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第5章 第3節 南の塔 ~発芽~

124.手続きするみたいです

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王が宣言した時王弟であるハワードは右の口角を僅かに上げた。映像にあった貴族等が皆サイラスの提案を取りつく島もなく拒否していたことで王弟である自分も拒否したと皆考えたのもあるが、ここにいる重鎮たちは考えが甘い。第1王女は隣国に間もなく嫁ぎ、第2王女も婚約が決まった。残る王子2人は成年するまでまだ数年はあり、いかようにも王弟ハワードの思いのままに事を運ぶことができるのだ。

以前第2王女ジュリエッタがハジメに説明した時「第1王妃には第1王子と第2王女、第2王妃には第2王子と第1王女がいる」と言ったが正確な生まれた順番は第1王女、第2王女、10年空いて第1王子、第2王子である。

2人が運び出され、宰相と王、王弟のみが謁見の間に残った。王はため息を吐きながら王座に座ると、

「ハワード。今回の事でお主には迷惑をかけてしまったな」

と声をかける。

「いえ、幸いにも我が私兵がでよろしゅうございました。兄上」

「本当に。あの時王弟殿下の私兵団が居られなかったらイブの街は蹂躙されておりましたでしょう・・・」

ハワードの言葉に宰相が優しく声をかける。

「そうじゃ。ハワードのおかけで街には損害が出なかったとのこと。しかし私兵団はほぼ全滅したと聞いておる」

「・・・えぇ。私兵団の団長バリー殿も亡くなったとか・・・」

王と宰相のハワードを労わる言葉が続く。

「私兵団とは言え国の一大事を救うことが出来たのです。彼も本望でしょうし、私も彼らを誇りに思います」

悲しそうな目を作ってそう答えた。

「それでのハワード。イブの街からクーラの領地を下賜した商人がそこをお主に還付かんぷしたいとの申し出が出ておる」

「そうでございますか・・・」

ハワードが考え込むような仕草をすると宰相が、

「あの街的にはそうするしかないでしょう・・・。受け取った方が良いかもしれません。現金で支払うとなると謝礼金と私兵団壊滅の慰謝料としては王弟殿下にほどが妥当な金額になりますし、それに加えて参加した冒険者たちへの褒章で白金貨100枚程必要となりまする。いくらポーションで潤い始めたとは言え、用意するのは難しいでしょう」

「・・・確かに。でしたら受け取ることにしましょう」

こうして王と宰相は白金貨500枚を要求したとは知らないままにハジメの領地は王弟に渡されることになったのである。


~クーラの領地~

時は少し戻りハジメがフラップから領地明け渡しを命令されひかりと一緒に卒塔婆の攻略を始めるまでの数日の時間、ハジメは奴隷たちや従業員の雇用先を見つけることに奔走した。

奴隷たちと料理人たちはハジメの側で働きたいと言ってくれた。開墾からになることも告げるがそれでもと言ってくれた。そしてパトリシアとウィリアム以外の一般メイドと執事たちはフラップの館で就業することになり、戦闘メイドのミミとアセナ、ミミの父親はハジメについてくることになった。そして商業ギルドのスムスをイブの街に帰そうとしたところ、ハジメと一緒に行くと言ってきたのだ。セツと離れたくないらしい。そう言った無表情気味のスムスの顔が初めて真っ赤になっていた。ハジメが微笑み承諾すると、すぐにその足で商業ギルドに辞職届を出しに馬車に乗っていった。因みにセツは男である。人を大切に思い、敬い、愛するということは全てにおいて尊いのだ。ハジメは教会が出来たら結婚式と披露宴を行おうと思った。そうなったときのスムスがどのような顔をするのかとても楽しみに思った。

そしてチャド率いる商船団に会いに行く道すがら出会った司祭スクナヒコが「一緒に行く」と言うので共に彼らの元を訪れ、相談すると意外にも一緒に行きたいと言ってきた。しかし向かうのは森の中である。

「船から降りることになってしまうけど・・・」

とハジメが言うと、チャドの副官であるハーフグラスのカーディスが、

「ハジメ殿が居なくなれば船は無くなりますし、森へ行っても同じことです。ならばハジメ殿と一緒に居たいのです」

と言う。

「え?カーディスさんやチャドさんたちの船はそのまま乗ってもらって構わないのですよ?」

と告げると、

「・・・そ、それでもハジメさんと一緒に仕事がしたいのです」

言ってくれたのだ。

「まぁ、うちの船長がこう自分の意見を曲げないなんて珍しいので、そこを汲んでいただければ」

とカーディスが微笑むと近くの船員たちも、

「そう言うことなんで」

と口々に言い笑っている。ハジメの心が感動していると後ろに居たスクナヒコが、

「そうだね。じゃぁ、商船団にお願い。ホウ砂を出来るだけ船に積んできて。ハジメ君、彼らの技術はこれからとても重要になるよ」

「任されよ」

と商船団は採取に向かった。それを見送ったあとスクナヒコはハジメに向かいクスリと笑い手を振りながら去っていった。

それを見送った後、レストランへと向かい同じ説明をすると、バーナード一家は今まで貯めたお金でイブの街でベッキーとトムでレストランを開き、バーナードは夫婦でハジメについて行くと言っていたが、エイダの

