【完結】推し活アラサー女子ゆっこのちょっと不思議な日常

日夏

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二章

-16- 花火大会

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「え……誰」
「私も自分で鏡見てそう思ったよ」
「化けたね」
「でしょ」

私の浴衣姿を見て開口一番失礼な言葉をたて続けに発したのは我が弟の侑斗だ。
でもまあ、自分でもそう思った。
今日の私は、かなりの美人さんだ。
そう、きっと他人から見ても美人さんと思えるだろう。
あまりの違いに、侑斗は本当に驚きの顔をしていた。

髪もメイクもハル君がしてくれたのだが、これがまた素晴らしい出来栄えだった。
そんなに濃くしていない、と言っていた。
だが、凹凸が少なくぼんやりした二重の極々平凡な顔が、まるでお人形さんみたいな顔になったのだ。
自然なハイライトとシャドウはパーツを細かく入れてくれているからかとても自然な仕上がりだし、二重を書き足すような薄茶のラインと、目尻を中心に増殖されたポイントのつけまつげで目がより大きくぱっちりになった。
だかこれも不自然でない程度に収まっている。
私は怖くてまつエクなどしたことがないが、やったら最後、ずっと続ける一択だと言っていたのが何となくわかった。

目元も頬も唇もピンク系で自然な艶がある。
平凡な特徴のあまりない顔でもメイクでこれだけ変わるのだ。
寧ろ、平凡だからこそ変化が激しいのかもしれない。
動画に良くあがっている、『美人は作れる』のは、フィルターかけてるからだろうと思っていたが、そんなものかけずとも本当に作れるものらしい。

髪もコテで巻いてくれた後に、ヘアピンを使って綺麗にアップにしてくれた。
まるで美容院に行った後のような仕上がりだ。

趣味だと言っていたが、これはもう趣味の域を抜いている。


今日は待ちに待った花火大会の日で、なっちゃん家に集まっていた。

お天気には、恵まれた。
寧ろ恵まれすぎて、炎天下の中、四時過ぎからテーブルやイスを運び、会場の準備をするだけで皆汗だくになっていた。
とは言え、会場を準備したのは、怜司君となっちゃん、それからハル君と侑斗の4人で、私と一縁君はクーラーの効いている涼しいダイニングキッチンで食材の準備やおつまみを作っていたので楽をさせて貰っていた。
火も油も使ったが、贅沢な空間にいられたと思う。

プレート三台で肉や魚介、野菜を焼き、〆に焼きそばを作るというので、基本は魚介の下処理と野菜や肉を切って盛るだけだった。
きちんと作ったと言えるのは、大量の唐揚げくらいだ。
枝豆は冷凍だったから洗っただけですんでしまったし、冷やしキュウリは切って串にさして終了である。
デザートにはスイカで、これも切り分けただけで終わった。

因みにプレートの三つのうち二つは借り物で、お隣と下の階の方から一つずつ借りるらしい。
なっちゃんの家のもだが、ファミリーサイズの大きいものだというから、かなり本格的だ。

本格的なのはプレートだけじゃない。
会場そのものが本格的だった。
折り畳みの椅子もテーブルも人数分が揃っていたし、作りがしっかりしていた。
もっと簡易的なものかと思ったのに、グランピングのような設置で、ラグやハンモックも置かれていてお洒落な空間になっていたので本当に驚いた。
セッティング組は交互にシャワーを浴びたくらい一仕事だったが、おかげさまでとても素晴らしい空間だ。


「ハル君ありがとう。ほんとに魔法みたいだね」
「そこまで弄ってないけど、どういたしまして」

時刻は六時半。
花火の打ち上げまであと三十分あるが、お隣と下の階の方もいらして先にビールで乾杯だ。
皆浴衣姿だ。
お隣も下の階の方もとても上品に着こなしていて、私もこんな綺麗な年の取り方をしたい、と思ってしまった。
少しお話ししたが、体系キープの秘訣は、朝はご夫人同士で、夜は旦那さんとそれぞれウォーキングをしていることと、普段は和食中心の食生活を心がけていることだと聞いた。
そして、二三ヶ月に一度は旅行に行き、贅沢をするという。
とっても羨ましい生活だが、心も懐事情も豊かなのだろう。
なんというか、仕草や喋り方などからしてそれらがにじみ出ていた。

この辺では珍しいような方々だが、旦那さんのお一人は大手の元役員で、もうお一人は会社を経営していた方らしい。
なるほど、だからこんなにも、上品なのか。
滲み出るその品の良さは、真似できないものがある。

