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第5章 第3節 南の塔 ~発芽~
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ハジメはクーラの街まで帰ってくると書斎に引き籠っていた。
「はぁ・・・・。大人げなく怒ってますアピールしてしまった・・・・」
自分の感情が素直に表に出てしまった事をひどく後悔し、独語が止まらない。
「それは仕方ないよー。マイベストフレンドー」
「・・・珍しいですね、スクナヒコ様。最近お姿見ませんでしたけど」
机に伏していた顔を上げると真ん前にスクナヒコが立っていた。
「実は謝らないといけないことと、お願いがあってきたんだよー」
「えー。もう俺はいっぱいいっぱいですよ・・・」
ハジメは神であるが仲が良いスクナヒコに思わず『俺』と言ってしまう。ハジメは1人称として『私』『僕』『俺』を使い分けている。目上の人やあまり親しくない人、公の場では『私』、取引などを繰り返しやや砕けた関係なら『僕』、身内などに当たる人物に対しては『俺』を使っている。こうすることで謙譲語使うのか、丁寧語か、普通の口調か瞬時に使い分けることが出来る。コウやリナリーなどには『俺』、ダス国の商人イッチーや商業ギルド職員のスムスなら『僕』、領主のフラップなど公人なら『私』という感じである。
「そうだろうねぇ。今回の出来事を僕が神々の代理で謝りに来たんだよー」
スクナヒコは椅子をハジメの執務室の前に持ってきて座る。
「あぁ、この領地を還付するって話ですか?それともイブの街が襲われたことですか?」
「その両方だよー。僕の上司の神様からの言伝からね。『始さん、今回の事が起こったのはこの世界の神々のせいなのです。本来なら始さんの後に転生予定の者が行う算段でした。しかしもう始まってしまったのです。始まった以上中断することは出来ません。本当に貴方には迷惑をかけてしまいますが、どうか無理だけはしないように。詳しくはスクナヒコから聞いてください』」
自分のことを『始さん』と呼ぶのはアマテラス様だけだ。
「そういうことなんだよねー。僕は薬の神だから有用な原料を求めて旅できるんだ。旅先で転生・転移してきた元日本人たちを見守るのも役目の1つなんだよ。それでハジメ殿にしてもらわなければならないことなんだけど・・・。はじまりの大地・・あぁ、今は大森林って呼ばれてるところなんだけど、あと南と西の塔の攻略をしてほしいんだ。しかもなるべく早く」
スクナヒコはハジメの目を見つめる。
「その理由だけど・・・。あぁ、忘却の魔法をかけられてるんだったね」
そう言ったスクナヒコが指をパチンと鳴らすと、舞と藍との思い出が鮮明に蘇る。涙が出そうになったがなんとか堪える。魔法とは言え彼女たち2人の事を忘れるなんて・・・。
「・・・。世界樹は君たちが大森林と呼んでいる場所にあるべきなんだよ。本当ならハジメ殿がこの世を去ってからくる次の転生者がその役割を果たすはずだったんだ」
神が優しく微笑みかける。『完全に根を張った世界樹は世界を一度バラバラにし、作り変える』そのことはハジメには関係ないことで、話すことではないと彼は言葉を飲んだ。
「しかし、この世界の神は君という存在を得てしまった。僕を含めてこの世界の神々とあそこまで仲良くなるのは想定外だったんだよ。君ならば少々無茶な願いも聞き届けてくれると思ってしまった。君は道具師だし錬金術師だけど、戦闘職ではないことを神々は忘れてしまった・・・」
ハジメはなるほどと思う。たまたま何とかなったが、生産職であるハジメがハヌマーンなんかと戦うのはおかしい話だ。そんなのがいる塔を攻略してくれと非戦闘職の自分に頼むのは今考えると変だ。
「それに加えてハジメ殿が攻略する塔は各属性を司る塔であることを利用して精霊王は世代交代を謀った。これもハジメ殿の生きる時間を考えれば、死後で良かった」
「でも、属性王は既に老いていました・・・」
ハジメがそう言うと
「そう。それは知識と力を新しい世代に渡した後だったからなんだよ。もともと計画されていた世代交代は知識のみの譲渡だった。そして数十年を使って新しい世代は相応しい力を付けて行く予定だった。しかし今世代交代すれば、ある程度の力も譲渡できる。そうなれば数十年かかる時間が十数年で完全な属性王が誕生する」
「ではなぜ急いだのでしょうか・・・」
尤もな疑問を投げかける。
「大きな事件が起こらなければという前提なんだよ。何かしら世界のバランスが崩れたときはその時期はかなり前倒しになるんだよ。そうなればこの世界は多少なりとも崩壊してしまうんだ。精霊たちは自分たちの命よりも世界の安定を望むんだよ。そういう風に作られた存在なんだ。ハジメ殿は精霊王とも仲がそれなりにいいよね?」
仲良くしたことが引き金だった・・・と。ハジメは唇を噛みしめる。
「スクナヒコ様、それ以上旦那様をイジメないでくださいませ」
