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【本編】第四章 the past (2年次10月末・bule drop後)
the past -4-
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「っ?!」
綾瀬は姫坂の異変にすぐさま気がつき、巻き取った暗幕を無理やり自分の腕から取り払った。
中庭にいた生徒たちが何事かと自分たちを見やる。
いつものやさしげな笑みは消えうせ、空を泳いでいる姫坂の双眼から読み取れるのは怯えだった。
震える両肩と両手。
不規則で可笑しな呼吸は、過呼吸によるものだった。
「ひ、姫?!っ……」
綾瀬はすぐさま姫坂の体を横抱きに抱えた。
同い年にしては随分と華奢な体つきをしている姫坂は、思った以上に軽い。
元来た中庭を走って引き返す。
綾瀬は、姫坂の顔を自分のシャツに押しつけた。
過呼吸は酸素のとりすぎによって起こるから、吐いた息を吸えば元に戻るのだ。
組織の訓練を受けていた綾瀬は、そのくらいの処置なら容易に分かっていた。
教科書は中庭においたままだ。
教科書はともかく暗幕は目立つだろうから誰かしら気がつくことだろう。
ならその場にある教科書もノートも気がついてくれるだろうし、教科書とノートには2人とも名前が書いてある。
それに、けっこう野次馬がいたはずだから噂にもなるだろう。
「じゃまだっての、どけよっ」
普段明るく優しい綾瀬が、凄みをきかせた形相で廊下をたむろしていた下級生を睨んだため、その生徒たちは変わりようにすぐに散った。
保健室にたどり着くと同時、チャイムが鳴る。
1度目はすでに鳴った後だから、今のは本鈴だ。
はっきりいって、今日の化学の実験に参加しないと単位がヤバイ。
姫坂は日数的に少しだけ余裕があるけれども、綾瀬には全くなかった。
でもそんなこと気にしていられない。
これで単位を落とそうとも、綾瀬は後悔しない。
寧ろ、このまま放っておいて授業にでるようならそれこそ後悔するだろう。
東棟1階にある第一保健室には誰もいなかった。
扉には今日は第一保健室の先生が休みのため、第二保健室に行くようにとの張り紙がしてある。
しかし、綾瀬には関係ない。
鍵などなくても扉は開けられるし、保険医がいなければいないで大抵の処置くらい出来るのだ。
姫坂をベットに寝かせるとその様子を確かめる。
気を失っているだけで、呼吸も元に戻っている。
とりあえず何の心配もいらないようだった。
ほっとため息をつくと同時、ガラリと扉が開いた。
綾瀬ははっとしてそちらに目を向けた。
人の気配が全くしなかったのだ。
思わず身構えた綾瀬であったが、現れた人物を確認すると、肩の力を抜いた。
「久我ぁ~、びっくりさせるなよな、気配無く扉開けるなよー」
現れたのは久我だった。
同じ組織で訓練した者なら、人の気配がしなかったのも納得のいく話である。
「騒ぐなよ、見られるとまずい。ここ、鍵かかってたんだろ?」
「う゛……、そ、そうだけど。じゃなんで来たんだよ?見られるとまずいんだろ?」
表情の変わらない久我にブーブーと抗議すると、目の前に教科書とノートが差し出された。
綾瀬はそれを受け取る。
「姫坂を保健室に連れて行って遅くなった、あの教師ならそれだけの理由があれば 大丈夫だ。あのとき見物人も多かったからな。
お前は今から受けに行ってこい、単位がやばいんだろう?ここは俺がかわる」
綾瀬はぱちぱちと瞬きをくりかえしたあと、にっと笑いお礼を言った。
「さんきゅ、姫のこと頼んだかんね?」
「あぁ」
久我に任せておけば後は大丈夫だろう。
綾瀬はより近道をするために窓を開けるとそこから中庭へとおり、特別棟にある化学室を目指した。
綾瀬は姫坂の異変にすぐさま気がつき、巻き取った暗幕を無理やり自分の腕から取り払った。
中庭にいた生徒たちが何事かと自分たちを見やる。
いつものやさしげな笑みは消えうせ、空を泳いでいる姫坂の双眼から読み取れるのは怯えだった。
震える両肩と両手。
不規則で可笑しな呼吸は、過呼吸によるものだった。
「ひ、姫?!っ……」
綾瀬はすぐさま姫坂の体を横抱きに抱えた。
同い年にしては随分と華奢な体つきをしている姫坂は、思った以上に軽い。
元来た中庭を走って引き返す。
綾瀬は、姫坂の顔を自分のシャツに押しつけた。
過呼吸は酸素のとりすぎによって起こるから、吐いた息を吸えば元に戻るのだ。
組織の訓練を受けていた綾瀬は、そのくらいの処置なら容易に分かっていた。
教科書は中庭においたままだ。
教科書はともかく暗幕は目立つだろうから誰かしら気がつくことだろう。
ならその場にある教科書もノートも気がついてくれるだろうし、教科書とノートには2人とも名前が書いてある。
それに、けっこう野次馬がいたはずだから噂にもなるだろう。
「じゃまだっての、どけよっ」
普段明るく優しい綾瀬が、凄みをきかせた形相で廊下をたむろしていた下級生を睨んだため、その生徒たちは変わりようにすぐに散った。
保健室にたどり着くと同時、チャイムが鳴る。
1度目はすでに鳴った後だから、今のは本鈴だ。
はっきりいって、今日の化学の実験に参加しないと単位がヤバイ。
姫坂は日数的に少しだけ余裕があるけれども、綾瀬には全くなかった。
でもそんなこと気にしていられない。
これで単位を落とそうとも、綾瀬は後悔しない。
寧ろ、このまま放っておいて授業にでるようならそれこそ後悔するだろう。
東棟1階にある第一保健室には誰もいなかった。
扉には今日は第一保健室の先生が休みのため、第二保健室に行くようにとの張り紙がしてある。
しかし、綾瀬には関係ない。
鍵などなくても扉は開けられるし、保険医がいなければいないで大抵の処置くらい出来るのだ。
姫坂をベットに寝かせるとその様子を確かめる。
気を失っているだけで、呼吸も元に戻っている。
とりあえず何の心配もいらないようだった。
ほっとため息をつくと同時、ガラリと扉が開いた。
綾瀬ははっとしてそちらに目を向けた。
人の気配が全くしなかったのだ。
思わず身構えた綾瀬であったが、現れた人物を確認すると、肩の力を抜いた。
「久我ぁ~、びっくりさせるなよな、気配無く扉開けるなよー」
現れたのは久我だった。
同じ組織で訓練した者なら、人の気配がしなかったのも納得のいく話である。
「騒ぐなよ、見られるとまずい。ここ、鍵かかってたんだろ?」
「う゛……、そ、そうだけど。じゃなんで来たんだよ?見られるとまずいんだろ?」
表情の変わらない久我にブーブーと抗議すると、目の前に教科書とノートが差し出された。
綾瀬はそれを受け取る。
「姫坂を保健室に連れて行って遅くなった、あの教師ならそれだけの理由があれば 大丈夫だ。あのとき見物人も多かったからな。
お前は今から受けに行ってこい、単位がやばいんだろう?ここは俺がかわる」
綾瀬はぱちぱちと瞬きをくりかえしたあと、にっと笑いお礼を言った。
「さんきゅ、姫のこと頼んだかんね?」
「あぁ」
久我に任せておけば後は大丈夫だろう。
綾瀬はより近道をするために窓を開けるとそこから中庭へとおり、特別棟にある化学室を目指した。
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