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二章

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「ゆっこさん、俺と付き合ってくれませんか?」
「…ごめん、無理」

ちかさんからは、初参加のカラオケの日から、一カ月に一度のペースで誘いを受けていた。
最初は、あの日の詳細やその後どうなったかの話をするためにカフェに行き、二回目、三回目は数人で集まるので時間が空いていたらカラオケ行きませんか?の誘いだった。

結局サークル自体は今後参加は難しいからと退会する形になったのだけれど、ちかさんが何人か個別で声をかけてくれて、五、六人でカラオケを楽しんだ。
二回とも参加したひとりはまー君だったから、やっぱり二人は仲が良いらしかった。

五月の終わりに一緒に飲みませんか?のお誘いを受け、丸の内方面にあるイタリアンのお店に入った。
個室で内装にもこだわりがあるのに、手軽なお値段とそこそこボリューム感があるお店が売りだった。
ビールがワイングラスで運ばれてくるところに、チェーン店の飲み屋と違ったお洒落感と上品さがあった。

お互いお疲れ様を言い合い、乾杯をしたところでちかさんが告げてきたのだ。
黙って考えたのは、きっと一秒ほどだったと思う。
これから飲んで食べるのに、なぜ始めに言うか?と思ったが、まあ言ってしまったものはしょうがない。
そして、ある程度答えが分かっていたのだと思う。
『ですよねえ』と苦笑いで答えてきた。
声は、残念そうだった。
そう思ってくれたことは嬉しいし、ちかさんと付き合ったらそれなりに楽しいだろう、そうも思う。
だが、なっちゃんの存在は私の中でとても大きかった。

「だってちかさん、私となっちゃんが二人で遊ぶの快く送り出せないでしょ?」
「そりゃあまあ、付き合ったらそうですね。彼氏いるのになんで別の男と会うんだって思います」
「ね?だから無理」
「……それ、一生無理なんじゃ?」
「それならそれで良いかな、今のところは」

それを許してくれる人でないと私はお付き合いは無理だ。
私の中で、それだけなっちゃんという存在が大きくなっている。
一番近くで応援していたい推しの美しい生き物を、彼氏という存在でないがしろには出来ない。


「変わってますね」
「そんな変わった私を好きになってくれてありがとう」
「振られましたけどね」
「でも分かってて言ったでしょ?」
「まあ。踏ん切り着いた方がこの後普通に食事と酒を楽しめるとも思って」

そう言って笑ったちかさんは、本当に普通に食事と酒を楽しんだ。
お互い気まずくならなかったのは、流石だなとも思った。
ちかさんなら、私のような変態変人を相手にしなくてもすぐに恋人は見つかるだろうと思う。


「今日会えてよかった、ありがとね、ちかさん」
「俺振られたんですよね?そうやって返すのズルいですよ」
「え?そう?」

これで縁が切れてしまうのは少しばかり残念な気もするがこればかりはしょうがない。
全く気がない相手なのに、その気持ちを知りながら二人で会う、というのは私にはどうしても出来なかった。

「でも、本当のことだから。ちかさん若いし、もっといい女に会えるよきっと」
「振って残念だったって思わらせるくらい、いい女を見つけます」

正直、振る側だって結構気力を使うのだ。
告白されなれていない女なら、尚更。
そりゃあきっと告白する方が勇気がいるとは思うけれども。

JR駅の改札口前で握手を求められたのでしっかりと握り合う。
ちかさんは、丸の内で池袋に出て、東武東上線に乗り換えると言っていた。
これでお別れだと思ったが、なんだかとても気分が晴れやかな気持ちになったのだ。
久しぶりに、恋愛対象の女性として見て貰えたからかもしれない。
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