腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】

Alanhart

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〈5 錯綜クインテット〉

ep78 光と影②

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 昼休みになり、わたしと智子ちゃん、西田くんと竹内くんで別れて、校舎内を手分けして探すことになった。

 わたしと智子ちゃんは、まだ探していなかった学校の中庭を探した。一通りぐるりと散策したが、ここもやはり、上履きは見つけられなかった。

「やっぱり見つからないね。ホント、どこに隠されちゃったんだろう」

「ごめんね、智子ちゃん」

「もー、成海ちゃん、そればっかり。良いって言ってるじゃん」

 こんなに手伝ってもらってるのに、見つからないなんて。

 申し訳ない気持ちでいっぱいで、付き合ってくれている智子ちゃんに謝ると、智子ちゃんはまったく気にしていない様子で朗らかに笑って許してくれた。

「別の所も探してみようよ。まだ時間あるしさ」

「うん、ありがとう」

 本当に、智子ちゃんと仲良くなれてよかったな。西田くんと、それから竹内くんも。みんながいなかったら、きっとわたしはもう学校に来ていなかったと思う。

 わたしたちが中庭から離れようとした時、前から来る女子生徒たちに、わたしと智子ちゃんの足が止まった。

「ねぇ、学校が臭くなるから、歩き回らないでほしいんだけど」

 遠藤さんの言葉に、女子たちがケラケラ同調するように笑った。わたしと智子ちゃんは、遠藤さんを無視して、逃げるようにこの場から去ろうとする。しかし、遠藤さんの取り巻きに行く手を阻まれ、わたしと智子ちゃんはじりじりと追い詰められるように、遠藤さんたちに囲まれた。

「逃げんじゃねぇよ。黙ってれば許されると思ってんの?」

「ていうかさ、学校来んなって言ったよね。何勝手に来てんだよ」

「ホントムカつくからさ、消えてくんない?」

「いっそ死ねば?」

 遠藤さんたちに囲まれて、肩を押された。わたしはすっかり委縮して、足が固まって動けなくなってしまう。

「ア……ア」

 喉の奥が貼りついて、口からは言葉にならないうめき声しか出せない。脳みそは完全にショートして、ここから逃げる方法を考えることすら出来なくなっていた。

「あたしたち、教室に戻りたいだけなんで、通してください!」

 動けなくなってしまったわたしの代わりに、智子ちゃんが彼女たちに言った。
 智子ちゃん、顔真っ青だ。本当は智子ちゃんだって怖いのに、わたしを庇うために、必死に戦ってくれている。

 ごめんね、智子ちゃん。本当にごめん。わたし、本当にクズだ。わたしが智子ちゃんを守らなきゃいけないのに、怖くて動けないなんて。わたしのせいで、智子ちゃんまで巻き込んじゃったのに。

「あ? 何お前。ブタの友達?」

 遠藤さんの取り巻きのひとりが、智子ちゃんを睨んだ。

「へぇ、ブタにも友達出来たんだぁ。1年生の頃はボッチだったのに」

 遠藤さんは腕を組み、バカにした目で値踏みするように上から下まで智子ちゃんを睨め付けた。

「ねぇ、あんたは教室帰っていいよ。うちら、津田さんにだけ用があるから」

「成海ちゃんに、何の用なんですか?」

「あんたには関係ないでしょ」

「か、関係なくないです! 友達ですから!」

 わたしたちを囲う円が、徐々に狭まって行く。これ以上、智子ちゃんをここにいさせたらダメだ。今度は智子ちゃんまで、いじめのターゲットにさせてしまう。

 わたしは智子ちゃんの手首を掴んで、必死に智子ちゃんを止めた。

「わ……わたし、大丈夫、だから」

 貼りついた喉の奥から、何とか言葉を絞り出す。わたしが智子ちゃんの手首を離すと、智子ちゃんは泣きそうな顔をして、首を左右に振った。

「そんな、だめだよ、成海ちゃん!」

 その瞬間、智子ちゃんが後ろに尻餅をついた。遠藤さんの取り巻きの一人が、智子ちゃんの肩を押しのけたのだ。智子ちゃんが輪の中からはじき出され、遠藤さんたちはわたしの髪や腕を掴む。

「来いよ!」

「やだっ……痛いよ……!」

 ひと気のないところに連れていくために強く引っ張られ、罵倒され、わたしは声を押し殺して泣いた。智子ちゃんが急いで立ち上がり、遠藤さんたちからわたしを引きはがそうと揉み合っている。

 あぁ、やっぱり来るんじゃなかった。学校こんなところに来なければ、智子ちゃんに怖い思いをさせることも、1年生の頃みたいな辛い思いをすることも無かったのに――。


「いい加減にしろ、沙織」

 後ろから声がして、揉み合いはぴたりと治まった。わたしの腕を掴んでいた手が緩み、遠藤さんが怯んだのが分かる。


 新島くんは真っすぐにわたしたちの方へ向かってくると、遠藤さんの手からわたしと智子ちゃんを引きはがし、庇うようにわたしたちを自身の背中の後ろ追いやった。
 智子ちゃんが、落ち着かせるようにわたしの背中をさする。わたしは、智子ちゃんに大丈夫だと伝えるために、智子ちゃんの手を両手で握った。

「なんでよ……悠真」

 遠藤さんが、震える声で尋ねると、新島くんは、面倒臭そうに長いため息をついて答えた。

「もうやめない? こういうの。ダサいよ、いじめとかさぁ。嫌いな奴に構ってるだけ時間の無駄だし」

「なんで? 悠真だって、やってたじゃん。なんで、急にこんな……」

「やめたんだよ、そういうの」

「……やめたって……なんで? なんで津田成海こいつを庇うわけ!? 悠真、こいつのこと嫌いだったじゃん! なのにどうして――」

「最後の年くらい、平和に過ごしたいと思ってさ。受験もあるし、せっかくクラスが落ち着いてんのに、部外者に壊されたくねぇんだわ。今度またこいつら虐めたら、俺も容赦しない」

 新島くんは、少し間を置くと冷めた表情で遠藤さんを見た。

「あと、どっちかって言うと、今はお前の方が無理だな」

 遠藤さんが、新島くんの頬を叩いた。鋭く乾いた音が、中庭に響く。

「死ね」

 遠藤さんは震える声で吐き捨てると、泣きそうなのを堪えるような顔をして、その場から立ち去った。取り巻きたちの姿が消えると、残されたわたしと智子ちゃんは、未だに唖然として、遠藤さんたちが消えた方向を見つめ続けていた。
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