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【本編】五章 examination (2年次11月・the pastより1週間後)

examination -2-

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放課後。
姫坂と綾瀬がおでん屋を目指している頃、 久我は直接仕事の書類を組織からうけていた。
それも、相方には知らせず一人でこなせという指示が出ている。
期限は今夜0時まで。
その間相方との連絡は一切とってはならないとの指示。
拒否権はないとのことだった。

久我からため息が漏れる。
相方との連絡は一切とってはならない、というところに疑問が浮かぶ。
が、その内容を見て納得した。
姫坂の過去に少なからず関わるものだった。

なら何故他の班に依頼しないのか―――…
そうは思うも、来てしまった仕事に拒否権が無いのなら仕方が無い。

以前仕事を単独で進めたことがあった。
その時、相方の姫坂は随分と怒った。
その言い分も久我には理解出来た。

仕事をやること自体は、問題ないだろう。
だが、今回のこの仕事は後が大変そうだ。

(悩んでいても仕方がないな)

1度帰宅した久我は、時間を確かめてパソコンを開く。
姫坂からは今日は放課後綾瀬とおでんを食べに行くという連絡があった。
こっそり車を出すあたり、綾瀬が最初からもう行くと決めていたのだろう、駅からは少し離れているという。
ならば、時間的にまだ帰ってこない。


2時間の調査を終えたときだった。

『夕飯、今日はいらないや』

姫坂からのメッセージだっだ。
丁度良いタイミングだ。


実際に動くのは日が落ちてからの方が良いだろう。
久我はいくつかのパターンを想定して計画を練りはじめた。



審査員における上からの指示は、
『架空の会社における仕事で審査せよ。
実施日程:明後日午後4時30分から0時まで』
とだけある。
つまり、架空の会社を作るのは審査員となる。

組織のメールが届いてまもなくすると、救護班の春名からチャットが届いた。
彼のところが一番広いワークルームらしい。
すぐに集合せよとのことだ。


審査員要請がきてから1時間後、全ての審査員が救護班のワークルームに集まった。

「さて、そろったな?
顔はメールの写真でそれぞれ確認済みや、自己紹介は省いてさっそく内容に入るで?」

普通のマンションのような作りで、無駄に広いワークルームだ。
奥にもまだ救護用の部屋があるらしい。
リビングにあたる部分に、7人が集まっても窮屈には思わない広さがある。

春名は普段仕事用に使うホワイトボーとスライドをリビングに用意した。


「架空の会社って……マジに俺らが作るのか?」
澤邑から声が上がる。
「わかったこと聞いんじゃねぇよ」
「うっせぇ、優成」

「はいはい、仲良いんは知ってるから喧嘩せんと」
「「ア?」」

「でも、どうすんだよ?
架空の会社っていったってさ、久我は窃盗班だぜ?
俺らよりハッキングだって上手だし…たしか、ハッキングAランクだ、久我」

「げ、年数浅いのにAかよ?」
「くくっ、お前はDだったっけなぁ、健」
「だーっ!今関係ねぇだろうがっ!」

「…なんや、まとまりなくて先が思いやられる―――…」
がっくりと肩を落としているのは春名だ。
静かに口を開いたのは、今まで傍観していた神楽である。

「姫坂の過去に関わる会社を作ればいい。
あの事件は姫坂の父親の会社のいざこざではないかとの見方も高い。
いまだ未解決だがね。
その会社は3回名前を変えて、上の人間も仕事の内容も変わり、今じゃ表向き全く別の会社だ。
海外の会社だし、一般検索のヒット率いまじゃないに等しい。
事件の雑誌には目を通していても、今どうなっているかまでは久我も調べていないだろう」

その話に春名が顎を引く。
いい考えだ。

「な、なんで姫の過去を持ち出す必要があんの!?」
反対するのは綾瀬である。
綾瀬は例の雑誌に目を通していたので、姫坂のその事件を知っていた。
それじゃ姫坂があまりにも可愛そうだ。

「まず、久我を姫坂と連絡を取らずに一人で仕事を遂行させる必要がある。
下手に全く関係の無い会社を作り上げれば、いくら久我だって単独依頼を疑問に思うだろう」

「っけど!」

「時間が無ぇ、それでいこうぜ」
「綾瀬、姫坂には俺らからも上からも話いかないし、
まして久我だったら姫坂には言わないって」
王寺が同意し、秋元が綾瀬を慰める。
綾瀬は渋々承諾した。

「けどよ、そんな会社、久我に悟られること無いように作ることできんのか?
俺には無理だぜ?」
澤邑がもっともな疑問をなげた。
それに答えたのは神楽である。

「それは任せてくれ。
因みに俺のハッキングテストと情報処理は姫坂に続いてSランクなんでね」

「「「「「「はい?」」」」」」

神楽、なぜ開発班なんだ―――…と誰もが思う瞬間だった。
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