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二章
-15- 七夕と花火
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「じゃーな、ゆっこ。今日ありがとなー」
「うん、私の方こそ誘ってくれてありがとう。楽しかった」
「おやすみゆっこさん」
「おやすみなさい」
「今日の写真送るね」
「うん、ありがとう、ハル君」
「あ、俺、やっぱり玄関まで送ってくる、荷物多いし。木綿子ちゃんが嫌じゃなければだけど」
「うん、もちろん」
アパートの前まで送ってもらい、お土産を抱えて車から降りるとハル君が荷物持ちをかって出てくれた。
なぜ両手がふさがっているのかというと、このどでかい二枚貝のぬいぐるみのせいだった。
淡いグレーの貝はぱっと見お洒落に見えるが、貝殻の間からはファンシーな顔が覗いている。
手触りがすべすべでもちっとした大きなぬいぐるみは、クッション代わりに丁度いいらしい。
私が買ったんじゃない、帰り際になってから急になっちゃんが買ったものだ。
地べたに座ったら、クッションを抱いていたいらしく、けれどソファにあるのはクッションが二つ。
普通のクッションだから、抱きかかえるのには心地が少々悪いらしい。
最初に選ばれたのはつぶらな瞳のウミガメのぬいぐるみだったが、あまりにもインテリアから浮くそれは却下してもらった。
妥協して許したのは、薄い水色のイルカと淡いグレーの二枚貝で、二枚貝が選ばれたのだ。
この二枚貝のぬいぐるみを抱いて、明日会う侑斗と遊香ちゃんへのお土産と会社用に買ったお菓子の袋を両手にぶら下げたら足元は全く見えなかったからハル君の申し出は正直助かった。
なっちゃんはハル君が言い出すまで待ってくれただけのような気がした。
どこまで話が通っているのか分からないが、あからさまでないにしろ出会いを繋げてくれたようだ。
「今度……」
「ん?」
「ええと、来週、空いてたら出かけない?その、二人で」
「二人で」
「うん。……どうかな?」
玄関の扉の前で誘われて、なんだかこちらまで恥ずかしくなってしまった。
さらっと誘うわけじゃなくて、なんだか照れながら誘ってくるからだ。
こんなキラキラしたタイプど真ん中の男性から誘われて嬉しくないわけない。
それも、今日一日一緒にいて居心地はかなり良かった。
これが二人でだとどうだろうか、と思う気持ちもある。
私の答えは最初から決まっていた。
「うん。来週、楽しみにしてるね」
「良かった。連絡するね」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみ」
ああも正直にほっとした顔をされると、こちらも期待してしまうではないか。
玄関の扉が閉まり、ふと、この感覚はとても久しいことに気が付く。
恋愛対象となる男女でデートする=ちょっと面倒だ、という気持ちにならないのだ。
や、誘ってくれた相手に大変失礼なことを言っているのは分かる。
誘われて頷いた時点で、行くと決めたのは自分だ。
けれど、自分が全く異性として惹かれていないのにオッケーした時、ちょっと面倒だなって思う気持ちというのは毎回嫌でも訪れるのだ。
それは、自分に今現在全くその気がないのに、相手の気を持たせるような行動しているから、だろう。
知らないと好きになれない、というのも分かる。
分かるけれど、でも。
最初が駄目なら駄目ってことはあっても、良いとなったことが私にはなかった。
自分が惹かれている相手から誘われたのは、本当に久しぶりで、なんだか学生時代の頃のような甘酸っぱい気持ちになってしまった。
「どうだった?」
「どうって……楽しかったよ?」
「付き合えそうかって聞いてんの」
「それはまだ分からないよ。でも、そうなれたら楽しいだろうな」
土曜日にハル君と一緒にデートをした次の日、なっちゃんが昼過ぎに押し掛けてきた。
開口一番に『どうだった?』と聞かれたら、昨日のハル君とのデートのことだと直ぐに分かった。
昨日は楽しかった。
天気が心配だったが、晴れ間のある薄曇りで、出歩くには丁度よかった。
七夕ということもあって浴衣姿だとサービスする場所が多く、お互い浴衣を着て出かけた。
