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〈3 葛藤と決意の間〉
おまけ解説:Alanhartの創作裏話
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初めまして、Alanhartです。この度は、Chapter1を読んでいただきありがとうございました。
ここではお時間をいただきまして、本作『高嶺の君とキズナを紡ぐ』を作るにあたっての裏設定や、Chapter1までの裏話などをしたいと思います。
※本編とは関係ありませんので、ご興味が無ければ飛ばしていただいて構いません。(約22分程度で読めます)
♦トピック♦
1.【一人称と神視点の切り替えについて】
2.【ダイアモンドリリーのお話の構成と、なぜ咲乃ではなく「成海が主人公」なのか問題】
3.【結局作者は、ぽっちゃりヒロインと、細身の美少年のカップルが好き】
4.【さいごに】
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1.【一人称と神視点の切り替えについて】
本作では成海視点の“一人称視点”で、咲乃やその他キャラクターを“神視点”で書くように分けています。
本作の視点構成としては以下の通りです。
・成海の一人称視点→読者に、成海(主人公)が感情移入する対象であるという提示。
・神視点→成海の視点から離れ、「映像としてエピソードを見せる」ための俯瞰した視点に切り替えることが目的。
成海を一人称視点にし、咲乃などのキャラクターを神視点にしたのは、「この物語の主人公は成海である」ことを暗に伝えるためです。
一人称視点から神視点に切り替えることで、「どのキャラに感情移入すればいいか、読者に混乱を与えないようにする」ことを目的としています。
それ以外にも下記の理由があります。
①女性向け恋愛もののWEB小説は、読者が共感しやすいように、一人称で書かれている作品が多い。
女性向けの恋愛WEB小説を書くにあたり、それにならったというのはあります。
また、これは作品全体の構成に言えることですが、咲乃が活躍するお話となると、学校で起きることが多いので成海は参加できません。なので、どうしても成海の登場頻度が少なくなります。一応この作品では主人公なのに、「この人誰だっけ」と読者に思われないよう、成海のみを一人称視点にすることで、“成海”というキャラクターを薄れさせないという狙いがありました。
②咲乃の心情や感情を極力描写しないようにするため
咲乃は隠さなければならない情報が多すぎるので、一人称視点にしてしまうと、情報が筒抜けになってしまうんですよね(笑)。咲乃のミステリアスな部分も残しておきたいという意味で神視点にしています。
また、私自身の読書経験になりますが、ヒーローとなるお相手のキャラを知り過ぎてしまうと、魅力を感じにくくなってしまうというものがあります。
例えば少年漫画を読んだ時、どんなに個性が強い主人公でも、主人公よりもサブキャラの方が人気が出る、ということは良くあることだと思います。それは、読者が主人公に“感情移入し過ぎているから”だと思うんです。「感情移入=登場人物の感情を読者と共有し、物語の世界への視点を同化する行為」と考えると、感情移入したキャラ自身が読者の分身になってしまうということ。“自分自身に魅力を感じるのは難しい”のと同じように、自分の分身となったキャラに魅力を感じるのは難しいのではないかと考えました。
だから、咲乃を神視点にしてあまり情報を出し過ぎないようにして書こうと思ったんです。もちろん、説明しなければ読者に混乱を与えてしまうような場面では咲乃の心情や考えを描写することもありますが、極力他のキャラクターの視点を通した咲乃を描くようにして、「咲乃というキャラクターを客観的に見せることで咲乃の魅力を損なわせないように意識した」つもりでした。
③成海が直接関与しないお話、(学校でのシーンなど)は、映像的に俯瞰的に見せたい。
成海がメインではないお話に関しては、神視点で描写しています。咲乃は隠し情報が多すぎるから一人称視点での描写ができないとは先程説明した通りですが、他には、「成海メインのお話以外は映像的に見せたい」という意図があります。
