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第6章 新しい国

147.魔法はなんでもありみたいです

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皆が街に着いてからおよそ1か月が過ぎ、以前の日常を取り戻しつつあった。既に季節は冬が近づいており、朝夕は冷え込む日もあるくらいになっていた。ドワーフ3人衆は既に4軒の一軒家とイッチーが持ってくるものを売る店をアパートの近くに2軒建て、現在は酒蔵を街の最東南へと建てていた。酒蔵を建てる際に蔵の横に宿泊棟を作りたいと言われたので許可しておいた。彼らはそこで酒の匂いに囲まれて暮らしたいらしい。ドワーフ種はやはり酒好きというのは本当だなとハジメは思った。

農業の方も作業員が10人増えたため、13人と13人、1人の3グループに分かれている。前者はジェイを主とする食料グループで、彼らにより住民たちの食料を充分に確保できている。リーダージェイのグループはベテラン勢が多く畑仕事に余裕を持って対応できるため、このグループには学校で農業の座学を担当して貰う予定になっている。

ケイトを主とする薬草グループは薬草栽培を行って貰っている。このグループは思考の柔軟な若い人物が多いのが特徴である。2日毎の収穫であるためとても忙しだろうに、彼らは楽しそうに働いてくれるのでとてもありがたい。彼らのグループは学生の実地を行って貰う予定となっている。ハジメの考える今後の展望としては、ここで採取できた薬草を使って、ポーションを作成し、その販売をこの街の主産業として外貨獲得できるようにしたいのである。

最後に1人グループであるドナには実験的な作物を育てて貰っている。現在は水田による稲作の実験をしており、うまくいけば現在輸入しているダス国カレン村のヘンリー夫妻の陸稲の米は酒造りに回す予定になっていた。目指せ料理酒の作成である。

酪農の方は農業のスキルを持った2人と酪農をしていた2人の計4人が配属されている。これまでトニーとトビーが牧草も管理していたのだが、農家2人がその仕事を請け負い、彼等は大好きな動物たちの世話、肉の加工品造りの人力が2倍になったため、以前よりも楽に仕事が出来るようになったため、元の牧場地をさらに2倍まで広くした。彼らの作る肉や乳の加工品はイッチーが高い値段で買い取ってくれており、全収入源の1/5を占めている。イッチー曰く、

カプリンブリントコッコンの加工品ですから、高いのは当たり前です。3種ともに滅多に口にすることなんてできないんですから」

とのことだった。ハジメ的には有難い話である。アパートがある通りの大通り沿いに店舗を1つ作っており、そこでイッチーから買い取った品物を並べている。その店は事務のリーダーであったキツネ族のトレビーを店長、セツを副店長にしており、彼らの種族に管理を任せている。因みにスムスはこの店の相談役として就任して貰っている。

学校はまだ開校しておらず、11歳以上の子供たちは教会で基礎的知識を得た後、学校で学ぶことになっていた。

「旦那様、こちらでしたか」

ハジメが2階の客間にあるベランダから街を見ていると後ろからウィリアムが声を掛けてきた。

「ウィリアム。働く人々を見ていたんだ。俺の都合で連れてきてしまって本当に良かったのかと……」

「……旦那様……。皆自分の意思でございますよ。私もパトリシアも、子供たちも……」

優しくそう言い、頷く。

「…ありがとう…」

なんとなくほっとしたハジメだった。その時西の方角から爆発音が響き、ハジメと執事がその方向を見ると上空に四足歩行のなにか・・・が4-5匹ほど舞っていた。ハジメが呆然とそれを眺めているとごにゃんたち警備員が西門に向かって走り始めているのが目に入る。

ハジメは彼らの後を追い始めるのだった。

「旦那様!危ないことをおやめください!」

と執事が叫び後を追いかけたのは余談である。


《西門まで1km地点》

「うふふふふ。私に勝とうなんて片腹痛いわ!」

右手を口元に当てて高笑いしている男を冷めた顔で見る女。

「……エティ……相変わらず加減知らずよね……。まぁ昼間の小夜曲セレナーデ如きでぶっ飛ぶなんて、この時代の魔物も弱くなったのかしら?まぁ、ちょっとした手土産にはなったかしら」