昨日もとても綺麗に撮ってくれたし、場所が鎌倉なこともあって、風景にも撮りがいがあったようだ。
楽しそうにカメラを構える姿を見られて、その写真のどれもがとてもキラキラしていた。
キラキラした彼が撮る写真は、とてもキラキラしている。
彼の目に映るものは、同じでも違うのだと知ることが出来ると、なんだかとても興味深い。
写真が好きだと言っても、ハル君は、カメラの機材がどうとか、技術がどうとか、撮り方やカメラのウンチクを殆ど話さない。
それよりも写真におさめた対象物に焦点を当てて話をしてくれたから、それが楽しいと思えた要因の一つだろう。
気を遣っていると言うよりも、それが話したい内容だと思えたし、海ほたるに行った時もそうだったわけだから、あれが彼の素なはずだ。
「絶対ゆっこのタイプだと思うんだよ」
「うん、ど真ん中ね」
「良い奴だし」
「うん」
「ぶっちゃけ体の相性はすげー合うと思うんだよなー。小さいのが悩みなハルと狭いのが悩みなゆっことで」
「え?そういうアレで取り持ってくれたの?」
「それだけじゃないけどさー、大事じゃんそこ」
昼間からなんてことを言うんだと思ったが、たしかに大事なことだ。
大事なことだが。
「ねえ、ハル君それ知ってるの?最初から」
「うん」
「怜司君も?」
「あーうん……駄目だったか?」
「駄目じゃないけど、恥ずかしいよ」
「悪い。でも、何でって話になるだろ?俺とゆっこが遊んでも大丈夫な相手だけってわけじゃないってこと言いたかったし、見た目がドストライクって言うより良いと思って」
「確かにね」
「だろ?」
「ありがと」
満面の笑みで頷かれると、『ありがと』としか言えなくなる。
や、実際『ありがとう』で、『ご縁に感謝』なのだけれど。
でもそうか。
小さいことで悩んでるなら、確かに私と合うかもしれない。
「マジな話、整形まで考えて怜司に相談してたくらいだからさ」
「えー?そこまで?」
「それが理由で振られ続けたら同情もするじゃん。『いっそ、恋愛対象が男だったらよかったのかも』とかまで言い出すしさ。
あ、あと、ゆっこ自分の子供は欲しいと思ってないって言ってたじゃん?そこも良いと思ったから。あいつ種少ないっつってたからさ」
「ねえちょっと、それ私先知って良かったの?」
大きさより、デリケートな話だと思ってしまう。
「あ……あ゛ー悪い!聞かなかかったことにして、一応本人が言うまで。付き合う前にちゃんと言うやつだと思うからっ!」
「もー」
両手を合わせて全力で謝れると、許してしまうし怒れないではないか。
しかたないな、という返事をしつつも、脳内は萌えている。
言葉にしないが、美味しい。
「でも、そっか。なら、最初から引け目感じずに考えられるかな」
身体の相性を知っていても、ハル君からの下心は見えなかった。
下心というか、なんていうか。
相手がどう見ているのかというのは伝わってくるものだ。
出来るって思う男というのは、態度じゃなくて、目に現れる。
押したらワンチャン行けるかもという考えだとよりあからさまだが、そうでなくても『どうやら体の相性はいいらしい』と聞いたらそっちに気を取られてそういう目で見られてもしかたないではないか。
けれども、そういう目にはならなかったし、話題にもならなかった。
酒を入れても、だ。
だとしたら、ますます好感が持てる。
「ハルの趣味聞いても引かなかったって聞いた」
「え?別に引くような趣味じゃないでしょ?」
「そう思えるのが凄いところだと思うぜ、俺は」
ハル君の趣味、というのは、写真だけじゃなかった。
綺麗なものが好き、という彼は、ヘアメイクの趣味もあった。
てっきり自分にするのかと思ったがそうじゃない。
人にするのが好きらしい。
だが、言うと引かれ、バレると引かれ、だからそれからは隠してきたと聞いた。
その相手はお姉さんを相手にしかしたことがないようだ。
男性が可愛く綺麗なメイク用品を持っていても良いではないか。
寧ろ自分に使っていても引きはしない。
TPO的に問題が無ければ良いと思うし、それが似合っていれば尚良しである。
ただ、ハル君の趣味というのは、自分の手で綺麗にする、というその過程と瞬間が好きらしい。