神視点にしないと、「神谷や彩美など、いろんなキャラクターが出てくるパートでは一人称視点では書きにくい」と言う理由もありますが、場面を映像的にみせることで、物語の舞台全体への没入度を高めようとしているのです。ドラマチックな情景描写を入れる際は、神視点のほうが適している気がします。
お話の種類によっては、一人称で書いたほうが面白いお話と、神視点で書いた方が面白いお話があるかと思いますが、〈ダイアモンドリリー〉に関しては、神視点で書いた方が面白くなると思いました。結子の一人称視点をポイントとしていれつつ、全体を神視点で構成していったのが、〈ダイアモンドリリー〉です。
④〈ダイアモンドリリー〉の中本結子一人称視点は、“魅力的なヒーロー像”への説得力を持たせたかったから。
物語の演出上、成海以外のキャラクターを一人称視点で見せていることがあります。例えば〈ダイアモンドリリー〉での中本結子です。
中本結子の視点を入れることで、「成海以外のキャラクターが咲乃を見たら、どんなふうに見えるのか」を描写し、“咲乃”というキャラクターの魅力に対する説得力を持たせたかったと言うものがありました。
また、結子から見た咲乃と、成海から見た咲乃では、多少印象が違ったりするので、いろんな視点から“咲乃”というキャラクターの魅力を描写できるかなと思ったのです。
2.【ダイアモンドリリーのお話の構成と、なぜ咲乃ではなく「成海が主人公」なのか問題】
①なぜ、主人公は“咲乃"ではなく“成海"なのか
ダイアモンドリリーでは主人公であるはずの成海がほとんど出てきません。むしろ咲乃を中心として物語が進んでいきます。通常、小説において、主人公が活躍しないというのはあまり好まれる表現方法ではありませんが、『高嶺の君とキズナを紡ぐ』においては必要な表現方法でした。それは、主人公はあくまで“モブ”だからです。
成海の設定を見返してみると、「いじめをきっかけに不登校中の、アニメやゲームなどを好む人間不信の陰キャオタク」。つまり、“青春の脇役”であり、何の能力を持たない平凡以下の“モブ”です。キラキラした青春に憧れを抱きながらも、誰の記憶にも残らないような人間。
“モブ”を主人公としたお話は他でも様々ありますが、この作品においては、「物語に関われないからこそモブである」の定義のもとに作っています。
もちろん、今後の展開によっては成海が直接物語に関わるお話も出てくるとは思いますが、成海が不登校である現状、成海の物語での立場はあくまで、「クラスメイトに認知されていない、不登校の少女」でしかないのです。
では、なぜ「成海は主人公と言えるのか」でいうと、この物語は“成海"という存在が根底にあるからこそ展開する物語であり、お話をつくる際も、成海を中心に物語を組み立てているからです。そして、咲乃の行動理由のほとんどは“成海"が関わるようにしています。
なかなかそうとは見えにくい部分かも知れませんが、成海はこの物語の支柱として存在しているのです。
②〈ダイアモンドリリー〉編の構成について
〈ダイアモンドリリー〉には、3人の少女が咲乃に関わってきます。その3人の少女は、「他の物語で引用されがちなヒロイン像」を元に咲乃と関わらせています。
・山口彩美→性格に難ありのコメディ系美少女ヒロイン。
・中本結子→奥手で引っ込み思案な、心優しい地味系ヒロイン。
(3人目に関しては今後の展開に関わるのでここでは伏せます)
ダイアモンドリリーでは、彩美と結子がこの物語のヒーローである“咲乃"を巡る三角関係に発展していきます。 彩美の心情の描写はもちろんありましたが、ダイアモンドリリーでは特に結子の心情を多く描写しました。
それには、「読者を結子側に感情移入させたかったから」という理由があります。つまり、結子がこのダイアモンドリリー内では正ヒロインのポジションを取っているわけです。それには以下の理由があります。
③中本結子を中心とした視点に置くことで、ミステリー要素を作りたかった。
結子を正ヒロインのようなポジションに置き、読者の結子への感情移入を促すことで「読者の視界を結子に集中させて、ミステリー要素(隠された要素)を作りたかった」という理由がありました。隠したい要素とは主に、「咲乃の感情を極力描写しない」「咲乃の行動の意図を隠す」などがあります。
