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一章
-3- 出会い
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私にとって、なっちゃんとの出会いは衝撃的だった。
最初に彼を目にした時には、恐ろしく美しい生きものが、同じ空間にいるっ!と、テンションが上がったものだ。
初めて参加する三十代中心のカラオケサークルは、仕事帰りのアクセスの良さと、毎回参加人数が二十人以上と多いのが決め手だった。
SNSに掲載されていた集合写真が、いい意味で派手さがなかったのも決めてのひとつだ。
出会い系でなく、単純にカラオケが好きな人たちの集まり、とうたっている通りに見えたからだ。
同世代のカラオケ友達が欲しかったことと、職場以外の場所で、共通の趣味を持つ異性と気軽に話せる機会も欲しかった。
大手企業の健診センターで事務員として働いている私は、普段接するのは同じ事務員と看護師ばかりで女性のみ。
男性の技師や技工士とも接するが、それなりに互いに忙しいので、殆ど連絡事項のみである。
自ら望んだ職場で環境もいいが、仕事に慣れてくると、日常生活の中での刺激が足りない。
独り身で彼氏なしの私は、恋愛にも女友達の付き合いにも、正直疲れていた。
がつがつと合コンや婚活パーティに参加する気にはなれないものの、異性と関わる場所は欲しい。
今年は、新しい場所で色々な人と関わり、広く浅くでいいから、楽しい時間を過ごしたい。
そんな目標を達成するべく、手始めに参加したのだ。
もともと、知らない人の中に独りで入るのには慣れている。
私は、いわゆる腐女子である。
今はネット小説や漫画の読み専に落ち着いたけれど、一時はイベントの参加や執筆活動もしていて、五年前まではコスプレもしていた。
コスプレでは、最初こそは友人と参加したが、すぐに別々となった。
友人はイベント会場で写真を取り合う撮影会が好きだったけれど、私は、コスプレしてアニソンを歌うカラオケの集まりや遊園地でコスプレして乗り物で遊び、夕方から夜にかけてダンスパーティーに参加するイベントが好きだったからだ。
当時は、特にサークルに入っているわけではなかったので、行きたいイベントがあれば、募集をかけているところへ自ら問い合わせて参加していた。
大型の合わせが好きだったのと、五年前は都内の有名総合病院で医療事務をしていたので激務だったため、定期的には合わせられなかった。
だから、毎回同じような環境の社会人同士の集まりで、はじめましての人が多かったのだ。
物怖じしない性格で、美人とまではいかなけれど、愛嬌はある方だ。
害のなさそうな外見と人柄で、第一印象は良く、周りと馴染むのは早かった。
今回もいかんなく発揮したい。
初めてだったこともあり、最初の集合時と部屋割り後に簡単な挨拶をしたが、その美しい生き物は、丁度挨拶が一通り終わったところで部屋に入ってきた。
「なち、おせーよ!」
「悪ぃ、寝過ごした!なちです、よろしくー」
常連なのか、名前だけ告げると、副サークル長の鈴木氏に呼ばれてその隣左奥へと腰を下ろす。
ふと、何気なしに周りを見渡すと、やはり、皆、彼、なちさんに注目しているようだ。
後から来たからじゃない。
彼が美人過ぎるからだ。
そりゃそうなるわ、と、目線を斜め前の美しい対象物に戻し、私は内心で何度も頷いた。
綺麗なものは、男も女も関係なく目を離せなくなるものだ。
それにしても、本当に美人だ。
素顔で2.5次元の世界。
ありえないほどの美人だ。
偶に私が『この人美人』と言っても首をかしげる人がいるけれど、きっと彼は誰がどう見ても美人だ。
あれだ、球体間接のドールみたいな。
あんな顔をしていたら大抵のことは許せる。
ゴミを投げてゴミ箱に入らずに『あ、入んなかった』とそのままにされても許せるし、使った後トイレの便座がそのままあがっていたとしても、電気がつけっぱなしだったとしても許せるし、ソファに我がものの顔でぐでんとしてても許せる。
