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第6章 新しい国

145.やっぱりチートみたいです

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昼になり、食堂兼酒場からピザの焼ける匂いと賑やかな笑い声が風に乗って聞こえてくる。ハジメが楽しそうな声に聞き入っていると、書斎のドアをノックする音がする。扉の方を見ると、

「旦那様、お昼の準備が出来ました」

とウィリアムが告げる。ハジメは「今行く」と言い、食堂へ向かった。ハジメ的には一緒に食堂で摂りたかったのだが、そうすると皆が緊張するだろうと思い、家で摂ることにしたのだ。上司的な人が一緒のお昼休憩だとやはり気を使ってしまうのはどの世界でも当然だろう。

食堂に入ると既にオーダとイッチーは椅子に座っていた。ハジメがその間に座ると、料理人のセロが焼きたてのピザを3枚運んできた。トマトソースとチーズを乗せて焼いたピザの上にサラダを後乗せした「生野菜ピザ」である。暫くは皆の野菜不足を補うために野菜中心の食事を提供するようにお願いしている。

「ありがとう、セロ」

ハジメが礼を言うと、頭を軽く下げウィリアムとパトリシアの横へと立つ。30分ほどで食事を済ませると、

「父上ー。ジャイルたちと学校で遊んでくる」

そう言ってオーダは立ち上がったので、「気を付けて遊んでおいで」と注意すると「はーい」と言って食堂から出て行った。

「それにしても旦那様。ピザはこういう食べ方もあるのでございますね」

執事のウィリアムが声を掛けてくる。ハジメの隣でイッチーもうんうんと頷いていた。

「うん。そうだね。ピザには何乗せても大抵美味しくなるよ。焼く前に半分に折って焼いたらカルツォーネって呼ばれるものにもなるよ。それだと具材の温度が下がりにくいから時間をおいても熱々で食べれるからパーティーとかではいいかもね」

神々に作った食事を思い出しながらハジメが告げる。

「・・・・なんと、そんな食べ方が!早速作ってみないと」

セロが呟く。ハジメは笑って、

「ウィリアムやパトリシアたちメイドさんはこれからご飯でしょ。僕も手伝うから作ろうか」

そう言うとセロは嬉しそうに目を輝かせた。30分後には使用人たちの前にカルツォーネが並び、その10分後にはそれは皿の上から姿を消していた。ハジメと一緒に朝ごはんを食べたイッチーさえもあっという間にカルツォーネを同じ時間で完食していたのには驚いた。ピザを半分に折っただけなのにと思ったが、ハジメ的には皆満足そうな顔をしているのでそれで充分だった。

「ウィリアム。今晩来る人たちの家ってどうしようか・・・。孤児は孤児院に入ってもらうけど・・・」

ハジメが執事長に声を掛けると一瞬にして仕事モードに戻ったウィリアムは、

「そうでございますね。孤児たちはそれで良いかと思います。女子棟で空いているのは20室、男子棟が15室ですね。家族棟が20室ほど空いて居りますが、内訳が分からないのでなんとも言えませんね・・・」

と考え込む。その時ハジメの脳裏にアナトの声がする。

『ハジメ。子供が24、男の奴隷が20、女の奴隷が34。そのうち家族が14で、孤児は10人だ』

それをハジメが執事に伝えると、

「では孤児院に10人、男子棟に6人、女子棟に20人、家族棟に14組ですね。それならば問題はないでしょう」

と整理してハジメに伝えてくれる。

「・・・ところで旦那様。神像の近くであるとは言え教会ではない場所で神様とお話が出来るのですか?」

「そうだね。声をかけられたら出来るけど、こっちから声をかけれるかはわからないよ」

ハジメがそう答えるとウィリアムはパトリシアと視線を合わせため息を吐いた。

「「「・・・旦那様(ハジメさん)ですから・・・」」」

常識人2人とイッチーは同時にそう呟いたのだった。一般的に神と交信するためには信仰する神の加護を受けたものが長年神に仕えら末に、人柄を認められた人物のうちの1%くらいが神の声を聴くことが出来ると言われている。全世界に1人いるかいないかくらいである。その選ばれた人物でさえも聖地で神像に年単位で祈りを捧げてようやく5秒程度である。容易く神から情報を得たり、会話したり、神に頼られたりするハジメがいかにチートなのかがよく分かるだろう。ハジメ的にはいつもいつも面倒事を持ち込まれるため敬う気持ちも少しずつ薄れているのだが・・・。