ダイアモンドリリー編では、手紙の犯人はミステリー要素として書いたつもりはありませんでした。咲乃と神谷が知らないだけで、読者にとっては「田中理央が犯人である」は序盤ですぐに分かったかと思います。そもそも、出演キャラも少ないですし、最初から「読者に犯人を当てさせよう」という狙いはないわけです。それよりも、「なぜ咲乃が結子にこんなことをしているのか」「咲乃はどうやって犯人(理央)に近づこうとしているのか」を書きたかったんです。
④では、ダイアモンドリリーでの成海の役割は何だったのか。
咲乃との関わりの中で、最も正ヒロインのような立ち位置にいた結子。結子のライバルとして、もう一人のヒロイン像として存在する彩美。ダイアモンドリリーではこの2人と咲乃の三角関係によって物語が展開していきます。しかし、『高嶺の君とキズナを紡ぐ』のヒロインはあくまで成海。前述した三角関係を壊す存在が、主人公の“成海"です。
ダイアモンドリリーでの“主人公”成海の役割は、「ヒロインっぽいキャラが主人公の知らない場所で咲乃を巡って争っているが、当の咲乃と一番親しいのは不登校中の成海である」という構図を、冒頭のドッジボール後の「成海の部屋で咲乃が不貞腐れているシーン」や、咲乃が結子に叩かれた後の「成海との電話のシーン」、終盤の「全てが終わって、咲乃が成海の部屋で落ち着くシーン」などで描かれており、「読者だけが二人の関係を知っている」というカタルシスを伴う形で表現しています。
なので結局ダイアモンドリリーは、「咲乃と成海が親しくなっていく過程の中でのお話」であって、咲乃周りがごちゃごちゃしてるけど、「咲乃には成海と言う存在がいる」ことは根本として変わらないんです。
3.【結局作者は、ぽっちゃりヒロインと、細身の美少年のカップルが好き】
「イケメン」×「美少女」のお話しはもちろん好みです。ですが、個人的には「イケメン」×「ぽっちゃり女子」が大好物です。しかし、「ぽっちゃりがぽっちゃりのまま自分を好きになって行くお話」や「ぽっちゃりがぽっちゃりのまま、憧れの人に愛される」お話は、女性向けのお話ではあまり見かけないんですよね。
少女漫画でもたまにしか見かけないので、もっと増えないかな……と願ってはいるのですが。(わたしが知らないだけで、本当はあるのかもしれませんが。もし、そんなお話があればおススメしていただけると嬉しいです)
時々、ぽっちゃりの女の子が主人公のお話もありますが、結局、ダイエットして可愛くなってしまったりして、「イケメン」×「ぽっちゃり女子」が読みたかったのに、最終的には「イケメン」×「美少女」のカップルになってしまう。
人気の組み合わせで「イケメン」×「地味女子」や、「イケメン」×「平凡女子」のお話しが沢山ありますが(もちろん大好きです)、女性向け、少女向けでの“地味女子”、“平凡女子”とは「細い(または平均体型)」なことが大前提の、「黒髪の(可愛い)女の子」なんです。けして、「ブサイク」でも「ぽっちゃり」でもないんですね。
“主人公の容姿が良くないと絵面映えしないから読者に好まれない”というのは重々承知していますが、個人的には「自分の容姿(コンプレックス)をそのままを愛せる、愛される」お話が読みたいというか、そういうお話を書きたいという欲望があって、「顔も可愛くない、ぽっちゃりした女の子」、一般的に「ブス」だと言われる女の子を主人公にしたお話を書くことにしました。
①釣り合いそうでないからこそ生まれるキュン♡がある
私ごとではありますが、現実で時々ぽっちゃりした女の子と細身の男の子のカップルをお見掛けすると、つい目で追ってしまいます。「細い=可愛い」が常識の世界で、なんで男の子はその子が良かったのかな、とか、どういう馴れ初めがあって一緒にいるのかな、などと考えるとたまらなく萌えるというか、妄想が捗ってしまうんです。
美男美女カップルは目の保養にはなりますが、その二人が一緒にいる背景までは気にならないんです。たとえ2人が、大恋愛の末に結ばれた二人であろうが、第三者の自分からしたら「お互いに見た目がいいもんね」で納得してしまうんです。とても失礼な話ですが。
