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第6章 新しい国
145-2 挿話 2人の冒険者
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《魔術国家 アウレン》
アウレン国で大きな町というのは首都しかなく、食料なども首都の近辺でしか育てられていないという一極集中国家である。輸出のメインは魔法使いという人材であり、輸入の主たるものは魔法の適性を持った人材である。そういう訳でこのアウレン国は別名魔術国家とも言われているのである。
この地の気候は1年を通して少し涼しく、真夏でも朝夕には一枚羽織るものが必要なほどであり、暖炉の火が途絶えるのは空き家だけであると言われている。街の中心にはひと際大きいな朱色のレンガで出来た建物が建っており、そこを起点として東西南北、北東、南東、南西、北西の8つの大通りが伸びている。それらの通りをローブ姿の住民が行きかっているがしゃべり声はせず、ただ粛々と歩いているだけである。なんとも違和感を覚えるような光景が広がっている。街の中央にある建物が『国家魔法学園』であり、その大きさは街の半分を占めている。
「エティ・・・。ほんと奇妙な街よねここ」
「お前やめとけよ。普通の声で話しても衛兵に捕まるぞ」
ローブ姿の女を同じ格好をした男が窘める。
「本当に面倒な法を作ったものね。話せるのは防音を施した建物のみだなんて・・・」
女はため息を漏らす。
「プリマベーラ、本当に気をつけろよ。ここじゃ捕まったら魔法の練習の的にされるって話だからな・・・」
「はーい・・・」
二人が歩いているのは北の大通りであり、向かっているのは北門である。彼らはシャキール聖国の北に位置するドワーフの国、ガーボン国の冒険者なのである。商人の護衛としてここまで来たが、それも一昨日で終了している。帰りついでに護衛の依頼がないか確認したのだが、なかったのである。後数日待ってもいいのだが、『街中でしゃべってはいけない』と言う法があるため、非常に居心地が悪く、我慢の限界にきたプリマベーラたちは依頼を受けず帰ることにしたのだった。
北門まで来ると街を出たい人々の長い行列が出来ている。
「げっ・・・・」
思わずプリマベーラは声に出してしまった。慌てて辺りを見渡すが彼女の声に気づいたものはいないようだった。彼女は急いでメモ帳を取り出し、『東門から出ましょう』と書いたメモをエティに見せ、2人は東門へと向かった。東門は大森林へ最も近い場所であり、ここから出る人は殆どいないためいつも空いているが、北へ向かうためには城壁沿いに2時間ほど進まないと街道へは出られない。彼らはその時間無言でいるストレスを抱かないために東門を選んだのだった。
彼らは東門から出ると思いっきり伸びをした。
「あぁ。本当に黙るの辛いわー」
ひと際大きな声でプリマベーラが言うと、エティも、
「マジ、しんどい」
と同調する。門番の前であるが、この街全体に遮音の魔法が掛かっており城壁外の音は聞こえないようになっているため咎められることはない。以前森から出てきた魔物に街が襲われた際に壊滅しかかったことがあり、この遮音の魔法をどうするかという議題があったらしいが、彼らは監視魔法を生み出し24時間体制で周囲の状況を把握するに至った。ハジメがそれを知れば「ここ監獄?」と言っただろう。
そして静寂の街を抜け出した2人だったが、
「ついでに薬草でも採取していかね?俺のマジックバッグに入れれば2か月くらいなら鮮度は問題ないし」
とエティが言ったことによって進路を北から東へと変えたのだった。
それから2時間後、彼は大森林で薬草の採取をしていた。
「魔素草はっけーん」
「上質な薬草あるじゃん」
2人はそう言って知らず知らずの内に中層域まで進んでしまっていた。森の浅い層だとちょっと強いゴブリンとかコボルトくらいなのだが、中層だとゴブリンシャーマン、ゴブリンファイターなどが出てくる。深層に至ってはキング種がうじゃうじゃ闊歩していると言われていた。
2人がしゃがんで採取していると、エティの側腹部に矢が一本刺さる。
「敵がいる!!」
とプリマベーラに警戒を呼び掛け、彼女の方を見ると既に彼女はハリネズミ状態になり息絶えていた。そして間もなくエティにも矢の雨が降り注いだのだった。薄れゆく意識の中で奥の茂みからB級モンスターであるコボルトキングが現れ、勝鬨を上げる。その瞬間キングの首がふっとび、彼の背後からA級モンスターに分類されるダークナイトが現れたのだった。