自分が着飾りたいわけじゃない、というのも聞いていた。
彼自体がキラキラしているので、メンズのメイクも似合いそうだがそこは特に興味がわかないようだ。
そこを仕事にしなかったのは度胸が足りなかった、と聞いたけれど、趣味だからこそ楽しんでいられる、とも言っていた。
「そうかな?来月の花火大会でヘアメイクしてくれるって」
「言ってたなー。あ、浴衣もうちで着ればいいよ……てか、ほんと会場行かなくて良かったのか?」
「うん、屋上なんて贅沢。楽しみ」
実は同日花火大会のチケットが当たったのだが、なっちゃんが誘ってくれた日とかぶったのだ。
かなり前から応募していた無料観覧チケットは、遊香ちゃんが貰ってくれた。
遊香ちゃん家族と母と侑斗たちと私、全員分の名前を書いて出したが、同行者が数名来られなくなっても入れるらしい。
因みに、侑斗はもちろんそっちには行かない。
怜司君に誘われて、こっちで一緒に参加するからだ。
こっちで、というのは、なっちゃんのマンションの屋上である。
毎年、なっちゃんのマンションの屋上で、花火大会を楽しむようだ。
地元の花火大会と、少し距離が離れているが幕張で上がる花火大会とが同日開催でどちらも綺麗に見えるのだとか。
もちろん貸切だ。
や、貸切というか、元々彼のものなのだけれども。
下と隣の住人も誘っているらしくて、どちらも老夫婦であり、穏やかで品のいい良い方々らしい。
どちらも、時々お惣菜をおすそ分けしてくれるし、旅行のお土産もくれるらしくて、そのお礼だそうだ。
とても贅沢過ぎる空間にお呼ばれしてしまった。
バーベキューは鉄板じゃなくてプレートらしいが、そのための野外延長コードまであるんだとか。
多分、鉄板は防災的にアウトだろう。
隣接しているのは、二階建てと三階建てのアパートと幼稚園だから迷惑行為にはならないようだ。
マンション全員に開放しないのは屋上の出入りがなっちゃんの住んでる部屋からしか上がれないからだろう。
外階段からは繋がっていなかった。
屋上はなっちゃんの持ち物だ。
揉めそうになったが、屋上の出入りができないのは予め規約に入っている。
そりゃそうだ、人様の家を解放しろと言っているのと同じだ、到底無理な話なのだ。
「うん、私の方こそ誘ってくれてありがとう。楽しかった」
「おやすみゆっこさん」
「おやすみなさい」
「今日の写真送るね」
「うん、ありがとう、ハル君」
「あ、俺、やっぱり玄関まで送ってくる、荷物多いし。木綿子ちゃんが嫌じゃなければだけど」
「うん、もちろん」
アパートの前まで送ってもらい、お土産を抱えて車から降りるとハル君が荷物持ちをかって出てくれた。
なぜ両手がふさがっているのかというと、このどでかい二枚貝のぬいぐるみのせいだった。
淡いグレーの貝はぱっと見お洒落に見えるが、貝殻の間からはファンシーな顔が覗いている。
手触りがすべすべでもちっとした大きなぬいぐるみは、クッション代わりに丁度いいらしい。
私が買ったんじゃない、帰り際になってから急になっちゃんが買ったものだ。
地べたに座ったら、クッションを抱いていたいらしく、けれどソファにあるのはクッションが二つ。
普通のクッションだから、抱きかかえるのには心地が少々悪いらしい。
最初に選ばれたのはつぶらな瞳のウミガメのぬいぐるみだったが、あまりにもインテリアから浮くそれは却下してもらった。
妥協して許したのは、薄い水色のイルカと淡いグレーの二枚貝で、二枚貝が選ばれたのだ。
この二枚貝のぬいぐるみを抱いて、明日会う侑斗と遊香ちゃんへのお土産と会社用に買ったお菓子の袋を両手にぶら下げたら足元は全く見えなかったからハル君の申し出は正直助かった。
なっちゃんはハル君が言い出すまで待ってくれただけのような気がした。
どこまで話が通っているのか分からないが、あからさまでないにしろ出会いを繋げてくれたようだ。
「今度……」
「ん?」
「ええと、来週、空いてたら出かけない?その、二人で」
「二人で」
「うん。……どうかな?」
玄関の扉の前で誘われて、なんだかこちらまで恥ずかしくなってしまった。
さらっと誘うわけじゃなくて、なんだか照れながら誘ってくるからだ。
こんなキラキラしたタイプど真ん中の男性から誘われて嬉しくないわけない。