一方で、お相手がイケメンや美少年だからこそ、恋人の女の子がぽっちゃりしていると、「何でその子なんだろうと」考える余地が生まれる。「笑顔が可愛かったから」だとか「たくさん食べるところ好きだから」だとか、彼にしかわからない愛があって、そいうところにキュン♡がある。そこに、デコボコカップルの魅力があると思うのです。
周囲が「何でこの人?」と思ってしまう女の子の良さを唯一、彼が一番よく知っている。そういうのが素敵なんだよなぁと。
あと、単純にぽっちゃり女子と細身男子が一緒にいるときのビジュアルが愛おしくて好きなんですよね。クリストファーロビンとくまのプーさんみたいな。(腐の話ではなくビジュアルの話です。つたわれ)
②成海のスペックを最悪にすることで、咲乃との恋愛の過程を分厚くしたい。
成海のスペックをもう一度確認すると、「不登校」「腐女子」「オタク」「コミュ障」「ぽっちゃりでブサイク」。
現実では絶対に恋愛に発展しないであろう容姿と性格です。どんだけ作者は夢見てんだって話ですよ。そんな、低スペック喪女を主人公にした理由は、「咲乃が好きにならなそうな相手にしたかった」と言うのがあります。
咲乃には「今まで、容姿が良い女子としか関わってこなかった」という裏設定があります。理由は、容姿に自信のある女の子しか近づいてこないからです。
そんな咲乃が、成海と関わることになった流れを整理すると、
1)たまたまた転校したクラスに、いじめが原因で不登校になっているクラスメイトがいた。
2)先生に頼まれた用事がきっかけで、その不登校のクラスメイトの家へ行くことになった。
3)咲乃は過去に、いじめられていた同級生について何らかの後悔を抱いている。その時のことを、咲乃は“自分の弱さ”として捉えている。
4)咲乃は自分の後悔を断ち切るため、または“弱い自分”を変えるために、不登校のクラスメイトと関わろうと思った。
咲乃が自らの意思で関わろうと思った存在が“成海"だった。たまたま関わった少女がデブでブサイクだったというだけで、関わり始めの頃の咲乃にとっては、それ以上でもそれ以下でもないんです。
成海の性格はお世辞にも良いとは言えません。ひねくれている部分もあるし、自分に自信が無くてうじうじしているし、すぐに泣いてしまうような面倒臭い性格の女の子です。きっと読者をイラつかせているでしょう。(作者は成海が大好きですが)。
今まで咲乃の周りには、成海のような女子はいなかったはず。容姿の良い女子しかいなかったり、腐女子やオタク、陰キャなどとの関わりもなかったと思います。本来なら、咲乃が成海に恋愛感情なんて持ちようもない。そんな相手とどう言った経緯で心を通わせ惹かれていくのか。
容姿や能力、性格などに不足のある主人公の恋愛は、読者に「この二人じゃなきゃだめなんだ」と思っていただけるような説得力や、過程が必要になると思います。でないと、ただのご都合主義の作者が気持ち良いだけのお話になってしまう。
なので、「この二人じゃなきゃだめなんだ」を、成海自身の成長や、ふたりの空気感、大きな事件や問題を通して、書いていければなと思います。
4.【さいごに】
もちろん、ここで書かれていることは全て作者の主観になりますので、読者さんが感じられたことと大きな誤差があるかと思います。読んでいただいた感想とは別に、この作者は「こんな感じで書いてるつもりなんだな」といった程度で一つの視点として楽しんでいただけたらと思います。
Chapter1までのお話や作品全体の裏話は、他にも書ききれなかったものもありますが、今回はここで締めさせていただきます。
物語の設定資料や創作裏話を、個人サイト【Alanhart|THE MAGICAL ACTORS】の“小説ページ”に少しずつ掲載していく予定です。ぜひ、個人サイトの方も遊びに来ていただけましたら嬉しいです。更新した際は、X(@MagicalActors)の方でお知らせいたします。
物語についての質問は「マシュマロ」にて受け付けています。頂いた質問はXで回答するか、またこのような形で掲載すると思いますので、何かありましたら「マシュマロ」に頂ければと思います。
ご負担がないようでしたら、Xのフォローや、アルファポリスのユーザーフォローもお願いします。作品の評価や感想などもお待ちしています。創作の励みにさせていだたきます。
