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第6章 新しい国
145-3.挿話 2人の常識人
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窓から入ってくる朝の光で目が覚めた彼は伸びをすることなく布団から出て服へと着替え、自室の扉を開ける。通路は暗いが所々にある光の魔石が灯っているため、歩くには困らないようになっている。
「おはようございます、ウィリアム」
丁度隣の部屋から出てきた初老の女性が声を掛けてくる。
「おはようございます、パトリシア。お互い長年の習慣は抜けませんね」
自嘲気味に笑うと彼女にそう返事をした。
「本当に。困ったもんですわね」
彼女は笑顔でそう言った。
「船長の話だと今日の午前中には到着する予定らしいから、この揺れもそれまでの辛抱かな」
2人はそう朝の挨拶を交わして、甲板に出る階段を上がっていく。空は白々となり、夜が明けかけていた。
「もう起きられたのですか?まだ寝ていても宜しいのですよ?」
不意に2人の上から声が掛かる。見上げると副船長が舵を握っていた。
「おはようございます、カーディスさん。長年の習慣は抜けないものですよ」
ウィリアムがそう言うと
「確かにそうですね。あぁ、今左手に旦那の島が見えてますよ。今は島に沿って北上しているところです」
2人が左を向くと島影が彼らの視界に入ってきた。時々魔物の大きな鳴き声が聞こえてくる。夜の静寂にいた神々の島が目覚めていくような気がしていた。2人が暫く見入っていると船挟んで反対側から登り始めた太陽によりオレンジ色のような赤いような燃える色に染まった海が、夜と朝の中間の時間帯により不気味とも希望ともとれるような島が同時にそこには存在していた。
「…なんて景色なんでしょう。私がこのような風景を見ることになるなんて…」
パトリシアは思わず口に出していた。そしてそれから4時間ほどして北上していた船は西へと進路を変えた。
「船長!島の中へ向かう川のようなものが見える!」
見張り台に居た船員がそう叫ぶ。
「そこが司祭様が言っていた場所だろう。速度を落とせーー!」
川と海の交差点は直角に曲がっていたため船は大きく旋回し水路へと侵入していく。船は両サイドを森に囲まれた水路を進んでいった。
「ウィリアム…。これって絶対旦那様ですわよね…?この辺りに川はなかった筈ですわ」
そう、その水路は明らかに人の手が加えられている。そしてウィリアムは執事として、パトリシアはメイドとして地理や歴史などは一般的な知識よりも詳しく勉強をしているが、それでも大森林に川があることは知らなかったのである。そして川がないのに大森林が存在しているということは世界の不思議の1つになっているほどである。
「…パトリシア。それは旦那様にお伺いしましょう…」
「…そうですわね…」
2人は沈黙した。
「船長!」
見張りの船員が叫ぶ。
「報告しろ!」
チャドが叫ぶ。
「…信じられませんが、目の前の壁の前に大きな湖のような場所があります!そこに船が横付けできるようになっています!港になっています!」
「…なんだって…」
船長はその報告に黙る。
「船長。旦那だからな。気にするな」
冷静にカーディスが告げた。
「まずは偵察をすることにする。彼の報告を待ってどうするか決めることにする」
船長がそう告げ、船が広い場所に入ろうとしていると、門が開きハジメの姿が見えた。
「皆、お疲れ様ー」
そう叫んで手を振っている。
「指示変更。即船を停泊させタラップを下せー!」
そうしてタラップが掛けられ人々が降り始めたのだった。それを眺めながらチャドは溜息をひとつ零す。
「…旦那だから…」
そう言ってカーディスはチャドを慰めたのだった。
船から降りたパトリシアは司祭様と商人との会話終わりを待って声を掛ける。
「旦那様。お元気そうでよろしゅうございました」
「うん。パトリシアたちも元気そうで良かったよ。これからもよろしくね」
ハジメは彼女の後ろからくるウィリアムにも気づき、そう言ってほほ笑んだ。ハジメの前にまで彼は来ると