それも、今日一日一緒にいて居心地はかなり良かった。
これが二人でだとどうだろうか、と思う気持ちもある。
私の答えは最初から決まっていた。
「うん。来週、楽しみにしてるね」
「良かった。連絡するね」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみ」
ああも正直にほっとした顔をされると、こちらも期待してしまうではないか。
玄関の扉が閉まり、ふと、この感覚はとても久しいことに気が付く。
恋愛対象となる男女でデートする=ちょっと面倒だ、という気持ちにならないのだ。
や、誘ってくれた相手に大変失礼なことを言っているのは分かる。
誘われて頷いた時点で、行くと決めたのは自分だ。
けれど、自分が全く異性として惹かれていないのにオッケーした時、ちょっと面倒だなって思う気持ちというのは毎回嫌でも訪れるのだ。
それは、自分に今現在全くその気がないのに、相手の気を持たせるような行動しているから、だろう。
知らないと好きになれない、というのも分かる。
分かるけれど、でも。
最初が駄目なら駄目ってことはあっても、良いとなったことが私にはなかった。
自分が惹かれている相手から誘われたのは、本当に久しぶりで、なんだか学生時代の頃のような甘酸っぱい気持ちになってしまった。
「どうだった?」
「どうって……楽しかったよ?」
「付き合えそうかって聞いてんの」
「それはまだ分からないよ。でも、そうなれたら楽しいだろうな」
土曜日にハル君と一緒にデートをした次の日、なっちゃんが昼過ぎに押し掛けてきた。
開口一番に『どうだった?』と聞かれたら、昨日のハル君とのデートのことだと直ぐに分かった。
昨日は楽しかった。
天気が心配だったが、晴れ間のある薄曇りで、出歩くには丁度よかった。
七夕ということもあって浴衣姿だとサービスする場所が多く、お互い浴衣を着て出かけた。
昨日もとても綺麗に撮ってくれたし、場所が鎌倉なこともあって、風景にも撮りがいがあったようだ。
楽しそうにカメラを構える姿を見られて、その写真のどれもがとてもキラキラしていた。
キラキラした彼が撮る写真は、とてもキラキラしている。
彼の目に映るものは、同じでも違うのだと知ることが出来ると、なんだかとても興味深い。
写真が好きだと言っても、ハル君は、カメラの機材がどうとか、技術がどうとか、撮り方やカメラのウンチクを殆ど話さない。
それよりも写真におさめた対象物に焦点を当てて話をしてくれたから、それが楽しいと思えた要因の一つだろう。
気を遣っていると言うよりも、それが話したい内容だと思えたし、海ほたるに行った時もそうだったわけだから、あれが彼の素なはずだ。
「絶対ゆっこのタイプだと思うんだよ」
「うん、ど真ん中ね」
「良い奴だし」
「うん」
「ぶっちゃけ体の相性はすげー合うと思うんだよなー。小さいのが悩みなハルと狭いのが悩みなゆっことで」
「え?そういうアレで取り持ってくれたの?」
「それだけじゃないけどさー、大事じゃんそこ」
昼間からなんてことを言うんだと思ったが、たしかに大事なことだ。
大事なことだが。
「ねえ、ハル君それ知ってるの?最初から」
「うん」
「怜司君も?」
「あーうん……駄目だったか?」
「駄目じゃないけど、恥ずかしいよ」
「悪い。でも、何でって話になるだろ?俺とゆっこが遊んでも大丈夫な相手だけってわけじゃないってこと言いたかったし、見た目がドストライクって言うより良いと思って」
「確かにね」
「だろ?」
「ありがと」
満面の笑みで頷かれると、『ありがと』としか言えなくなる。
や、実際『ありがとう』で、『ご縁に感謝』なのだけれど。
でもそうか。
小さいことで悩んでるなら、確かに私と合うかもしれない。
「マジな話、整形まで考えて怜司に相談してたくらいだからさ」
「えー?そこまで?」
「それが理由で振られ続けたら同情もするじゃん。『いっそ、恋愛対象が男だったらよかったのかも』とかまで言い出すしさ。
あ、あと、ゆっこ自分の子供は欲しいと思ってないって言ってたじゃん?そこも良いと思ったから。あいつ種少ないっつってたからさ」
「ねえちょっと、それ私先知って良かったの?」