陽と航がいつの間にか室内にいる。
「ごめんね。でもハジメ殿には知ってもらわないと。僕たち神々が迷惑をかけてしまったのだから・・・」
陽と航に微笑みかける。
「もう2人の属性王が代替わりをしてしまったということは古参の属性王との力のバランスが微妙になったということなんだよ。今は古参が精密な力のコントロールをしているからなんとかなっているけど、どうしても繊細な加減が必要だから力の消耗も激しくなるんだ。陽と航も代替わりして貰わなければならいんだ。そうなれば2人とも・・・」
「私たちの旦那様との思い出は消える・・・」
スクナヒコの言葉を陽が続ける。
「そう。属性王とはその属性のトップというだけじゃない。属性王は自然そのもの。それが個人だけに注がれてはいけない」
スクナヒコは真顔で陽の言葉を肯定する。分かっていたことだ。ユドルも先代の属性王も同じようなことを言っていた。
「そしてその世代交代のせいでハジメ殿の領地がなくなることになってしまったんだよ」
ハジメは眼を見開く。
「もう既に風と水の属性王はハジメ殿から別離した。でも陽と航はハジメ殿の傍にまだ居る。それで私の上司からの贈り物であるハンドブックの報酬『領地』を得た条件を満たさなくなってしまったんだ。まぁ、それで気づけたというのもあるんだけどね。そういう訳。それでその代わりと言ってはなんなんだけど、上司がこの世界の神々を折か・・・いやゴリ押・・・、口・・・、理詰・・ううん、話し合って、大森林の中央にある神々が降りた『はじまりの大地』をハジメ殿に渡すことになったんだよ」
今『折檻』とか『ゴリ押し』、『口撃』とか『理詰め』という単語を飲み込んでいなかったか?と思ったがなんとなく怖い気がするのでスルーしておく。
「・・・ところでハジメ殿記憶はどうする?もう一回消しておく?」
スクナヒコが聞く。
「いえ、このままで大丈夫です。俺だけは忘れたくありませんから」
その答えに神は嬉しそうにほほ笑む。
「じゃぁ、次は陽と南の塔の攻略だね。この土地に住む者たちは僕に任せておけばいいよ。僕の名に懸けてね」
そう言って消えて行った彼を見送った後、成長した航には珍しくハジメに体を寄せてきたので、脇をこちょここちょしてやった。
「ハジメ殿ー。それは卑怯でござるぅぅぅ」
そうやって遊んでいる姿を陽は優しい瞳で見ていた。
~イブの街役場~
肥えた男が横たわっており、その横にはカードを手にした少年が立っている。
「これで最後かな・・・。入力」
持っていたカードは少年の中に溶けて行く。
「・・・それで終わりだ。現代に帰す」
不思議な声と共に少年と4匹はその姿を闇に溶かしていった。
「はぁ・・・・。大人げなく怒ってますアピールしてしまった・・・・」
自分の感情が素直に表に出てしまった事をひどく後悔し、独語が止まらない。
「それは仕方ないよー。マイベストフレンドー」
「・・・珍しいですね、スクナヒコ様。最近お姿見ませんでしたけど」
机に伏していた顔を上げると真ん前にスクナヒコが立っていた。
「実は謝らないといけないことと、お願いがあってきたんだよー」
「えー。もう俺はいっぱいいっぱいですよ・・・」
ハジメは神であるが仲が良いスクナヒコに思わず『俺』と言ってしまう。ハジメは1人称として『私』『僕』『俺』を使い分けている。目上の人やあまり親しくない人、公の場では『私』、取引などを繰り返しやや砕けた関係なら『僕』、身内などに当たる人物に対しては『俺』を使っている。こうすることで謙譲語使うのか、丁寧語か、普通の口調か瞬時に使い分けることが出来る。コウやリナリーなどには『俺』、ダス国の商人イッチーや商業ギルド職員のスムスなら『僕』、領主のフラップなど公人なら『私』という感じである。
「そうだろうねぇ。今回の出来事を僕が神々の代理で謝りに来たんだよー」
スクナヒコは椅子をハジメの執務室の前に持ってきて座る。
「あぁ、この領地を還付するって話ですか?それともイブの街が襲われたことですか?」
「その両方だよー。僕の上司の神様からの言伝からね。『始さん、今回の事が起こったのはこの世界の神々のせいなのです。本来なら始さんの後に転生予定の者が行う算段でした。しかしもう始まってしまったのです。始まった以上中断することは出来ません。本当に貴方には迷惑をかけてしまいますが、どうか無理だけはしないように。詳しくはスクナヒコから聞いてください』」
自分のことを『始さん』と呼ぶのはアマテラス様だけだ。
「そういうことなんだよねー。僕は薬の神だから有用な原料を求めて旅できるんだ。旅先で転生・転移してきた元日本人たちを見守るのも役目の1つなんだよ。それでハジメ殿にしてもらわなければならないことなんだけど・・・。はじまりの大地・・あぁ、今は大森林って呼ばれてるところなんだけど、あと南と西の塔の攻略をしてほしいんだ。しかもなるべく早く」
スクナヒコはハジメの目を見つめる。
