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1.先見の王子は奴隷を見つけた
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「やっと、見つけた……!」
俺が転がっている部屋の、片側には通り抜けができない程度の幅の、鉄格子がある。そんな檻の向こうにある廊下には、小奇麗な服を着たおそらくは貴族の坊ちゃん。感極まっている風の坊ちゃんだけれど、正直見覚えはない。知っている貴族なんて基本糞で、俺たちを人間だなんて思っていない。
まあ、奴隷なんてそんなもんだ。
母は、俺を産んだ糞女は、容姿だけが取り柄だった。まあそれでお貴族様に取り入って、良い生活出来てたんだから悪くはないだろうよ。そのお貴族様の子供にあたる俺を孕んで、二人揃って俺に暴行を加えてきたことだけはさっぱりわからねぇんだが。
まあ分かりたくもないし、それでいい。
格子の向こうでは坊ちゃんが、俺を買うと駄々をこねていた。相手はお付きらしいジジイ。まあな、どう見てもぼろ雑巾の方がましな俺を買うだなんて、頭のおかしい坊ちゃんだわな。あんなのの相手させられて、可哀想に。
しかしどうやら揉めていたのは店の俺に対する扱いについてとか値段とかだったようで、俺を買うことについては文句はなかったようだ。苦言、というのを呈すのだ、とかなんとかあとから聞いたがよく覚えてはいない。
俺は格子の中、他の奴隷たちもいる場所に、転がりながらそれを見ていた。ここにいるのは俺も含めて、体の一部が欠損はしていないけれど死に掛けばかりだ。元気な連中は立ち上がってアピールできるが、俺はもう転がってるのがやっとだし、隣のヤツは座ってはいるけれどだいぶ前から顔を上げなくなっていた。食事は多分たまにある。窓なんてもんはないからどこからどこまでが一日なのか、とかさっぱりわからん。分かる必要もない。ここにいるのは、そういう奴隷だ。
「会いたかったよ! バティスト!!」
どうやらそれが、俺の名前らしい。
お貴族様に買われた俺は、本来なら店の水場で洗われて、乾かされて、ぼろ雑巾よりはましな服を着せられて、手渡されるはずだ。他の奴隷を横目で見ていた感じ、そうだった。今俺と一緒の部屋にいる奴じゃなくて、あっちの部屋にいる、元気な奴の話だ。
けれど俺はそれを拒否されて、荷車に積み込まれて、俺の種である糞野郎の家よりもでかい城に連れ込まれた。……城だろ? 絵本で見るような奴。絵本なんて、本当にうっすらとしか思い出せないけれど。それも、俺が読んで貰ったんじゃなくて、読んで貰ってるのを何か見かけた程度のヤツ。
俺を積んだ幌すらない荷車の前を走っていたなんかしっかりとした馬車と別れて、俺は多分裏門の方へ。ぐるりと城を見ることが出来た。荷馬車の上で、転がっているだけだったから。
荷馬車から引きずり下ろされた俺は、悪態をつかれながら洗われた。
「ちょっと一回じゃすまないじゃないの!」「なんでこんなになるまで洗わないのよ!」「商品でしょう、奴隷は!!」
別に俺に対して怒っているわけではなさそうなので聞き流した。それはもう全身を洗われた。くまなく。
洗ってくれた人が満足するまで俺は洗われて、拭かれて乾かされて、それから清潔な服を着せられて、薄いけれどスープを食べさせてもらって、坊ちゃんの所へ連れていかれた、というわけだ。
そこで初めて俺は、自分の名前を知った。
奴隷から生まれた俺が奴隷なのはいいけれど、あれとかそれとかあんたとか、なんかそんな言葉でしか呼ばれていなかったから、自分の名前に馴染むのに、時間がかかった。
「知らないと思うけれど」
広い部屋の中央にある、テーブルとイス。そこに座った坊ちゃんが、優雅に、多分こういうのを優雅っていうんだろう。優雅に、俺に話しかけてきた。
「魔王の復活が近い」
俺が知らない前提で、坊ちゃんは話し出した。
魔王とか、言われても。そういうのは、王様、とか、そう、いう……。
「あんた、王子様か!」
「言葉遣い!」
