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〈5 錯綜クインテット〉
ep66 真夏の桜花咲受験対策勉強会②
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「少し早いけど、10分休憩しようか」
「やったー! コンビニ行ってアイス買おうぜ!」
「10分で行ける距離じゃないでしょ」
篠原くんが、スマホのタイマーをセットしながらたしなめると、神谷くんはアイスが食いたいと駄々をこね始めた。
わたしは、持って来ていた水筒をがぶ飲みして何とか眠気を覚まそうと試みる。毎日ちゃんと7時間ぐらい寝てるはずなのに、体内時計が狂いまくってるせいで、滅茶苦茶眠い。
少しだけ、テーブルに突っ伏して仮眠を取ろうかと考えていると、リビングのドアが開いて、篠原くんの叔父さんがジュースとお菓子の差し入れをしに来てくれた。
おじさんは夏休みの間もずっと家にいて、2階の作業部屋で時計を作っている。時々、仕事の合間にひょっこり顔を出してきて、こうして差し入れを持ってきてくれるのだ。
「みんな、頑張っているからね。好きなのを選んでね」
おじさんはほわほわした笑顔で、今しがた買ってきた飲み物を勧めてくれた。
ソーダやぶどうジュース、麦茶もある。お菓子は、勉強中手が汚れないようチップス系は避け、アーモンドチョコレートや、スティック型のジャガイモのお菓子なんかを用意してくれていた。
勉強の邪魔にならないように配慮してお菓子をくれるなんて、さすが篠原くんの叔父さんだ。
「マジでサンキュー、おじちゃん!」
ノリノリで選んでいる神谷くんに、ちょっとは遠慮しろよとは思うが、正直わたしもおじさんの差し入れはめちゃくちゃありがたい。甘くてさっぱりしたものを飲んで、眠気覚ましにリフレッシュしよう。
ソーダにしようと伸ばした手が、神谷くんと重なった。
「トンちゃん、ソーダ?」
「はい、ソーダです。神谷くん、まさかソーダじゃないですよね?」
「いや、俺もソーダだけど」
なんだ、この会話。“This is a pen?”ぐらい不毛だ。きっと脳を酷使しすぎたせいで、今知能指数が小学生以下にまで下がってるんだ。手をどけろよ。
ふたりでじっとお互いの事を見つめ合う。少しでも目を離すと、ソーダを取られてしまうかもしれない。男の子とこんなに長時間見つめ合ったのは、わたしの人生史上はじめてのことだけど、今はわたしの人生よりもソーダの方が大事だ。
「トンちゃん、オレンジジュース美味いぜ。ビタミンCは美容に良いっていうし、オレンジジュースにしとけよ」
「オレンジジュース美味しいですよね。私も大好きです。でも、今日はあいにくソーダの気分なんですよ。神谷くんだって、頭使って疲れてますよね。オレンジジュースの酸味は脳に利くとおもうんですよ」
「いや、俺もオレンジジュース好きだけどさ、今は炭酸が欲しいんだよ。勉強でイライラしてっからさ。さっぱりしたいわけ。わかる?」
「勉強でイライラしてるの神谷くんだけじゃないんですよね。わたしもイライラしてるんです、さっぱりしたい気分なんです」
両者一向に引かない手。お互いストレスでキレそうだ。
「よせよ、トンちゃん。女子泣かせる気ねぇんだわ」
「泣かせる気が無いなら譲ってください、お願いですから」
わたしたちはにらみ合った後、ソーダを掛けてじゃんけんをした。
結局じゃんけんに負けて、ソーダは神谷くんに取られてしまった。なんと言う、勝負運のなさだ。
いいもん、オレンジジュース好きだし。今回は大人しく引いてやる。
「くだらないことで喧嘩しないの。お菓子は分け合って。沢山あるからって、食べ過ぎてはだめだよ、ふたりとも」
神谷くんと小学生レベルの争いを繰り広げている横で、篠原くんは迷うことなく麦茶を選んでいた。