作品のお気に入り追加、本当にありがとうございます。この場を借りてお礼申し上げます。
ここまでお読みいただきありがとうございました。続いて、Chapter2もよろしくお願いします。
.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜+.。.:*・゜
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★【カクヨム先行公開中】
https://kakuyomu.jp/works/16817330664367241645
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ここではお時間をいただきまして、本作『高嶺の君とキズナを紡ぐ』を作るにあたっての裏設定や、Chapter1までの裏話などをしたいと思います。
※本編とは関係ありませんので、ご興味が無ければ飛ばしていただいて構いません。(約22分程度で読めます)
♦トピック♦
1.【一人称と神視点の切り替えについて】
2.【ダイアモンドリリーのお話の構成と、なぜ咲乃ではなく「成海が主人公」なのか問題】
3.【結局作者は、ぽっちゃりヒロインと、細身の美少年のカップルが好き】
4.【さいごに】
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1.【一人称と神視点の切り替えについて】
本作では成海視点の“一人称視点”で、咲乃やその他キャラクターを“神視点”で書くように分けています。
本作の視点構成としては以下の通りです。
・成海の一人称視点→読者に、成海(主人公)が感情移入する対象であるという提示。
・神視点→成海の視点から離れ、「映像としてエピソードを見せる」ための俯瞰した視点に切り替えることが目的。
成海を一人称視点にし、咲乃などのキャラクターを神視点にしたのは、「この物語の主人公は成海である」ことを暗に伝えるためです。
一人称視点から神視点に切り替えることで、「どのキャラに感情移入すればいいか、読者に混乱を与えないようにする」ことを目的としています。
それ以外にも下記の理由があります。
①女性向け恋愛もののWEB小説は、読者が共感しやすいように、一人称で書かれている作品が多い。
女性向けの恋愛WEB小説を書くにあたり、それにならったというのはあります。
また、これは作品全体の構成に言えることですが、咲乃が活躍するお話となると、学校で起きることが多いので成海は参加できません。なので、どうしても成海の登場頻度が少なくなります。一応この作品では主人公なのに、「この人誰だっけ」と読者に思われないよう、成海のみを一人称視点にすることで、“成海”というキャラクターを薄れさせないという狙いがありました。
②咲乃の心情や感情を極力描写しないようにするため
咲乃は隠さなければならない情報が多すぎるので、一人称視点にしてしまうと、情報が筒抜けになってしまうんですよね(笑)。咲乃のミステリアスな部分も残しておきたいという意味で神視点にしています。
また、私自身の読書経験になりますが、ヒーローとなるお相手のキャラを知り過ぎてしまうと、魅力を感じにくくなってしまうというものがあります。
例えば少年漫画を読んだ時、どんなに個性が強い主人公でも、主人公よりもサブキャラの方が人気が出る、ということは良くあることだと思います。それは、読者が主人公に“感情移入し過ぎているから”だと思うんです。「感情移入=登場人物の感情を読者と共有し、物語の世界への視点を同化する行為」と考えると、感情移入したキャラ自身が読者の分身になってしまうということ。“自分自身に魅力を感じるのは難しい”のと同じように、自分の分身となったキャラに魅力を感じるのは難しいのではないかと考えました。
だから、咲乃を神視点にしてあまり情報を出し過ぎないようにして書こうと思ったんです。もちろん、説明しなければ読者に混乱を与えてしまうような場面では咲乃の心情や考えを描写することもありますが、極力他のキャラクターの視点を通した咲乃を描くようにして、「咲乃というキャラクターを客観的に見せることで咲乃の魅力を損なわせないように意識した」つもりでした。
