梟の雛鳥~私立渋谷明応学園~

日夏

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【本編】一章 bule drop(2年次10月頃~過去有)

bule drop -12-

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「鷹司と綾瀬は大我の護衛を頼む。
俺たちは今度こそ“bule drop”を手に入れる。
手に入れるまでここは自由に使って構わない。
ーーーいいだろ?姫坂」

「うん、いいよ」

なんだかんだ言いつつも、2人が良いコンビだと思える鷹司と綾瀬だった。
自分たちは一緒にすごしてきた時間が長い。
それに対して、姫坂と久我は仕事についてからのコンビだ。


「問題はーーー」
「セキュリティ解除にどれだけかかるか、だよね」
「あぁ」

「学校休んで寝ずにやれば3日で何とかできる…かもだけど」
「やめろよ、実行日に集中力が鈍る。
それにそう休んでもいらんないだろ?」

仕事があるたびに、早退や遅刻、欠席を何度か繰り返しているのだ。
久我よりも姫坂の方がその回数は多い。

「そんなにでもないよ」
「どうだか…」


「なぁ、セキュリティって美術館のセキュリティのこと?」

それまで口に挟まなかった綾瀬が、口を開いた。

「うん、そう」
「それなら俺知ってるよー。
オーナーからばっちし聞いたもんね」

イエーィとピースを見せる綾瀬に、姫坂はまじまじと見てしまう。
なぜ、綾瀬が?、である。

「本当?!」
「ほんと、ほんと。
あの美術館、結構盗品が多くてさぁ…、あの美術館にあるものこっそり借り物があるんだよね。
そんでもって、それが結構高価なわけ」

「…ってーーーもしかして、オーナー自身が盗品をしている?」
「ピンポーン。
俺も頼まれたんだよね、しかもそのことは大我も知ってるわけ。
どうしても行きたいっていうからあの日こっそり連れてったんだ。
あの日は、姫坂と久我にとっても実行日であったけれど、 オーナー側にとっても実行日であったわけ。
同日になくなれば、怪盗キッズの犯行になるわけじゃん?
保険かけているものだし、警備頼んでるからオーナーが盗んだことさえばれなければ利益がある。
セキュリティを切る前に2人が来たのは予想外だったけれどねー」

「…伊織、そういうことなら俺にもちゃんと言ってくれ」

どうやら鷹司は盗み云々は聞いていなかったらしい。
どういう理由があれど物を盗む行為を鷹司は嫌っていた。
それは姫坂や久我には口にしないけれど、綾瀬は知っていたのだ。
知っていたからこそ、口にしなかった。
出来なかったのである。

「ごめん……」
さっきの堂々とした態度から急にしぼんでしまった綾瀬は、まるで主人に怒られた犬のようである。
鷹司はめったなことでは怒らない。
ゆえに、綾瀬はそれになれていなかった。

「まぁ、鷹司。伊織だって何も考えずに黙ってたわけじゃないんだし。
とりあえず、伊織のおかげで準備はすぐに整いそうだよ」

「…知った時点でこっちに連絡くれればもっとスムーズに済んだ気もするけれどな」

久我が口にしたことは確かにそうだが、 綾瀬は綾瀬で大我のそばにいるときは監視を受けているのだ。
仕事中姫坂と久我に連絡をとるのは、自分の信用におけるデメリットが生じる。
最初から連携しているなら別だが、今回はそういった意図は最初からなかった。

それに時間外に連絡をとれば別の話だが、わざわざ自分が伝えるような内容だとも思わなかったのだ。
2人なら館内のセキュリティくらいなんの問題もないだろう、綾瀬はそうふんでいたのである。


