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【本編】五章 examination (2年次11月・the pastより1週間後)

examination -1-

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11月に入り、急に寒さが増してきた。
寮の部屋にも教室にもばっちりエアコンの暖房は完備されているが、廊下までは行き届きにくいし、
教室も場所によっては隙間風が入ってくる。
寒がりな生徒は、ひざ掛けをかける者や、足元に小さなヒーターを置く者もいた。
姫坂もそのうちのひとりだ。
ヒーターはまだ出番がないが、すでにひざ掛けを使用している。

姫坂の席は綾瀬の席の後ろである。
そのため授業中はもちろん休み時間も席を離れることは少なかった。
休み時間ともなれば、綾瀬がまってましたとばかり椅子を後ろにまたいで姫坂と話を始める。

今もそんな具合だ。
「姫ー、おでん食べに行こー?」
「いいよ。でも―――」

「こっそり車出すからさー暖房入れるし!
駅前から少し外れてるけど、そこ、安いし美味しいんだー。
今季おでんまだでしょ?今日デビューしようよ、食べたいー」

それほどまで行きたいのかと、姫坂は笑みを漏らした。

「いいよ」
「やた!」


この後の授業、伊織は放課後のおでんツアーで頭がいっぱいだった。
正確に言うと、おでん食べたさではなく、“仕事”だ。

(姫、騙すような事してごめん……)

姫坂には見えないところで、伊織の表情は暗かった。



さかのぼる事、一昨日の夜。
組織からのメールが届いた。
先に伊織がそれを受け取って中身を開いた。

「っ……」

仕事内容は、本来の護衛とはかけ離れたものだ。

『Aグループ窃盗班所属 久我正治の審査員要請』

審査―――。
伊織はそろそろ来ると思っていた。
自分たちの審査員も、久我の審査も。

久我が組織に所属した年数は2人より2年ほど浅かった。
姫坂が所属している年数はその1年後あたり。
入学後すぐに伊織も鷹司も審査を受けて、合格している。
話をしてはいないが、姫坂も審査を受けているはずである。
審査の内容は人によって異なるが、所属年数と仕事の経験年数を考慮して行われるのだ。

その内容は審査対象に出来るだけ精神的苦痛を味わせ、耐えることが出るかを見るものだ。
審査の合否は仕事の成功、失敗に関係ない。

審査の大まかな指示は上から出されるが、 審査員の行動は基本審査員同士で連携を取る。
審査員に抜擢されるのは、既に審査を経験済みな者たちだ。
審査から1年以上経過した者で同グループが中心となるが、審査対象の人物の人付き合いにもよる。
審査員の人数は7~8人程度。
審査員も同時上からの審査対象となっている。
下手に甘くすると、今後の仕事内容に関わってくる。
本気で審査対象を、おいこまなければならない。

ただし、相方は審査員に含まれない。
相方が同時審査の対象で無い場合、その審査を悟られないよう動く必要性がある。

審査を受けたものは、審査の存在自体を口外してはならない。
それが、相方であってもだ。

姫坂は感が鋭い。
どう考えても、この場合姫坂を久我から放すのは自分の役目になるだろう。
伊織にとって、姫坂をだますのは気がひける。

しかし、普段の仕事と違ってこの審査員は拒否することが出来ない。

「真ぉ……どうしよう?」
審査員要請には鷹司の名前もある。

「やるしかないだろう、伊織」
「けど…」

「久我なら耐えられるさ」
「うー…」


『審査員要請

審査対象:Aグループ窃盗班所属 久我正治

以上1名。


以下の7名は上の者を審査せよ。

Aグループ 護衛班:綾瀬伊織
Aグループ 護衛班:鷹司真
Aグループ 救護班:春名桜介
Aグループ 医療班:秋元倫
Aグループ 開発班:神楽慎之介
Bグループ 暗殺班:王寺優成
Bグループ 暗殺班:澤邑健


詳細は添付資料にて』
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