梟の雛鳥～私立渋谷明応学園～

序章

０章

私立渋谷明応学園しりつしぶやめいおうがくえん―――
東京都渋谷区、恵比寿寄り、丁度広尾に近い場所に位置しており、レンガ造りの外観は趣があると同時にその歴史が長いことが窺える高等学園。都会にありながら、珍しくも全寮制の男子高。
騒がしさと隣り合わせだが、少し歩けば閑静な住宅街や緑も広がっており、好立地といえよう。

偏差値は、近年56から59前後にあり、私立校としてはごく一般的だ。
その昔はかなり頭のいい私立校として有名であったが、現在は、金持ち坊々で問題児のお払い箱として有名である。

なぜそう言われるようになったのかについては、生徒の複数が有名企業や病院、あるいは実業家や政治家の次男以降だからだ。
長男である者もいるにはいるが後継者から外れており、扱いに困っていると思われてもしかたない。
そんな彼らが、自らその学園に望んで入学した者は少ないかもしれない。
すでにとある理由から親から決められて入学した者が殆どだからだ。

だが、入ってみれば、そこは同じ境遇の者同士。
全寮制といえど、ブルジョア校らしい校風と、ある種の自由があった。
ある種の自由、それは、知る人からすれば、自由とはほど遠いものかもしれない。

彼らには、日本の闇の組織であるOWL(Oasis Worth Laboratory）、通称梟アウルの存在を知り、知りながらもその存在を知らぬふりを続け、彼らに悟られないように陰ながら手助けをする役目があった。通称“ガード”である。
彼らの殆どが、卒業後、依頼者との橋渡しである“フォローワー”や、関連企業の社員である“スポンサー”となる。
ガードは、学園の生徒の約２割。

尚、学園の生徒の２割が実際の梟の一員、“雛鳥”であり、残りの６割が何も知らない知らされていない極普通の生徒だ。

雛鳥の仕事には、盗みは勿論、殺人の依頼もある。
雛鳥である生徒の卒業後は、ある者は学園の教師になり、ある者は社会に溶け込みいざという時の手助けをする“サポーター”となる。
この学園の４割の生徒は、そうして否応がなしにも今後の人生の一部に、梟との繋がりを持って暮らすのだ。

将来、結婚し、子供を授かり、老いていく。
その中で良心の呵責に苛まれ自ら命を絶った者、知らず静かに消された者も中にはいる。
だが、多くの生徒は、今までの自尊心を粉砕され、梟の存在を受け入れ、自己肯定感に悩みながらも成長し、巣立ちを迎える。
梟は、２割の雛鳥と、学園の教師と、全国にいるサポーターで成り立っているのだ。
ガード、フォローワー、スポンサーの力添えも勿論必要不可欠となっている。

実は、こうした梟が関与している高等学園は、渋谷明応学園だけではない。
東に2つ、西に1つ、全国に3つある。
同じく学園の生徒のうち２割程が、雛鳥であり、その仕組みは同等である。
雛鳥の中には、西から東へ、あるいは東から西へ任務を受けて転校する者もいる。

その中でも中枢を担っているのが、私立渋谷明応学園。
梟の長は、この渋谷明応学園の学園長だ。

雛鳥たちは、学園という小さな籠の中で、叶わないと知りながらも自由という名の羽搏きを夢にみる。
巣立ちを迎えても、組織という籠から出られはしないのだが。