それから一週間経つと、わたしの体内時計も大分整ってきて、勉強中に居眠りをしてしまうことも無くなった。
そして最近、みんなで受けた模擬試験の結果が返って来た。それよると、わたしの桜花咲への合格率はD判定だった。合格圏内には全然届いていない。
……大丈夫か、これ。やっぱり、わたしなんかが桜花咲を受けようなんて、無謀だったんじゃないのかな……。
わたしのふがいない結果を篠原くんに見せると、冷静にどこの分野に躓いているのかを教えてくれたうえで、今後の対応まで考えてくれた。
「大丈夫。今回は津田さんの現在地を知るための模試だから。これからもっと伸ばしていこう?」
篠原くんがやさしく慰めてくれる。篠原くん、まだわたしが桜花咲に受かること諦めてないんだ。だったら、わたしがもっとがんばらないと。
「なんだよ、トンちゃんD判定かよ。俺なんかC判定だぜ。俺を見習って、トンちゃんももっとがんばれよな!」
最近の神谷くん、なんか腹立つな。こういうところでいちいちマウント取ってくるんだもん。
C判定って、努力次第ではってだけで、絶対に合格できるって決まったわけじゃないからね!? そういう驕った態度は後々足元すくわれるからやめた方がいいんじゃないかなぁ!?????
「……言われなくても、がんばりますけど……」
「え? きこえませんけど?? その程度の意気込みで桜花咲受けるんすかぁ? やめた方がいいんじゃねー??」
うっぜーこのクソガキ。中3のくせして精神年齢小4かよ、うちの姉ちゃん連れてきたろかい!?
「神谷、あまり津田さんを煽らない」
「こうでもしねーと、トンちゃん焦んねーだろ。甘すぎんだよ、お前は」
ちょっと!? そこでこそこそ話してること全部聞こえてますからね! やめてよね、目の前でこそこそすんの!
ちなみに篠原くんは余裕のA判定だった。まぁ、これは予想できたことなので、今更驚くことでもない。
そんなこんなで、わたしたちは、日々お互いに切磋琢磨し合いながら、順調に桜花咲学園高校受験に向けた勉強を進めていくのだった。
「やったー! コンビニ行ってアイス買おうぜ!」
「10分で行ける距離じゃないでしょ」
篠原くんが、スマホのタイマーをセットしながらたしなめると、神谷くんはアイスが食いたいと駄々をこね始めた。
わたしは、持って来ていた水筒をがぶ飲みして何とか眠気を覚まそうと試みる。毎日ちゃんと7時間ぐらい寝てるはずなのに、体内時計が狂いまくってるせいで、滅茶苦茶眠い。
少しだけ、テーブルに突っ伏して仮眠を取ろうかと考えていると、リビングのドアが開いて、篠原くんの叔父さんがジュースとお菓子の差し入れをしに来てくれた。
おじさんは夏休みの間もずっと家にいて、2階の作業部屋で時計を作っている。時々、仕事の合間にひょっこり顔を出してきて、こうして差し入れを持ってきてくれるのだ。
「みんな、頑張っているからね。好きなのを選んでね」
おじさんはほわほわした笑顔で、今しがた買ってきた飲み物を勧めてくれた。
ソーダやぶどうジュース、麦茶もある。お菓子は、勉強中手が汚れないようチップス系は避け、アーモンドチョコレートや、スティック型のジャガイモのお菓子なんかを用意してくれていた。
勉強の邪魔にならないように配慮してお菓子をくれるなんて、さすが篠原くんの叔父さんだ。
「マジでサンキュー、おじちゃん!」
ノリノリで選んでいる神谷くんに、ちょっとは遠慮しろよとは思うが、正直わたしもおじさんの差し入れはめちゃくちゃありがたい。甘くてさっぱりしたものを飲んで、眠気覚ましにリフレッシュしよう。
ソーダにしようと伸ばした手が、神谷くんと重なった。
「トンちゃん、ソーダ?」
「はい、ソーダです。神谷くん、まさかソーダじゃないですよね?」
「いや、俺もソーダだけど」