冒険者にも付けられたランクはあるのだが、魔物のそれは少し意味合いが異なってくる。同じランクの魔物を狩ろうとすれば3人以上で対峙しなければならないのである。いくら魔法を使わないB級のコボルトキングでも2人しかおらず、不意打ちをされたという状況であればB級の冒険者では簡単に狩られてしまうのである。
ダークナイトは息絶えたプリマベーラに近づき首を掴み、そのままエティの方まで来ると同じように彼を持ち上げる。
”吸引”
低音の何十にも声がかぶさったような魔法が発動すると、2人の体はびくびくと痙攣し、見えない口からピンクの舌が出てきてぺろりと舌なめずりしたのだった。その直後プリマベーラの体がピクリと動き魔物の腕を掴んだかと思うと綺麗なムーンサルトでダークナイトの顎を蹴り上げた。
「相変わらず気持ち悪い魔物ね・・・」
立ち上がった彼女は自分の体から矢を抜きながら呟く。
「あの子はまだかしら、さっさと洗い流したい気分だわ」
彼女の蹴りでノックバックしたダークナイトが立ち上がったのを見て、魔物に向かって走った。
「抜き打ち、聖なる拳」
ダークナイトの胸にヒットするや否や彼の体は爆散したのだった。
「姉さん、うまくいったようね」
エティもまた自分の体に刺さった矢を抜いていたのだった。
「そうよ。私よ。あんた・・・男??」
「仕方ないじゃない。血統を前提とした”死”をトリガーにした輪廻の魔法だもん。人は生まれてくる性別を選べないでしょう?」
自分の体に着いた埃を払いながら彼女は言った。
「それはそうだけど・・・。貴方がそれでいいならいいけど・・・」
「あの子の居る時代は面白そうだったから輪廻に入ったんだけどね・・・。それにしても、この時代の冒険者って弱いのかしら?」
エティは自分のポーチから冒険者ギルドのカードを取り出し魔力を注ぐ。
エティ 23歳 男
職業:魔法使い
所属冒険者ギルド:ガーボン国
冒険者ランク:B
「ま、魔法使い・・・・・。なんでランクアップしてないよっ。それに下位職で冒険者ランクBなんて・・・。ね、姉さんの方は??」
「私は職業無位拳士だって・・・・」
そう呟いて地面に倒れ込む。
「ランクアップしてないのに大森林になんて来ちゃだめでしょ・・・・。だから死ぬんだよ・・・」
「さて、姉さん嘆いていても仕方ないから行くわよ。この森の中央みたいだから2か月くらいはかかるでしょうね・・」
そうしているうちに『国別れ』が起こり、浅い層に居た人々は精霊によって所属国へと飛ばされたのだが、森の中層を抜けている途中の2人は精霊の目を逃れて干渉はされなかったのだった。
アウレン国で大きな町というのは首都しかなく、食料なども首都の近辺でしか育てられていないという一極集中国家である。輸出のメインは魔法使いという人材であり、輸入の主たるものは魔法の適性を持った人材である。そういう訳でこのアウレン国は別名魔術国家とも言われているのである。
この地の気候は1年を通して少し涼しく、真夏でも朝夕には一枚羽織るものが必要なほどであり、暖炉の火が途絶えるのは空き家だけであると言われている。街の中心にはひと際大きいな朱色のレンガで出来た建物が建っており、そこを起点として東西南北、北東、南東、南西、北西の8つの大通りが伸びている。それらの通りをローブ姿の住民が行きかっているがしゃべり声はせず、ただ粛々と歩いているだけである。なんとも違和感を覚えるような光景が広がっている。街の中央にある建物が『国家魔法学園』であり、その大きさは街の半分を占めている。
「エティ・・・。ほんと奇妙な街よねここ」
「お前やめとけよ。普通の声で話しても衛兵に捕まるぞ」
ローブ姿の女を同じ格好をした男が窘める。
「本当に面倒な法を作ったものね。話せるのは防音を施した建物のみだなんて・・・」
女はため息を漏らす。
「プリマベーラ、本当に気をつけろよ。ここじゃ捕まったら魔法の練習の的にされるって話だからな・・・」
「はーい・・・」
二人が歩いているのは北の大通りであり、向かっているのは北門である。彼らはシャキール聖国の北に位置するドワーフの国、ガーボン国の冒険者なのである。商人の護衛としてここまで来たが、それも一昨日で終了している。帰りついでに護衛の依頼がないか確認したのだが、なかったのである。後数日待ってもいいのだが、『街中でしゃべってはいけない』と言う法があるため、非常に居心地が悪く、我慢の限界にきたプリマベーラたちは依頼を受けず帰ることにしたのだった。
北門まで来ると街を出たい人々の長い行列が出来ている。
「げっ・・・・」
思わずプリマベーラは声に出してしまった。慌てて辺りを見渡すが彼女の声に気づいたものはいないようだった。彼女は急いでメモ帳を取り出し、『東門から出ましょう』と書いたメモをエティに見せ、2人は東門へと向かった。東門は大森林へ最も近い場所であり、ここから出る人は殆どいないためいつも空いているが、北へ向かうためには城壁沿いに2時間ほど進まないと街道へは出られない。彼らはその時間無言でいるストレスを抱かないために東門を選んだのだった。
