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Chapter2〈4 クラスの王様〉
ep46 眠るうさぎとティーパーティ①
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休日に、ちなちゃんと一緒に篠原くんのお見舞いに行くことになった。篠原くんが辛い思いをしているなら、篠原くんのために出来ることをしようとやって来た次第だ。熱に浮かされているエロい篠原くんが見たかったなんて醜い欲望のためではない。
「篠原くん、大丈夫かなぁ。熱下がってるといいね、なるちゃん」
ちなちゃんが純粋な気持ちで、篠原くんを心配している。わたしはどうしてこうも腐ってしまったのか。
玄関のチャイムを鳴らすと、篠原くんのおじさんが出てきた。
「成海ちゃん、それからきみも咲乃のお友達だね。来てくれてありがとう」
「篠原くんがご病気だって聞いて心配だったので、なるちゃんの付き添いで来ました。私は、本田稚奈です。宜しくお願いします!」
「僕は咲乃の叔父です。宜しくお願いします」
初対面同士、お互いに頭を下げる。そう言えば、ちなちゃんが篠原くんの家に来たのは初めてだ。
「お母さんがお雑炊を作ったので、篠原くんと一緒に食べてください」
わたしはそう言って、紙袋を持ち上げる。津田家特性の卵雑炊だ。篠原くんに少しでも栄養がつくものをと、お母さんが気を利かせて作ってくれたのだ。
「ありがとう、成海ちゃん。すごく助かるよ。起きたら、さっそく食べさせるね」
おじさんは本当にうれしそうな顔で、タッパーの入った紙袋ごと受け取った。
「咲乃、修学旅行で無理しちゃったみたいなんだ。普段から体調管理には気をつけているのに、余程大変だったんだと思うよ」
わたしも、篠原くんが倒れたって聞いた時はびっくりした。修学旅行前は普通に元気だったのに。
「咲乃はまだ寝ているけど、起きるまで待っているかい? お土産の八つ橋も、まだ残っているから」
うーん、具合が悪いのに押しかけても悪いし、今日はもう帰った方がいいかも。熱にうかされた篠原くんを見られないのは残念だけど、今はゆっくり休んでいてほしいし……。
「えーっ、いいんですか!? おじゃまします!!」
わたしがちなちゃんにどうするか相談する前に、ちなちゃんが元気よく答えた。おじさんに案内されるまま、家の中へ上がっていく。結局わたしも、ちなちゃんと一緒に篠原くんの家に上がらせてもらった。
おじさんは、わたしたちのために飲み物を用意してくれた。テーブルには生八つ橋がならぶ。わたしの家にも八つ橋が届いたけど、こしあんも抹茶も、どちらも美味しかったなぁ。うちのはもう、届いて早々に全部食べ切ってしまったから、あの味をまた食べられると思うとちょっと嬉しい。
「風邪はだいぶよくなってきているけど、念のため会うときにはマスクをつけてね」
「はーい!」
ちなちゃんは元気よく手を上げて返事した。
篠原くんが起きるまで、ちなちゃんとテーブルでおやつをつまみながら待っていると、来客を告げるチャイムの音が鳴った。おじさんが玄関口で対応している。玄関の扉が開く気配がしたと思ったら、リビングの方まで、おじさんの嬉しそうな声が届いてきた。
「咲乃のために来てくれたんだね。ありがとう」
おじさんの声で、わたしは八つ橋を食べていた手を止めた。……篠原くんのお客さん? って……誰?
手に持っていた八つ橋を、お皿に戻し、音を立てないように立ち上がる。そっとリビングのドアに近づくと、ガラス窓から廊下の先、玄関の方を覗いた。
おじさんに隠れてしまって定かではないが、らちらちらと人陰が見える。複数人だ。男の子が2人(?)と、女の子が1人……(?)。
「なるちゃん、誰が来たの?」
固まっているわたしの後ろから、ちなちゃんも窓ガラスから顔を出した。
「あ、重田くんたちだ!」
うわああああああ!!!?!?!!???
急いで周囲を見渡し、隠れられるところを探す。人の家だから、勝手に知らない部屋には入れないし、どこに隠れればいいの!?
「へー、ここが篠原ん家か。良いところ住んでんなー」
「ちょっと、じろじろ見たら失礼でしょ!? ごめんなさいおじさん」
「急に来てすみません、篠原のおじさん」
わたしは急いで掃き出し窓を開けて、外履き用のサンダルに履き替えて外へ出た。リビングからは見えない位置まで移動する。
「なるちゃん、そんなに慌ててどうしたの?」
ちなちゃんが、家の中から不思議そうに言った。わたしがいることは誰にもいわないで。わたしは必死な想いで、唇に人差し指を当てる。
ここなら、きっと見つからない。靴は玄関にあるから、篠原くんが起きてみんなが2階に上がったら、こっそり靴を回収して帰ろう。ん? ちょっと待って。玄関にわたしの靴があるってことは、もうすでに先客がいることは、みんなに知られているのでは……?