知りもしない初めての人に対し妄想を炸裂してるけれど、こういうことは対象が男性であっても女性であってもわりとやる。
わざわざ人に言わないだけで、妄想癖の激しい人間なのだ。
控えめに言って、変態以外の何者でもないと自分で思ってる。
でも思うだけならだれも気が付かないし、罪にもならないのだからいいではないか。
この手の顔の作りには、昔から本当に弱かった。
相手が、女性でも男性でもだ。
男性は、なかなかいない。
目の前の美人を抜かせば、ひとりだけだ。
実家近くにあるコンビニ店員の彼だけだ。
や、彼なんて言っても、知り合いでもなければ名前も知らない。
けれど入った時にたまたまその子がいると、めちゃくちゃテンションが上がる。
ともかく男女限らず何故かずっと目がいくし、や、これは相手が美人過ぎるのが理由だと思うけれど、私が守んなきゃって感じになるのだ。
コス合わせで一緒になった女の子で、このタイプの美人さんがいて、私はやっぱり気になった。
気になったというか、気に入ったというか。
すらりとしていて目鼻立ちがはっきりした色白の美人さんで一瞬でテンションが上がった。
因みに、私の恋愛対象は男性だ。
女性と付き合ったこともなければ、恋愛感情を抱いたこともない。
なんというか、ただ単に、男女関わらずその顔立ちの美人が好き、なのだ。
好きというか、弱い……うん、好き過ぎて弱いのだ。
美人に弱い男性がいると言うが、私はその女性版だ。
阿呆みたいな話だけれど、それが私という人間だ。
あの時も、彼女に対してあからさまに話しかけてぴったり一緒にいたわけじゃない。
でも守んなきゃって感じで、随所随所で気にしてフォローに回っていたら、『理想は逆だ』と周りに言われたことがあったっけ。
キャラクター上それもわかる。
わかるが、私本来の性格までは変えられない。
私が三人姉妹弟の長女だと知ると、それで皆が納得してもらえたっけ。
変態と暴かれずにすんで本当に良かったと思う。
さて、改めて思うが、本当に美人だ。
この美人すぎる生き物に会えただけで、今日の収穫があった。
良し、次も参加しよう。
自己紹介が終わった時点で、私は早くも次の参加を決め込んだのだった。
最初に彼を目にした時には、恐ろしく美しい生きものが、同じ空間にいるっ!と、テンションが上がったものだ。
初めて参加する三十代中心のカラオケサークルは、仕事帰りのアクセスの良さと、毎回参加人数が二十人以上と多いのが決め手だった。
SNSに掲載されていた集合写真が、いい意味で派手さがなかったのも決めてのひとつだ。
出会い系でなく、単純にカラオケが好きな人たちの集まり、とうたっている通りに見えたからだ。
同世代のカラオケ友達が欲しかったことと、職場以外の場所で、共通の趣味を持つ異性と気軽に話せる機会も欲しかった。
大手企業の健診センターで事務員として働いている私は、普段接するのは同じ事務員と看護師ばかりで女性のみ。
男性の技師や技工士とも接するが、それなりに互いに忙しいので、殆ど連絡事項のみである。
自ら望んだ職場で環境もいいが、仕事に慣れてくると、日常生活の中での刺激が足りない。
独り身で彼氏なしの私は、恋愛にも女友達の付き合いにも、正直疲れていた。
がつがつと合コンや婚活パーティに参加する気にはなれないものの、異性と関わる場所は欲しい。
今年は、新しい場所で色々な人と関わり、広く浅くでいいから、楽しい時間を過ごしたい。
そんな目標を達成するべく、手始めに参加したのだ。
もともと、知らない人の中に独りで入るのには慣れている。
私は、いわゆる腐女子である。
今はネット小説や漫画の読み専に落ち着いたけれど、一時はイベントの参加や執筆活動もしていて、五年前まではコスプレもしていた。
コスプレでは、最初こそは友人と参加したが、すぐに別々となった。
友人はイベント会場で写真を取り合う撮影会が好きだったけれど、私は、コスプレしてアニソンを歌うカラオケの集まりや遊園地でコスプレして乗り物で遊び、夕方から夜にかけてダンスパーティーに参加するイベントが好きだったからだ。