「旦那様…」
「大丈夫だよ、ウィリアム。明日にでもパトリシアと一緒に書斎に来てくれるかな。今後の相談もしたいから」
にっこり微笑んでそう告げる。
「畏まりました、旦那様」
そう言い頭を下げ、2人はハジメの後ろに立った。
「…ウィリアム、旦那様にお伺いするのではないの?」
「…パトリシア。あの笑顔では、あの水路を作ったり、この壁を作ったのは旦那様で間違いないですか?なんて聞けないでしょう…」
ウィリアムはそう言いながら立っていた。
「…そうですわね…。もし作っていたとしても非常識過ぎますなんて言えませんわね…」
「…そうなんだよ。非常識過ぎますなんて言えないでしょう…」
ハジメ的にはウィリアムは国や街に多大な利益を生み出し与え、金策に困っていた自分たちを高額で雇い、親を失った子等を育てる環境を作ってくれたハジメが讃えられることなく、国を追われ、犯罪者扱いされたこと怒っているのかもと思っていたのだが、実のところ、2人はハジメの非常識を窘めるつもりだったのである。
その後司祭より世界樹のオーダと各属性の第1位の妖精たちを紹介され絶句する2人は
「ウィリアム様。言いたいことは分かりますが、これがハジメ様、と思ってあきらめてください。パトリシア様やメイドさんたちもよろしいですね」
とスクナヒコに言われ諦めるしかなかった。そしてハジメとオーダ、ウィリアムとパトリシア、戦闘メイドの2人、スクナヒコでハジメの家に向かっている途中、ハジメが
「フォローは大変ありがたかったですが、これが僕ってどういうことですか?けなされてますよね?」
と小声で司祭に告げたがスクナヒコが小声でなにか言うとハジメは黙り込んだ。その後執事とメイドたちの側に来ると小声で
「ハジメ様を理解するうえで大切な言葉をお教えしましょう。『ハジメ様だから…』これを心で唱えていると全て納得することが出来ますよ」
と告げる。4人は「なるほど」と理解した。その後働きなれたハジメの家で髪の毛の賑やかな人工生命体を紹介されると、
「・・・・旦那様だから・・・・」
を使ったのだった。不思議とその言葉でどんな理不尽なことも納得できてしまったのである。それ以降ハジメ家の使用人の間で一番最初に習う事が「旦那様だから」になったのは言うまでもない。
「おはようございます、ウィリアム」
丁度隣の部屋から出てきた初老の女性が声を掛けてくる。
「おはようございます、パトリシア。お互い長年の習慣は抜けませんね」
自嘲気味に笑うと彼女にそう返事をした。
「本当に。困ったもんですわね」
彼女は笑顔でそう言った。
「船長の話だと今日の午前中には到着する予定らしいから、この揺れもそれまでの辛抱かな」
2人はそう朝の挨拶を交わして、甲板に出る階段を上がっていく。空は白々となり、夜が明けかけていた。
「もう起きられたのですか?まだ寝ていても宜しいのですよ?」
不意に2人の上から声が掛かる。見上げると副船長が舵を握っていた。
「おはようございます、カーディスさん。長年の習慣は抜けないものですよ」
ウィリアムがそう言うと
「確かにそうですね。あぁ、今左手に旦那の島が見えてますよ。今は島に沿って北上しているところです」
2人が左を向くと島影が彼らの視界に入ってきた。時々魔物の大きな鳴き声が聞こえてくる。夜の静寂にいた神々の島が目覚めていくような気がしていた。2人が暫く見入っていると船挟んで反対側から登り始めた太陽によりオレンジ色のような赤いような燃える色に染まった海が、夜と朝の中間の時間帯により不気味とも希望ともとれるような島が同時にそこには存在していた。
「…なんて景色なんでしょう。私がこのような風景を見ることになるなんて…」
パトリシアは思わず口に出していた。そしてそれから4時間ほどして北上していた船は西へと進路を変えた。
「船長!島の中へ向かう川のようなものが見える!」
見張り台に居た船員がそう叫ぶ。
「そこが司祭様が言っていた場所だろう。速度を落とせーー!」
川と海の交差点は直角に曲がっていたため船は大きく旋回し水路へと侵入していく。船は両サイドを森に囲まれた水路を進んでいった。
