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二章
-8- カミングアウト
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「わ、なんつーか新鮮」
なっちゃんがおにぎりを手に取り、しげしげと眺めながら不思議なことを言いだした。
おにぎりが新鮮とはどういう感覚か───そう思うもすぐに納得する。
「やー、今まで怜司のしか食ったことなかったからさあ、ちっさいな、これ」
「そりゃ怜司君の手と比べたら、小さくもなるよ」
「いーや、ゆっこの手は特別小さい、子供みてーな手してる」
「全然褒めてないじゃん」
「ん、美味い。味はこっちのが断然美味い!」
そうか、味は私の方が美味いのか。
それはよかった。
どっぷり優越感に浸る私は完全に腐ってる気がする。
美味いのは私の手製だからではなく、十中八九米と塩と海苔が良いものだからだろう。
わかってる。
わかってはいるが、嬉しくなってしまったものは仕方ない。
この美しい生き物は嘘を言わない正直者だ。
美味いと言うんだから、美味いんだ。
一縁君が面白そうに笑いながらおにぎりを頬張る。
お行儀良くも満足そうに食べる笑顔が可愛い。
控えめな態度なのだけれど、いつも美味しそうに食べてくれるから義姉としては作り甲斐があるものだ。
一縁君の口端についたご飯粒を、侑斗が無言で摘まんで、それを自分の口へと入れた。
「ゆ、侑斗君っ……」
「え?……あ」
しまった、と思ったんだろう。
侑斗までが一瞬無言で固まる。
いつもと同じようにくつろいでいるから、いつもと同じように手が出たのだと思う。
一縁君が平然とやり過ごしていたら多分流していたし、気にならなかったはずだ。
そのくらい自然な仕草だった。
が……無理だな、これは。
一縁君の顔が真っ赤で可愛すぎる。
「まあ、俺だけ知ってるのもフェアじゃないからいっか。こちら、仕事上だけじゃなくてパートナーです」
一縁君よりも侑斗が復活する方が早かった。
直ぐに切り替えて、一縁君に両手を向けた。
「マジか……え、待った、俺だけ知ってるって?」
「なちさん、怜司サンの恋人でしょ?怜司サンの大学の先輩で、束縛嫌いで自由でいたがる癖に寂しがり屋」
「はあ?!」
「合ってる合ってる」
「でも、すげー美人で可愛いって」
「い゛っ!?」
なっちゃんの顔が、一縁君に負けず劣らずの赤さに染まった。
久しぶりに見る顔だ、恐ろしく可愛い。
我が弟ながら、侑斗は実にいい仕事をしてくれた。
サラッと惚気る怜司君を想像する。
飲みの席だとかで女性陣に囲まれて告げたのだろうか。
残念がる女子は多いだろう。
あんなイケメンから、すげー美人で可愛い、などと自分の恋人を人前で褒めたら誰もが諦めるしかない。
読者モデルをしている怜司君だから、きっと相手はモデルなのかもしれないと想像を巡らすかも。
イケメンを狙うくらいだ、自分に自信のある女の子たちが探りを入れたのだろう。
だが、撃沈し、諦めもついたはずだ。
「前、社員旅行で北海道に行ったとき、帰りがけお菓子のリスト見ながら一個ずつ大量に買ってたから色々聞かれてた」
なるほど。
普段お菓子を食べない怜司君が、一つずつ大量に買っていたら話しかけるチャンスと思う人もいるだろうし何より気になるだろう。
『ご家族にですか?』とかなんとか聞いた答えが、『いや……』と濁したところで丁度良く通りかかった部長に『なんだ、恋人にかー?』なんて揶揄われたら、『ええ、まあ』と肯定するだろう。
『どんな人だ?』となり注目を浴びるはずだ。
そして、これだけイケメンなんだから美人に違いないと思いつつも、その答えに少しでも自分に勝るところがあれば……等と聞き耳を立てながら切に願う肉食女子たち。
からの、撃沈。
はたから見ても、凄い光景かもしれない。
「大事にされてますね」
「や、待て。あいつが俺の名前を出すはずない」
「なちさんさっき自分で“怜司のしか食ったことない”って言ってたじゃないですか」
「え?あ、言ったわ」
「怜司サンから、『俺の恋人とお前の姉が友人だ』って言われたら、流石にわかっちゃいます」
「あー……」
「それに、こんな美人な人俺自初めて見たし。……なるほど、だからか」
何がなるほどだからなのかと思うが、また結構掘り下げて人を見たのだろう。
私となっちゃんが、前世で何か繋がりがあったりしたのだろうか。
私は、人との縁は自身の行動の結びつきであって必然的ではないと思っている。
何でもかんでも前世のせいにされたらたまったもんじゃない。
前世の行いが悪かったから今が悪いだとか、そんなもんはただただやる気をなくすだけだ。
前世がどんな人間であったって、今ここで生きているのは私であり、私以外の何者でもない。
まあ、私がこの手の美人になぜか非常に……いや、異常と言った方がしっくりくるか。