「あなた。私今子供を授かっているの・・・」

その告白により4人はイブの街に移住することが決まった。

「さてと、取り敢えず。この領地に住んでる人は終わりかな。後は明後日来るイッチーさんに話をしてと。じゃぁ、ひかり、ちょっとイブの街に行ってくるね」

そう言ってハジメは魔法馬に乗り込んだ。

20分ほどして街の入り口に着くと丁度、スムスが検問を通過するところだった。スムスに自分の考えを伝えると、

「では、商業ギルド職員として最後の仕事にさせてもらいます。誰かに依頼するのも私的にいらっとするので」

と笑顔で言い、2人は商業ギルドへ向かった。それから1時間ほどして依頼した内容が完了した。ハジメが出来上がった書類を3枚受け取り確認をする。

登録書

商品名:ピザレシピ

登録内容:10年の独占販売

登録者:ハジメからトムへ譲渡

登録書

商品名:飲むヨーグルトレシピ

登録内容:10年の独占販売

登録者:ハジメからトムへ譲渡

そしてもう1枚は空き土地の購入書類だった。コウの店の道を挟んだ反対側にある場所で土地も割と広めになっている。次いでにとばかりにバーナード一家の婿であるトムの名前で購入をしておいた。幸いなことにトムは奴隷ではないし、商人ギルドに登録をしているため、この場で簡単に購入できたことが大きかった。この世界には相続税はなく、登録者が死んだらギルドに登録している妻や息子、養子などに申請だけで書き換えることが可能だった。今回はバーナード一家はまだ奴隷扱いであるため、購入することは出来なかったのだ。彼らはハジメの元で働くようになった後、借金奴隷として登録されている。これはハジメが彼らの残った借金を肩代わりしたためである。ハジメ的には奴隷にならなくても良かったのだが、彼らがケジメを付けたいと言ったのでイヴァンカに間に入って貰ったという経緯があった。

借金奴隷は奴隷と付いているものの実際の所買われた金額の倍額を支払えば奴隷から解放できることから、軽微奴隷とも言われ、一般奴隷よりも立場は良い。そのため解放の条件は購入者が奴隷商で証明すれば事足りるのだ。コウの奴隷解放に関してサインが必要だったのは、コウが未成年であったこと、しかも違法な奴隷売買であったことが理由になっている。

内容に間違いはないことを確認し、記入したすると、スムスは

「はい。これで問題ありません。土地は既に更地のようですので、いつ工事を始めても構いません」

「わかったよ。まぁ俺がするのはここまでかな。使いやすい内装とかあるだろうから、あとは4人に任せるよ。じゃぁ後でね」

と言われたのでそうハジメは答える。ついきでにコウ、リナリー、アーロン、ヴィオラ、ティナのギルド預金に白金貨1枚ずつ送金しておいた。残りの預金、白金貨200枚程は全て金貨で受け取りアイテムボックスに仕舞う。彼の口座にはもう銀貨数枚程度しか残っていない。そしてスムスは処理と自分の辞職届を出すために部屋を出ていった。ハジメも商業ギルドを後にし、奴隷商のイヴァンカの元を訪れ、3人の借金奴隷の解放を依頼し、即座にその処理がなされた。と言っても書類を燃やすだけだったが。

「イヴァンカさん、奴隷からの解放って書類燃やすだけなのですか?」

とハジメが問うと、

「そうですね。正確には今のように書類を燃やすか、奴隷の腕輪を壊すかという2択になります。あぁ、あとは死亡した場合の3択ですね。書類を燃やせば腕輪も燃えてしまいますし、腕輪を壊すと書類が燃えます。死亡した場合は腕輪は勝手に外れ、契約書は燃えます。奴隷死亡時は腕輪は買った奴隷商に持っていけば1万Sで買い取って貰えるようになっています。持っていても他の人物に着けても奴隷にはできませんので、たいていの方は新しい奴隷を購入するときに持ってこられます」

と答える。

「そうですか・・・・。でもそれなら壊す人が出てきませんか?1人でもそうなったら、他の契約書にも火が付きません?」

と当たり前なことを問う。契約書は普段金庫の中にまとめて収められ管理されている。1枚燃えれば他の契約書もすぐに火が付く。そしたら奴隷たちは解放されることになる。

「うふふ。ハジメ様。この腕輪を壊すには莫大な魔力、そうですね宮廷魔術師100人ほどの魔力が必要となりますし、この契約書を燃やす火は商神あきないがみ様の御業なので、他の契約書に引火はしません。それに火事などにあっても全く燃えないのです。それに死亡する奴隷は悲しい事ですが1月に20人ほどはいるのです。誰が死亡したのかは一覧と比較して私たちは把握しております。お得意様でしたら、死亡した奴隷と似たスキルの者を手配することもありますので。でも基本灰になったものを捨てるだけで確認はしないものです」

「なるほど・・・」

つまり、ハジメがこの街からいなくなり、奴隷登録しているものたちの腕輪を馬鹿魔力ちからで破棄しても商神に頼んで破棄してもらっても何の問題もないということである。
ハジメは礼を言って商店を出てクーラの領地に帰っていった。
因みにスムスがクーラに帰ってきたのは次の日の朝だった。どうやらかなり止められたようであるがその顔は晴れ晴れとしていた。
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