「その理由だけど・・・。あぁ、忘却の魔法をかけられてるんだったね」
そう言ったスクナヒコが指をパチンと鳴らすと、舞と藍との思い出が鮮明に蘇る。涙が出そうになったがなんとか堪える。魔法とは言え彼女たち2人の事を忘れるなんて・・・。
「・・・。世界樹は君たちが大森林と呼んでいる場所にあるべきなんだよ。本当ならハジメ殿がこの世を去ってからくる次の転生者がその役割を果たすはずだったんだ」
神が優しく微笑みかける。『完全に根を張った世界樹は世界を一度バラバラにし、作り変える』そのことはハジメには関係ないことで、話すことではないと彼は言葉を飲んだ。
「しかし、この世界の神は君という存在を得てしまった。僕を含めてこの世界の神々とあそこまで仲良くなるのは想定外だったんだよ。君ならば少々無茶な願いも聞き届けてくれると思ってしまった。君は道具師だし錬金術師だけど、戦闘職ではないことを神々は忘れてしまった・・・」
ハジメはなるほどと思う。たまたま何とかなったが、生産職であるハジメがハヌマーンなんかと戦うのはおかしい話だ。そんなのがいる塔を攻略してくれと非戦闘職の自分に頼むのは今考えると変だ。
「それに加えてハジメ殿が攻略する塔は各属性を司る塔であることを利用して精霊王は世代交代を謀った。これもハジメ殿の生きる時間を考えれば、死後で良かった」
「でも、属性王は既に老いていました・・・」
ハジメがそう言うと
「そう。それは知識と力を新しい世代に渡した後だったからなんだよ。もともと計画されていた世代交代は知識のみの譲渡だった。そして数十年を使って新しい世代は相応しい力を付けて行く予定だった。しかし今世代交代すれば、ある程度の力も譲渡できる。そうなれば数十年かかる時間が十数年で完全な属性王が誕生する」
「ではなぜ急いだのでしょうか・・・」
尤もな疑問を投げかける。
「大きな事件が起こらなければという前提なんだよ。何かしら世界のバランスが崩れたときはその時期はかなり前倒しになるんだよ。そうなればこの世界は多少なりとも崩壊してしまうんだ。精霊たちは自分たちの命よりも世界の安定を望むんだよ。そういう風に作られた存在なんだ。ハジメ殿は精霊王とも仲がそれなりにいいよね?」
仲良くしたことが引き金だった・・・と。ハジメは唇を噛みしめる。
「スクナヒコ様、それ以上旦那様をイジメないでくださいませ」
陽と航がいつの間にか室内にいる。
「ごめんね。でもハジメ殿には知ってもらわないと。僕たち神々が迷惑をかけてしまったのだから・・・」
陽と航に微笑みかける。
「もう2人の属性王が代替わりをしてしまったということは古参の属性王との力のバランスが微妙になったということなんだよ。今は古参が精密な力のコントロールをしているからなんとかなっているけど、どうしても繊細な加減が必要だから力の消耗も激しくなるんだ。陽と航も代替わりして貰わなければならいんだ。そうなれば2人とも・・・」
「私たちの旦那様との思い出は消える・・・」
スクナヒコの言葉を陽が続ける。
「そう。属性王とはその属性のトップというだけじゃない。属性王は自然そのもの。それが個人だけに注がれてはいけない」
スクナヒコは真顔で陽の言葉を肯定する。分かっていたことだ。ユドルも先代の属性王も同じようなことを言っていた。
「そしてその世代交代のせいでハジメ殿の領地がなくなることになってしまったんだよ」
ハジメは眼を見開く。
「もう既に風と水の属性王はハジメ殿から別離した。でも陽と航はハジメ殿の傍にまだ居る。それで私の上司からの贈り物であるハンドブックの報酬『領地』を得た条件を満たさなくなってしまったんだ。まぁ、それで気づけたというのもあるんだけどね。そういう訳。それでその代わりと言ってはなんなんだけど、上司がこの世界の神々を折か・・・いやゴリ押・・・、口・・・、理詰・・ううん、話し合って、大森林の中央にある神々が降りた『はじまりの大地』をハジメ殿に渡すことになったんだよ」
今『折檻』とか『ゴリ押し』、『口撃』とか『理詰め』という単語を飲み込んでいなかったか?と思ったがなんとなく怖い気がするのでスルーしておく。
「・・・ところでハジメ殿記憶はどうする?もう一回消しておく?」
スクナヒコが聞く。
「いえ、このままで大丈夫です。俺だけは忘れたくありませんから」
その答えに神は嬉しそうにほほ笑む。
「じゃぁ、次は陽と南の塔の攻略だね。この土地に住む者たちは僕に任せておけばいいよ。僕の名に懸けてね」
そう言って消えて行った彼を見送った後、成長した航には珍しくハジメに体を寄せてきたので、脇をこちょここちょしてやった。
「ハジメ殿ー。それは卑怯でござるぅぅぅ」
そうやって遊んでいる姿を陽は優しい瞳で見ていた。
~イブの街役場~
肥えた男が横たわっており、その横にはカードを手にした少年が立っている。
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