そう言いながら女は本当に不思議そうに首をかしげ、アイテムバッグに入れいった。その時空から落ちてきたのは冒険者ギルドでA級にランク付けされるワータイガーとその上位種であるS級のウルツァイトタイガーだった。ワータイガーの対処はなんとか出来るのだが、ウルツァイトタイガーは1匹で王都を壊滅させることが出来ると言われ、遭遇すれば命はないと知られているのだが、今落ちてきたそれらの命は消失していた。

「……はっ、またやってしまったわ…」

「だからいつも言ってるでしょ?あなたの『敵対者即滅』って考えは一般的じゃないって……。いったいつになったら覚えるのよ……」

プリマベーラは両手を腰に当てて呆れたように筋肉隆々であるエティに言った。

「……だって、魔法使うとそういうモードになるんですもの……」

「言い訳するんじゃありません!冷静沈着をモットーとしているはずの魔法を使うものとしてどう思ってるの?姉さんは本当に悲しいわ。いつも冷静なあの子・・・を見習ってほしいわ……」

姉のお小言にしゅんとなる筋肉。

「……あのぉ。あなた方は?」

茂みの中から不意に声がし、ハジメが姿を現した。

「旦那様!」

ウィリアムは咎めるように言うと庇うようにハジメの前に立ったが、その足は震えていた。

「あら、ハジメくんじゃないの?お迎え来てくれたの?」

女が破顔する。

「……旦那様?お知り合いでございますか?」

少し緊張を解いたウィリアムがハジメを振り返る。

「……さぁ。私は見たことない顔だけど……?」

「……そんな……。ひどいわ…」

ハジメは見たことない顔に警戒心を抱いて、そう答えると女性は悲しそうな表情になった。

「……プリマベーラ姉さん。私たち輪廻してきたから、姿形は違っているでしょ?それに私男になってるし、あの子・・・が分かるわけないでしょう……」

筋肉男が女性の言葉で呆れた口調で応える。

「そっか。そうだったわね。ハジメくん、私よ、プリマベーラ!こっちの筋肉男がエティよ」

と笑顔を取り戻してハジメに爆弾発言を投げかける。

「えぇぇぇぇぇぇぇ!なんで?にいたでしょ?もう亡くなってるんでしょ???まさか憑依したんですか!??」

悲鳴に近い声を上げる。ハジメは元看護師ということもあり、そのたぐいにはある程度免疫があった。それでもこの出来事には驚くしかなかったのだ。

「落ち着いて。私の話を聞きなさい!私が魔法研究者であることは知ってるわよね?」

エティがハジメの両肩を押さえつけて力強く言う。彼はそれに頷く。

「私のギフト魔法・・・・・に『輪廻転生リンカーネイション』があるのよ。その名の通り、死んであの世に行った後同じ世界で生まれ変われると言うわけではなく、ある時代を生きるを自分の血筋が死亡したことをトリガーにして死体に知識を持ち越した魂を入れるってやつなのよ」

ウィンクしながらエティが言った。

「……魔法ってなんでもありなんですね……」

ハジメはそう諦めた。

「まぁ、あれはエティの特有ギフト・・・だからね。普通は在りえないことだから、勘違いしないでね」

プリマベーラはそう説明した。

「…それは納得しましたが、どうしてここへ?」

「あぁ、私は研究対象として興味があったからで、姉さんは面白そうだからって理由なんだけどね」

とエティは答え、ハジメの耳元でこっそりと

「異世界人の魂の研究もしたかったし」

と言って笑顔になった。ハジメも知っている知識を追い求める貪欲な獣の笑みであった。

村へ戻った2人はプリマベーラは『依頼処いらいどころクワトロエスタシオーネス』という冒険者ギルドのような店を出し、エティは研究をしつつ後進を育てるために教員となるのだった。
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