「成海ちゃん、稚奈ちゃん。咲乃の友達が来てくれたよ」
みんなをリビングに通したおじさんが、わたしたちに向かって呼びかけた。わたしは心の中で悲鳴を上げた。おじさん!! わたしのこと、皆の前で言っちゃだめだよ!
「えっ、何で本田さんがいるの!?」
来客の女の子が、驚いて声を上げる。
「あ、本田……もいたのか」
もうひとり来客の男の子が、心なしか嫌そうな声色で言った。
「うんっ、なるちゃんと篠原くんのお見舞いに来たんだぁ。山口さんと重田くんも来たんだね!」
ちなちゃん!? わたしのことは黙っててって、たった今お願いしたばかりなのに!!
「あれ? 成海ちゃんはどこへ行ったのかな? 成海ちゃん?」
おじさんが、わたしを探している。わたしは冷や汗をかきながら、その場にうずくまった。
「なるちゃんなら、そこから出て行きましたよ?」
「へ? どうしてそんなところに」
ちなちゃんが、あっさりわたしの居場所をおじさんにバラしてしまう。おじさんの困惑したような声を聞いて、わたしは諦めて、皆の前に姿を現した。
「す、すみません。ちょっと外の空気を吸っていました……」
自分でもわかるほどの苦しい言い訳を言いながら、そろそろと掃き出し窓からリビングへ上がる。皆のぽかんとした視線が、わたしの全身に突き刺さった。
おじさんが、みんなの分の飲み物を用意している間、わたしたちはテーブルについて、お互い探るように顔を見合わせた。わたしは丸い身体を縮めて、みんなの視線から逃れるようにうつむく。……なんだろう。さっきから、ずっと誰かの視線がわたしに集中している気がする。もう、ガン見レベルだ。普通、人の事そんなにじろじろ見るかな!? 怖いよ、やめてよ!!
めちゃくちゃガン見してくる視線は一人だけのもので、山口さんと重田くんは、ちなちゃんが気になるようだった。
山口さんは、驚くほど可愛くて背が高くて、篠原くんの友達なのも納得がいくレベルの容姿をした美少女だった。でも、ちょっと気が強そう。学校でも地位の高いポジションにいる女の子って感じで、絶対に関わりたくないタイプの子だ。
もうひとりの重田くんは、運動部らしく日焼けした顔は爽やかで、細い身体に健康的な筋肉がついた、なかなかのイケメンだ。だけど、なぜか気まずそうにしている。重田くんって確か、ちなちゃんの友達が告白したいって言っていた相手じゃなかったっけ?
「みんな、本当に来てくれてありがとう。咲乃はあまりお友達を家に招かないから、こんなに来てくれて嬉しいな。だけど、うちは普段甘いものを食べないから、他に出せるようなおやつがなくて……。京都土産で飽きてるかもしれないね」
こんなピリピリしてる状況でも、おじさんはのほほんとした物言いで、それぞれのコップに麦茶を注いだ。わたしとちなちゃんの飲みかけのコップにも、注ぎ足してくれる。
「そんなことないですよ! 押し掛けたのはこっちですし」
「そうそう! 八つ橋美味いです、おじさん!」
重田くんが遠慮ぎみに礼儀正しく答えると、既に八つ橋を口に入れていた男の子が、調子よく答えた。
「そう、よかった。僕は2階で仕事をしているよ。咲乃が起きたら知らせるから。それまで、ゆっくりしていってね」
おじさんはそう言って、2階に上がって行ってしまった。残された5人は、互いに微妙な面持ちで座っている。
……居づらい。話したこともない同級生と同じ空間って、コミュ障には無理だ……。さっきからわたしのことじろじろ見てくる男の子もいるし……。そりゃあ、篠原くんのお見舞いにわたしみたいなデブスが居たら、関係性疑うけどさぁ、普通そんな見る? 失礼じゃないの、この人……。
重田くんも山口さんも、やたらちなちゃんのことを警戒している。わたしのことは眼中にないみたいだけど。
「それにしても、篠原が元気になってよかったな。修学旅行で働き過ぎたって聞いたけど、まさか倒れるとは思ってなかったよ」
気を使った重田くんがもうひとりの男の子に話を振った。隣の男の子のメンタルは鋼だ。こんなに重い空気にも関わらず、ひとりだけしっかり八つ橋を両手に持って食べている。
「あいつ、自分の限界わかんなくて無理しちゃうとこあるからなぁ。つうか、本田が来てるなんて意外じゃん。篠原と仲良かったのかよ」
男の子がちなちゃんに話しかける。ちなちゃんはにこりと笑った。