「僕たちの失敗を伊織のせいには出来ないよ」

姫坂の最もな言葉に、久我はため息を1つつくと、そうだったなと呟いた。



「えー?!伊織兄ちゃんなんで?え、なんで?!」

翌朝姫坂と鷹司は学校に向かった。
決行は今夜である。
行ける時に行ける方が学校へ行ったほうがいい、そう判断したのは久我だった。

一方綾瀬と久我はワークルームに残った。
久我は今夜の準備を、綾瀬は大我の相手をするためである。

「そうだよん、姫坂と俺は同じクラスなんだー」
「そうなのか?でも……それじゃ、伊織兄ちゃん学校行けてないんじゃないか?
俺とずっと一緒にいたりして、大丈夫?」

「綾瀬!余計な情報は口にするなよ!」
そこに口を挟んだのは久我である。
子供だからといって容赦ない。

綾瀬は久我が苦手だった。
嫌悪しているわけじゃないが、なんだか威圧感が慣れない。

「い、いーじゃんか、久我は仕度してろって。
大丈夫だって、大我。ちゃんと日にち数えてるし!」

実際は出席日数がけっこう危ないのだが、そうも言ってられない。
それに無期限の仕事を選んだのは綾瀬自身だった。
仮に単位を落として高校一年生をまたやり直すことになったとしてもそれは単に自分のせいであると、ある種開き直っている綾瀬だった。

「ならいいけどさー。
でも、伊織兄ちゃんがいたら百人馬力だな!」
「そーそ。
まかせといてよ、それに今度はぜーったい見失ったりしないかんね!」
「よし!成功させようぜ!」

どう見ても綾瀬が大我の相手をしているのではなく、2人して騒いでいるの間違いだ。
人選を誤った、久我は心からそう思った。



『セキュリティシステム解除完了っ!』
「了解」

美術館の裏側にあるビルの屋上にいた姫坂は、綾瀬の言葉を耳にすると小さく口にする。
今日は風も少ない。
この距離なら余裕で美術館の屋上に飛び移れるだろう。
普通の靴ならばそうもいかないが、今姫坂が履いている靴は組織Aグループの開発班で作られた超衝撃吸収型ブーツなのである。

改めて同じものを盗むとの知らせに、一度目よりも報道陣は膨れ上がった。
警察も厳重警備となった。
セキュリティの解除がされるならば、陸地からよりも上から入った方が楽だ。
今回のルートは、久我と姫坂との合作だ。

姫坂は少々派手なものを好む。
スリルを楽しむ傾向があるのだ。
今のところこだわりというのはないようだが、この仕事にとっては厄介な感情だ。
スリルにこだわって、危ない橋を渡るようでは身が持たない。
久我はある程度それを感じ取っている。
姫坂が言い出す前に今回の仕事でグライダーの使用を禁じた。
第一風がなさ過ぎるし、狭いビルとビルの間を抜けて目的地まで行くのは困難だ。

そんなわけで、今回はわりと地味になった。
確実性はそのほうが高いので、久我は文句を言わせなかった。

姫坂はマスコミのヘリが避けたところで、屋上に飛び移る。
容易に成し遂げると、マスクをつけた。
催眠ガスを遮断するためである。

昼間久我は一度この屋上を訪れていた。
レーザーナイフで“bule drop”の丁度真上に堂々と床に切り込みを入れたのだ。
円状に切り込まれたそれを音を立てることなくはずし、姫坂はそっと中の様子を覗く。

(警備は…へぇ、これはまた結構多いね。
本当は催涙弾を使いたいけれど)
そう思いながらも手にするのは、催眠弾である。
催眠ガスが圧縮されて入っているそれを3つほど取り出し投げ込んだ。

催涙弾を使えばこの警備員たちが慌てふためく様子を目に出来るし、マスコミと警察が騒ぎ出すのは想像たやすいのだ。
それをさけたのは久我である。

通常催眠ガスは即効性が薄いが、Aグループの開発班は即効性が強い催眠ガスを作り上げた。
通常の者ならば3秒間で意識を手放し、時間にして約1時間は持つ代物だ。
姫坂は一度中の様子を伺うと、ワイヤーを使って上から進入し、鍵を開けると簡単に“bule drop”を手にした。
何か物なりなさを感じながらも、姫坂は屋上に戻り、裏の塀を乗り越える。

バラバラとヘリの音が鳴り響き、警察は尚も沢城邸を囲み三方向にライトを当てているままだ。
怪盗キッズの姿は捉えられなかった。
いつもは影くらい見せるものなのだが、今回それがないままに終わる。

これでいいのか。
なにかしっくりとこない。
そう思いながらも、姫坂は皆と合流した。
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