③成海が直接関与しないお話、(学校でのシーンなど)は、映像的に俯瞰的に見せたい。
成海がメインではないお話に関しては、神視点で描写しています。咲乃は隠し情報が多すぎるから一人称視点での描写ができないとは先程説明した通りですが、他には、「成海メインのお話以外は映像的に見せたい」という意図があります。
神視点にしないと、「神谷や彩美など、いろんなキャラクターが出てくるパートでは一人称視点では書きにくい」と言う理由もありますが、場面を映像的にみせることで、物語の舞台全体への没入度を高めようとしているのです。ドラマチックな情景描写を入れる際は、神視点のほうが適している気がします。
お話の種類によっては、一人称で書いたほうが面白いお話と、神視点で書いた方が面白いお話があるかと思いますが、〈ダイアモンドリリー〉に関しては、神視点で書いた方が面白くなると思いました。結子の一人称視点をポイントとしていれつつ、全体を神視点で構成していったのが、〈ダイアモンドリリー〉です。
④〈ダイアモンドリリー〉の中本結子一人称視点は、“魅力的なヒーロー像”への説得力を持たせたかったから。
物語の演出上、成海以外のキャラクターを一人称視点で見せていることがあります。例えば〈ダイアモンドリリー〉での中本結子です。
中本結子の視点を入れることで、「成海以外のキャラクターが咲乃を見たら、どんなふうに見えるのか」を描写し、“咲乃”というキャラクターの魅力に対する説得力を持たせたかったと言うものがありました。
また、結子から見た咲乃と、成海から見た咲乃では、多少印象が違ったりするので、いろんな視点から“咲乃”というキャラクターの魅力を描写できるかなと思ったのです。
2.【ダイアモンドリリーのお話の構成と、なぜ咲乃ではなく「成海が主人公」なのか問題】
①なぜ、主人公は“咲乃"ではなく“成海"なのか
ダイアモンドリリーでは主人公であるはずの成海がほとんど出てきません。むしろ咲乃を中心として物語が進んでいきます。通常、小説において、主人公が活躍しないというのはあまり好まれる表現方法ではありませんが、『高嶺の君とキズナを紡ぐ』においては必要な表現方法でした。それは、主人公はあくまで“モブ”だからです。
成海の設定を見返してみると、「いじめをきっかけに不登校中の、アニメやゲームなどを好む人間不信の陰キャオタク」。つまり、“青春の脇役”であり、何の能力を持たない平凡以下の“モブ”です。キラキラした青春に憧れを抱きながらも、誰の記憶にも残らないような人間。
“モブ”を主人公としたお話は他でも様々ありますが、この作品においては、「物語に関われないからこそモブである」の定義のもとに作っています。
もちろん、今後の展開によっては成海が直接物語に関わるお話も出てくるとは思いますが、成海が不登校である現状、成海の物語での立場はあくまで、「クラスメイトに認知されていない、不登校の少女」でしかないのです。
では、なぜ「成海は主人公と言えるのか」でいうと、この物語は“成海"という存在が根底にあるからこそ展開する物語であり、お話をつくる際も、成海を中心に物語を組み立てているからです。そして、咲乃の行動理由のほとんどは“成海"が関わるようにしています。
なかなかそうとは見えにくい部分かも知れませんが、成海はこの物語の支柱として存在しているのです。
②〈ダイアモンドリリー〉編の構成について
〈ダイアモンドリリー〉には、3人の少女が咲乃に関わってきます。その3人の少女は、「他の物語で引用されがちなヒロイン像」を元に咲乃と関わらせています。
・山口彩美→性格に難ありのコメディ系美少女ヒロイン。
・中本結子→奥手で引っ込み思案な、心優しい地味系ヒロイン。
(3人目に関しては今後の展開に関わるのでここでは伏せます)
ダイアモンドリリーでは、彩美と結子がこの物語のヒーローである“咲乃"を巡る三角関係に発展していきます。 彩美の心情の描写はもちろんありましたが、ダイアモンドリリーでは特に結子の心情を多く描写しました。
それには、「読者を結子側に感情移入させたかったから」という理由があります。つまり、結子がこのダイアモンドリリー内では正ヒロインのポジションを取っているわけです。それには以下の理由があります。
③中本結子を中心とした視点に置くことで、ミステリー要素を作りたかった。