「ゆっこー、唐揚げめっちゃ美味い!」
「そう?なら良かった」
「ハルも写真ばっか撮ってないで、ちゃんと食って飲め。ほら」
「もー強引だなあ」

強引だ、なんて言いながらもなっちゃんの手から素直に受け取るハル君は嬉しそうだし楽しそうだ。

「ビール足んねーかも」
「うちにたくさん冷えてあるから足りなかったらあとで持ってこよう」
「え?マジで?すげー嬉しい!」
「いやあ、ははは」

うん、なっちゃんはお隣のお爺さんからとても好かれているらしい。
平気でため口を言っているが、許しているだけじゃなくにこにこデレデレしてるのを見ると、かなりのものだ。
だがそこに、疚しさはいっさい感じない。
なんていうか、孫娘的な位置にあるかもしれない。
そう、息子ではなく娘、だ。

「相変わらず人たらしだよねえ、結城君って」
「激しく同意しちゃう」
「木綿子ちゃん今日は食べる方に回ってね、焼くのは俺と怜司と侑斗君に任せて」
「ありがと」

普段料理は一縁君に任せきりの侑斗でも、キャンプ飯は慣れているのを私は知っている。
大学生のサークルで身につけたわけじゃなく、高校の山岳部で身につけたものだ。
ボルダリングがやりたくて入ったのに、基本がガチの山登りでテントをはって泊りも定期的にあり、飯盒でご飯を炊いたりと本格的なキャンプをしていた。
なんというか、あの体質で、よくまあ川や山に行けたもんだと思ったが、体力も付き、それなりに楽しんでいたようだ。
因みに一縁君は天文部で、年に一度山岳部との合同キャンプがあったと聞いていた。

バーベキューやらキャンプ飯やらは、社会人になっても発揮できる場があるらしい。
基本何でも器用にこなす侑斗は、体質的なことが無ければより社会で生きやすかっただろう。

「何でも器用にこなすな」
「焼くだけだし、それに怜司サンほどじゃないです」
「でも確かにねー、料理なんて全くしなさそうなのに」
「普段任せきりで殆どしないですね。でも高校の時山岳部だったんで。まあ二年の終わりで辞めましたけど」
「え?意外ー」
「バンド組んでたんじゃなかったのか?新入社員の余興でベース弾いていたろ?」
「ああ、バンドもしてましたよ」
「そっちの方が、ぽいよねえ」
「引き出し持ってんな、色々」
「怜司は良い後輩引いたよねー」

話しながらも三人とも手慣れていて、この三人は会社でもモテるだろうなとふと思う。
一縁君をちらりと見ると、彼は視線を侑斗に向けて可愛らしい顔をしていた。
惚れ直しているらしい。
や、いつも惚れているようだから、惚れ直した、という言葉は正確ではないかもしれない。
でも、とても可愛い顔をしている。
今日も今日とて、なっちゃんだけじゃなく、一縁君も安定して私に萌えを提供してくれるようだ。
ハル君も二人に劣らずキラキラしている。
社会人一年目から一人暮らしだというハル君は、最初の頃は料理にはまったこともあったと聞いていた。
あぶなげない手つきでトングを操っている。


私と一縁君となっちゃんのお皿に、焼かれた海老とホタテが盛られた。
食欲さそうその香りに、自然と三人して笑顔になった。

「ホタテ美味しいです!」
「ふるさと納税のだからちょっと良いやつだしなー、エビも生でも食えるデカいの選んだんだけど、正解だったな!」
「贅沢だねー」

外で食べるのが、また格別に美味しい気がした。
こんなに夏気分を味わう年は久しぶりかもしれない。
それこそ、社会人になってリアルでは初めてだ。
リアルでは、というのは、なりきりチャットという架空の場所でのイベントはことごとく参加していたからだ。
あれはあれで、季節の行事をこれでもかと体験し、あの時はとても充実していたのだ。
けれど、今ほどじゃない。


日が落ちてすぐ、最初の一発目が上がった。
これだけ近いと地元の花火とて迫力がある。
同時に、空の奥、幕張方面でも花火が上がった。
そっちは確かに距離があるが、もともとここの土地が高台なのと、前方に高い建物がないのとが合わさって打ちあがった花火は綺麗に見えた。

「凄……」
「こんな近くで見るの初めてです」
「いーだろ」
「うん。誘ってくれてありがと」
「どーいたしまして」

花火を背に綺麗な笑みを浮かべるなっちゃんは、とてつもなく美しく可愛かった。
勿論、目の奥にしっかりと焼き付け、脳内のフォルダーにちゃんと仕舞い込んでおきましたとも。
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