大きさより、デリケートな話だと思ってしまう。
「あ……あ゛ー悪い!聞かなかかったことにして、一応本人が言うまで。付き合う前にちゃんと言うやつだと思うからっ!」
「もー」
両手を合わせて全力で謝れると、許してしまうし怒れないではないか。
しかたないな、という返事をしつつも、脳内は萌えている。
言葉にしないが、美味しい。
「でも、そっか。なら、最初から引け目感じずに考えられるかな」
身体の相性を知っていても、ハル君からの下心は見えなかった。
下心というか、なんていうか。
相手がどう見ているのかというのは伝わってくるものだ。
出来るって思う男というのは、態度じゃなくて、目に現れる。
押したらワンチャン行けるかもという考えだとよりあからさまだが、そうでなくても『どうやら体の相性はいいらしい』と聞いたらそっちに気を取られてそういう目で見られてもしかたないではないか。
けれども、そういう目にはならなかったし、話題にもならなかった。
酒を入れても、だ。
だとしたら、ますます好感が持てる。
「ハルの趣味聞いても引かなかったって聞いた」
「え?別に引くような趣味じゃないでしょ?」
「そう思えるのが凄いところだと思うぜ、俺は」
ハル君の趣味、というのは、写真だけじゃなかった。
綺麗なものが好き、という彼は、ヘアメイクの趣味もあった。
てっきり自分にするのかと思ったがそうじゃない。
人にするのが好きらしい。
だが、言うと引かれ、バレると引かれ、だからそれからは隠してきたと聞いた。
その相手はお姉さんを相手にしかしたことがないようだ。
男性が可愛く綺麗なメイク用品を持っていても良いではないか。
寧ろ自分に使っていても引きはしない。
TPO的に問題が無ければ良いと思うし、それが似合っていれば尚良しである。
ただ、ハル君の趣味というのは、自分の手で綺麗にする、というその過程と瞬間が好きらしい。
自分が着飾りたいわけじゃない、というのも聞いていた。
彼自体がキラキラしているので、メンズのメイクも似合いそうだがそこは特に興味がわかないようだ。
そこを仕事にしなかったのは度胸が足りなかった、と聞いたけれど、趣味だからこそ楽しんでいられる、とも言っていた。
「そうかな?来月の花火大会でヘアメイクしてくれるって」
「言ってたなー。あ、浴衣もうちで着ればいいよ……てか、ほんと会場行かなくて良かったのか?」
「うん、屋上なんて贅沢。楽しみ」
実は同日花火大会のチケットが当たったのだが、なっちゃんが誘ってくれた日とかぶったのだ。
かなり前から応募していた無料観覧チケットは、遊香ちゃんが貰ってくれた。
遊香ちゃん家族と母と侑斗たちと私、全員分の名前を書いて出したが、同行者が数名来られなくなっても入れるらしい。
因みに、侑斗はもちろんそっちには行かない。
怜司君に誘われて、こっちで一緒に参加するからだ。
こっちで、というのは、なっちゃんのマンションの屋上である。
毎年、なっちゃんのマンションの屋上で、花火大会を楽しむようだ。
地元の花火大会と、少し距離が離れているが幕張で上がる花火大会とが同日開催でどちらも綺麗に見えるのだとか。
もちろん貸切だ。
や、貸切というか、元々彼のものなのだけれども。
下と隣の住人も誘っているらしくて、どちらも老夫婦であり、穏やかで品のいい良い方々らしい。
どちらも、時々お惣菜をおすそ分けしてくれるし、旅行のお土産もくれるらしくて、そのお礼だそうだ。
とても贅沢過ぎる空間にお呼ばれしてしまった。
バーベキューは鉄板じゃなくてプレートらしいが、そのための野外延長コードまであるんだとか。
多分、鉄板は防災的にアウトだろう。
隣接しているのは、二階建てと三階建てのアパートと幼稚園だから迷惑行為にはならないようだ。
マンション全員に開放しないのは屋上の出入りがなっちゃんの住んでる部屋からしか上がれないからだろう。
外階段からは繋がっていなかった。
屋上はなっちゃんの持ち物だ。
揉めそうになったが、屋上の出入りができないのは予め規約に入っている。
そりゃそうだ、人様の家を解放しろと言っているのと同じだ、到底無理な話なのだ。
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