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【本編】三章 nuisance (2年次4月)
nuisance -4-
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「愛良…っ………君もきてたのか?」
測定を終えて、後は健診のみに差し掛かったときである。
流石にもう仁村はいなかったが、代わりに鬼塚がいた。
姫坂は無視を決め込むことにした。
さっきのようなことにはならないようにと。
違うのは隣に久我がいることだ。
何かあれば先ほどのようにとめてくれるだろうし、 あまりに相手か酷ければなんとかしてくれるだろう。
少し甘い考えだが、頼るしかない。
姫坂は仁村よりも鬼塚の方が苦手だったからだ。
「愛良、そろそろやり直さないか?」
「………」
斜め前の席から鬼塚が姫坂に向かって話しかけてくる。
健診は各順番が決まっているから終わるまで付きまとわれるかもしれないと思うと 姫坂はうんざりとする。
やり直すも何も、1回だけ仕事上のパートナーだっただけの相手だ。
変な言い回しはしないで欲しい、と姫坂は切実に願った。
が、その願いも空しく。
「俺はお前を今でも愛している。
お前もそうだろう?愛良―――……」
「………」
ぞわりと気持ち悪さに鳥肌が立つ。
どういう思考回路をしているのか調べて欲しい。
「…お前、変な者ばっかり好かれるな」
「好き好んで好かれてるわけじゃない。
ーーー今のパートナーとは上手くやってるから」
久我の呆れが含まれた言葉に、姫坂は文句を返した。
文句を返すことで、いくらか平静を保つことが出来たと思う。
うまくやっていると言葉にすれば、相手、鬼塚の表情が驚きに変わった。
「そいつが?そいつが今のパートナーなのか?
愛良、君にはふさわしくない」
「君の意見は求めていない」
「目を覚ませよ、騙されているんだ、愛良。
君をそうさせたのはこの男なのか?
俺の愛良を返してくれ、あの綺麗な笑顔を見せてくれ」
吐き気がする。
たぶん、こいつは何を言っても通じないだろうと姫坂は思う。
文字通り、病んでいるのだ。
「少し黙ってくれ。
それからもうこいつに構うな」
言葉は姫坂の隣から放たれた。
最初は口を出さない気でいた久我だったが、姫坂の限界が近いことを悟り割り込むことにしたのだ。
「っな……、君は俺と愛良の間になんの関係も無い!」
「関係の無いのはおまえと姫坂だろ?
お前は何を見ているのか知らないが、現実見ろよ。
俺はお前のことはどうでもいい。
けど、コレに倒れられでもしたら困るからな、口を挟ませてもらう」
「……どういう意味だ?愛良、俺は愛良にとって迷惑なのか?」
そんな声で言わないでほしい、というのが姫坂の思いだ。
(まるで僕が悪いみたいじゃないか……)
善悪の区別がわからなくなりそうだ。
何が正しくて、何が正しくないのか。
「迷惑、してるよ。
もう、あっちいってくれるかな。
話しかけないでくれる?」
「君は騙されているんだ、愛良、目を覚ませっ!」
身を乗り出してくる鬼塚に、姫坂は思わず身を引いてしまった。
その間に割って入り、鬼塚の首に手刀を落としたのは久我だった。
「うぐっ………」
鬼塚は一度低く呻くと、どさりとソファに沈み込み気を失った。
それを見て、姫坂が目を丸くする。
そこまでやるか、と久我を見やった。
久我正治、この男は姫坂の思わぬところで大胆行動をやってのけるのだ。
姫坂には到底考え付かなかった対処の仕方だ。
「これで静かになったな。
最初からこうすればよかった」
それは同意できるとして、姫坂は頷くだけで答えた。
「これに懲りたら、最初から地を出してけよ。
そうすればこんな勘違いをする奴、いなくなるだろ」
返す返事も無く、姫坂は久我の二の腕を一度叩くことで返したのだった。
測定を終えて、後は健診のみに差し掛かったときである。
流石にもう仁村はいなかったが、代わりに鬼塚がいた。
姫坂は無視を決め込むことにした。
さっきのようなことにはならないようにと。
違うのは隣に久我がいることだ。
何かあれば先ほどのようにとめてくれるだろうし、 あまりに相手か酷ければなんとかしてくれるだろう。
少し甘い考えだが、頼るしかない。
姫坂は仁村よりも鬼塚の方が苦手だったからだ。
「愛良、そろそろやり直さないか?」
「………」
斜め前の席から鬼塚が姫坂に向かって話しかけてくる。
健診は各順番が決まっているから終わるまで付きまとわれるかもしれないと思うと 姫坂はうんざりとする。
やり直すも何も、1回だけ仕事上のパートナーだっただけの相手だ。
変な言い回しはしないで欲しい、と姫坂は切実に願った。
が、その願いも空しく。
「俺はお前を今でも愛している。
お前もそうだろう?愛良―――……」
「………」
ぞわりと気持ち悪さに鳥肌が立つ。
どういう思考回路をしているのか調べて欲しい。
「…お前、変な者ばっかり好かれるな」
「好き好んで好かれてるわけじゃない。
ーーー今のパートナーとは上手くやってるから」
久我の呆れが含まれた言葉に、姫坂は文句を返した。
文句を返すことで、いくらか平静を保つことが出来たと思う。
うまくやっていると言葉にすれば、相手、鬼塚の表情が驚きに変わった。
「そいつが?そいつが今のパートナーなのか?
愛良、君にはふさわしくない」
「君の意見は求めていない」
「目を覚ませよ、騙されているんだ、愛良。
君をそうさせたのはこの男なのか?
俺の愛良を返してくれ、あの綺麗な笑顔を見せてくれ」
吐き気がする。
たぶん、こいつは何を言っても通じないだろうと姫坂は思う。
文字通り、病んでいるのだ。
「少し黙ってくれ。
それからもうこいつに構うな」
言葉は姫坂の隣から放たれた。
最初は口を出さない気でいた久我だったが、姫坂の限界が近いことを悟り割り込むことにしたのだ。
「っな……、君は俺と愛良の間になんの関係も無い!」
「関係の無いのはおまえと姫坂だろ?
お前は何を見ているのか知らないが、現実見ろよ。
俺はお前のことはどうでもいい。
けど、コレに倒れられでもしたら困るからな、口を挟ませてもらう」
「……どういう意味だ?愛良、俺は愛良にとって迷惑なのか?」
そんな声で言わないでほしい、というのが姫坂の思いだ。
(まるで僕が悪いみたいじゃないか……)
善悪の区別がわからなくなりそうだ。
何が正しくて、何が正しくないのか。
「迷惑、してるよ。
もう、あっちいってくれるかな。
話しかけないでくれる?」
「君は騙されているんだ、愛良、目を覚ませっ!」
身を乗り出してくる鬼塚に、姫坂は思わず身を引いてしまった。
その間に割って入り、鬼塚の首に手刀を落としたのは久我だった。
「うぐっ………」
鬼塚は一度低く呻くと、どさりとソファに沈み込み気を失った。
それを見て、姫坂が目を丸くする。
そこまでやるか、と久我を見やった。
久我正治、この男は姫坂の思わぬところで大胆行動をやってのけるのだ。
姫坂には到底考え付かなかった対処の仕方だ。
「これで静かになったな。
最初からこうすればよかった」
それは同意できるとして、姫坂は頷くだけで答えた。
「これに懲りたら、最初から地を出してけよ。
そうすればこんな勘違いをする奴、いなくなるだろ」
返す返事も無く、姫坂は久我の二の腕を一度叩くことで返したのだった。
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