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【本編】一章 bule drop(2年次10月頃~過去有)
bule drop -4- 1年前
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時として約1年を遡る頃―――――
久我はようやく組織の一員となり、組織が所有する施設から外に出た。
約1年ぶりに外の空気を吸い込む。
都会の空気に、お世辞にも気分がいいとは言えなかった。
煌々と明かりがついているこのあたりは夜中でも明るい。
同じような高層マンションや企業ビルが建ち並んでいる。
空が狭い。
圧迫感のある灰色の壁は、まるで今の心境を映しているようだと久我は思う。
思わず、自嘲するかのように口端を歪めた。
欲しいものは何もない。
生きる意味はなんなのだろうか?
生きる意味がわからない。
しかし、死にたいとも思わなかった。
寧ろ、何が何でも生きてやろうという気になった。
何も望むものがないのに。
ここまで生に執着している自分が滑稽でならない。
モバイルに送られてきた地図に再度目を通し、間違いのないことを確認する。
明るく真新しい高層マンションと企業ビルが多い区画を一つ抜けた先にある、広大な敷地。
レンガ調の門の周りには、高さの綺麗にそろった木々が並んでおり、その奥先は噴水を中心にシンメトリー
な芝生と花壇が続いているようだが、光に閉ざされているとある種の不気味さを感じる。
昼間目にすることがあればさぞ美しい光景だろう。
現在の時刻は、22時。
今日から久我は、表向きこの私立渋谷明応学園の1年生として寮生活を、
裏では梟の雛鳥となり組織の一員として生活を送ることになっている。
久我はこれまでずっと訓練を受けてきたが、高校の夏休みを明けた頃に仕事をとれる様になったのだ。
すぐに仕事を割り当てられるかと思ったが、そこから1ヶ月ほど待機となる。
拍子抜けしたものの、立場と状況を再認識する時間には丁度良かった。
班は窃盗班に割り当てられた。
別にどの班になってもかまわなかったが、建物内に立てこもり研究に没頭する開発班だけは向いていないと思っていた。
割り当てられてからの手続き期限は2日間で随分と急であり時期も中途半端だったが、さほど驚きはしなかった。
急な欠員、つまり死亡になることも少なからずある、とたたき込まれていたからだ。
何か使命感があるわけでもない。
だが、やっかいなのは共同生活というところにある。
煩わしい他ない。
聞けば姫坂愛良は自分と同い年で、 元々1年前から窃盗班として仕事をしてきているから、わからないところは彼に聞けばいい、というのがリーダーの立川氏、この学園で数学教師をしている者からの話だ。
立川からは、他にこれといった説明はなかった。
今日から仕事をこなしながら、同じ寮生活で暮らすというのに、相手の顔すらも教えられていない。
ただ、よく施設内で顔を合わせていた人物によれば、この姫坂愛良は相方が仕事のたびに変わることで有名らしい。このよく顔を合わす関西弁の男、のらりくらりとしていてつかみどころのないの男なのだが、なにかと勘の鋭い男だった。
どこのグループでどの班に所属するかは聞いていない。
が、この男は自分と同い年で、どこかのグループのどこかの班でもう仕事をしているようで、ここには単に体つくりに来ているのだと口にしていた。
男が自ら語らなかったから、こちらからあえて名前は聞かなかった。同じ学校であればそのうち会うだろう。
その男の情報によれば、理由はどこにあるのか分からないが、 姫坂愛良の意思ではなく、相手の意思によるものだと言う。
組織はよっぽどのことがないかぎり一度決めたパートナーを代えることなしない。
組織がそれを許しているとなれば、この姫坂愛良という人物がよっぽど厄介者なのだろうか?
