見た目だけでなく心も美しいものなのでしょうか?
少なくとも、彼は、私の知る神器様たちと違うのかもしれない、そんな希望を持ってしまいました。
ですが、騙されてはならない、と警告する自分もいます。

「そう、でしたか…それは、すみません」
「好きで付けてるわけでもないし、納得してもない。ひっぱっても取れねえんだけど」

私が故意に好感度の高いと言われる表情を作り上げても、媚びた様子は見られません。

「触ってもいいですか?」
「あ、ああ…できるんなら取ってほしい」
「ええ」

素直でまっすぐな瞳に、私の方が戸惑いそうです。
手を浄化すると、その光を見た彼は、私を怖がったように見受けられました。

「浄化しただけですよ」

なるべく優しく伝えると、ほっとしたように小さな息を漏らしました。
年は一つ下とのことでしたが…、とても可愛らしいところもあります。

近づくと、熟した苺の濃い香りが強くなり、そのなんともいえない魅力的な香りに酔いそうになります。
魔道具の鑑定をかけるのに成功したのは、作られている材料の一つに植物系の魔物であったからです。
…禁忌とされたこの植物は、帝国では認められておりません。
本当に教会というところは真黒に染まっているのでしょう。

ですが…やはり、術式は読めませんね。
魔道具や魔法具には術式が組み込まれていまして、単純なものや定型的な術式であれば私も少しは読めるのですが、教会独自の魔道具は複雑でわざと読み取れないようにこねくりまわされて長く組まれていると聞きます。
魔道具にはしばしば返しがついており、無理やり壊そうとすると跳ね返りが酷い…教会の物なら十中八九強力な返しがついてるはずです。

「…私では、すぐには外せません。教会に行けばすぐにとれると」
「嫌だ、あんな胸糞悪いところには二度と行きたくねえ」

ああ、教会が胸糞悪い、とは。
本当に、今までお目にかかった神器様とは違って、共感が持てます。
…もう、きっと、私はこの神器様に惹かれているのでしょう。

「仕方ないですね。…少し時間をください」
「でも、トイレに行きてえんだけど」
「私が一時的に外すことはできますよ?…私が触れている間ならば、ですが」
「は?」

綺麗な顔に幾分間抜けな表情をのせ、それすらも私には魅力的に見えます。

「トイレ、でしたね。行きましょうか」

解かれているズボンの紐を、私は交互にきっちり結びました。
会話だけでなく、こんなやりとりすらもとても楽しんでいるーーー私自身、認めざるを得ませんでした。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~

クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。 いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。 本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。 誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

処理中です...