なんだ、この会話。“This is a pen?”ぐらい不毛だ。きっと脳を酷使しすぎたせいで、今知能指数が小学生以下にまで下がってるんだ。手をどけろよ。
ふたりでじっとお互いの事を見つめ合う。少しでも目を離すと、ソーダを取られてしまうかもしれない。男の子とこんなに長時間見つめ合ったのは、わたしの人生史上はじめてのことだけど、今はわたしの人生よりもソーダの方が大事だ。
「トンちゃん、オレンジジュース美味いぜ。ビタミンCは美容に良いっていうし、オレンジジュースにしとけよ」
「オレンジジュース美味しいですよね。私も大好きです。でも、今日はあいにくソーダの気分なんですよ。神谷くんだって、頭使って疲れてますよね。オレンジジュースの酸味は脳に利くとおもうんですよ」
「いや、俺もオレンジジュース好きだけどさ、今は炭酸が欲しいんだよ。勉強でイライラしてっからさ。さっぱりしたいわけ。わかる?」
「勉強でイライラしてるの神谷くんだけじゃないんですよね。わたしもイライラしてるんです、さっぱりしたい気分なんです」
両者一向に引かない手。お互いストレスでキレそうだ。
「よせよ、トンちゃん。女子泣かせる気ねぇんだわ」
「泣かせる気が無いなら譲ってください、お願いですから」
わたしたちはにらみ合った後、ソーダを掛けてじゃんけんをした。
結局じゃんけんに負けて、ソーダは神谷くんに取られてしまった。なんと言う、勝負運のなさだ。
いいもん、オレンジジュース好きだし。今回は大人しく引いてやる。
「くだらないことで喧嘩しないの。お菓子は分け合って。沢山あるからって、食べ過ぎてはだめだよ、ふたりとも」
神谷くんと小学生レベルの争いを繰り広げている横で、篠原くんは迷うことなく麦茶を選んでいた。
それから一週間経つと、わたしの体内時計も大分整ってきて、勉強中に居眠りをしてしまうことも無くなった。
そして最近、みんなで受けた模擬試験の結果が返って来た。それよると、わたしの桜花咲への合格率はD判定だった。合格圏内には全然届いていない。
……大丈夫か、これ。やっぱり、わたしなんかが桜花咲を受けようなんて、無謀だったんじゃないのかな……。
わたしのふがいない結果を篠原くんに見せると、冷静にどこの分野に躓いているのかを教えてくれたうえで、今後の対応まで考えてくれた。
「大丈夫。今回は津田さんの現在地を知るための模試だから。これからもっと伸ばしていこう?」
篠原くんがやさしく慰めてくれる。篠原くん、まだわたしが桜花咲に受かること諦めてないんだ。だったら、わたしがもっとがんばらないと。
「なんだよ、トンちゃんD判定かよ。俺なんかC判定だぜ。俺を見習って、トンちゃんももっとがんばれよな!」
最近の神谷くん、なんか腹立つな。こういうところでいちいちマウント取ってくるんだもん。
C判定って、努力次第ではってだけで、絶対に合格できるって決まったわけじゃないからね!? そういう驕った態度は後々足元すくわれるからやめた方がいいんじゃないかなぁ!?????
「……言われなくても、がんばりますけど……」
「え? きこえませんけど?? その程度の意気込みで桜花咲受けるんすかぁ? やめた方がいいんじゃねー??」
うっぜーこのクソガキ。中3のくせして精神年齢小4かよ、うちの姉ちゃん連れてきたろかい!?
「神谷、あまり津田さんを煽らない」
「こうでもしねーと、トンちゃん焦んねーだろ。甘すぎんだよ、お前は」
ちょっと!? そこでこそこそ話してること全部聞こえてますからね! やめてよね、目の前でこそこそすんの!
ちなみに篠原くんは余裕のA判定だった。まぁ、これは予想できたことなので、今更驚くことでもない。
そんなこんなで、わたしたちは、日々お互いに切磋琢磨し合いながら、順調に桜花咲学園高校受験に向けた勉強を進めていくのだった。
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