しかし、仕事においてその手際の良さは組織でも1、2を争うものらしい。
特にハッキングにおいて右に出るものはいないらしく、難易度の高いものは、他グループから依頼が来ていたほどだという。
噂ばかりを耳にしてしまった久我は、先が思いやられた。
久我はようやく組織の一員となり、組織が所有する施設から外に出た。
約1年ぶりに外の空気を吸い込む。
都会の空気に、お世辞にも気分がいいとは言えなかった。
煌々と明かりがついているこのあたりは夜中でも明るい。
同じような高層マンションや企業ビルが建ち並んでいる。
空が狭い。
圧迫感のある灰色の壁は、まるで今の心境を映しているようだと久我は思う。
思わず、自嘲するかのように口端を歪めた。
欲しいものは何もない。
生きる意味はなんなのだろうか?
生きる意味がわからない。
しかし、死にたいとも思わなかった。
寧ろ、何が何でも生きてやろうという気になった。
何も望むものがないのに。
ここまで生に執着している自分が滑稽でならない。
モバイルに送られてきた地図に再度目を通し、間違いのないことを確認する。
明るく真新しい高層マンションと企業ビルが多い区画を一つ抜けた先にある、広大な敷地。
レンガ調の門の周りには、高さの綺麗にそろった木々が並んでおり、その奥先は噴水を中心にシンメトリー
な芝生と花壇が続いているようだが、光に閉ざされているとある種の不気味さを感じる。
昼間目にすることがあればさぞ美しい光景だろう。
現在の時刻は、22時。
今日から久我は、表向きこの私立渋谷明応学園の1年生として寮生活を、
裏では梟の雛鳥となり組織の一員として生活を送ることになっている。
久我はこれまでずっと訓練を受けてきたが、高校の夏休みを明けた頃に仕事をとれる様になったのだ。
すぐに仕事を割り当てられるかと思ったが、そこから1ヶ月ほど待機となる。
拍子抜けしたものの、立場と状況を再認識する時間には丁度良かった。
班は窃盗班に割り当てられた。
別にどの班になってもかまわなかったが、建物内に立てこもり研究に没頭する開発班だけは向いていないと思っていた。
割り当てられてからの手続き期限は2日間で随分と急であり時期も中途半端だったが、さほど驚きはしなかった。
急な欠員、つまり死亡になることも少なからずある、とたたき込まれていたからだ。
何か使命感があるわけでもない。
だが、やっかいなのは共同生活というところにある。
煩わしい他ない。
聞けば姫坂愛良は自分と同い年で、 元々1年前から窃盗班として仕事をしてきているから、わからないところは彼に聞けばいい、というのがリーダーの立川氏、この学園で数学教師をしている者からの話だ。
立川からは、他にこれといった説明はなかった。
今日から仕事をこなしながら、同じ寮生活で暮らすというのに、相手の顔すらも教えられていない。
ただ、よく施設内で顔を合わせていた人物によれば、この姫坂愛良は相方が仕事のたびに変わることで有名らしい。このよく顔を合わす関西弁の男、のらりくらりとしていてつかみどころのないの男なのだが、なにかと勘の鋭い男だった。
どこのグループでどの班に所属するかは聞いていない。
が、この男は自分と同い年で、どこかのグループのどこかの班でもう仕事をしているようで、ここには単に体つくりに来ているのだと口にしていた。
男が自ら語らなかったから、こちらからあえて名前は聞かなかった。同じ学校であればそのうち会うだろう。
その男の情報によれば、理由はどこにあるのか分からないが、 姫坂愛良の意思ではなく、相手の意思によるものだと言う。
組織はよっぽどのことがないかぎり一度決めたパートナーを代えることなしない。
組織がそれを許しているとなれば、この姫坂愛良という人物がよっぽど厄介者なのだろうか?
しかし、仕事においてその手際の良さは組織でも1、2を争うものらしい。
特にハッキングにおいて右に出るものはいないらしく、難易度の高いものは、他グループから依頼が来ていたほどだという。
噂ばかりを耳にしてしまった久我は、先が思いやられた。
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