「篠原くん、大丈夫かなぁ。熱下がってるといいね、なるちゃん」
ちなちゃんが純粋な気持ちで、篠原くんを心配している。わたしはどうしてこうも腐ってしまったのか。
玄関のチャイムを鳴らすと、篠原くんのおじさんが出てきた。
「成海ちゃん、それからきみも咲乃のお友達だね。来てくれてありがとう」
「篠原くんがご病気だって聞いて心配だったので、なるちゃんの付き添いで来ました。私は、本田稚奈です。宜しくお願いします!」
「僕は咲乃の叔父です。宜しくお願いします」
初対面同士、お互いに頭を下げる。そう言えば、ちなちゃんが篠原くんの家に来たのは初めてだ。
「お母さんがお雑炊を作ったので、篠原くんと一緒に食べてください」
わたしはそう言って、紙袋を持ち上げる。津田家特性の卵雑炊だ。篠原くんに少しでも栄養がつくものをと、お母さんが気を利かせて作ってくれたのだ。
「ありがとう、成海ちゃん。すごく助かるよ。起きたら、さっそく食べさせるね」
おじさんは本当にうれしそうな顔で、タッパーの入った紙袋ごと受け取った。
「咲乃、修学旅行で無理しちゃったみたいなんだ。普段から体調管理には気をつけているのに、余程大変だったんだと思うよ」
わたしも、篠原くんが倒れたって聞いた時はびっくりした。修学旅行前は普通に元気だったのに。
「咲乃はまだ寝ているけど、起きるまで待っているかい? お土産の八つ橋も、まだ残っているから」
うーん、具合が悪いのに押しかけても悪いし、今日はもう帰った方がいいかも。熱にうかされた篠原くんを見られないのは残念だけど、今はゆっくり休んでいてほしいし……。
「えーっ、いいんですか!? おじゃまします!!」
わたしがちなちゃんにどうするか相談する前に、ちなちゃんが元気よく答えた。おじさんに案内されるまま、家の中へ上がっていく。結局わたしも、ちなちゃんと一緒に篠原くんの家に上がらせてもらった。
おじさんは、わたしたちのために飲み物を用意してくれた。テーブルには生八つ橋がならぶ。わたしの家にも八つ橋が届いたけど、こしあんも抹茶も、どちらも美味しかったなぁ。うちのはもう、届いて早々に全部食べ切ってしまったから、あの味をまた食べられると思うとちょっと嬉しい。
「風邪はだいぶよくなってきているけど、念のため会うときにはマスクをつけてね」
「はーい!」
ちなちゃんは元気よく手を上げて返事した。
篠原くんが起きるまで、ちなちゃんとテーブルでおやつをつまみながら待っていると、来客を告げるチャイムの音が鳴った。おじさんが玄関口で対応している。玄関の扉が開く気配がしたと思ったら、リビングの方まで、おじさんの嬉しそうな声が届いてきた。
「咲乃のために来てくれたんだね。ありがとう」
おじさんの声で、わたしは八つ橋を食べていた手を止めた。……篠原くんのお客さん? って……誰?
手に持っていた八つ橋を、お皿に戻し、音を立てないように立ち上がる。そっとリビングのドアに近づくと、ガラス窓から廊下の先、玄関の方を覗いた。
おじさんに隠れてしまって定かではないが、らちらちらと人陰が見える。複数人だ。男の子が2人(?)と、女の子が1人……(?)。
「なるちゃん、誰が来たの?」
固まっているわたしの後ろから、ちなちゃんも窓ガラスから顔を出した。
「あ、重田くんたちだ!」
うわああああああ!!!?!?!!???
急いで周囲を見渡し、隠れられるところを探す。人の家だから、勝手に知らない部屋には入れないし、どこに隠れればいいの!?
「へー、ここが篠原ん家か。良いところ住んでんなー」
「ちょっと、じろじろ見たら失礼でしょ!? ごめんなさいおじさん」
「急に来てすみません、篠原のおじさん」
わたしは急いで掃き出し窓を開けて、外履き用のサンダルに履き替えて外へ出た。リビングからは見えない位置まで移動する。
「なるちゃん、そんなに慌ててどうしたの?」
ちなちゃんが、家の中から不思議そうに言った。わたしがいることは誰にもいわないで。わたしは必死な想いで、唇に人差し指を当てる。
ここなら、きっと見つからない。靴は玄関にあるから、篠原くんが起きてみんなが2階に上がったら、こっそり靴を回収して帰ろう。ん? ちょっと待って。玄関にわたしの靴があるってことは、もうすでに先客がいることは、みんなに知られているのでは……?
