梟の雛鳥~私立渋谷明応学園~

日夏

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【本編】五章 examination (2年次11月・the pastより1週間後)

examination -4-

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22時。
静まり返っていたビル全体に警報が鳴る。

(っ…、回線は間違えていなかったはずだが)
複数の足音が近づく。
手塚はルートを変えて、右に折れた。

pahhhn、pahhhn、pahhhn―――
「っ……」
久我を掠めるように弾が抜けていった。
あたりはしなかったが、紙一重である。

サイレンサーの無い銃は鳴り響く。

(まずいな…)
警報もだが、銃声も外に漏れているだろう。
更に左に折れると、足音が近づいてきた。

久我はスピードを上げる。
しかし、相手もかなりの早さだ。
右に左にと折れるも撒けない。
持久力には自信があるが、相手も随分とタフな人間だ。
これだけ動ければ大したものである。

(どうなっているんだ、一体)

脳裏で地図を広げるも、思った場所に階段がなかったり、 道が無かったりする。
ハッキングで間違えたのだろうか。
否、そんなはずはない。
ビルの場所もあっているし、会社もあっている。
記憶力には断然自身があるが、そうなると偽物をつかまされた可能性しかない。
だが、何のためにそんなことをするのだろうか?
立て直しや増築前の情報ではないだろう。

そして、やっと巻いたと思えば、また先ほどの拳銃攻撃だ。
(どうなっている………)

久我は窓を開けると外に出、ワイヤーを使い配管を伝って屋上に上る。
走らされて全体像が見えてこないからだ。


『な、なんだ……っ、あいつ…、早い…上に、持久力ありすぎる…っ』
「良く頑張ったわ、健ちゃん。上出来や」
久我を自慢の持久力を持って追ったのは澤邑である。
しかし、想像以上の相手であった。
追いつける自信もあったが、いざ追ってみれば追うのがやっとであった。

『窓から出てったみたいだぜ?』
「神楽の読みのとおりや。復活したら自分も行き?」
『了ー解』

「倫ちゃん、準備はえぇな?」
『本当の本当ーに、ワイヤー切っても大丈夫なんだろーな?』
「あぁ、久我は専用ピックも持っている。
ワイヤーが切れても死にはしないさ。
それにあいつの靴はビルの5、6階くらい平気で降りられる優れものだ。
ここは32階あるが―――…ま、大丈夫だろう」

『責任取れよ、神楽!』
「大丈夫、とどまる可能性98%。
落ちる確率は0に近いさ」

(あぁ、もうっ!)
秋元は久我のワイヤーを指示通りレーザーナイフで切った。
ブツッ。
鈍い音がして、ワイヤーが切れる。
pahhhn、pahhhn、pahhhn―――
銃声がし、続いてバリバリと配管が外れる音がして、それがやがて止まった。

暗視ゴーグルをつけて覗けば、ピックをつかってビルの高い場所で宙吊りになっている久我の様子が見えた。

(うわー、うわー、大丈夫かよ?そろそろやばいんじゃ?)

秋元が心配するも、そのまま様子を眺めていると久我はあいている左手で予備のワイヤーを取り出し 固定すると、弾みをつけて窓ガラスを破り中へと入ったのが見えた。
凄い身体能力である。

『倫ちゃん、今何階におる?』
「あー、桜介、24」
『自分が一番近い。久我が目指してるのはメインCP室、30階や。
久我が入ったらかぎ閉め?』

「お、俺?」
『健ちゃんも優成もまだ動けん、頼むで?』

秋元は階段を使い上を目指した。



メインCP室に入った久我は、急いでデータを盗む必要があった。
制限時間まで時間が無い。
警察への通報にはまだあと少しだけ時間があるだろう。

パスワードは予め用意していたものが、3つあった。
2つ目でヒットしたが、速度が思ったより遅い。
(10,20,35,68―――…)
メモリーが少しずつ埋まっていく。

あと少し、久我がそう思っていたところ。
カチャン。

(っ!?)
鍵が閉まった。

とりあえず必要な情報は全て取り出した。
鍵を開けるのは専門分野だ。
慣れている。
ここの鍵はカードの電子ロックと、鍵の二つで成り立っている。
専用の針を取り出し、鍵穴に埋めると、同時電子ロックの解除にとりかかった。

(このくらいは楽に開くと思うが―――…)

それにしても、邪魔が多い。
姿を見せないのが気にかかる。
それに、殺そうと思えば殺せない状況じゃなかったはずだ。
直接狙わないで配管の止め具を狙ってきたのはなぜだろうか。
人数は少なくとも3人はいる。
ワイヤーを切った者、直接追ってきた者、それから銃でねらってきた者。

(本当にこの会社に関係しているのか?)


なにか腑に落ちない。
カチャン

鍵をそれほど時間もかけずにあける。
すると、げっ、という人の声が聞こえた。

声だけだった、足が速いのか姿はもう見えない。
(大人にしてはやけに軽い足音だな…)


かわりに逆方向から足音が聞こえてきた。
久我は死角に身を潜め、相手が近づいてきたところを背後から押さえ込んだ。
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