死に戻り王子に買われた奴隷は英雄になる

稲葉鈴

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5.聖女様に謁見しよう-2

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 王子様はさすがに疲れているけれど、それでもそつなく国王陛下との謁見をこなされたそうだ。俺はそんな場所までついていけないので、先輩騎士と一緒に荷ほどきやら王子様方の部屋の確認とかだ。まあ、国賓相手に面倒なことはそうそうないので、あちらとしても検品してくれ、くらいの気持ちだろう。多分してもらわねえとそれはそれで気持ち悪いだろうし。
 うまい飯を食わせてもらって、ふかふかの布団で寝て、翌日一日は休息日で、その翌日が、聖女様との面会の日だ。
 王子様、すぐ忘れそうになるけれどまだ十一歳なんだよ。頭はともかく、体は子供なわけだ。だから、お休みは必要。ここまでほとんど毎日、社交させられているみたいなもんだからな。

「お待ちしておりました」

 聖女様との面会は、俺も同行させて貰った。というよりも、俺と王子様が聖女様に面通しするのが目的だ。だからこっちからの同行者は後、ジジイだけ。俺はあれだ。いつか王子様が魔王討伐の旅に参加することになったら、一緒に行かせる予定の子弟、ってことになっている。
 でっかい教会にある、広すぎない応接室。教会に入る前に三人で足を止めて、見上げるほどだった。来れなかった兄妹たちに自慢しようと笑った王子様は、ちゃんと年相応に見えた。

「ご丁寧な出迎え、感謝いたします」

 応接室の、テーブル越しに、王子様と聖女様がご挨拶をする。質素な木のテーブルに、木の椅子。聖女様の格好だって、質素な白いワンピースだ。
 二人が下げた頭を同時に上げて、それぞれが椅子に座る。椅子は向かい合わせだけれど上座とか下座とか面倒くさいことを言われないように、ドアに対して横向きだ。ジジイはドアの横に立つ。ドアを挟んで反対側に、にこにこ笑顔の修道女が立っていた。……見覚えあんな、あの修道女。ということは魔王討伐部隊に参加してたのか。
 まあ今は王子様に聞けないから、あとで部屋に戻ってから聞くか。
 俺は王子様の座る椅子の斜め後ろに立つ。俺の位置からだと、窓がよく見えた。窓の側には、二人の修道女。あっちは、女性で揃えてるんだな。聖女様だからか。ここは確か神聖王国でも一番大きな教会だから、修道女意外だっているだろうに。

「本日の、ご用件は」
「魔王復活についてです」

 聖女様は瞬きをして、それから目を伏せた。思い出したかどうか、分かんねえな。

「各地で、魔物どもの勢いが増しています」
「ええ、ええ。お話は、聞いております」

 ぎゅ、と、聖女様がスカートを掴んだ。めっちゃ皺になってる。

「もういつ、魔王が復活してもおかしくない。アベラール王国の王子として、その前に一度、聖女様にお会いしておきたかった」

 聖女様は、顔を上げない。いや顔は俯いてはいないんだけど、視線は王子様を見ていない。
 あ、これは思い出してねえな。人払いを、とかでもなく、ただ震えてる。
 そうだよな。怖いよな。なんで自分が聖女の時なんだよって、思うわなあ。
 耳が真っ赤な聖女様は、そのまま目線を上げないで、王子様との面会を終えた。耳が真っ赤だった。つまり王子様が美形だったので、照れちゃって顔を直視できなかったと。それはそれで可愛いな。
 聖女様だって、まだ大人の女性じゃなかった。王子様と同じくらいの子供に見えた。怖い話を聞いて、その怖い事を自分がしなくちゃいけなくて、そのことについて格好いい王子様が話に来て。ぐちゃぐちゃだろうな、気持ち。

「聖女様って、貴族じゃないんだっけ?」
「違いますな」

 ふとジジイに聞いたらそう教えられた。お貴族様の聖女様は、三代前だそうだ。つまり当代の聖女様は、お綺麗な王子様に慣れていない、と。

「うん。旅をしている間もあんまり私を見てはくれなかったかな」
「まあ、俺も体ごと背けられてましたからね」
「……いや、バティストに対しては、申し訳なくて、って」
「怖かったんでなく? 腕とか無い奴隷剣士なんて、怖えでしょうに」
「いや。聖女の祈りに、欠損を治せるものがない事が申し訳なくて、顔を合わせられないと言っていたよ」

 聖女様は、心根まで聖女様のようだった。お優しい事だ。前回の俺は剣士の体にある程度の傷しかなかったから、ちゃんと、普通に、接してくれたってわけか。
 ちなみに見たことのある顔はやっぱり聖女様の同行者で、修道女アデライド。聖女様と手分けして、仲間たちの傷を治してくれていたんだという。俺は強かったから、聖女様が治してくださっていたわけだが。
 それでも聖女様も修道女様も、来たる魔王討伐に向けて、まあ正確には封印なのだけれど、それに向けて鍛錬をしてくれるというからありがたい。俺みたいな剣士と違って、聖女様たちってどうやって練習するんだろうな。今度同行することになったら、聖女様に聞くのははばかられるから、修道女様の方に聞いてみてもいいかもしれない。

「祈りでしょうな」

 聖女様方に聞くまでもなく、ジジイが知っていた。なんでも知ってんな。
 ジジイが言うには、聖女様方は祈りの力を女神の祝福に変えるという。だから、聖女様なんかは、祈りの間に一日籠っていたりもするそうだ。俺には無理だわ。聞いただけできついわ。
 まあ聖女様は聖女様で、俺が半日ずっと素振りしてるとか半日ずっと走ってるとかの方が、無理だって思うんだろうけどな。王子様だって無理だって言ってたし。

 帰り道は、往路とはまた違った道を取ることになった。王子様のお勉強も兼ねているからだ。どこの道を通ったところで、お屋敷を貸して下さった領主様たちは娘さんたちを王子様に勧めるだけだったけれど。魔王の封印が終わるまでは、王子様はおそらく婚約者はお決めにならんと思うぞ。
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