「成海ちゃん、稚奈ちゃん。咲乃の友達が来てくれたよ」
みんなをリビングに通したおじさんが、わたしたちに向かって呼びかけた。わたしは心の中で悲鳴を上げた。おじさん!! わたしのこと、皆の前で言っちゃだめだよ!
「えっ、何で本田さんがいるの!?」
来客の女の子が、驚いて声を上げる。
「あ、本田……もいたのか」
もうひとり来客の男の子が、心なしか嫌そうな声色で言った。
「うんっ、なるちゃんと篠原くんのお見舞いに来たんだぁ。山口さんと重田くんも来たんだね!」
ちなちゃん!? わたしのことは黙っててって、たった今お願いしたばかりなのに!!
「あれ? 成海ちゃんはどこへ行ったのかな? 成海ちゃん?」
おじさんが、わたしを探している。わたしは冷や汗をかきながら、その場にうずくまった。
「なるちゃんなら、そこから出て行きましたよ?」
「へ? どうしてそんなところに」
ちなちゃんが、あっさりわたしの居場所をおじさんにバラしてしまう。おじさんの困惑したような声を聞いて、わたしは諦めて、皆の前に姿を現した。
「す、すみません。ちょっと外の空気を吸っていました……」
自分でもわかるほどの苦しい言い訳を言いながら、そろそろと掃き出し窓からリビングへ上がる。皆のぽかんとした視線が、わたしの全身に突き刺さった。
おじさんが、みんなの分の飲み物を用意している間、わたしたちはテーブルについて、お互い探るように顔を見合わせた。わたしは丸い身体を縮めて、みんなの視線から逃れるようにうつむく。……なんだろう。さっきから、ずっと誰かの視線がわたしに集中している気がする。もう、ガン見レベルだ。普通、人の事そんなにじろじろ見るかな!? 怖いよ、やめてよ!!
めちゃくちゃガン見してくる視線は一人だけのもので、山口さんと重田くんは、ちなちゃんが気になるようだった。
山口さんは、驚くほど可愛くて背が高くて、篠原くんの友達なのも納得がいくレベルの容姿をした美少女だった。でも、ちょっと気が強そう。学校でも地位の高いポジションにいる女の子って感じで、絶対に関わりたくないタイプの子だ。
もうひとりの重田くんは、運動部らしく日焼けした顔は爽やかで、細い身体に健康的な筋肉がついた、なかなかのイケメンだ。だけど、なぜか気まずそうにしている。重田くんって確か、ちなちゃんの友達が告白したいって言っていた相手じゃなかったっけ?
「みんな、本当に来てくれてありがとう。咲乃はあまりお友達を家に招かないから、こんなに来てくれて嬉しいな。だけど、うちは普段甘いものを食べないから、他に出せるようなおやつがなくて……。京都土産で飽きてるかもしれないね」
こんなピリピリしてる状況でも、おじさんはのほほんとした物言いで、それぞれのコップに麦茶を注いだ。わたしとちなちゃんの飲みかけのコップにも、注ぎ足してくれる。
「そんなことないですよ! 押し掛けたのはこっちですし」
「そうそう! 八つ橋美味いです、おじさん!」
重田くんが遠慮ぎみに礼儀正しく答えると、既に八つ橋を口に入れていた男の子が、調子よく答えた。
「そう、よかった。僕は2階で仕事をしているよ。咲乃が起きたら知らせるから。それまで、ゆっくりしていってね」
おじさんはそう言って、2階に上がって行ってしまった。残された5人は、互いに微妙な面持ちで座っている。
……居づらい。話したこともない同級生と同じ空間って、コミュ障には無理だ……。さっきからわたしのことじろじろ見てくる男の子もいるし……。そりゃあ、篠原くんのお見舞いにわたしみたいなデブスが居たら、関係性疑うけどさぁ、普通そんな見る? 失礼じゃないの、この人……。
重田くんも山口さんも、やたらちなちゃんのことを警戒している。わたしのことは眼中にないみたいだけど。
「それにしても、篠原が元気になってよかったな。修学旅行で働き過ぎたって聞いたけど、まさか倒れるとは思ってなかったよ」
気を使った重田くんがもうひとりの男の子に話を振った。隣の男の子のメンタルは鋼だ。こんなに重い空気にも関わらず、ひとりだけしっかり八つ橋を両手に持って食べている。
「あいつ、自分の限界わかんなくて無理しちゃうとこあるからなぁ。つうか、本田が来てるなんて意外じゃん。篠原と仲良かったのかよ」
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