彼らは東門から出ると思いっきり伸びをした。
「あぁ。本当に黙るの辛いわー」
ひと際大きな声でプリマベーラが言うと、エティも、
「マジ、しんどい」
と同調する。門番の前であるが、この街全体に遮音の魔法が掛かっており城壁外の音は聞こえないようになっているため咎められることはない。以前森から出てきた魔物に街が襲われた際に壊滅しかかったことがあり、この遮音の魔法をどうするかという議題があったらしいが、彼らは監視魔法を生み出し24時間体制で周囲の状況を把握するに至った。ハジメがそれを知れば「ここ監獄?」と言っただろう。
そして静寂の街を抜け出した2人だったが、
「ついでに薬草でも採取していかね?俺のマジックバッグに入れれば2か月くらいなら鮮度は問題ないし」
とエティが言ったことによって進路を北から東へと変えたのだった。
それから2時間後、彼は大森林で薬草の採取をしていた。
「魔素草はっけーん」
「上質な薬草あるじゃん」
2人はそう言って知らず知らずの内に中層域まで進んでしまっていた。森の浅い層だとちょっと強いゴブリンとかコボルトくらいなのだが、中層だとゴブリンシャーマン、ゴブリンファイターなどが出てくる。深層に至ってはキング種がうじゃうじゃ闊歩していると言われていた。
2人がしゃがんで採取していると、エティの側腹部に矢が一本刺さる。
「敵がいる!!」
とプリマベーラに警戒を呼び掛け、彼女の方を見ると既に彼女はハリネズミ状態になり息絶えていた。そして間もなくエティにも矢の雨が降り注いだのだった。薄れゆく意識の中で奥の茂みからB級モンスターであるコボルトキングが現れ、勝鬨を上げる。その瞬間キングの首がふっとび、彼の背後からA級モンスターに分類されるダークナイトが現れたのだった。
冒険者にも付けられたランクはあるのだが、魔物のそれは少し意味合いが異なってくる。同じランクの魔物を狩ろうとすれば3人以上で対峙しなければならないのである。いくら魔法を使わないB級のコボルトキングでも2人しかおらず、不意打ちをされたという状況であればB級の冒険者では簡単に狩られてしまうのである。
ダークナイトは息絶えたプリマベーラに近づき首を掴み、そのままエティの方まで来ると同じように彼を持ち上げる。
”吸引”
低音の何十にも声がかぶさったような魔法が発動すると、2人の体はびくびくと痙攣し、見えない口からピンクの舌が出てきてぺろりと舌なめずりしたのだった。その直後プリマベーラの体がピクリと動き魔物の腕を掴んだかと思うと綺麗なムーンサルトでダークナイトの顎を蹴り上げた。
「相変わらず気持ち悪い魔物ね・・・」
立ち上がった彼女は自分の体から矢を抜きながら呟く。
「あの子はまだかしら、さっさと洗い流したい気分だわ」
彼女の蹴りでノックバックしたダークナイトが立ち上がったのを見て、魔物に向かって走った。
「抜き打ち、聖なる拳」
ダークナイトの胸にヒットするや否や彼の体は爆散したのだった。
「姉さん、うまくいったようね」
エティもまた自分の体に刺さった矢を抜いていたのだった。
「そうよ。私よ。あんた・・・男??」
「仕方ないじゃない。血統を前提とした”死”をトリガーにした輪廻の魔法だもん。人は生まれてくる性別を選べないでしょう?」
自分の体に着いた埃を払いながら彼女は言った。
「それはそうだけど・・・。貴方がそれでいいならいいけど・・・」
「あの子の居る時代は面白そうだったから輪廻に入ったんだけどね・・・。それにしても、この時代の冒険者って弱いのかしら?」
エティは自分のポーチから冒険者ギルドのカードを取り出し魔力を注ぐ。
エティ 23歳 男
職業:魔法使い
所属冒険者ギルド:ガーボン国
冒険者ランク:B
「ま、魔法使い・・・・・。なんでランクアップしてないよっ。それに下位職で冒険者ランクBなんて・・・。ね、姉さんの方は??」
「私は職業無位拳士だって・・・・」
そう呟いて地面に倒れ込む。
「ランクアップしてないのに大森林になんて来ちゃだめでしょ・・・・。だから死ぬんだよ・・・」
「さて、姉さん嘆いていても仕方ないから行くわよ。この森の中央みたいだから2か月くらいはかかるでしょうね・・」
そうしているうちに『国別れ』が起こり、浅い層に居た人々は精霊によって所属国へと飛ばされたのだが、森の中層を抜けている途中の2人は精霊の目を逃れて干渉はされなかったのだった。
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