当時は、特にサークルに入っているわけではなかったので、行きたいイベントがあれば、募集をかけているところへ自ら問い合わせて参加していた。
大型の合わせが好きだったのと、五年前は都内の有名総合病院で医療事務をしていたので激務だったため、定期的には合わせられなかった。
だから、毎回同じような環境の社会人同士の集まりで、はじめましての人が多かったのだ。
物怖じしない性格で、美人とまではいかなけれど、愛嬌はある方だ。
害のなさそうな外見と人柄で、第一印象は良く、周りと馴染むのは早かった。
今回もいかんなく発揮したい。
初めてだったこともあり、最初の集合時と部屋割り後に簡単な挨拶をしたが、その美しい生き物は、丁度挨拶が一通り終わったところで部屋に入ってきた。
「なち、おせーよ!」
「悪ぃ、寝過ごした!なちです、よろしくー」
常連なのか、名前だけ告げると、副サークル長の鈴木氏に呼ばれてその隣左奥へと腰を下ろす。
ふと、何気なしに周りを見渡すと、やはり、皆、彼、なちさんに注目しているようだ。
後から来たからじゃない。
彼が美人過ぎるからだ。
そりゃそうなるわ、と、目線を斜め前の美しい対象物に戻し、私は内心で何度も頷いた。
綺麗なものは、男も女も関係なく目を離せなくなるものだ。
それにしても、本当に美人だ。
素顔で2.5次元の世界。
ありえないほどの美人だ。
偶に私が『この人美人』と言っても首をかしげる人がいるけれど、きっと彼は誰がどう見ても美人だ。
あれだ、球体間接のドールみたいな。
あんな顔をしていたら大抵のことは許せる。
ゴミを投げてゴミ箱に入らずに『あ、入んなかった』とそのままにされても許せるし、使った後トイレの便座がそのままあがっていたとしても、電気がつけっぱなしだったとしても許せるし、ソファに我がものの顔でぐでんとしてても許せる。
知りもしない初めての人に対し妄想を炸裂してるけれど、こういうことは対象が男性であっても女性であってもわりとやる。
わざわざ人に言わないだけで、妄想癖の激しい人間なのだ。
控えめに言って、変態以外の何者でもないと自分で思ってる。
でも思うだけならだれも気が付かないし、罪にもならないのだからいいではないか。
この手の顔の作りには、昔から本当に弱かった。
相手が、女性でも男性でもだ。
男性は、なかなかいない。
目の前の美人を抜かせば、ひとりだけだ。
実家近くにあるコンビニ店員の彼だけだ。
や、彼なんて言っても、知り合いでもなければ名前も知らない。
けれど入った時にたまたまその子がいると、めちゃくちゃテンションが上がる。
ともかく男女限らず何故かずっと目がいくし、や、これは相手が美人過ぎるのが理由だと思うけれど、私が守んなきゃって感じになるのだ。
コス合わせで一緒になった女の子で、このタイプの美人さんがいて、私はやっぱり気になった。
気になったというか、気に入ったというか。
すらりとしていて目鼻立ちがはっきりした色白の美人さんで一瞬でテンションが上がった。
因みに、私の恋愛対象は男性だ。
女性と付き合ったこともなければ、恋愛感情を抱いたこともない。
なんというか、ただ単に、男女関わらずその顔立ちの美人が好き、なのだ。
好きというか、弱い……うん、好き過ぎて弱いのだ。
美人に弱い男性がいると言うが、私はその女性版だ。
阿呆みたいな話だけれど、それが私という人間だ。
あの時も、彼女に対してあからさまに話しかけてぴったり一緒にいたわけじゃない。
でも守んなきゃって感じで、随所随所で気にしてフォローに回っていたら、『理想は逆だ』と周りに言われたことがあったっけ。
キャラクター上それもわかる。
わかるが、私本来の性格までは変えられない。
私が三人姉妹弟の長女だと知ると、それで皆が納得してもらえたっけ。
変態と暴かれずにすんで本当に良かったと思う。
さて、改めて思うが、本当に美人だ。
この美人すぎる生き物に会えただけで、今日の収穫があった。
良し、次も参加しよう。
自己紹介が終わった時点で、私は早くも次の参加を決め込んだのだった。
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