結子を正ヒロインのようなポジションに置き、読者の結子への感情移入を促すことで「読者の視界を結子に集中させて、ミステリー要素(隠された要素)を作りたかった」という理由がありました。隠したい要素とは主に、「咲乃の感情を極力描写しない」「咲乃の行動の意図を隠す」などがあります。
ダイアモンドリリー編では、手紙の犯人はミステリー要素として書いたつもりはありませんでした。咲乃と神谷が知らないだけで、読者にとっては「田中理央が犯人である」は序盤ですぐに分かったかと思います。そもそも、出演キャラも少ないですし、最初から「読者に犯人を当てさせよう」という狙いはないわけです。それよりも、「なぜ咲乃が結子にこんなことをしているのか」「咲乃はどうやって犯人(理央)に近づこうとしているのか」を書きたかったんです。
④では、ダイアモンドリリーでの成海の役割は何だったのか。
咲乃との関わりの中で、最も正ヒロインのような立ち位置にいた結子。結子のライバルとして、もう一人のヒロイン像として存在する彩美。ダイアモンドリリーではこの2人と咲乃の三角関係によって物語が展開していきます。しかし、『高嶺の君とキズナを紡ぐ』のヒロインはあくまで成海。前述した三角関係を壊す存在が、主人公の“成海"です。
ダイアモンドリリーでの“主人公”成海の役割は、「ヒロインっぽいキャラが主人公の知らない場所で咲乃を巡って争っているが、当の咲乃と一番親しいのは不登校中の成海である」という構図を、冒頭のドッジボール後の「成海の部屋で咲乃が不貞腐れているシーン」や、咲乃が結子に叩かれた後の「成海との電話のシーン」、終盤の「全てが終わって、咲乃が成海の部屋で落ち着くシーン」などで描かれており、「読者だけが二人の関係を知っている」というカタルシスを伴う形で表現しています。
なので結局ダイアモンドリリーは、「咲乃と成海が親しくなっていく過程の中でのお話」であって、咲乃周りがごちゃごちゃしてるけど、「咲乃には成海と言う存在がいる」ことは根本として変わらないんです。
3.【結局作者は、ぽっちゃりヒロインと、細身の美少年のカップルが好き】
「イケメン」×「美少女」のお話しはもちろん好みです。ですが、個人的には「イケメン」×「ぽっちゃり女子」が大好物です。しかし、「ぽっちゃりがぽっちゃりのまま自分を好きになって行くお話」や「ぽっちゃりがぽっちゃりのまま、憧れの人に愛される」お話は、女性向けのお話ではあまり見かけないんですよね。
少女漫画でもたまにしか見かけないので、もっと増えないかな……と願ってはいるのですが。(わたしが知らないだけで、本当はあるのかもしれませんが。もし、そんなお話があればおススメしていただけると嬉しいです)
時々、ぽっちゃりの女の子が主人公のお話もありますが、結局、ダイエットして可愛くなってしまったりして、「イケメン」×「ぽっちゃり女子」が読みたかったのに、最終的には「イケメン」×「美少女」のカップルになってしまう。
人気の組み合わせで「イケメン」×「地味女子」や、「イケメン」×「平凡女子」のお話しが沢山ありますが(もちろん大好きです)、女性向け、少女向けでの“地味女子”、“平凡女子”とは「細い(または平均体型)」なことが大前提の、「黒髪の(可愛い)女の子」なんです。けして、「ブサイク」でも「ぽっちゃり」でもないんですね。
“主人公の容姿が良くないと絵面映えしないから読者に好まれない”というのは重々承知していますが、個人的には「自分の容姿(コンプレックス)をそのままを愛せる、愛される」お話が読みたいというか、そういうお話を書きたいという欲望があって、「顔も可愛くない、ぽっちゃりした女の子」、一般的に「ブス」だと言われる女の子を主人公にしたお話を書くことにしました。
①釣り合いそうでないからこそ生まれるキュン♡がある
私ごとではありますが、現実で時々ぽっちゃりした女の子と細身の男の子のカップルをお見掛けすると、つい目で追ってしまいます。「細い=可愛い」が常識の世界で、なんで男の子はその子が良かったのかな、とか、どういう馴れ初めがあって一緒にいるのかな、などと考えるとたまらなく萌えるというか、妄想が捗ってしまうんです。
