梟の雛鳥~私立渋谷明応学園~

日夏

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【本編】第四章 the past (2年次10月末・bule drop後)

the past -5-

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ーーーーー姫坂と綾瀬が中庭にいる頃。

「なあ、久我……これ、お前?」
クラスメイトに恐る恐るというように話しかけられた久我は、差し出されたスマホをのぞき込む。
懐かしい映像だった。
昔テニスをしていたころの映像で、メダル片手に笑顔でインタビューに答えている。
まぎれもなく自分だ。
このころは、信じるものがたくさんあった。

「ああ、俺だけど」
「え、でも部活とか、今、もうテニスやってないのか?」
「肩、壊したから」
「あ、そっか……ごめん」
「いや、けど、よく見つけたな」

「あー、うん、学校の裏掲示板に上がってた」
「…そうか」

久我は、裏掲示板、と聞いて、誰が上げたんだ?と思うが、そういうのが好きな奴もいるだろう、と思い直した。
組織に入るときに、情報を操作するか問われたが、断ったのは自分だ。
瞳の印象が強いのは分かっていたし、あの頃は、メディアに出すぎた。
自分だけではなく、親もある意味有名だったからだ。
名前を変えたり顔を変えたりするのは面倒だった。
どちらでもかまわない、との組織の回答に、ならばそのままで、と返したのは自分である。
こういったことが起きないとは限らないし、裏掲示板といえど掲示されたままだということは、自分で何とかしろ、ということだろう。

「おい、久我、俺の相方からお前の過去の…」
「ああ、今さっき、俺かどうか確かめにきた奴がいたな」

顔色の悪い王寺が教室に入ってくるなり、久我に小声で声をかけてくる。
じっと顔を見つめられて、その後、安心したようにため息を吐かれた。

「?どうした?」
「や、平気そうだなって思ってよ……。俺は、そいういうのはないから。ただ、今、相方の方がちょっと、な」
「?」
「や、ここであんま話題にしたくねえけど、過去に関わるもの知らない間に受け取ってたらしくて。
だから、お前のもなんかあるのか、って勘ぐっちまった」
「…お前の相方の方はわからないが、俺の方は名前を検索したら情報は出てくる。
あの頃は、いくつか取材も受けていたから、裏掲示板とやらにあげたのは一般の生徒だと思うぞ?」
「そっか、ならいいんだ」

「久我、今ーーー」
「ああ、今聞いた」

こちらも普段とは違う顔つきで、葉室に話しかけられて、すぐさま返事を返す。

「? 行かなくていいの?」
「は?」
「姫坂、中庭で倒れて綾瀬が抱えてったって話だけど」
「そっちは聞いてない」

キーンコーンカーンコーン……

「悪いけど抜けてくる」

予鈴が鳴る中、久我は教室を出ていく。
無線の連絡をとるかスマホを鳴らすか迷ったが、とりあえずどちらもせずふたりがいるだろう保健室へと足を向けた。

「あ、久我」

呼び止められて振り返ると、姫坂がよくつるんでいる西園寺と八尋だった。

「これ、伊織と姫の教科書とノート、中庭にあったやつ。お前に渡しとく」
「わかった。…倒れるところ見てたか?」
「いや、俺たちは見てない」
「そうか」

西園寺からノートを受け取り、久我は再び保健室を目指したのである。
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