「ウィリアム。男子棟、女子棟、家族棟のリーダーとサブリーダーに伝えておいて貰える?あ、それと、今から家を建てるから、ハロルド一家と農家の3家族にはそちらに移って貰えるように聞いてみるから」

「畏まりました。もう1棟建てられるのですか?」

ウィリアムが問うと、

「いや、ハロルド一家には食堂の管理を任せたいからね。今挙げた4家族は朝早くから活動するだろうから、一軒家の方が他の人に気を遣わずに生活できるかと思って」

「確かにそうでございますね。朝ごはんの準備もあるでしょうし、食材も搬入しないといけませんから。畜産のトニーとトビーはどうしましょう?」

この世界で朝ごはんにはトニーとトビーのソーセージ、ハム・ベーコン、卵は欠かせない重要なタンパク質である。

「それは大丈夫。冷蔵庫を学校の地下に作ってるからそこから、鮮度は問題ないよ。それにあの2人が一軒家を使うとなると、アセナの負担が大きくなりそうだし」

そう言って戦闘メイドの彼女に視線をやれば、頭を下げるアセナが居た。表情は変わらないがやはり負担が大きいのだろう。

「イッチーさんは今日はどうされますか?」

「そうですな。ハジメさんが宜しければ、街を見て回りたいと思っております」

イッチーが目を輝かせながら言った。彼は既に街の人々にその存在を認知されているため、彼が街の中を歩き回っても住人たちに不安は広がらない。

「えぇ。良かったら見て回って頂いて、修正した方がいい場所があれば教えて頂けたらと思います。よろしくお願いします」

とハジメが彼に言うと、彼はバッグからノートを取り出し、街へ向かっていった。ハジメとはくはハロルドたちと3農家を連れて一軒家の場所を決めに空き地がある学校の裏あたりにきた。4家族で話し合った結果場所も決まった。順番に家を建てて行くので、完成し次第順次引っ越しをしてもらうことになった。やっぱり朝は音を立てないようにかなり気を使っていたようでとても喜んでもらえたのだった。

「あ、そう言えば旦那様。トニーとトビーが畜産場のことで相談したいって言ってましたよ」

とジェフに言われたので訪れてみると、カプリンブリントコッコンを放牧する場所が狭いと言われたので、これからのことも考え50倍まで拡張しておいた。食料的には今の数で問題はないだろうが、余剰分をイッチーを通して販売することも可能になるだろう。

そして夕方になり、皆が教会へと集まったのだった。丁度いいと思い、オーダとプリモたちを紹介したのだった。そして10分ほどして神像が光り、その場に88名のにえに選ばれた者たちが突如として現れたのであった。

「ここが楽園・・・・?」

一人のずんぐりむっくりの男が言葉を発する。

「楽園?なんのことかは分かりませんが、ここは私たちが住む町ですよ。神様から話は聞いていますので、取り敢えず皆さんには家へと案内させていただきますね。その後食事にしますのでその時色々お話をさせていただきます」

ハジメをそう言ってウィリアム、パトリシア、アセナとミミに目配せをすると彼らは贄にされた人々と住民たちを連れて教会を出て行った。

『ハジメ。贄にされた者たちには説明をしておいた。既に奴隷の立場ではないようにしている。申し訳ないがよろしく頼む。これはバアルの神器『風の竪琴』。奏でれば雨雲をよんだり散らしたりできる。今回のこと本当に感謝する』

そう言って声は聞こえなくなり、祭壇には一台の竪琴が緑の光を帯びて置かれていた。
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