美男美女カップルは目の保養にはなりますが、その二人が一緒にいる背景までは気にならないんです。たとえ2人が、大恋愛の末に結ばれた二人であろうが、第三者の自分からしたら「お互いに見た目がいいもんね」で納得してしまうんです。とても失礼な話ですが。
一方で、お相手がイケメンや美少年だからこそ、恋人の女の子がぽっちゃりしていると、「何でその子なんだろうと」考える余地が生まれる。「笑顔が可愛かったから」だとか「たくさん食べるところ好きだから」だとか、彼にしかわからない愛があって、そいうところにキュン♡がある。そこに、デコボコカップルの魅力があると思うのです。
周囲が「何でこの人?」と思ってしまう女の子の良さを唯一、彼が一番よく知っている。そういうのが素敵なんだよなぁと。
あと、単純にぽっちゃり女子と細身男子が一緒にいるときのビジュアルが愛おしくて好きなんですよね。クリストファーロビンとくまのプーさんみたいな。(腐の話ではなくビジュアルの話です。つたわれ)
②成海のスペックを最悪にすることで、咲乃との恋愛の過程を分厚くしたい。
成海のスペックをもう一度確認すると、「不登校」「腐女子」「オタク」「コミュ障」「ぽっちゃりでブサイク」。
現実では絶対に恋愛に発展しないであろう容姿と性格です。どんだけ作者は夢見てんだって話ですよ。そんな、低スペック喪女を主人公にした理由は、「咲乃が好きにならなそうな相手にしたかった」と言うのがあります。
咲乃には「今まで、容姿が良い女子としか関わってこなかった」という裏設定があります。理由は、容姿に自信のある女の子しか近づいてこないからです。
そんな咲乃が、成海と関わることになった流れを整理すると、
1)たまたまた転校したクラスに、いじめが原因で不登校になっているクラスメイトがいた。
2)先生に頼まれた用事がきっかけで、その不登校のクラスメイトの家へ行くことになった。
3)咲乃は過去に、いじめられていた同級生について何らかの後悔を抱いている。その時のことを、咲乃は“自分の弱さ”として捉えている。
4)咲乃は自分の後悔を断ち切るため、または“弱い自分”を変えるために、不登校のクラスメイトと関わろうと思った。
咲乃が自らの意思で関わろうと思った存在が“成海"だった。たまたま関わった少女がデブでブサイクだったというだけで、関わり始めの頃の咲乃にとっては、それ以上でもそれ以下でもないんです。
成海の性格はお世辞にも良いとは言えません。ひねくれている部分もあるし、自分に自信が無くてうじうじしているし、すぐに泣いてしまうような面倒臭い性格の女の子です。きっと読者をイラつかせているでしょう。(作者は成海が大好きですが)。
今まで咲乃の周りには、成海のような女子はいなかったはず。容姿の良い女子しかいなかったり、腐女子やオタク、陰キャなどとの関わりもなかったと思います。本来なら、咲乃が成海に恋愛感情なんて持ちようもない。そんな相手とどう言った経緯で心を通わせ惹かれていくのか。
容姿や能力、性格などに不足のある主人公の恋愛は、読者に「この二人じゃなきゃだめなんだ」と思っていただけるような説得力や、過程が必要になると思います。でないと、ただのご都合主義の作者が気持ち良いだけのお話になってしまう。
なので、「この二人じゃなきゃだめなんだ」を、成海自身の成長や、ふたりの空気感、大きな事件や問題を通して、書いていければなと思います。
4.【さいごに】
もちろん、ここで書かれていることは全て作者の主観になりますので、読者さんが感じられたことと大きな誤差があるかと思います。読んでいただいた感想とは別に、この作者は「こんな感じで書いてるつもりなんだな」といった程度で一つの視点として楽しんでいただけたらと思います。
Chapter1までのお話や作品全体の裏話は、他にも書ききれなかったものもありますが、今回はここで締めさせていただきます。
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作品のお気に入り追加、本当にありがとうございます。この場を借りてお礼申し上げます。
ここまでお読みいただきありがとうございました。続いて、Chapter2もよろしくお願いします。
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