とにかくもの凄ーく弱いのは、『ゆっこちゃんの前世が、この手の美人に弱い男だったからだよ』と言われたらそれは納得してしまうけれども。
なっちゃんがおにぎりを手に取り、しげしげと眺めながら不思議なことを言いだした。
おにぎりが新鮮とはどういう感覚か───そう思うもすぐに納得する。
「やー、今まで怜司のしか食ったことなかったからさあ、ちっさいな、これ」
「そりゃ怜司君の手と比べたら、小さくもなるよ」
「いーや、ゆっこの手は特別小さい、子供みてーな手してる」
「全然褒めてないじゃん」
「ん、美味い。味はこっちのが断然美味い!」
そうか、味は私の方が美味いのか。
それはよかった。
どっぷり優越感に浸る私は完全に腐ってる気がする。
美味いのは私の手製だからではなく、十中八九米と塩と海苔が良いものだからだろう。
わかってる。
わかってはいるが、嬉しくなってしまったものは仕方ない。
この美しい生き物は嘘を言わない正直者だ。
美味いと言うんだから、美味いんだ。
一縁君が面白そうに笑いながらおにぎりを頬張る。
お行儀良くも満足そうに食べる笑顔が可愛い。
控えめな態度なのだけれど、いつも美味しそうに食べてくれるから義姉としては作り甲斐があるものだ。
一縁君の口端についたご飯粒を、侑斗が無言で摘まんで、それを自分の口へと入れた。
「ゆ、侑斗君っ……」
「え?……あ」
しまった、と思ったんだろう。
侑斗までが一瞬無言で固まる。
いつもと同じようにくつろいでいるから、いつもと同じように手が出たのだと思う。
一縁君が平然とやり過ごしていたら多分流していたし、気にならなかったはずだ。
そのくらい自然な仕草だった。
が……無理だな、これは。
一縁君の顔が真っ赤で可愛すぎる。
「まあ、俺だけ知ってるのもフェアじゃないからいっか。こちら、仕事上だけじゃなくてパートナーです」
一縁君よりも侑斗が復活する方が早かった。
直ぐに切り替えて、一縁君に両手を向けた。
「マジか……え、待った、俺だけ知ってるって?」
「なちさん、怜司サンの恋人でしょ?怜司サンの大学の先輩で、束縛嫌いで自由でいたがる癖に寂しがり屋」
「はあ?!」
「合ってる合ってる」
「でも、すげー美人で可愛いって」
「い゛っ!?」
なっちゃんの顔が、一縁君に負けず劣らずの赤さに染まった。
久しぶりに見る顔だ、恐ろしく可愛い。
我が弟ながら、侑斗は実にいい仕事をしてくれた。
サラッと惚気る怜司君を想像する。
飲みの席だとかで女性陣に囲まれて告げたのだろうか。
残念がる女子は多いだろう。
あんなイケメンから、すげー美人で可愛い、などと自分の恋人を人前で褒めたら誰もが諦めるしかない。
読者モデルをしている怜司君だから、きっと相手はモデルなのかもしれないと想像を巡らすかも。
イケメンを狙うくらいだ、自分に自信のある女の子たちが探りを入れたのだろう。
だが、撃沈し、諦めもついたはずだ。
「前、社員旅行で北海道に行ったとき、帰りがけお菓子のリスト見ながら一個ずつ大量に買ってたから色々聞かれてた」
なるほど。
普段お菓子を食べない怜司君が、一つずつ大量に買っていたら話しかけるチャンスと思う人もいるだろうし何より気になるだろう。
『ご家族にですか?』とかなんとか聞いた答えが、『いや……』と濁したところで丁度良く通りかかった部長に『なんだ、恋人にかー?』なんて揶揄われたら、『ええ、まあ』と肯定するだろう。
『どんな人だ?』となり注目を浴びるはずだ。
そして、これだけイケメンなんだから美人に違いないと思いつつも、その答えに少しでも自分に勝るところがあれば……等と聞き耳を立てながら切に願う肉食女子たち。
からの、撃沈。
はたから見ても、凄い光景かもしれない。
「大事にされてますね」
「や、待て。あいつが俺の名前を出すはずない」
「なちさんさっき自分で“怜司のしか食ったことない”って言ってたじゃないですか」
「え?あ、言ったわ」
「怜司サンから、『俺の恋人とお前の姉が友人だ』って言われたら、流石にわかっちゃいます」
「あー……」
「それに、こんな美人な人俺自初めて見たし。……なるほど、だからか」
何がなるほどだからなのかと思うが、また結構掘り下げて人を見たのだろう。
私となっちゃんが、前世で何か繋がりがあったりしたのだろうか。
私は、人との縁は自身の行動の結びつきであって必然的ではないと思っている。
何でもかんでも前世のせいにされたらたまったもんじゃない。
前世の行いが悪かったから今が悪いだとか、そんなもんはただただやる気をなくすだけだ。
前世がどんな人間であったって、今ここで生きているのは私であり、私以外の何者でもない。
まあ、私がこの手の美人になぜか非常に……いや、異常と言った方がしっくりくるか。
とにかくもの凄ーく弱いのは、『ゆっこちゃんの前世が、この手の美人に弱い男だったからだよ』と言われたらそれは納得してしまうけれども。
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