「ウィリアム…。これって絶対旦那様ですわよね…?この辺りに川はなかった筈ですわ」
そう、その水路は明らかに人の手が加えられている。そしてウィリアムは執事として、パトリシアはメイドとして地理や歴史などは一般的な知識よりも詳しく勉強をしているが、それでも大森林に川があることは知らなかったのである。そして川がないのに大森林が存在しているということは世界の不思議の1つになっているほどである。
「…パトリシア。それは旦那様にお伺いしましょう…」
「…そうですわね…」
2人は沈黙した。
「船長!」
見張りの船員が叫ぶ。
「報告しろ!」
チャドが叫ぶ。
「…信じられませんが、目の前の壁の前に大きな湖のような場所があります!そこに船が横付けできるようになっています!港になっています!」
「…なんだって…」
船長はその報告に黙る。
「船長。旦那だからな。気にするな」
冷静にカーディスが告げた。
「まずは偵察をすることにする。彼の報告を待ってどうするか決めることにする」
船長がそう告げ、船が広い場所に入ろうとしていると、門が開きハジメの姿が見えた。
「皆、お疲れ様ー」
そう叫んで手を振っている。
「指示変更。即船を停泊させタラップを下せー!」
そうしてタラップが掛けられ人々が降り始めたのだった。それを眺めながらチャドは溜息をひとつ零す。
「…旦那だから…」
そう言ってカーディスはチャドを慰めたのだった。
船から降りたパトリシアは司祭様と商人との会話終わりを待って声を掛ける。
「旦那様。お元気そうでよろしゅうございました」
「うん。パトリシアたちも元気そうで良かったよ。これからもよろしくね」
ハジメは彼女の後ろからくるウィリアムにも気づき、そう言ってほほ笑んだ。ハジメの前にまで彼は来ると
「旦那様…」
「大丈夫だよ、ウィリアム。明日にでもパトリシアと一緒に書斎に来てくれるかな。今後の相談もしたいから」
にっこり微笑んでそう告げる。
「畏まりました、旦那様」
そう言い頭を下げ、2人はハジメの後ろに立った。
「…ウィリアム、旦那様にお伺いするのではないの?」
「…パトリシア。あの笑顔では、あの水路を作ったり、この壁を作ったのは旦那様で間違いないですか?なんて聞けないでしょう…」
ウィリアムはそう言いながら立っていた。
「…そうですわね…。もし作っていたとしても非常識過ぎますなんて言えませんわね…」
「…そうなんだよ。非常識過ぎますなんて言えないでしょう…」
ハジメ的にはウィリアムは国や街に多大な利益を生み出し与え、金策に困っていた自分たちを高額で雇い、親を失った子等を育てる環境を作ってくれたハジメが讃えられることなく、国を追われ、犯罪者扱いされたこと怒っているのかもと思っていたのだが、実のところ、2人はハジメの非常識を窘めるつもりだったのである。
その後司祭より世界樹のオーダと各属性の第1位の妖精たちを紹介され絶句する2人は
「ウィリアム様。言いたいことは分かりますが、これがハジメ様、と思ってあきらめてください。パトリシア様やメイドさんたちもよろしいですね」
とスクナヒコに言われ諦めるしかなかった。そしてハジメとオーダ、ウィリアムとパトリシア、戦闘メイドの2人、スクナヒコでハジメの家に向かっている途中、ハジメが
「フォローは大変ありがたかったですが、これが僕ってどういうことですか?けなされてますよね?」
と小声で司祭に告げたがスクナヒコが小声でなにか言うとハジメは黙り込んだ。その後執事とメイドたちの側に来ると小声で
「ハジメ様を理解するうえで大切な言葉をお教えしましょう。『ハジメ様だから…』これを心で唱えていると全て納得することが出来ますよ」
と告げる。4人は「なるほど」と理解した。その後働きなれたハジメの家で髪の毛の賑やかな人工生命体を紹介されると、
「・・・・旦那様だから・・・・」
を使ったのだった。不思議とその言葉でどんな理不尽なことも納得できてしまったのである。それ以降ハジメ家の使用人の間で一番最初に習う事が「旦那様だから」になったのは言うまでもない。
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