部屋に控えていた、ジジイに殴られたけれど。俺は思い出した。思い出したのだ。
魔王と戦った。あの日々を。
俺が転がっている部屋の、片側には通り抜けができない程度の幅の、鉄格子がある。そんな檻の向こうにある廊下には、小奇麗な服を着たおそらくは貴族の坊ちゃん。感極まっている風の坊ちゃんだけれど、正直見覚えはない。知っている貴族なんて基本糞で、俺たちを人間だなんて思っていない。
まあ、奴隷なんてそんなもんだ。
母は、俺を産んだ糞女は、容姿だけが取り柄だった。まあそれでお貴族様に取り入って、良い生活出来てたんだから悪くはないだろうよ。そのお貴族様の子供にあたる俺を孕んで、二人揃って俺に暴行を加えてきたことだけはさっぱりわからねぇんだが。
まあ分かりたくもないし、それでいい。
格子の向こうでは坊ちゃんが、俺を買うと駄々をこねていた。相手はお付きらしいジジイ。まあな、どう見てもぼろ雑巾の方がましな俺を買うだなんて、頭のおかしい坊ちゃんだわな。あんなのの相手させられて、可哀想に。
しかしどうやら揉めていたのは店の俺に対する扱いについてとか値段とかだったようで、俺を買うことについては文句はなかったようだ。苦言、というのを呈すのだ、とかなんとかあとから聞いたがよく覚えてはいない。
俺は格子の中、他の奴隷たちもいる場所に、転がりながらそれを見ていた。ここにいるのは俺も含めて、体の一部が欠損はしていないけれど死に掛けばかりだ。元気な連中は立ち上がってアピールできるが、俺はもう転がってるのがやっとだし、隣のヤツは座ってはいるけれどだいぶ前から顔を上げなくなっていた。食事は多分たまにある。窓なんてもんはないからどこからどこまでが一日なのか、とかさっぱりわからん。分かる必要もない。ここにいるのは、そういう奴隷だ。
「会いたかったよ! バティスト!!」
どうやらそれが、俺の名前らしい。
お貴族様に買われた俺は、本来なら店の水場で洗われて、乾かされて、ぼろ雑巾よりはましな服を着せられて、手渡されるはずだ。他の奴隷を横目で見ていた感じ、そうだった。今俺と一緒の部屋にいる奴じゃなくて、あっちの部屋にいる、元気な奴の話だ。
けれど俺はそれを拒否されて、荷車に積み込まれて、俺の種である糞野郎の家よりもでかい城に連れ込まれた。……城だろ? 絵本で見るような奴。絵本なんて、本当にうっすらとしか思い出せないけれど。それも、俺が読んで貰ったんじゃなくて、読んで貰ってるのを何か見かけた程度のヤツ。
俺を積んだ幌すらない荷車の前を走っていたなんかしっかりとした馬車と別れて、俺は多分裏門の方へ。ぐるりと城を見ることが出来た。荷馬車の上で、転がっているだけだったから。
荷馬車から引きずり下ろされた俺は、悪態をつかれながら洗われた。
「ちょっと一回じゃすまないじゃないの!」「なんでこんなになるまで洗わないのよ!」「商品でしょう、奴隷は!!」
別に俺に対して怒っているわけではなさそうなので聞き流した。それはもう全身を洗われた。くまなく。
洗ってくれた人が満足するまで俺は洗われて、拭かれて乾かされて、それから清潔な服を着せられて、薄いけれどスープを食べさせてもらって、坊ちゃんの所へ連れていかれた、というわけだ。
そこで初めて俺は、自分の名前を知った。
奴隷から生まれた俺が奴隷なのはいいけれど、あれとかそれとかあんたとか、なんかそんな言葉でしか呼ばれていなかったから、自分の名前に馴染むのに、時間がかかった。
「知らないと思うけれど」
広い部屋の中央にある、テーブルとイス。そこに座った坊ちゃんが、優雅に、多分こういうのを優雅っていうんだろう。優雅に、俺に話しかけてきた。
「魔王の復活が近い」
俺が知らない前提で、坊ちゃんは話し出した。
魔王とか、言われても。そういうのは、王様、とか、そう、いう……。
「あんた、王子様か!」
「言葉遣い!」
部屋に控えていた、ジジイに殴られたけれど。俺は思い出した。思い出したのだ。
魔王と戦った。あの日々を。
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